三越伊勢丹、M&Aでコト消費を収益源に エステ・旅行会社を相次ぎ買収

三越伊勢丹、M&Aでコト消費を収益源に エステ・旅行会社を相次ぎ買収

2017.02.12

三越伊勢丹、M&Aでコト消費を収益源に エステ・旅行会社を相次ぎ買収

 三越伊勢丹ホールディングス<3099>が新規事業の育成に向けM&Aを加速している。昨年末にエステティックサロンの運営企業を買収したのに続いて、今月10日、東証2部上場の旅行会社ニッコウトラベルに対する株式公開買付け(TOB)を発表した。背景にあるのは百貨店事業に依存していては将来が先細りになるとの危機感だ。モノの売り買いから、サービスや体験を楽しむ「コト消費」に個人消費がシフトとすると見て、事業ポートフォリオの拡大を急いでいる。

 ニッコウトラベルは1976年、海外旅行の代理店業務を目的として日航トラベルとして設立され、1979年に商号をニッコウトラベルに変更している。「ゆとりある豊かな旅」「高い安心感と満足感」を主眼とし、自社添乗員の添乗による質の高いツアーを展開する。顧客は60 歳代以上が大半を占めており、特に 70 歳代は全体の半数ほどを占めているという。

 一方、三越伊勢丹は「旅行は代表的なコト商品」と位置づけ、2015年1月に全額出資の旅行子会社「三越伊勢丹旅行」を設立。自主企画の旅行事業の強化に乗り出していた。とりわけ時間とお金に余裕のあるシニア世代の旅行市場の拡大をビジネスチャンスととらえ、新規事業として育成する考えだった。

 開示資料によれば、三越伊勢丹は2016年5月中旬にニッコウトラベルの創業者で筆頭株主の久野木和宏氏から株式の売却意向があることを確認し、買収の検討を始めた。ニッコウトラベルはシニア向け旅行に強みを持つ一方、認知度があまり高くなく、主な広告宣伝手段である新聞発行部数が減少していることから、シニア向けの新たな広告宣伝手段を模索しているところだった。三越伊勢丹は、東証2部に上場するニッコウトラベルの経営管理をグループで見る体制にして上場を廃止すれば管理コストを削減できると判断。2016年9月中旬にTOBを実施後に組織再編で全株を取得する二段階買収を提案した。

 1株あたりの買い付け価格は390円。10日の終値(301円)と比べて30%のプレミアムを付けた。しかし、取得価額は36億7800万円と2016年12月末の純資産(37億9600万円)を下回る水準で、三越伊勢丹は見方によっては安い買い物をしたと言えそうだ。

エステ・ブライダル‥‥新規事業に相次ぎ進出 

 三越伊勢丹は美容・健康事業でもM&Aに取り組んでいる。2016年12月に、エステティックサロン「ソシエ」を運営するソシエ・ワールドを子会社に持つSWPホールディングスの全株式を取得し、子会社化すると発表した。SWPホールディングスの2016年3月期の売上高は185億円、営業利益は4億9400万円。投資ファンドを運営するポラリス・キャピタル・グループから全株式を譲り受けた。取得価格は公表していない。

 三越伊勢丹は本件買収について、「エステティックを始めとするトータル・ビューティの事業は、コトサービスの強化として、お客さまがより自分に合った価値観を追い求める上で、今後、当社グループに必要な事業」と説明する。買収後はグループの資源を最大限活用し、出店機会の獲得やシステム・物流等のインフラ強化・効率化等を通じた事業拡大を図っていくという。

 三越伊勢丹が新規事業に本腰を入れ始めたのは2年ほど前からだ。グループの中長期戦略では、百貨店のあるべき姿を追求するとともに、海外店舗における新しいビジネスモデルの確立や成長エリアへの新規出店、また新規・成長事業の強化・拡大を図り、連結営業利益500億円以上の早期達成を目指すとしている。こうした中、新規事業の領域では、旅行やサロン事業のほか、ブライダル、飲食、医療モール事業に進出するため、異業種企業と相次ぎ合弁会社を立ち上げている。

