大躍進のMVNO、2017年も破竹の勢いは続くのか

大躍進のMVNO、2017年も破竹の勢いは続くのか

2017.01.01

「格安SIM」などの名称で認知度が高まっているMVNO(仮想移動体通信事業者)だが、2016年は総務省による、スマートフォン実質0円販売の事実上禁止措置などの影響を受けて利用者が急拡大した。勢いに乗って攻めの戦略を次々と打ち出すMVNO。2017年はその先を見据えた取り組みが問われる。

ユーザーの変化で「キャリア化」を選ぶMVNOが増加

MVNOはここ数年来、「格安SIM」などの名称で知られるようになった。大手キャリアと比べサービスはシンプルだが、その分毎月の通信料が非常に安いことから年々注目を高めてきた。MVNOにとって、2016年は大きくブレイクした1年だったといえる。

最近ではテレビCMを展開する企業も増えているとはいえ、MVNOは大手キャリアと比べ知名度が低い企業が多い。それゆえ従来はITやスマートフォンに詳しい人達が、自らサービスを探し出して契約する傾向が強かった。それゆえユーザー層も30、40代の男性が中心だったのだが、最近は傾向が大きく様変わりしてきており、より若い世代やファミリー層などの利用が増えてきている。

他社に先駆けてメイン回線での利用を重視してきた楽天モバイルは、2016年1月時点で20~30代の利用者が契約数50%に達していた

その最大の要因は、総務省が2016年4月に「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を打ち出し、これまで一般的になされていた、大手キャリアのスマートフォン実質0円販売を事実上禁止したことにあると見られる。安価な料金を求める人達が、スマートフォン価格の値上がりを嫌ってMVNOへと移行したことから、これまでとは異なるユーザー層がMVNOに流入し、利用者の拡大へとつながったわけだ。

ユーザー層の変化を受け、2016年にはMVNO側の戦略も大きく変化している。具体的に言えば「キャリア化」、つまり大手キャリアに近い戦略をとるMVNOが増えたのだ。

そのことを象徴している施策が3つある。1つ目は音声通話定額サービスを提供するMVNOが急増したこと。2つ目は、通信と端末、そしてサービスをまとめて販売することで、お得な料金を実現するセット販売が増えたこと。そして3つ目は、実店舗を全国展開するMVNOが増えたことだ。

これらはいずれも、大手キャリアでは一般的な取り組みである。大手キャリアからユーザーが流れ込んできたことで、キャリアと同様の商品やサービスを求める傾向が強まっていることが、MVNOの戦略に大きく影響したといえそうだ。

キャリア化するか否かの選択が問われる

キャリアの戦略を踏襲することは、ユーザーの理解を得やすいメリットがある一方で、非常にコストがかさんでしまうというデメリットもある。これまで低コストでサービスを提供することに力を入れてきた多くのMVNOにとって、キャリア化戦略はある意味"賭け"でもあるわけだ。

それゆえ2017年、MVNOの動向を占う上で注目されるのが、各社が事業規模拡大のため、キャリア化戦略を採るか否かという“選択”だ。楽天の「楽天モバイル」のように、体力のある企業はキャリア化戦略をとるのは比較的容易だろうが、多くのMVNOは企業体力が弱い。「FREETEL」ブランドのプラスワン・マーケティングのように、あえてコストをかけてキャリア化を推し進めて勝負に出るか、それとも従来通りSIMを主体とした販売を続けるかという、大きな選択が迫られることになるだろう。

プラスワン・マーケティングはベンチャー企業ながら、通信と端末、サービスを一体で提供する「スマートコミコミ」を提供するなど、キャリアに近い戦略を取り続けている

市場が拡大基調にあるだけに、キャリア化の道を選べば多くのユーザーを獲得し、市場での存在感を大きく高める可能性は高まるが、多額のコストが必要なだけにリスクも非常に高まってしまう。一方で従来通りの戦略をとるならば、リスクは小さいもののユーザー獲得の面では機会損失となり、うまく差異化を図らなければ多数のMVNOの中に埋もれてしまう可能性がある。

実は2017年以降、MVNOの数はまだ増え続けると予想するとの声もある。MVNOの1つであるトーンモバイルの代表取締役社長である石田宏樹氏は、11月30日の発表会において、MVNOの数は2016年時点で561社だが、インターネットサービスプロバイダー(ISP)の数は、やはり市場が立ち上がって数年が経過した1998年に、最大で2651社に達していたと説明。その数字を基にするとMVNOの数はまだ少ないとしており、2017年以降も一層増えると予測している。

トーンモバイルの石田氏は、ISPが最盛期に2651社に上ったことを例に挙げ、MVNOは2017年以降も増加すると予測する

MVNOが現在より一層増えるならば、より“埋もれ”の問題が深刻になる。ユーザー獲得ができないMVNOはいずれ、コンシューマー市場からの撤退を選ばざるを得なくなってしまうだろう。キャリア化戦略をとらないのであれば、将来の生き残りに向け何らかの施策が求められることは確かだろう。

KDDIのビッグローブ買収がMVNOの再編に?

そしてMVNO同士の競争が高まれば高まるほど、実はキャリアの存在が注目されるようになってくる。一見すると、MVNOはキャリアから顧客を奪うため、敵対する存在に見える。だがMVNOに回線を貸しているのはキャリアであり、MVNOの利用が増えればキャリアにも収入が入るため、実は必ずしも敵対しているわけではないのだ。

そうしたことから2016年には、キャリアがMVNOを"仲間"として活用するケースがいくつか見られるようになってきた。中でも象徴的なのがKDDIの取り組みである。

KDDIはワイモバイルで先行するソフトバンク、多数のMVNOに回線を提供しているNTTドコモと比べ、低価格サービスの提供で大きく出遅れてしまった。そのことが、低価格を求めるユーザーが他社回線を用いたサービスへと流出し、収入を減らすことにもつながっている。

それゆえKDDIは、傘下のUQコミュニケーションズが、au回線を用いたMVNOとして展開する「UQ mobile」の大幅なテコ入れを実施。auとの販売連携に加え、「iPhone 5s」を正規に取り扱うなど対応端末の大幅な強化を進めているが、より注目されるのが、12月に発表した老舗ISP、ビッグローブの買収である。

KDDIはビッグローブの買収で、ISP事業など固定回線利用者の拡大を図るだけでなく、40万の会員を抱えるMVNO事業を手に入れることで、au回線を用いたMVNOの拡大につなげる狙いもあると見られている。さらにKDDIは、ビッグローブだけでなく、同様にMVNOも展開している老舗ISPのニフティを買収検討しているとの報道も出ている。そうしたことからKDDIは、低価格サービスでの出遅れを、買収によって仲間を増やすことにより、解消しようとしていると見ることもできるわけだ。

KDDIが買収を発表したビッグローブは固定回線のISP大手だが、MVNOとしても40万会員を抱える大手の事業者だ

そしてMVNOを買収して規模を拡大する流れが、KDDI以外のキャリア、あるいは市場での存在感を高めたMVNO大手などに広がっていけば、他社との競争に敗れ存在感が弱まったMVNOの吸収・合併が相次ぎ、市場再編が進む可能性が高まってくるだろう。現在はMVNOの市場が拡大基調にあるが、そうした状況がいつまでも続くとは限らない。それだけに、2017年にMVNO各社がとる選択が、今後の市場動向を大きく左右することとなるのではないかと筆者は見る。

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

関連記事
訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

関連記事