東芝は毒まんじゅうを買った? 見抜けなかった原発リスクの正体

東芝は毒まんじゅうを買った? 見抜けなかった原発リスクの正体

2017.02.21

2017年2月14日に東芝が発表した原子力事業におけるのれん減損は、7125億円と大きなものとなった。これにより、2016年度通期(2016年4月~2017年3月)の営業損益は4100億円の赤字、最終損益も3900億円の赤字になるとの見通しを発表した。株主資本はマイナス1500億円となり、債務超過の事態に陥る。

記者の厳しい質問に答える綱川智社長。2月14日

東芝の綱川智社長は、「米国の4基の原発を受注したことが、今回の減損のきっかけである」と語る一方、ウェスチングハウスの買収についても、「いまの数字を見ると、その判断は正しいとは言いにくい」と悔やしさを滲ませる。そして、2015年末に完了したS&Wの買収は、東芝の経営の屋台骨を揺るがす結果になった。

将来の成長を担うはずだった原子力事業は、東芝を「解体」に向かわせる引き金になってしまうのだろうか。

どうしても手に入れたかったウェスチングハウス

東芝がウェスチングハウスを買収したのは2006年のことだ。当時の社長は、西田厚聰氏。追加出資を含めたウェスチングハウス買収に伴う投資は6600億円にも達している。これは、その当時、市場からは、その半分でも高いと言われる投資規模だった。それにも関わらず、東芝が買収に踏み切ったのは、原子力を軸とした社会インフラ事業を成長戦略に掲げ、売上高で2桁成長という意欲的な成長を計画していたことが見逃せない。西田氏の後任に、原子力事業出身の佐々木則夫氏を据えたことも、それを強く感じさせた。

(左) 西田厚聰氏。(右) 佐々木則夫氏

佐々木氏が社長に就任後、2009年8月に初めて発表した東芝の中期経営計画では、「原子力事業のさらなる強化」を社会インフラ事業グループの基本戦略のトップ項目に掲げ、2015年までに、全世界で39基の受注を見込む方針を示し、同事業だけで1兆円の売上高を目標に掲げていた。

2009年8月発表の中期経営計画では、2015年までに39基の受注を見込み、売上高1兆円を目指すことを示した

当時の資料では、米国では32基以上の新設計画があり、中国では50基以上の新設計画があること、そして、日本でも12基の原発計画があるとしており、旺盛な原子力発電所の建設計画が、東芝の業績を引き上げるものとみられていた。日本の政府も、2006年に原子力立国計画を発表するなど、原子力事業を後押しする姿勢があっただけに、東芝にとっては、ウェスチングハウスは、今後の成長に向けて、なんとしてでも手に入れたい会社のひとつだったといえる。

福島第一原発事故のあとに行われた2011年5月の会見でも、目標は先送りするものの数値目標には変更はなかった
当時のウェスチングハウスのダニー・ロデリック会長

だが、2011年3月11日の福島第一原発の事故以降、原子力事業の勢いにはブレーキがかかる。それでも東芝は、2015年11月の会見では、「全世界では約400基以上の建設計画があり、2029年度までに64基の受注を目指す」(当時のウェスチングハウスのダニー・ロデリック会長)と、強気の姿勢は崩さないままだった。

実はこのときに、ウェスチングハウスののれん減損が、2012~13年度において、1156億円にのぼることが明らかになり、これを減損することを発表した。東芝では、「減損テストの結果、事業の公正価値が帳簿価額を上回っていたため、のれんの減損は認識されなかった」と説明したが、この時点で東芝の認識の甘さが露呈したともいえる。

いや、それどころか、これが東芝の隠ぺい体質を象徴するものであると指摘する声もあったほどだ。

2015年11月の会見で初めてウェスチングハウスの業績を公開した

実質的な評価価格を上回る買収をもとにしたウェスチングハウスののれん減損は、東芝の財務諸表を痛めることになるのは明らか。米国会計基準を採用している東芝は、これを先送りにすることで、財務諸表を良化させていたともみられるからだ。

