2017年、AIはモバイルを大きく変える存在となるか

2017年、AIはモバイルを大きく変える存在となるか

2017.01.08

2016年は人工知能(AI)が大きな注目を集め、AIを採用したサービスやデバイスが急増した1年だった。中でもメッセンジャーアプリのチャットボットや、グーグルの新スマートフォン「Pixel」などのように、モバイルの分野でAIを採用する動きは急速に広まっている。この流れは2017年も続くと見られるが、AIでモバイルのあり方は大きく変わるだろうか。

スマートフォンに続々導入されるAIの技術

2016年、IT業界で注目を集めたものの1つに人工知能(AI)がある。AIといえば、2015年10月にグーグル傘下のグーグル・ディープマインドが開発した「AlphaGo」が、囲碁で人間のプロ棋士を破ったことで大きな話題となったが、2016年に入ってからは、ディープラーニング(深層学習)を取り入れたAIが実際のサービスに取り入れられ、実用化が急速に進められたことが注目されている。

AIはその汎用性の高さから、ソフトバンクロボティクスの「Pepper」に代表されるロボットの分野や、アマゾンが米国で展開する「Amazon Echo」に代表されるホームエレクトロニクス分野など、幅広い分野への導入が進められている。そうした中でもAIの導入が積極的に進められた分野の1つとして挙げられるのが、モバイルである。

モバイルにおけるAIといえば、アップルのiOS向け音声アシスタントサービス「Siri」などが以前より知られているが、2016年はそのライバルとなるAndroidを提供するグーグルが、モバイルに向けたAIの導入を積極化してきた。実際グーグルは、2016年5月の開発者向けイベント「Google I/O」で、AIを活用した音声アシスタントサービス「Googleアシスタント」を発表。さらに10月には、そのGoogleアシスタントを全面的に取り入れたスマートフォン「Pixel」「Pixel XL」を米国などで発売し、スマートフォンのAI導入を本格化している。

グーグルはGoogleアシスタントを前面に取り入れた「Pixel」「Pixel XL」を、10月に米国などで発売開始。日本での発売は未定だ(画像:Google Official Blogより)

そしてもう1つ、モバイルとAIに関する出来事として注目されたのが「チャットボット」の人気の高まりだ。チャットボットは「LINE」などのメッセンジャーアプリ上で動作する対話プログラムの総称だが、このチャットボットにAIを活用することで、チャットボットと会話することで必要な情報を得たり、買い物やレストランの予約などができたりするようになることから、高い関心を集めている。

中でも注目されたチャットボットが、マイクロソフトがLINEなどで展開している"女子高生AI"こと「りんな」である。りんなは2015年にLINE上で提供が開始された、娯楽要素の強いAIを採用したチャットボットだが、比較的スムーズで、なおかつユニークな会話が楽しめることなどからファンが急増。書籍が発売されたり、リアルでのイベントやサイン会が実施されたりするなどして、急速に人気を高めている。

"女子高生AI"「りんな」は、さまざまな会話が楽しめることが人気に。2016年の東京ゲームショウでは専用のブースも設けられるなど、リアルイベントにも進出している

サムスンがSiriの開発者が創業した企業を買収

モバイルにAIを導入する流れは、2017年以降も加速していくだろう。そもそもスマートフォン向けOSで圧倒的なシェアを占めるAndroidがバージョンアップすることで、多くのスマートフォンにGoogleアシスタントが導入されていけば、それだけでAIを利用する人が大幅に増えることとなる。

グーグルは2016年12月13日に、Googleアシスタントを搭載したメッセンジャーアプリ「Google Allo」を日本で配信開始。日本語でGoogleアシスタントが利用可能になった

もっとも、Googleアシスタントを世界展開する上では、各国での言語対応が欠かせないのも事実。日本でもPixelは発売されておらず、最近までGoogleアシスタントが利用できなかった。だがグーグルは2016年末に、メッセンジャーアプリ「Google Allo」を日本で先行してリリース。Alloを通じて日本語でのGoogleアシスタントの利用が可能となったことから、2017年以降の本格展開が期待されるところだ。

また2017年に、モバイルとAIの関係をより近づける可能性を示す事例として挙げられるのが、スマートフォン大手のサムスンが、AIを開発するVivを2016年10月に買収したことだ。VivはSiriを開発したメンバーが創業した企業で、より高い性能を持つAIのアシスタントを開発しているとされているが、そのVivをサムスンが買収したことで、サムスンの新機種にVivが開発したAIが搭載されるのではないかという報道が一部でなされている。

