脱・居酒屋で新たな挑戦! “食”に専念のワタミが次に目指す10兆円市場

脱・居酒屋で新たな挑戦! “食”に専念のワタミが次に目指す10兆円市場

2017.02.16

介護事業を手放して外食事業に専念するワタミ。プレイヤーが乱立する居酒屋業界にありながら、業態転換が功を奏し、好業績を収める店舗も出始めている。客数と既存店売上高という指標を見ると、おおむね前期比プラスで推移するなど今期業績には復活の兆しも見える。そんなワタミが立ち上げた新業態「にくスタ」。見据えるのは、さらに大きな市場の取り込みだ。

実際に行ってみた

京浜急行電鉄の京急蒲田駅から徒歩10分。第一京浜沿いに立地する塊肉ステーキ&サラダバー「にくスタ」は緑のロゴが目立つ看板が目印だ。ワタミが新業態を立ち上げた背景や狙いを分析する前に、まずは取材をかねて実際に店舗を訪れた時の様子から説き起こしてみたい。

にくスタの外観。一見するとワタミグループには見えないが、ロゴの緑はワタミのグループロゴと共通する色だ

肉が自慢の当店。まず目の前に登場したのはランプステーキだ。アツアツの鉄板に乗せられた肉は、豪州からチルド輸送された赤身肉を店内で切り分けたもの。鉄板がアツアツなだけではなく、再加熱用に丸い鉄の塊が添えられている。

内装はオシャレだ

肉の焼ける匂いがいやでも期待感をくすぐる。ステーキらしいほのかに焦げた香りが、食欲を押し上げてくる。店内で丁寧に筋切りされた肉はとても柔らかい食感。加えて肉の柔らかさが口の中で踊っている。この食感はチルド輸送だからこそ、再現できる味わいなのだろう。

価格帯は例えば「にくスタの一押しステーキ(300グラム)」がサラダ&デリカバー(ライス、スープ、デザートなど)が付いて2,440円(税別)、「炭火焼 情熱ハンバーグ(180グラム)」はサラダ&デリカバーが付いて1,590円(税別)といった感じだ

冷凍肉を解凍した場合、上手に解凍したとしてもドリップ(肉汁)が出てしまい、ぱさぱさの食感(舌触り)となってしまう。このぱさぱさ感を補い、焼き上がりのジューシーさを醸し出すため、多くのステーキ店では肉に牛脂などを注入して味を調えている(インジェクションと呼ばれる)というが、このにくスタではインジェクションを一切行っていないという。

チルド輸送と店内カットが鮮度の秘密

次にテーブルに運ばれたのが、ミスジステーキ。外側はカリッと焼きあげられているものの、中はとても柔らかい食感だった。

中はとても柔らかなミスジステーキ

圧巻だったのが、店の代名詞でもある塊肉のステーキだ。ナイフを入れると、赤身肉が顔を覗かせる。この店では、チルド輸送と店内カットによる鮮度保持がなされており、ローストビーフと見間違うほどのレア・ステーキを提供することが可能なのである。

こんなに大きいと、食べ進むうちに食感が鈍ってくるのではないかと懸念したが、それを察知したのか1つの小皿がテーブルに届いた。中は醤油とわさびだ。好みにより付けることで、新しい食味を感じさせてくれるという。試しに付けてみたところ、口の中と舌がリフレッシュされた印象を受けた。「このわさびに何か秘密があるのか」と問うてみたところ、「市販のものを使用している」と打ち明けてくれた。さもありなん。肉のうまみを改めて感じさせるためのわさびと醤油。肉が主役だから、なるべく控えめであることが肝要ということなのだろう。

圧巻の塊肉ステーキ

有機野菜も強みに

肉だけでなく、にくスタは看板に記載がある通り、サラダバーが売りのひとつだ。オーガニック野菜を含む15種類以上を自社農場、契約農家などから集めているという。なるほど、単なる野菜ではなく、中には有機野菜のコーナーもある。サラダバーにはトングやアイスクリームディシャーなど、取りやすい道具が添えられており、サラダを盛り付けしやすい工夫が見え隠れする。

有機野菜が食べられるサラダバーも売り物の1つだ

有機野菜と表示するためには、いろいろと規格がある。巷には無農薬野菜とか減農薬栽培とうたう野菜が並んでいるが、有機野菜と名乗るためには農林水産省の定める基準を満たすことが必要。この基準を満たすには、土からこだわる必要がある。

さて、ここからは新業態にくスタに込められたワタミの思いを分析していきたい。お話を伺ったのは、レストラン事業部・業態企画の馬越誠志郎氏だ。

ファミリ-レストランの市場規模は居酒屋の約10倍

ワタミは居酒屋「和民」を展開する会社である。主力事業の1つであった介護事業を売却し、事業のテコ入れを図っている。業績回復を目指して、既存店舗の見直しと不採算店舗の業態転換を積極的に推進。和民と「坐・和民」の店舗をリニューアルした「ミライザカ」や、「わたみん家」店舗を転換した「三代目鳥メロ」は順調に集客を伸ばしている。中間決算資料によると、ミライザカ効果は転換全店累計売上で前年比133.3%(オープンから9月末までの累計実績比)。転換全店の1カ月あたり平均営業利益増加額は約124万円(7月~9月の平均値)だ。

しかしながら、ミライザカや三代目鳥メロは基本的に居酒屋ベースの業態であり、新しい客層を取り込める可能性は多くない。それに、居酒屋は言わずと知れた薄利多売の構造で、商品アイテム数と価格で競い合っている業態でもある。そこで目を付けたのが、ワタミにとってのブルーオーシャンであるファミリーレストランという業態だ。

