ドコモはなぜ農業に取り組むのか

ドコモはなぜ農業に取り組むのか

2016.03.04

NTTドコモは同社の新事業戦略「+d」において、本業である通信とはかけ離れた業種での活動を始めている。こうした新分野にの中でも異彩を放っているのが、第一次産業である農業分野への参入だ。ドコモはなぜ畑違いの農業に参入したのか、そして農業とドコモの持つICTのノウハウが合体したとき、一体どのような世界を描いているのだろうか。同社の第一法人営業部農業ICT推進プロジェクトチームエグゼクティブプロデューサー上原宏氏に展望を聞いた。

発端は地方のドコモから

NTTドコモの第一法人営業部農業ICT推進プロジェクトチームエグゼクティブプロデューサー上原宏氏

ドコモといえば、携帯電話網では押しも押されぬ日本のトップ企業であり、インフラだけでなく技術開発においても業界をリードする最先端のIT系企業だ。そのドコモが、一次産業の代表である農業に参入するというのは、いかにも接点がないように思える。

しかし、上原氏によれば、そもそもその認識が正しくないのだという。「ドコモは全国に支社を持っており、各地で地元の人材を採用していますが、その中に実家が農家という社員は多いのです。インフラを支える事業者として、各事業所が、それぞれ独自の取り組みとして、地元のニーズに応えて農家やJA向けに農業ICTを推進してきた経緯があります」(上原氏、以下同)。

こうした初期事例には、たとえば料理のつまになる葉を採集し、流動する市場価格を把握し、最も価値のでる市場へ出荷する「葉っぱビジネス」を展開している四国・徳島県上勝町などが挙げられる。同事業では2011年からAndroidタブレットを導入し、生産現場でリアルタイムの市場価格を確認できるなど、ドコモのネットワークを活用した業務システムが活躍している。

こうして各社が独自に展開していた農業ICTの知名度が上がってきたことをうけ、これらをまとめて、全国で統合的にやろうというのが、「+d」における農業ICTサポートの原動力になっている。「+d」とは、外部のパートナーと手を組み、新たな価値を創出していこうという考え方、取り組みである。

すべてのシステム開発をドコモが行うのではなく、農業ICTについてはノウハウを持つ企業にまかせ、インフラの整備やバックボーンとなるクラウドの運用などをドコモが行うことで、各社の強みを最大限に生かそう、というのが「+d」の戦略に合致しているわけだ。

もともと、金融関連の事業を担当していた上原氏は、農業に関わる意義について語りながら、「農業とは地方における基幹産業。農業が衰退すると地方が衰退することになるので、農業は支えていかなければならないんです」と力を込める。

データサイエンスで農業の安定化に貢献

農業離れによる後継者の減少や異常気象、TPP参入により海外産の安い農産物との競争がますます激化する可能性など、日本の農業をとりまく環境は明るいものには見えない。上原氏はこうした現状の問題点として、コスト削減がカギになると指摘している。

日本の農業は後継者不足、農業従事者の高齢化やそれに伴う耕作放棄地の増加、海外からの安価な農産物との競争を余儀なくされるなどが様々な問題を抱える(写真はイメージ)

「現在の農業は原価がかかりすぎていますから、コスト削減をどうやって実現していくかが問題です。酒造好適米として有名な『山田錦』は、美味いから好適米なのではありません。生産量や品質が比較的安定しているからなのです。ほかにもいい米はたくさんあるのに、品質が安定しないために廃れた米もあります」

こうした品質の安定化のために、農家の勘と経験に頼るのではなく、あらゆるデータを取って分析し、安定化させるための条件を発見する、データサインスの導入が、ドコモが担うべき農業再建への役割というわけだ。「農林水産省関係の研究機関とも協力していますし、ドコモの研究機関でデータサイエンス系に関わっている人たちと協力することも考えています」。

また、データ収集の副産物として、生産から流通までのルートもトレーシング可能になり、JGAP、UNGAPといった認証の取得が容易になることで、海外への輸出条件をクリアすることも可能になる。大量生産で安い農業国の生産物に対し、食の安全や高品質、健康志向といった高付加価値をアピールし、日本の「攻め」の農業スタイルを支えることになるわけだ。

ドコモの強みをパートナーに還元

農業ICTに参入しているIT企業はほかにもあるが、ドコモの強みのひとつとして、上原氏はやはり無線インフラの存在を挙げる。

「たとえば広大な露地栽培で、電気も通っていないため、現地には無線技術でしかリーチできないでしょう。またドコモでは畜産(肉牛)向けのICTサービスも販売していますが、対象が生き物なだけに動いてしまうため、これも無線でしか対応できません。大きなハウスや植物工場、果樹園でも、有線を引き込めない場所もあります。ドコモは日本全国の人口をカバーするネットワークを持っていますから、どんなところにも対応できます」