サムスンは2016年、「Galaxy Note 7」の発火事故でユーザーからの信用を大きく失ってしまった。それだけに新機種では、VivのAIに起死回生を託す可能性も十分考えられ、2017年はAIの動向を占う上でも、サムスン新機種の動向が大いに注目されるところだ。

ソフト・サービスの面でも、2017年にはAIの利用が進んでいくものと見られる。中でも先に触れたチャットボットに関しては、2016年にフェイスブックやマイクロソフト、そしてLINEなどのメッセンジャーアプリを提供する多くの事業者が、チャットボットを開発しやすくするための仕組み作りを進めてきたことから、2017年にはそれらを活用したチャットボットが大幅に増えるものと予想される。

AIがモバイルデバイスのあり方を変えるか

では今後、モバイルにAIが入り込むことで、どのような変化が起きるのだろうか。そこで浮かんでくるのは「音声操作」と「ワイヤレス」の2つである。

グーグルがPixelをデモする際も、タッチパネル操作で文字を入力するのではなく、声で話しかけることで指示を出していたのが印象的だった。このことはAIの導入によって、スマートフォンの操作がタッチから、音声へと大きく変化する可能性を示している。

そもそも人間にとって、キーボードやマウスを使ったり、ディスプレイをタッチして操作したりすることは、本来自然な行動ではない。だがこれまでは、コンピューターの性能が低かったことから、コンピューターに指示を出すため、人間の側がコンピューターに合わせる必要があったのだ。

しかしながらAIが入り込むことで、コンピューターが人間の言葉を理解できるようになれば、人間にとって最も自然な"話す"という行動で指示ができるようになる。それゆえモバイルにAIが入り込むことで、スマートフォンの利用スタイルも音声操作へと、大きく変化していくと考えられる。

また音声操作の利用が高まっていけば、スマートフォンを使って情報を引き出す手段も"対話"が主体ととなっていく可能性が高い。大抵の操作が対話で済むのであれば、そもそもスマートフォンの画面を見る必要性も少なくなっていくだろうし、その時重要になってくるのが、スマートフォンとの対話をより手軽にする、ワイヤレスで音声操作するデバイスとなるのではないだろうか。

同様のデバイスとしては、最近発売されたソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia Ear」などが挙げられる。スマートフォンにAIが本格的に入ってくるようになれば、今後Xperia Earのようなデバイスの人気が高まってくるだろう。そして今後、ハードやネットワークが一層進化していけば、将来的にはスマートフォンが不要になり、Xperia Earのようなデバイスだけがあれば十分事足りるという時代がやって来るかもしれない。

11月18日に発売された「Xperia Ear」。耳に装着して対話しながら情報を得る音声アシスタントだが、AIの進化で今後はこうしたデバイスが大きく広まる可能性がある

無論、そうした時代が訪れるとしても、2017年より先のことになるだろう。だが2017年には、モバイルにAIが本格的に入り込んでいくことで、現在のスマートフォンを中心としたモバイルのあり方を大きく変える年になる可能性は、十分考え得るのではないだろうか。

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

2018.11.20

ゴーン氏による3つの重大な不正とは

不正は「ゴーン統治の負の遺産」と西川社長

ゴーン不在でアライアンスの今後は

カルロス・ゴーン氏が日産自動車で働いた不正が発覚し、東京地検特捜部に逮捕される事態となった。企業再生の旗手ともてはやされた豪腕経営者は、自らが代表取締役会長を務める会社の資金を私的に使うなどの理由で失墜してしまった。なぜ、このような不正が起こったのか。その理由を探るため、西川広人(さいかわ・ひろと)社長が出席した日産の記者会見を振り返ってみたい。

日産の西川社長は、11月19日に記者会見を開催した。横浜の日産グローバル本社には200人を超える報道陣が詰め掛け、質疑応答は深更に及んだ

ゴーン依存から抜け出すチャンス?

西川社長の説明によると、ゴーン氏が日産で働いた不正は「開示される自らの報酬を少なく見せるため、実際より少なく有価証券報告書に記載」「目的を偽り、私的な目的で日産の投資資金を支出」「私的な目的で日産の経費を支出」の3つ。内部通報を受けて数カ月間の調査を行った結果、不正が判明したという。不正の首謀者はゴーン氏と同氏側近のグレッグ・ケリー代表取締役の2人。11月22日には取締役会を招集し、不正を働いた2人の職を解くことを提案するという。

会見で西川社長は、本件について「残念というより、それをはるかに超えて、強い憤りというか、私としては落胆が強い」との感想を述べた。不正の具体的な経緯や内容については、検察当局の捜査が進行中であるため、詳細には説明できないという。「約100億円の報酬で約50億円しか申告していないとすると、消えた50億円を日産ではどのように処理したのか」という記者からの質問に対しても、「今の段階では」回答できないとして明言を避けた。