ちなみに、2006年度以降のウェスチングハウスの買収後の業績を公開したのはこの時が初めてであり、それまではアナリストなどの要請があっても非公開の姿勢を続けていた。

見えてきた「落とし穴」の正体

しかし、ウェスチングハウス買収を発端とした「落とし穴」はもっと深かった。米国の建設プロジェクトにおける課題が噴出。それに伴って買収したS&Wが持つ財務的な問題により、東芝はさらに深い穴に落ちていった。

今回の会見では、綱川社長が、「原子力事業における損失発生の概要と対応策」として、買収に至る経緯や、問題となった米国におけるAP1000建設プロジェクトの概要、そして、今後の対応策などについて説明した。

綱川社長が言及したように、東芝が、原子力事業でのれん減損を計上した背景には、米国で受注した2サイト4基のAP1000建設プロジェクトが大きく影響している。

この2サイトの契約は、いずれも2008年春に結ばれたものであり、米国内では約30年ぶりとなる原発の新規建設として注目を集めたプロジェクトであった。

このプロジェクトは、ウェスチングハウスが原子炉、タービン系の設備を担当。設計、機器、試運転などを担い、これを東芝が親会社として保証提供するという内容であった。また、建設や土木、ヤード設備などはS&Wが担当。これを、のちにCB&Iが買収するShawが親会社保証を提供。ウェスチングハウスとS&Wがコンソーシアムを組んで、プラント建設を一括で受注するという仕組みとなっていた。

だが、航空機追突対策による設計変更や、追加安全対策の実施、許認可審査のやり直しなどにより、工事が遅延。さらに、これを発端として、コスト負担の分担や納期変更に向けた協議がまとまらず、顧客であるGeorgia Power Company(米Southern電力の100%子会社)との訴訟。South Carolina Electric & Gas Company(米SCANA電力の子会社)との訴訟懸念が発生。「これを解決するために、早期にプロジェクト完成に注力できる体制構築を目指した。

加えて、コスト増や納期延長による損害賠償請求の回避も目指した」(東芝・綱川社長)ことを理由に、S&W(現WECTEC)を買収した。当時は、顧客だけでなく、パートナーであるCB&Iからもコスト負担に関する訴訟懸念があったのだ。綱川社長は、「C&Wの買収によって、30%のコスト改善が図ると見込んだ」というが、これも達成できなかったことを悔やむ。

東芝では、この買収とともに、関係当事者との和解案を提示。クロージング時点まで当事者間の相互のクレームをリリースし、両電力会社からの契約金額の増額と完工期日の延期や、連接期間中の裁判によらない紛争解決策の導入を進め、同時に、原子力発電所の建設工事に関する知見と経験を持つ米Fluorと工事サービス契約を結び、工事を委託することで建設工事の完遂を目指した。

しかし、S&W買収後に、買収時には認識されていなかったコスト見積もりの必要性が判明した。東芝は、これらを示す詳細見積もりを、S&Wの買収後に入手。工事作業効率性の想定にもギャップがあることも買収後にわかったのだ。

会見では、記者から「S&Wの親会社であったCB&Iに騙されたということなのか」という質問が飛んだが、「それについてはこの場では答えられない」と言葉を濁した。同社では、「CB&Iは上場企業であり、しっかり監査も受けた諸表であり、それを信じて判断をした」と説明する。買収後に重大な懸念要素を知ったことは東芝の脇の甘さを示すものだが、騙されたという意識が関係者の間にあったことは容易に想定できる。

