アップルは再び輝けるか? 2017年を展望する4つの視点

アップルは再び輝けるか? 2017年を展望する4つの視点

2017.01.06

アップルの2016年は、15年ぶりの減収減益という決算で終えた。主力のiPhone 7も大きな変更はなくマイナーチェンジに留まり、4年半ぶりに刷新されたMacBook Proはプロユーザーから大きく受け入れられている状況ではない。

アップルファンだけでなく、モバイルアプリ開発者にとっても、低調なアップルのビジネスは望ましくなく、また寂しいものだ。2017年、アップルはこうした状況を打開していくのか、4つの視点で考えていこう。

マイナーチェンジにとどまったiPhone 7だがアップルの業績をどう導くだろうか

大局的に見れば、アップルほどスマートフォン製造で利益を上げている企業はなく、後述の通り、iPhoneユーザーから更なる収益を得る仕組みも上手く回り始めている。あとは、顧客に対して、きちんと満足度やサプライズを与えることができるかどうか、そして開発者が心地よいと感じる環境を提供し続けられるかどうかが重要で、どちらかというと筆者は楽観的に見ている部分が大きい。

視点1:10周年のiPhoneにとって機能以上に重要なこと

iPhoneはアップルのビジネスの中で最も大きなカテゴリだ。2016年度は全体の64%の売上をiPhoneから叩きだし、名実ともにiPhoneの会社、となっている。そのiPhoneの販売台数が低調だったことは、アップルにとって、屋台骨を揺るがす事態、ということになる。

アップルも決算発表の電話会議で明らかにしているが、2016年度の落ち込みは、2015年度の特需の反動、という見方だ。2015年度に販売していたのは2014年9月発売のiPhone 6とiPhone 6 Plusだった。

アップルはiPhoneの大画面化を果たすタイミングを、中国でのハイエンドスマートフォン市場の急拡大に合わせ、中国市場の旧正月を含む2015年第2四半期に、欧米のホリデーシーズンを含む第1四半期並みの6117万台を販売することができた。

販売台数の推移を見る限り2015年第2四半期(6117万台)と2016年第2四半期(5119万台)の差は大きい(図表:アップル決算資料をもとに編集部で作成)

2015年9月発売のiPhone 6s、iPhone 6s Plusを擁する2016年度は、第1四半期はiPhone 6・iPhone 6 Plus以上の販売台数を達成したが、第2四半期に1000万台減となり、その後も前年同期比減を続けることとなった。これが、特需の反動だと説明する理由だ。

2016年度は中国株式市場の不安や、ハイエンドスマートフォン市場の飽和による成長鈍化、買い換えサイクルの長期化が重なり、iPhoneだけでなく、ハイエンドのAndroidスマートフォンも危機的な状況に陥っている。

今まで慣例的に2年周期でフルモデルチェンジを行ってきたが、買い換え周期の長期化のトレンドに合わせるという意味で、iPhone 7をマイナーチェンジにとどめる判断は説明が付く。

最も良いシナリオで解釈すれば、2016年は、2015年度の特需の反動をこなしつつ、買い換え周期の調整とし、iPhone 10周年を迎える2017年にデザインや機能を含めた全く新しいiPhoneをリリースする環境作りのための「環境作り」に費やした、と見ることができる。

あとは、本当に2017年にiPhone買い換え特需が訪れるのか、それを喚起するだけの魅力的な新型iPhoneをリリースできるのか、という点にかかっている。

視点2:通年で間もなく第2位のカテゴリとなるサービス分野

2017年のアップルに筆者が最も注目しているのは、「サービス」と呼ばれるカテゴリーだ。これには会員数が2000万人を超えたApple Music、iCloud追加ストレージ、App Storeの課金売上手数料、Apple Payの手数料が含まれる。大ヒットゲームPokemon Goや、12月15日に配信開始となったSuper Mario Runの課金売上は、このサービスカテゴリに計上される。

注目されるサービスカテゴリーはApple MusicやiCloud追加ストレージなどが該当

2016年第2四半期決算で、このサービス分野は初めて、iPhoneに次ぐ2番目の売上規模へと拡大したのだ。しかも、前年同期比で20%近い成長を続けており、2017年中に、通年を通じた売上第2位のカテゴリになることは確実だ。