この問題は日産の、ひいてはルノーと三菱自動車工業を含むアライアンスの今後に、どのような影響を及ぼすのか。「将来に向けては、極端に特定の個人に依存した状態から抜け出して、サステイナブルな体制を目指すべく、よい機会になると認識している」というのが西川社長の言葉だ。

検察当局の捜査が進行中で、不正の内容については多くを語れないとした西川氏だが、一刻も早く自らの言葉で状況を伝えたいという理由から、このタイミングで記者会見を開催したという

ルノーと日産のCEO兼務が権力肥大の温床に

逮捕の時点で、日産と三菱自動車では会長、ルノーでは会長兼CEOを務めていたゴーン氏には、西川社長が「極端」と表現するほど、権力が集中していた。なぜ、このような体制となったのか。「長い間に、徐々に形成されたということ。それ以上に言いようがない」とした西川社長だったが、1つの要因として「ルノーと日産のCEOを兼務した時期が長かった」点を指摘し、「このやり方は、少し無理があった」と述懐した。

業績不振の日産にルノーから乗り込んだゴーン氏は、日産を立て直し、2005年にはルノーのCEOにも就任して、両社のトップに立った。その当時を西川社長は、「当たり前に、日産を率いるゴーンさんが、ルノーのCEOをやるのはいいことじゃないかと考えて、あまり議論しなかった。どうなるかについては、日産としても、十分に分かっていなかった」と振り返る。

誰かに権力が集中したからといって、その企業で必ずしも不正が起こるとは限らないし、権力を持ちつつ、公正な企業経営を行っている人もたくさんいる。そう語った西川氏ではあったが、今回の不正については「長年にわたるゴーン統治の負の遺産」であり、「権力の集中が1つの誘引となった」と結論づけた。経営陣の1人でありながら、ゴーン氏をコントロールする役割を果たせなかった責任については、「ガバナンスで猛省すべきところはあるが、事態を沈静化して、会社を正常な状態にする必要もある。やることは山積している」とする。

権力者が去った日産は今後、どのような企業になっていくのか

内部通報によりゴーン氏が日産を去るという構図は、クーデターに見えなくもない。不正が日産ブランドに与える負の影響は計り知れないが、これを機に、有機的で透明性の高い企業統治の在り方を追求できるかどうかが、日産とアライアンスの今後を左右しそうだ。ゴーン不在の新生日産にとって、真の実力を問われる局面になる。

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

2018.11.20

サントリー「ストロングゼロ」の新商品が11月20日より発売

「食事に合う」を押し続けた広告展開の狙い

-196℃製法は居酒屋の「不味い」チューハイから誕生?

サントリーの缶チューハイ「-196℃ ストロングゼロ」という商品に、どのような印象を持っているだろうか?

飲みやすい、度数が高い、お手頃価格――。さまざまなイメージを想起することかと思うが、サントリーの打ち出すメッセージは、一貫して「食事に合う」だ。特に、「唐揚げとよく合う」という点を全面に押し出した広告を見たことがある、という人も多いのではないだろうか。

確かに、味そのものを広告で伝えるのは難しいし、度数が高いからお得に酔えるとお茶の間に出すのはなんだか気が引けるのも想像できる。とはいえ、コーンポタージュ味のガリガリ君くらいディープなイメージになりかねない「食事に合う」缶チューハイというメッセージも、かなりの勇気が要ったのではないだろうか。

なんで缶チューハイが食事に合うなんて言ってるの? サントリー商品開発センター(神奈川県・川崎市)で聞いてきた

居酒屋の「美味しくない」チューハイがキッカケに

そもそも、ストロングゼロのきちんとした商品名で記載される「-196℃」とは何だろう。これは、果実などを-196℃で瞬間凍結し、パウダー状に微粉砕したものをアルコールに浸漬してチューハイに仕上げるという、サントリー独自の「-196℃製法」を意味するもの。

ストロングゼロの開発に携わるサントリースピリッツ商品開発研究部の藤原裕之氏によると、この製法が誕生したキッカケは、居酒屋での「美味しくないチューハイ」にあったのだという。

「居酒屋で飲む“生絞りチューハイ”って、美味しいですよね。でもある日、レモンは入っているのに、全然美味しくないチューハイがあったんです。なぜ同じ組み合わせなのに、味が変わるのか。それは“自分でレモンを絞る・絞らない”の違いにあったんです」(藤原氏)

