“日本車に逆風”は本当? トランプ政権誕生が自動車業界に及ぼす影響

“日本車に逆風”は本当? トランプ政権誕生が自動車業界に及ぼす影響

2017.01.02

政治経験も行政の経験もないドナルド・トランプ氏が、米国の次期大統領に就任する。日本企業が得意とする同国の自動車市場は、トランプ政権の誕生によりどのような影響を受けるのだろうか。

トランプ氏の真意を探るには

トランプ氏の発言に対しては、様々な意見や感想が、様々な人によって語られている。自由民主党の石破茂衆議院議員は、2016年12月11日放送の「時事放談」(TBS)でトランプ氏のことを、「リアリスト(現実主義者)であり、ニヒリスト(虚無主義者)でもあり、身内しか信じられず、損得で物事を判断する人物ではないか」と述べていた。

いずれにしても肝心なのは、トランプ氏が発する一つ一つの言葉に左右されるのではなく、その中で言おうとしている趣旨を見抜くことだろう。そこから、日本の自動車産業への影響も推察できるのではないか。

トランプ氏の言葉の裏を探る前提となるのは、まず、米国という国を知ることに尽きる。日本で生活し、東京から物事を見ていると、その感覚で海外の出来事を見てしまいがちだ。しかし、日本と米国ではまったく生活実感が異なる。

米国の自動車メーカーは磐石か

米国の国土面積は世界第4位である。1位はロシアで2位がカナダ、3位が中国だ。このうち、食糧の自給率が高いのは米国とカナダである。米国は自給率が130%近い数値で、自国内で食料を間に合わせることができ、農産物を輸出する農業国である。ちなみに、日本の食料自給率は40%以下で、輸入なしで我々は食べてゆけない。

自動車と直接関係はないものの、国内だけで食べていける国が米国であるという視点がまず重要だ。日本のように、工業製品を輸出し、稼いだ金で食料品を輸入しなければ生きてゆけない国とは状況が全く異なる。

欧州では、フランスが米国と似た状況にあり、食料自給率は同じく130%近い数字を残す。今日では、EU圏内での自由貿易により、たとえばドイツ国内でもフランス車を多く見かけるようになっているが、自動車産業においても米国同様に、フランスは国内での消費が堅調であれば、海外との関係が多少希薄になっても困らない国の一つと言える。ほかに、自動車先進国のドイツも、実は食料自給率が100%近い農業国である。

話がやや広がりすぎたが、食料に限らずいろいろなものを国内で自給できる米国にとって、自動車もまた、かつての「ビッグ3(フォード、GM、クライスラー)」のような国内メーカーが堅実な事業を続けられるのであれば、海外の自動車メーカーが米国内で存在する必要性はほとんどないという感覚が国民の生活実感としてあるはずだ。

もちろん、嗜好として、たとえばトヨタ自動車の「レクサス」が気に入っているといったことはあるだろう。だが、レクサス、インフィニティ(日産自動車)、アキュラ(本田技研工業)といった、日本の自動車メーカーの高級車路線に刺激を受けたキャデラックは、かつてのいわゆるアメ車とは違った商品性を備えるに至っている。

キャデラックの商品性も変わってきている(キャデラックCT6、画像はゼネラルモーターズ・ジャパンより)

トランプ氏を勝利に導いたのは

そうした米国で、今回の大統領選挙においては、得票数でヒラリー・クリントン氏が上回ったにもかかわらず、選挙人制度により、人口密度の低い州で勝つ方が有利になるという仕組みから、ドナルド・トランプ氏が勝利を収めた。そして、トランプ氏を勝利に導いたのは、白人労働者の生活や仕事環境への不満であったとされている。そこに的を当て、支持拡大を狙ったのがトランプ氏であったという。

トランプ支持にまわったのは、自動車産業など従来型の工業に根差した白人労働者たちであった。そのため、移民の排斥や、関税撤廃などによる国際的な自由な商取引の停止などといった象徴的な発言につながっていると考えられる。

それらがたとえ極端な表現であったとしても、冒頭に述べたように米国では、国内だけで生活できるという実感があるから言えることなのだ。

“Do it yourself”のお国柄

ところで米国内をドライブし、スーパーマーケットやショッピングモールなどに立ち寄ると、店内にエンジンのシリンダーブロックが売られているのを目にする機会がたびたびある。日本で、自動車のエンジンが店で売られているなどという場面に出くわしたことはなく驚くが、世界で4番目の広大な国土に3億人しか人が住まない米国では、自動車のエンジンさえ自分で直したり、乗せ換えたりしながら永く乗り続けることが、普通の生活感なのだ。

“Do it yourself”が自動車にまで及ぶ。まさに、自分の手の届く範囲で、衣食住から移動手段までを賄おうとするのが米国流だといえるだろう。それを国家水準まで広げてみれば、国内市場だけで食べていこうとする思考は自然に生まれるものなのである。

米国は今日、石油輸入国へ転落してはいるが、シェールオイルの採掘が盛んになるのもまた、自国内でエネルギーを賄おうとする気持ちが根底にあるはずだ。ほかにも、広大な土地に、風力発電の大規模なウィンドファームを建設し、電力の自給自足を行おうとするのも自然な流れである。

環境問題の視点とは別に、エンジンをモーターに切り替えても、それがより簡単に維持管理、整備や交換ができる仕組みであれば、電気自動車(EV)を選ぶという発想は十分に考えられることでもある。

