箱崎名物ビルの地下にナゼ? にわかに再注目される熱供給プラント

箱崎名物ビルの地下にナゼ? にわかに再注目される熱供給プラント

2017.02.20

三井倉庫箱崎ビル(IBM箱崎ビル)

渋滞の“名所”として悪名高い、首都高速の箱崎JCT(ジャンクション)。そんな箱崎JCTからみえるひときわ大きな建物が三井倉庫箱崎ビル、いやIBM箱崎ビルと呼んだほうが、みなさん、ピンとくるのではないか。

この箱崎のランドマークといえるビルには、日本初となる試みが採り入れられている。それは、河川の水を利用した熱供給プラント。ビルの真横を流れる隅田川から地下に設置された熱供給プラントに取水し、冷暖房に生かすのが目的だ。

どういうことかというと、外気温に比べ、水温が夏は低く冬は高い隅田川の水をヒートポンプの熱源に利用することで省エネルギーを図っている。

ビル目の前の隅田川から取水。隅田川のスーパー堤防の上に3本の取水管が設置されているが、植生によりほとんどわからない

30年近く経つ三井倉庫箱崎ビル

三井倉庫箱崎ビルは1989年に建設され、隅田川の水を利用するこの熱供給プラントもその際に導入された。つまり、すでに30年近く経ち、そのことを考えると取り立てて注目すべきではないのではと思える。

ただ、再生可能エネルギー、しかも“未利用エネルギー”を活用するのにビルの地下に巨大なプラントを導入するのは、当時のことを考えれば相当な勇気が必要だったにちがいない。

ちなみに未利用エネルギーとは、河川水や地下水などの温度差エネルギーを利用するものや、工場といった施設からの排熱など、今まで使ってこなかったエネルギーの総称。たとえば川崎火力発電所では、ガスタービンで発電するが、その際に生じた排熱を近隣のコンビナートに提供する試みが知られている。

ビル地下に導入されているプラント。“エグイ”曲がり方をしたパイプが壮観だ

さて、この隅田川の熱供給プラントが、数十年ぶりに再注目されている。

その第一の理由が、今年初頭に発表された経済産業省の「省エネ大賞」において、省エネ事例部門の経済産業大臣賞を受賞したことだろう。

導入から30年近くも経ったこの熱供給プラントに、今さら省エネ大賞が贈られるのもどうかと思われるかもしれない。だが、このプラントは2012年に大幅リニューアルをし、約30%の効率向上を果たした。もちろんリニューアル前も改良を続け、あの巨大なビルの熱供給を支えてきた。

左はプラントの心臓ともいえるヒートポンプ。右は頭脳ともいえる中央監視室

いや、三井倉庫箱崎ビルだけではない。実はこの熱供給プラントは、箱崎地区にある数棟のビルにも熱供給を行っている。たとえばリバーサイド読売や住友不動産箱崎ビルなどだ。つまり、地区そのものを支える熱供給源なのだ。

再生可能エネルギーへの意識の高まり

そして、このプラントが再注目されているもうひとつの理由。それが、再生可能エネルギーに対する社会の意識の向上だ。

再生可能エネルギーに関しては、それこそ三井倉庫箱崎ビルが建設された頃から一部で注目されてきた。隅田川の利水による熱供給プラントがこのビルに導入されたのも、そうした事例のひとつといえるだろう。だが、当時はバブル。再生可能エネルギーが環境保全に有用だとわかっていても、より多くの、より強力なエネルギーが求められる傾向にあった。 だが、そのバブルははじけ、2000年台に入るといわゆる“ECO”というキーワードが注目されるようになる。たとえばハイブリッド車の急速な浸透だ。1997年に正式発売されたハイブリッド車は、いまや主要自動車メーカーの主力となっている。個人個人のECOに対する意識の高まりの表れといってよい。

直近ではFIT法が開始されたのが記憶に新しい。これは再生可能エネルギーによる発電を促す仕組みだが、残念ながら電力買い取り価格を当て込んだ業者により、少々問題も起こった。だが、制度的にはまだまだ発展途上といえるが、再生可能エネルギーに対する意識が電力業界では高いことを表している。

さて、三井倉庫箱崎ビルの熱供給プラントには、再生可能エネルギーによる省エネ以外にも利点がある。それは、水のゴミ取りだ。

近年、東京を流れる多摩川にアユが戻ってきたというように、隅田川も水質が戻ってきている。とはいえ、隅田川から取水した水をそのままヒートポンプに利用するわけにはいかない。そこで「オートストレーナー」という設備を介すことで混入物を除去。排水時にも「自動ボール洗浄」という設備を使ってゴミ取りをし、そして隅田川に戻される。

もちろん、大量の水が流れる隅田川でのゴミ取りにこの施設が果たす役割は超微々たるものだ。だが、使った水の不純物を少しでも取り除いて戻すというのは、当たり前のことといえよう。

左はオートストレーナー、右は自動ボール洗浄

立地に左右されるのがカセ

と、これまで書くと、いいことずくめのように思える河川水を使った熱供給プラントだが、やはり課題もあるのだろう。箱崎のプラント登場から30年近く経つと前述したが、現在、同様の設備は4カ所ということだ。箱崎、大阪に2カ所、そして富山にあるという。メリットを考えればもう少し多くてもよいように思える。コストについては規模によってまちまちになるだろうから、なんともいえないが、やはりビルの“立地”に左右されるのか……。豊かな水を利用できる場所にビルがないと、こうしたプラントの設置は難しい。

さて、隅田川といえば、古くから花火大会で有名。そして浅草寺があること、スカイツリーが登場したことによって、多くの観光客が集まるようになった。最近では“川床”を備えた飲食店でも話題だ。こうした観光資源のほかに、熱供給の資源としても隅田川が使われていることを、頭の片隅にでも入れておいてほしい。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。