2015年10月にS&Wの買収を取締役会で承認。2015年末に、S&Wの買収が完了し、2016年1月からは新体制での工事が開始された。それ以降、プロジェクトコストの見積もりを改めて行うなど、プロジェクトは新たな局面を迎えたが、その一方で、東芝は、買収価格の調整として、運転資本調整額をS&Wの親会社であったCB&Iに請求。しかし、両社の見解に差があり、協議を行ったものの整わず、訴訟に至ることになった。現在、CB&Iの提訴は棄却されているが上訴中であり、第三者会計士による運転資本額の評価手続きが進行中だ。これも2016年度内には解決を想定していたが、2017年度に持ち越すことになっている。

だが、新たなプロジェクト体制での建設コストの見積もりにおいては、コストが大幅に増大。当初想定した作業効率改善が進まず、作業効率が低下するとの判断のほか、物量の増加、直接人員および間接人員の増加などの労務費で37億ドル、設備の購入価格上昇や下請け業者への支払い増加で調達コストが18億ドル、工事総額に対して一定率で積み増す予備費として6億ドルの合計61億ドルが増加。さらに、これらのコスト見積もりに必要な物量算定に時間を要することもマイナス要素となっている。

この結果、S&W買収に伴うのれん計上額は6253億円に達し、ウェスチングハウスによる既存ののれん残高の872億円を加えて、7125億円ののれん減損を計上することになった。

東芝の対応策

東芝は原子力事業における対応策として、原子力事業に対するリスク管理、モニタリング強化を目的に、綱川社長を委員長とする原子力事業監視強化委員会を新設するとともに、原子力事業を社長直轄組織とし、直接リスク管理を行う体制へと移行。

最大の課題となっている米国AP1000プロジェクトにおいて、東芝の原子力事業統括部の東芝プロジェクト監視チームや、ウェスチングハウスの米国AP1000プロジェクト監督委員会などを通じて、プロジェクトの進捗や、コストを管理。是正対策を実施するという。

そして、原子力事業における損失発生に対する経営責任として、綱川社長が、月額基本報酬の返上率を60%から90%に引き上げたほか、取締役代表執行役会長の志賀重範氏が取締役および代表執行役を辞任。エネルギーシステムソリューションカンパニー社長のダニー・ロデリック氏が、同社長および東芝執行役上席 常務待遇を解嘱。原子力事業部長で執行役常務の畠澤守氏が、月額基本報酬の返上率を30%から60%に引き上げた。その他執行役も返上率を一律10%引き上げる。

新設プラントのリスクを軽減する方向

東芝は、今後の原子力事業は、国内においては、再稼働、メンテナンス、廃炉を中心に展開。一方で、海外は、高収益かつ安定したビジネスである燃料・サービスの提供は維持し、新設プラントについては、土木建築部分のリスクは負担せず、機器供給やエンジニアリングなどに特化することになる。

2016年度の原子力事業の見通しでは、燃料・サービス事業の売上高は5065億円で、同事業全体の58%を占める。また、営業利益は387億円。とくに、サービス事業は、10%を超える営業利益率を計上している。「約100基の据え付け実績をベースに、しっかりとサービスで事業を確保していく」と綱川社長は語る。

一方で、新規プラントは、5年連続で赤字を計上する見込みであり、S&Wの買収によって、2016年度見通しでは売上高が2994億円にまで膨れ上がる土木建築は、「今後は受注しない方向にもっていく」(綱川社長)ことになる。

中国で受注している三門、海陽の4基の原子力プロジェクトは土木建築が含まれていないため、そのまま継続するほか、インドでの6基の受注を目指すプロジェクトでは、土木建築のリスクを負担せず、機器供給やエンジニアリングなどに特化。英国で3基の受注を目指す「NuGen(Moorsideプロジェクト)でも、土木建設リスクは負わない前提で活動を検討する。

結果として、S&Wの買収は、それだけで6253億円を占める大規模な減損を発生させ、しかも、今後は、S&Wが得意とする土木建築事業を行わないという決断をした。まさに、東芝にとっては、「毒饅頭」以外のなにものでもなかったといえる。