米国では電気自動車「シボレー・ボルトEV」の出荷が始まっている(画像は米ゼネラル・モーターズより)

シェールガスにしろ、ウィンドファームにしろ、EVにしろ、そうした新規産業を興そうとベンチャー企業が現れるのは、単なる開拓者魂(フロンティアスピリット)だけでなく、米国には国内市場で十分に事業を確立でき、それを利用する国民生活があるからである。

米国経済に溶け込む日本メーカー

こうした米国内の事情を踏まえ、また石破氏の人物評なども参考としながらトランプ次期大統領の戦略を想像すれば、米国内市場のみで十分に賄える事業という発想を、拡大してみればいいのではないだろうか。

事業家の経験を持ち、損得で物事を考える人物の視点で物事を考えてみたい。米国内の日本車の市場占有率は35%を超えている。米国ビッグ3を優遇するなら、これらを排除すればおのずと米国車が増えるという単純計算が成り立つ。だが、トヨタは米国内に9カ所の生産拠点(提携の富士重工業も含む)を持ち、日産は5カ所、ホンダは7カ所を保有する。それらの工場では、米国内における雇用を生み出している。さらに、研究開発やデザインセンター、あるいは販売店などでも雇用が生まれているはずだ。

2015年2月に累計生産50万台を達成したトヨタのミシシッピ工場。2011年10月の生産開始から約3年4カ月での50万台突破は、トヨタの米国工場で最も早いペースだったという(画像:トヨタ自動車)

このことは、今回の大統領選挙で勝敗を分ける一因となった、生活や仕事環境に対して不満を持つ白人労働者を支えているという側面がある。単に日本やメキシコからの輸入車が、米国市場を席巻しているわけではないという理解を取り付けることは大切だろう。

そうしたことを含め、トランプ氏との人的関係性をより深めることも重要と言えるのではないだろうか。世界で初めて、次期米国大統領となるトランプ氏と面談した安倍晋三首相の洞察もそこにあると考えられる。あるいは、ソフトバンクの孫正義氏もまた同様だ。そうした動きが、自動車産業からはまだ見えてこない。

100年近い歴史を自動車メーカー各社が積み上げることにより、重厚長大産業的になり、俊敏さを欠いている印象を国内自動車業界から感じずにはいられない。

エコカーの普及は進むか

次に、エコカーの観点からトランプ政権誕生の影響を考えてみたい。トランプ氏はエネルギー長官として、元テキサス州知事で、石油や天然ガスに関わる規制緩和を訴えるリック・ペリー氏を起用する。この動きにより、ガソリンや軽油を燃料とするエンジン車が、エコカーの流れに逆らって復権するのではないかという観測が生まれるかもしれない。だが、そこは慎重を要するだろう。

もちろん、一時的に石油価格が下がれば、エンジンを積む大型車が販売を伸ばすかもしれない。事実、トヨタの新型プリウスも、石油価格の下落に敏感に反応し、米国内での販売が必ずしも順調ではないという。

しかし、今日のエンジン車は排ガス規制や燃費規制などへの対応により、複雑な機構を備え、スーパーマーケットで売っているシリンダーブロックを買って個人で直すといったことのできない技術で覆われている。まして、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車は、複雑の極みだ。

それに対し、モーターとバッテリーがあれば動くEVは、構造が簡素だ。実際に日本国内においても、筆者が副代表を務める「日本EVクラブ」の会員は、必ずしも自動車整備に長けていなくても、エンジン車をEVに改造し、実際に乗っている。もちろん、電気系統や安全に関して、専門家の知恵を借りるということはしても、日本人でもDo it yourselfでEVの改造ができてしまっているのである。

過去に、EVは家電メーカーでも作れるのではないかと言われたほどである。それは極端な話としても、Do it yourselfで維持管理し、利用できるEVは、環境とエネルギー問題を別としても米国民から支持を得られる可能性を秘めていると言えるだろう。エンジン車からハイブリッド車、次がプラグインハイブリッド車で、その先にEVが来るかもしれないといった、机上の論理では見えてこない消費者心理に気づくことが大切ではないだろうか。

様々な外部要因がEVシフトを後押しする

また、カリフォルニア州で2018年から強化されるZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制は、州の規制であり、連邦政府とは別に施行される。それがカリフォルニア州以外へも広がる状況にある。トランプ氏が次期大統領となり、気候変動の規制に対し疑問を呈しても、ZEV規制は着実に実行されるだろう。そのなかで、EVへの移行は確実に実施されるはずだ。

そして、米国ではリチウムイオンバッテリーのギガファクトリーが、順次生産を開始する。いずれ、Do it yourselfでEV改造を行おうとする人の手にも、リチウムイオンバッテリーが適正な価格で届く日が来るかもしれない。

EVベンチャーの米テスラとパナソニックなど、米国でギガファクトリーを計画する企業は複数ある(画像はテスラ「モデルS」の運転席)

自分たちの生活が守られる政権を支持し、身近な物を買い、自分でできることは自分でやって日々を送る。そして生活様式は保守的であっても、そこに新しい商品を受け入れていく柔軟性を持つのもまた米国らしさではないだろうか。トランプ氏の発言や行動から実は垣間見えてくる、米国市場の本当の実態を見誤らないことが重要だ。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。