欧米人も注目の城崎温泉が進化!? 観光地経営で変わる温泉街

欧米人も注目の城崎温泉が進化!? 観光地経営で変わる温泉街

2016.03.09

日本情緒が色濃く残る城崎温泉。兵庫県の日本海側に位置し、都市部からのアクセスが良好とは言い難い温泉街だが、インバウンドブームに沸く日本の中でも、外国人宿泊者数が急増する注目の観光地だ。城崎温泉を擁する兵庫県・豊岡市は、外国人観光客の更なる獲得と収益化に向け、日本では馴染みのない新たな観光地経営組織を立ち上げる。同市の取り組みは、インバウンドを地方創生につなげたい地方自治体のモデルケースになるかもしれない。

城崎温泉は1300年の歴史を誇る温泉街。7カ所の「外湯めぐり」が名物で、木造三階建ての建物が軒を連ねる街を、浴衣に下駄履きで歩けば情緒たっぷりだ。こういった温泉街独特の滞在スタイルに目を付けたのが、海外の著名旅行ガイドである「ロンリープラネット」。同誌が日本の「ベスト温泉街」として城崎温泉を紹介すると、海外での知名度は一気に高まった。

外湯の1つである「一の湯」

「モノ」から「コト」に素早く対応

外国人観光客の地域別シェアを調べると、日本全体に比べ、城崎温泉は欧州、北米、豪州からの訪問が多いことが見て取れる。欧米からの旅行客を惹きつけているのは、城崎温泉が提示する温泉街ならでは時間の過ごし方だ。

城崎温泉を擁する兵庫県・豊岡市は、「モノ」から「コト」へというインバウンド消費の移り変わりにいち早く対応した地方自治体といえるだろう。温泉に入る、浴衣を着る、和室に泊まるといった行為そのものを観光資源と捉え、外国語版ホームページを用意するなど海外への情報発信にも力を入れた。こういった取り組みが、外国人宿泊客数の増加という形で実を結んでいるわけだ。

2015年の外国人宿泊者数は前年比2倍超の34,318人。2016年以降は目標値(豊岡市発表資料から作成)
日本全体に比べて、豪州、北米、欧州からの訪問が多いのが見てとれる

マーケティングが観光地経営を変える?

豊岡市は増えゆく外国人観光客を地方創生につなげようと策を練る。同市が設立を決めたのが、日本では先進的な取り組みとなる観光地経営組織「DMO(Destination Management/Marketing Organization)」だ。

DMOとは、マーケティングやブランディングといった手法を用いる観光地経営組織のこと。行政色の強い日本の観光協会に比べると立ち位置は民間企業に近い。海外では普及しているようで、世界最大級のDMO事業者団体といわれる米DMAI(Destination Marketing Association International)には、20以上の州から600を超えるDMOが参加しているという。

日本で本格的にDMOを導入するのは豊岡市が初めてとなる模様。この動きが、豊岡市の地方創生にどのような効果をもたらすのだろうか。

新組織でインバウンド需要を開拓

「観光業者、観光協会、個々の旅館などは、インバウンドにほとんど取り組んでいなかった。(外国人観光客は)結果として増えただけ」。こう語る豊岡市の中貝宗治市長は、インバウンド需要の更なる開拓に向け、DMOを観光戦略の立案拠点として運用していく考えだ。

豊岡版DMOは一般社団法人として立ち上げる。民間からは高速バス運営などを手掛けるウィラー・アライアンス、地元のバス会社である全但バス、旅行会社のジェイティービーなどが参加。代表者には中貝市長が就任するが、実質的に経営を行う専務理事には大手商社から人材の派遣を受けるという。

左から豊岡市長の中貝宗治氏、ウィラー・アライアンス代表取締役の村瀨茂高氏、全但バス代表取締役社長の桐山徹郎氏(豊岡版DMO設立発表会にて撮影)

DMOで実施するマーケティングの例としては、豊岡市で外国人向けWi-Fiサービスを運営する業者からデータを取得し、観光客の移動経路などを分析したうえで商品開発を行うケースなどが考えられるという。豊岡版DMOは、2020年の外国人宿泊者数10万人達成を目指して活動を進めていく。

地方都市でも世界を相手に仕事ができる

収益事業を行い、運営資金を自身で稼ぎ出すのがDMOの理想像。豊岡版DMOはインバウンド需要に狙いを定め、「宿泊予約サイトの運営」、「着地型ツアーの企画・販売」、「豊岡ブランド商品の販売」といった事業を実施する。