「-196℃」製法、誕生のキッカケは居酒屋にあった

つまり、美味しさの要因は「手についたレモンのフレッシュな香り」にある、というのだ。

そこで、「レモンを、丸まる1つ使ったチューハイを作りたい」というコンセプトのもと、「果実」だけではなく、「果皮」に含まれる香り・美味しさ成分まで余すことなく作る製法として、果実を瞬間冷凍し、まるごと砕いてお酒に入れる「-196℃製法」を開発した。同じようなコンセプトのチューハイは他社でも見られるが、この製法はサントリーの特許技術だ。

こちらは「-196℃製法」を再現した実験。写真は液体窒素を容器に流し込んでいるところ
ちなみに、液体窒素の中に花を入れると、すぐに凍ってしまう。軽く握っただけでパラパラと粉々に砕ける
レモンを数十秒いれると、こちらも完全に凍ってしまった。さすがに素手で砕くのは無理だそうで、本来は機械でクラッシュしてパウダー状にしているそう

市場拡大の追い風に乗り、「食中酒」として存在感増す

余談になるが、ここ最近はストロングゼロを筆頭に、「ストロング系チューハイ」がSNSで異様な広まりを見せている。昨年末には「#ストロングゼロ文学」という大喜利ネタが流行り、今年も「#わたしのストロングゼロ」なるハッシュタグが誕生し、盛り上がった。このあたりの話題に興味のある人は、こちらの記事(「ストロング系チューハイ」、なぜ人気? 愛飲者が理由を分析)も読んでみてほしい。

では、なぜここまでの人気がある商品になったのか。それは、市場全体の盛り上がりをタイミングよく追い風にできたことも大きい。

「RTD(Ready to drink:缶チューハイやカクテルなど、フタを開けてすぐにそのまま飲める飲料のこと)市場は、2007年から、10年連続で伸長しています。この傾向は2018年も継続しており、本年度は1~9月だけで、前年比111%増えています」(藤原氏)

RTD市場・アルコール度数別販売状況。ちなみにサントリーが「-196℃」シリーズを発表したのは2005年、ストロングゼロシリーズが生まれたのが、2009年だ

RTD市場の中でも、特に高アルコール(アルコール8%以上のもの)飲料が市場を牽引する存在になっていて、これらは2012年に市場シェア24%だったところ、2017年には33%にまで伸長している。

高アルコール飲料が伸びている理由は「お得に酔える」ことが求められたからと考えられるが、「経済性のみでここまでの伸びがあるとは思えない」と藤原氏は説明する。

「なぜ、高アルコール飲料を飲む人が増えているのか。我々の見解としては、それは『食』にあると考えています。2015年、2018年の『食事中にRTDを飲んでいる数』を比較すると、ここ3年で約5%伸びていることがわかりました」(藤原氏)

特に40~50代の伸びが大きく、これまで食事中にビールを飲んでいた所を、チューハイに置き換える傾向にあるようだ。スーパードライやプレミアムモルツ、一番搾りといった人気ビ―ルの度数は、5~5.5%。そこから流入した層が、「低アルコールのチューハイでは物足りないから」と、高アルコールのものを選ぶようになっているのかもしれない。

そこでサントリーは、「食事に合う」チューハイという立ち位置を明確にする戦略に動いた。味の改良だけでなく、世の中のニーズの変化にも敏感に反応した結果の、「食事に合う」だったのだ。

「食事に合う」というイメージ訴求を続けてきたサントリー

市場を牽引する「ストロングゼロ」、次の一手

サントリーが初めて「-196℃」の缶チューハイを商品化したのが2005年。それ以降、RTD市場の成長に沿って売り上げを伸ばし続けている。特に、-196℃のラインアップに高アルコールの「ストロングゼロ」を追加してからの成長が顕著だ。市場の成長に沿って、というよりはむしろ同社のイメージ戦略も相まって、「市場を牽引している」ともいえるかもしれない。

「-196℃」シリーズの販売実績。ストロングゼロが誕生したの2009年以降、急激な成長を遂げている

「食事中のお酒にチューハイが選ばれるキッカケとなったのは、『レモン』味のフレーバー。今後もレモンをRTD市場の成長のキードライバーと捉え、力をいれていきたいと考えています」(藤原氏)

既存の人気商品「ストロングゼロ ダブルレモン」に続き、ストロングゼロが次に指す一手も、やはり「レモン」だ。さらにレモンを”マシマシマシ”した、その名も「ストロングゼロ トリプルレモン」で、まだ食事中に缶チューハイを飲んでいない新規層への訴求を目指す。

「-196℃ ストロングゼロ トリプルレモン」は、11月20日より販売開始。価格は350mlが141円、500mlが191円(税抜き)
同社が押し出す「食事と合う」チューハイ。見ているだけで仕事を放棄したくなってくる