日本フードサービス協会の「平成27年外食産業市場規模推計について」によると、2015年の外食産業市場規模は前年比2.2%増加の25兆1816億円。この調査では2015年の動向について、年初に異物混入問題の影響があったものの、その後は比較的堅調に推移し、1人当たり外食支出額、訪日外国人、法人交際費などが増加傾向にあったと分析している。

この推計によると、居酒屋業態・ビアホールなどの市場規模は1兆672億円。それに対し、食堂・レストランの市場規模は9兆6905億円となっている。居酒屋という「枠」の中で他社と競合しても、パイはそれほど大きくはない。ならば、市場規模の大きなレストラン業態に収益増の機会をうかがうことはワタミとしては自然の流れだろう。

狙うはファミリー層への訴求、宿題は「ハンバーグとステーキ」

ファミリー層をいかに取り込むか。その切り口として考え出された戦略が「ハンバーグとステーキ」だった。2016年4月に宿題を出された馬越氏は、同年10月に「にくスタ」として新しい業態の店舗をオープン。ワタミが持つ、ワタミファームなどの資源をどのように活用するか、試行錯誤を繰り返した。

お話を伺ったワタミの馬越氏

商品アイテムの多い居酒屋とは違う店舗オペレーションや調理システムに苦労しながらも、にくスタは徐々に地域に浸透し、売り上げを伸ばしている。ワタミ全体の売上は居酒屋系が大半であるが、にくスタはオペレーションが落ち着き、地域の客層をつかみ始めた。居酒屋業態に比べて宴会がほとんどないにも関わらず、ある程度の売上規模が見えてきているという。

もう1つ、にくスタを分析するのに見ておくべきは「肉ブーム」の動向だろう。

ステーキ店を含む焼き肉業態が元気

ここ数年、ステーキ店を含む焼き肉業態が元気だ。前出の日本フードサービス協会の市場動向調査によると、ファミリーレストランの中でも特に焼き肉の前年比増加率が高く、全体を引っ張っている。

焼き肉業態では客単価こそ前年比100%を下回る月が多くみられるものの、売上高や客数は前年比100%を優に上回っている。最近よく耳にする「高齢者こそ肉食のススメ」ではないが、焼き肉業態は家族連れの来店も多いのではないだろうか。

景気がなかなか上向かないなかで、近年は総菜など調理済商品を購入して自宅で食べる「中食」が流行っていると言われている。総務省の家計調査でも消費支出は増加していない。

あくまで推論だが、焼き肉は自宅における再現性が低いので、外食の数値が高くなるのではないだろうか。肉を購入して家で焼くことを想定すれば、確かに家でも再現は可能である。しかしながら、炭火を使って高温で焼き上げること、ある程度の煙が出ることを覚悟すること、有機野菜を含む15種類のサラダを用意することなどを考えると、にくスタを自宅で再現することはかなり困難だといえよう。なおかつ家で焼き肉をした後の食器や調理具の洗浄も大変な作業である。以上のことから、手間と価格と味わいを計算すれば「焼き肉」は外食に限る、と考える人が多くなるのではないだろうか。

高齢者だけでなく、成長期にある子供たちにも良質なタンパク質の摂取が求められる。栄養面だけでなく、楽しいことも子供たちの興味の1つ。にくスタには子供たちが大好きなドリンクバーが設置されている。大人にはアルコール類をそろえたドリンクバーもある。

おとなのドリンクバーにはワインも用意

ファミリーレストランには、居酒屋では見られない「子供たち」という目線が必要になる。居酒屋選びでは「安さ」が基準の1つになるが、子供たちは「安さ」は気にしない。なぜなら、お金を支払うのは自分たちではないからだ。

既存業態とは違う客層

にくスタは、今までの店舗形態と大きく客層が異なっている。ランチの時間帯は近隣の会社員と主婦層が半分ずつ、夕方からは近隣に住む母親層が多く来店するという。居酒屋業態では年末年始の宴会需要が大きいが、ファミリーレストランはそうでもない。

ステーキやハンバーグでは1人1オーダーが定番だが、にくスタでは少人数で多くのメニューを味わってもらうスタイルの提案にも注力する。例えば、単品メニューを組み合わせて数名で楽しんでもらうとか、一皿の塊肉を複数名でシェアして楽しんでもらうなど、今までとは異なるスタイルで新しい価値を感じてほしいという。

複数人でシェアできるメニューもそろっている

新業態で失った収益を取り戻せるか

居酒屋という自分たちが得意とする業態から、ファミリーレストランという新たな業態に船出したワタミ。介護事業が生み出していた収益は、2015年度の営業利益で約7億円という規模だったが、新業態をビジネスの新たな柱に育てあげ、失った利益を取り戻すことができるかどうかに注目だ。ファミリーレストランの“ちょい飲み”や「吉野家」の“吉呑み”など、業態を超えた顧客の争奪戦が繰り広げられている中で、ワタミは同社の資源や優位性を効果的に発揮できる領域を確実に攻めていく必要がある。選択肢が増えるという目線で見れば、消費者としては好ましいことでもある。

また、肉スタはまだ1店舗であるが、ここでファミリーレストランとしてのオペレーションなどじっくりと学び、今後の展開にいかして行きたいと馬越氏は熱く語る。

特色ある居酒屋として、順調にファンを増やしている「炉ばたや銀政」など、ワタミの挑戦はまだまだ過渡期だが成果も出てきている。「安い」だけではない、客を引き付ける価値を持つ店舗が出てくるかどうか、次なる挑戦も楽しみである。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。