三越伊勢丹の新規事業の取り組みと主なM&A
年月      分野      内容
2015年1月 旅行 100%出資の旅行専門子会社「三越伊勢丹旅行」を設立
2015年1月 美容・健康 三越伊勢丹HSDが34%、ヒューリックが51%、スマートメディカルが15%出資する形で次世代型ヘルスケアモールの開発会社「スマート・ライフ・マネジメント」を設立
2015年10月 ブライダル 三越伊勢丹HDSが51%、Plan・Do・Seeが49%出資する形で挙式・披露宴の企画運営会社「三越伊勢丹プラン・ドゥ・シー」を設立
2015年10月 カード 野村不動産ホールディングスと包括的業務提携と提携クレジットカード発行の合意
2016年1月 飲食 三越伊勢丹HDSが51%、トランジットジェネラルオフィスが49%出資する形で飲食店の企画運営会社「三越伊勢丹トランジット」を設立
2016年1月 投資 100%出資のベンチャー投資子会社「三越伊勢丹イノベーションズ」を設立
2016年4月 投資 オンラインギフトサービスを運営するベンチャー企業のギフティ(東京・品川)に出資
2016年10月 投資 フィンテックベンチャーのマネーフォワード(東京・港)に出資
2016年11月 投資 高級中古ブランド品の EC ベンチャー企業のアクティブソナー(東京・港)に出資
2016年12月 美容・健康 エステを始めとする美容事業を展開するSWPホールディングスの全株式を取得し子会社化
2017年2月 旅行 ニッコウトラベルに対する株式公開買い付け

 新事業の創造に関連して、ベンチャー企業への投資も始めている。2016年1月、100%出資のベンチャー投資子会社「三越伊勢丹イノベーションズ」を設立した。これまでにオンライン上でギフトを贈れるeギフトサービスを運営するギフティ(東京・品川)、自動会計簿・資産管理サービスを提供するマネーフォワード(東京・港)、高級中古ブランド品の引取から鑑定・値付、ネット上での販売、購入者への配送までを全て行う委託販売サービスのアクティブソナー(東京・港)の3件の投資を実行した。

 これらはすべてインターネット関連のビジネスを行う企業であるのが特徴だ。消費者が買い物をする場所が実店舗からオンラインへと移行するなかで、オンライン上でも三越伊勢丹グループとの接点を増やしていく狙いとみられる。

背景に百貨店の苦戦、その他事業の収益拡大急務

 新事業の強化を急ぐ背景には主力の百貨店事業の苦戦がある。1月27日に発表した2016年4~12月期連結決算では、売上高が前年同期比3.9%減の9306億円、営業利益が36.2%減の196億円と減収減益となった。セグメント別にみると、百貨店事業の営業利益は56.7%減の88億円とほぼ半減した。

 中国人の「爆買い」が一服するなど、訪日旅行客に向けたインバウンド消費に一時の勢いを失う一方で、コト消費などの体験型消費はインバウンド向けにも伸びが続いているもよう。子会社の三越伊勢丹旅行は昨年10月、インバウンド向け旅行サイト「VOYAGIN」でプレミアムクルーザーで行く富士山と箱根の日帰り旅行の紹介を始めた。飲食店の企画運営会社「三越伊勢丹トランジット」では、8月に設立した新会社がオーストラリア発のイタリアンレストランを今年4月に表参道ヒルズへ出店する事が決まった。

 旅行や飲食・ブライダルなど「コト消費」を主体とする「その他事業」の売上高は4~12月期に前年同期比3.5%増の588億円、営業利益は約3倍の18億円と好調に推移している。営業利益ベースでは連結全体に占める比率が約1割の規模まで成長している。

 2017年1~3月期からはニッコウトラベルやソシエ・ワールドの子会社化による収益貢献が始まる。三越伊勢丹グループとの相乗効果も発揮して「その他事業」の収益は来期から本格的に拡大しそうだ。コト消費の拡大を一段と取り込むため、三越伊勢丹がさらなるM&Aに動く可能性もありそうだ。

文:M&A Online編集部

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

関連記事
【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

関連記事