2017年の四半期決算で、iPad、Macの売上を合計した金額を上回ってくることも考えられる。それはさすがにiPadとMacが低調すぎる見積もりかもしれないが……。

iPad/Mac/サービスの売上推移。すでにサービスがiPad/Macを上回っていることがわかる(図表:アップル決算資料をもとに編集部で作成)

このサービスカテゴリは、基本的には、年間2億台を販売するiPhoneを購入した人々が、日々iPhoneを使う上で利用するサービスや購入するアプリからの売り上げということになる。iPhoneの販売台数の成長に限界が訪れたり、前述のように買い換え周期の長期化がトレンドになる環境変化において、サービスカテゴリの成長は重要性を増している。

アップルは年に1度のハードウェア刷新を基本としたサイクルを築いてきたが、サービスカテゴリを刺激するのはアプリやコンテンツであり、より細かいペースでの提案を行うことができる。例えばポケモンやマリオといった人気ゲームタイトルは既に、2016年中に2度リリースされており、こうしたペースを早めることも可能だろう。

また、米国で導入された「TV」アプリは、サービス分野の収入をリビングルームに拡大することも考えられる。ストリーミングやケーブルチャンネルは多くの場合、Apple Musicのような購読制を取っており、ゲームのように単発ではない継続的な収入を手にできる分野だ。

視点3:コンピューティングの位置づけを変更中

2016年末、Bloombergは「アップルはMacを見捨てたのではないか」という記事を掲載した。これに対してアップルのティム・クックCEOは「将来素晴らしいデスクトップを用意している」と、ユニークで戦略的な製品としてのMacに力を入れている点を指摘している。

軽視とは違うかもしれないが、Macの役割を変化させているのは確実だ。

2016年10月に、4年半ぶりにMacBook Proを刷新したが、同時に人気のあったMacBook Airの刷新を停止している。13インチモデルは併売されるが、800ドル台でラインアップされていた11インチMacBook Airの販売を終えた。これにより。1000ドルほどのMacの新製品が消えたことになる。

その穴を埋める役割をiPadに担わせようとしている点は、2016年3月に9.7インチiPad Proを発表した際、フィル・シラー上級副社長が「PCからの買い換え需要を狙う」とコメントしていることからも明らかだ。

アップルはコンピュータに関して、1000ドルという分水嶺を築き上げ、それ以上をMac、それ以下をiPadに担わせる「ラインアップの整理」を実現したことになる。

Macはこれまでクリエイティブのイメージを強く持っていたが、Adobe MAXなどを取材すると、すでにそのイメージは抜けており、MacかWindowsかはより合理的かつ好みでの選択になった。それでもMacは、iPhoneやiPad向けのアプリを開発する際に必ず必要であり、iPhoneの市場が拡大すればするほど、堅調な販売拡大を期待できる。

その分注力すべきは、販売減が続いているiPadであり、1000ドル以下のコンピューティングというポジションを確立していくため、2017年にiPad Proの製品ラインに更なる刷新をかけていくことが予測できる。

視点4:新しいテクノロジーをいかに取り入れるか

アップルはシリコンバレーにおいては、必ずしも先陣を切って新しいテクノロジーをリリースする企業ではない。どちらかというと、新しいテクノロジーの需要や受け入れられ方を見て、最適解を提示する役割、というイメージだ。

だからといって研究開発をしていないわけではなく、Siriや写真アプリにはすでに機械学習の仕組みが組み込まれており、「犬の写真」といえば自分のiPhoneに保存されている犬が写っている写真を表示するまでには発達している。

2016年にシリコンバレーで注目されてきたのは、人工知能、仮想現実、拡張現実、ブロックチェーン、ロボット、デジタル玩具、データの収集と解析、センサーとIoT、自動運転、医療・健康や遺伝子の情報だった。アップルはこれらに関して、幅広く取り組んでいる企業だ。

それぞれの技術を開発するスタートアップ企業は、起業家や大企業にとっては重要かもしれないが、一般の消費者にとってはあまり関係のない話かもしれない。それよりは、こうしたトレンドにある要素技術を組み合わせたUberの自動運転車や、無人コンビニAmazon Goのほうが重要なのだ。

アップルは個別のアプリに関しては、開発者に環境を提供するプラットフォーマーとしての立場を色濃く見せる。そのため、真っ先に、新しい技術をサービス化する企業ではないのは前述の通りだ。

そのため、アップルが6月に開催する開発者会議において、どのようなAPIを公開していくのかが、我々の生活の近未来の変化を予測する鍵となる。

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

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居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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