【事例1】稲作農業における生産性の向上等を目指した取り組みを新潟市、ドコモ、べジタリア、ウォーターセルの4社共同で実施。水田に通信モジュール搭載のセンサを設置し、水位・温度・外気温・湿度を管理。べジタリアの専用アプリからこれらのデータを確認、農業従事者の負担を軽減できる。写真は同プロジェクトにおける通信モジュールとセンサ。ドコモは同プロジェクトを主導し、通信インフラを提供、販売面でも支援する(画像提供:NTTドコモ)
【事例2】活用事例は稲作農業だけにとどまらない。多数の圃場を所有する農業従事者の作業効率の向上も見込むことができる。本事例においてもドコモは通信インフラ、販売面で支援する
【事例3】牛の分娩事故は畜産農家に大きなダメージとなる。リモートが提供するサービス「モバイル牛温恵」は分娩の細かな経過や発情の兆候を検知してメールで通知。この通信部分、販売面でドコモが関わる(図版提供:NTTドコモ)

店舗ネットワークも重要な存在

ドコモが全国に展開する支社・支店の営業ネットワークも重要な存在だ。家族単位のクローズドな規模のビジネスが多い農業に対して、携帯販売の既存の顧客に対しては営業担当者が直接農家を訪問してサポートもできる。ドコモでは、全国の支社・支店を横断し、女性社員が独自に「アグリガール」というプロジェクトを作って農業ICTの普及に力を入れており、独立系パートナーにとってはこうした巨大なバックアップ体制も魅力に映るだろう。「今は生産支援ICTに力を入れていますが、さらに決済手段や流通までもお手伝いできるのがドコモの強みです。簡単に実現できるとは思っていませんが、得意な領域であればなんでもやっていきたいですね」。

「+d」ではドコモ自身が提供するサービスもあるが、特に生産支援系の製品については、独立系ベンダーが開発したICTパッケージに対し、ドコモが様々な形で支援する方向となっている。こうしたノウハウについてはベンダーのほうが詳しいため、餅は餅屋というわけだ。

協創の難しさにも直面

こうしたソリューション探しのために、日頃から多くのベンダーと協議を繰り返しているが、両社がメリットを見出せるケースは案外少ないのだという。「コンタクトは毎日のように繰り返していますが、成立するのは10件に1件くらいの割合です。今の所うまくいっているのがドコモ側からお声をおかけしたケースばかりです」。ドコモとパートナーの協力で新しい価値の創出を目指すという「協創」を掲げる「+d」だが、成功には創出する価値の共有が課題だということなのだろう。

また、現時点ではまだどの農家にどんなソリューションがいいのか、試行錯誤している段階だ。「たとえば農業法人と兼業農家では向いているソリューションが全然違いますし、マーケティングがまだ不十分です。ベンダーと農家のマッチングも、偶然に頼っているところが大きいのが実情です」。

日本の農業の構造改革に期待

IT企業と農業という組み合わせでは、野菜工場の運営を始める企業が現れるなどの動きがあるが、現時点では収益性などを重視したものというよりは、エコや環境、あるいは先進ビジネスへの注視をアピールする目的にとどまっているように見える。

そんな中、ドコモによる農業の取り組みは、自社で業務を完結するのではなく、パートナーと共に推進していく「+d」の枠組みの中にある。つまり、ドコモの一存で簡単に手を引くわけにはいかない立場だ。そんなところからもドコモの本気具合が見えてくるように思える。

すでに導入しているところでは成果が現れつつあり、ドコモ自身のサポートも良好な様子だ。規模としてはまだまだだが、事業としてはうまく回り始めているように見える。あとは認知度が向上し、採用を検討している農家からの相談窓口をアピールするなど、ドコモ自身の受け入れ体制をもっと充実させていけば、農業ICT自体の採用も増えていくだろう。

欲を言えば、現在は個別の農家との取引だけに留まっているところを、農家同士の横のつながりを強化する方向に持っていけば面白いのではないだろうか。農協に属さない独立系の農家は、肥料や機材などの購入で不利な点もある。こうした部分をドコモがまとめ上げて集団購入できるようにすれば、独立系農家にとって大きなメリットになるはずだ。

また、ドコモのソリューションを利用している農家には、同社が買収した「らでぃっしゅぼーや」のような流通ルートを斡旋する制度があってもいいだろう。農協や青果卸といった既存のシステムに対する挑戦にもなってしまうが、生産面だけでなく、流通などにいたるまで、農業全体の構造改革につながるような活躍を期待したい。

また、ドコモ自身の規模や技術力、そして日本でのノウハウを蓄積することで、農業ICTビジネス自体の海外展開についても、その国・地域の実情に合わせたユニークな展開ができるように思える。特に大規模農業を展開する国ではなく、アジア圏の国々で小規模農業に対応するといった特徴が出せるのではないだろうか。

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2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
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