原発事業は縮小へ

東芝の綱川社長は、1月27日の会見で、すでに原子力事業を「注力事業」から外す姿勢を明らかにしている。

とくに、ウェスチングハウスを中心とした海外原子力事業については、「パートナーを見つけて持分を下げるという方法で検討している」とし、「現在87%の出資比率を50%以下にすることもありうる」とする。また、東芝は英国での原子力プロジェクトのNuGenのプロジェクトオーナーであるNuGenerationに60%を出資しているが、これについても持分売却を進める姿勢を示している。

だが、2月17日には、ウェスチングハウスに3%を出資しているIHIが、出資時に結んでいた東芝に対する株式買い取りを請求できるプットオプション契約の権利を行使。東芝は、この株式を189億円で買い取ることになり、さらに東芝の経営を圧迫することになる。

これにより、東芝の出資比率は90%になり、ウェスチングハウスの出資比率の引き下げを検討している東芝にとっては逆風ともいえる事態。株主資本および純資産において、一定程度の減少が生じる見込みだという。

ウェスチングハウスには、カザフスタン共和国の国営企業であるカザトムプロムが10%を出資しており、2017年10月1日から、プットオプションの行使が可能となる。IHIの契約も、同じく10月1日からの行使となっていたが、一定の条件を満たした場合には、早期に行使可能となっており、それを行使したものだという。今後、カザトムプロムがどんな動きをするのかも注目される。

東芝は、福島第一原発の処理もあり、「社会的責任を継続して果たしていく」(綱川社長)というが、もはや東芝が原子力事業を担うだけの体力が残されていないとの指摘もある。だが、その一方で、原子力事業の最適な売却先が現れるのかどうかも不確かだ。

東芝は原子力事業にどんな決着をつけるのだろうか。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

2019.01.24

ソフトバンクの通信障害、総務省が行政指導へ

再発防止のためのさまざまな対策立案を支持

上場前後で「運がない」ソフトバンクに求められるもの

総務省は1月23日、昨年12月に大規模な通信障害を起こしたソフトバンクに対して行政指導を行った。

通信障害は、ソフトバンクのLTEに関する交換機の不具合が原因で起こったもの。それによって同社の4G LTE網に障害が発生し、音声・データ通信ともに圏外になる、もしくはつながりにくい状態が長時間続き、大きな話題になっていた。

通信障害は12月6日の13時39分頃発生し、その後同日18時4分頃まで、4時間25分に及び、約3060万人の利用者に影響を及ぼした (ソフトバンク ニュースリリース)

総務省は今回、同社の代表取締役取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏宛に「電気通信事故に関する適切な対応及び報告について」と題した文書を提出。

ソフトバンクの宮内謙代表

文書では、ソフトバンクが2018年中に同件を含めて3回の重大事故を発生させていることを挙げ、「このような事故の発生は利用者の利益を大きく阻害するもの」とし、社内外の連携体制の改善や利用者への周知内容・周知方法の改善、通信業界内での教訓の共有等の実施を勧告。さらに、それぞれの具体的措置の内容を2月末までにまとめ、報告するよう義務付けた。

携帯電話は、通話やメッセージのやり取りはもちろん、決済サービスや災害時の情報収集ツールとして、今や国民のライフラインになっている。

総務省は同文書で「事故における教訓を業界全体で共有することが重要である」ともしており、今後の再発防止策等の詳細について、ほかの携帯電話事業者に説明し、情報共有する機会を設けることも求めた。

昨年末に鳴り物入りで上場したが、なかなか株価が振るわないソフトバンク。その背景には、通信障害や「PayPay」のクレジットカードの不正利用、さらには同社が通信設備を使用している中国・ファーウェイの米中対立やCFOの逮捕などの問題などが影響していることだろう。

ソフトバンクグループは昨年11月に行われた2018年度第2四半期決算説明会で、「RPA(Robotic Process Automation)の導入により通信事業の人員を削減し、新規事業に力を入れていく」としていたが、新規事業の前に、まずは逆風吹く通信事業の早急な立て直しが求められている。