DMOで運営するのは、外国人向け宿泊予約サイトの「Visit Kinosaki」だ。旅館の情報から、浴衣の着方や温泉でのマナーといった文化的な側面までを紹介するウェブサイトで、表示言語は英語とフランス語の2種類から選べる。同サイトを作成したのは豊岡市だが、市は旅行業の資格を持たないため、運営は民間企業に委託していた。豊岡版DMOは旅行業の資格取得後に同サイトの運営を引き継ぐ。

一度は日本の空から姿を消したコウノトリの野生復帰を目指す

着地型ツアーとは、旅行者を受け入れる側の地域が企画・運営する旅行商品のこと。都市部の旅行会社が企画する「発地型ツアー」と比べ、地元ならではの観光資源や体験をプログラムに組み込めるのが特徴だ。

豊岡ブランドで外国人向けの販売が伸びそうなのは、同市のブランド米である「コウノトリ育むお米」や特産品の鞄など。世界的な絶滅危惧種であるコウノトリの保護・育成に力を入れる豊岡市では、コウノトリが住みやすい環境づくりの一環として水田の整備に取り組んでいるが、この水田で取れる無農薬・減農薬の米が特産品となっている。豊岡市はイタリアとシンガポールで試験販売を行うなど米の輸出拡大に注力しており、DMOでも米を売り出す可能性がありそうだ。

DMOが拓く小さな世界都市への道

中貝市長は「(豊岡版DMOに)ウィラーが入ったのは大きい。売ることのプロだから」と語り、同社が保有するマーケティング関連のノウハウに期待を示した。では、DMOの成功はいかにして地方創生につながるのか。キーワードは雇用創出だ。

豊岡市が目指す地方都市としての姿は「小さな世界都市」。住みやすい地方都市で暮らしつつ、世界とつながる仕事に従事できる環境を作り出そうというのが同市の目標だ。DMOが軌道に乗れば、外国人観光客に対応する仕事や、海外向けに地域産品を売り込むという仕事が増加し、魅力的な雇用の創出につながるというのが中貝市長の考えだ。

DMOの登場により、観光地の雇用形態が変化する可能性もある。繁忙期に一時的に増えるのが通例だった派遣労働者が、通年雇用の職を得るチャンスが生まれるかもしれないのだ。

閑散期の解消が通年雇用を生み出す

豊岡市では名物の蟹が旬を迎える冬季と、海水浴が最盛期となる夏季に観光客が増える。2014年の数字を見ると、3月は8万人近くの宿泊者数があるのに対し、閑散期の6月は4万人弱と宿泊者が半減。繁忙期の人手不足は派遣労働で対応するのが一般的だった。

豊岡市の津居山港で水揚げされたズワイガニは「津居山かに」としてブランド化している(写真左)。竹野浜海水浴場はキメの細かい白砂が特徴だ(写真右)

DMOは収益事業者でもあるため、季節によって観光客数に大きなギャップの生まれる観光地の通弊を打破しなければ、閑散期の経営状況は厳しいものとならざるを得ない。豊岡版DMOでは外国人観光客で閑散期の宿泊者数を底上げし、季節による客数の差を埋めたいとしている。閑散期が解消すれば、観光関連の業種で年間を通じた雇用が生まれる可能性が出てくる。

放っておいても客が押し寄せる繁忙期に対し、「閑散期はあきらめムードだった」(ウィラーの村瀨氏)というのがDMOで対処すべき問題点だ。閑散期の集客力を高める具体策は聞けなかったものの、「(ブランディングや商品開発などの)戦略を立てて閑散期に取り組めるのがDMOの良さだ」と村瀨氏は強調した。

同一の観光地で宿泊施設や土産物店を営む業者同士は、ともすれば互いを商売敵と認識する傾向にあるが、閑散期の集客は、地域全体が一丸となって解消すべき課題といえる。「DMOは共同戦線を形成するための戦略チーム」(村瀨氏)になりうるという。

観光地経営に取り組む日本の先行事例に

インバウンドブームが続く日本だが、地方には外国人観光客の獲得に手を打てていない観光地もまだまだ存在しそうだ。ロンリープラネットに載るという外部要因はあったにしても、豊岡市がインバウンド需要の取り込みに成功しつつあるのは、海外に向けて積極的に情報発信してきた同市の姿勢によるところも大きいだろう。

豊岡版DMOが上手くいくかどうかについては未知数な部分も多いが、観光地がインバウンドの恩恵を十分に受けるためには、新たな取り組みを含め、自ら仕掛けていく姿勢が重要になってくる。人口減少に悩む地方の観光地において、外客獲得による魅力的な雇用創出は可能か。先行事例となりうる豊岡版DMOに今後も注目したい。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

関連記事
日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
関連記事