2017年に注目すべきモバイル関連キーワードは何か

2017年に注目すべきモバイル関連キーワードは何か

2017.01.09

テクノロジーの進化は日々加速している。米国ではシリコンバレーに限らず、有名な大学がある街で研究開発を加速させるスタートアップがたくさんあり、これが大企業に買収されている。また、1つずつの要素技術を買収もしくはそれらに投資している大企業が、これらの技術を組み合わせて新しい体験を作り出す場面が多く見られる。

2017年は、より新しいものが加速的に登場し、それらを我々がどう受け入れるか、社会との間に生じた問題をどのように解決するか、といった議論が活発になると予測している。

そうした技術について、またその可能性について触れていきたい。ただし、前提として、多くの問題解決を行う窓口は、依然としてスマートフォンもしくはそこで動くアプリを中心に展開されていく点も留意しておくと良いだろう。その理由は、開発する側、利用する側の双方ともにコストが安く、展開しやすいからだ。

データ

我々は呼吸するごとに酸素を取り入れて消費し、二酸化炭素を排出している。二酸化炭素は大気の中に放たれて終わりだが、もしその呼吸に着目すれば、1分間の呼吸数や吸気と排気の時間比率という「データ」を、簡単なセンサで計測できる。

実際にこれをやっているのは、Spireというマインドフルネスと活動量を計測するデバイス企業だ。Spireは呼吸のデータを24時間計測し続けて、リアルタイムにその人の心理状態を教えてくれる。そして、その改善のためのトレーニングを行うことができる。

Spireは呼吸パターンをセンシングする世界初のウェアラブルデバイスと喧伝。Spire stoneと呼ばれる小型センサとスマートフォンを連携させることで呼吸データを取得。それをもとにリラックスした1日が送るようになるという(画像はSpireウェブサイトより)

何か物事をテクノロジー的に解決する際、重要なのはデータだ。アクティビティトラッカーはウェアラブルデバイスで中心的な存在になっているが、自分の健康については人々が知りたいデータであり、かつ企業にとっても、そのデータの解析や活用によってビジネスを作りやすい領域になっている。

多くのシリコンバレーのスタートアップは、他社が持たないデータをいかに取得し、それにどう価値を付けていくかを考えている。新しいデバイスやサービスが登場したとき、まず「どんなデータが発生し、活用されるのか」を考えると、これから起きようとすることを見つけやすいだろう。

アシスタント

Googleアシスタントに「飯田橋に行きたい」とコメントしたところマップと時間などを表示。注目したいのは画面最下部近くに「飯田橋駅について」「車では」など先回りしてくれるところだ

2016年に筆者が最も関心を持ったサービスは、Googleアシスタントだ。音声もしくはテキストでの会話形式で、我々の様々な質問や問題を解決してくれる人工知能のアシスタントで、グーグルがリリースしたPixelスマートフォンでは、誰かとユタ州のリゾートについて会話していたら、そのリゾートについて先回りして検索してくれるような賢さを持つ。 Amazon Echoは、米国で最も人気のある音声認識アシスタントだが、すでに5000を超える機能を声で行うことができるようになった。

Googleアシスタントがユニークだったのは、スマートフォンでは「声」よりも、友人とのチャットや、検索していたこと、今いる場所といった情報を活用してくれる点だ。明示的でなくても、さっと情報を用意してくれる。そんな控えめで有能なアシスタントの姿に好感を持った。

ちなみに、アップルのSiriは音声アシスタントばかりが注目され、他のアシスタントに比べてその有用性を証明できずにいるが、そこには誤解がある。

Siriは音声インターフェイスだけではなく、iPhone内のデータやユーザーの利用パターンを学習するエンジン、そして検索が含まれており、例えば電話帳に登録していない相手からの着信について、メールの検索データと照合して、差出人の名前を「もしかして」と着信時に表示してくれる。また、電話番号での通話ではなく、LINEでの通話をよくする相手には、電話帳を開いたときの通話ボタンで、自動的にLINEを利用する、といった振る舞いをしてくれる。

我々はモバイルにおいて、より多くの時間をアシスタントとの対話や、アシスタントがもたらす情報の利用に費やすことになるはずだ。そこにはコミュニケーション上のニュアンスの齟齬が生じたり、鉄道が止まったなどのトラブル時の判断にも影響してくる可能性があり、普段からアシスタントの特性を知っておく必要が出てくるだろう。

ボットとIoTが描き出す世界

日本ではTwitterで動作するボットが人気だ。好きなアーティストの発言を定期的にツイートするボットや、地震発生時などにそのデータを速報するボットなど、既に実用的な情報手段として、あるいはエンタテインメントのインタフェイスとしてその役割を果たしてくれている。

そうした有用なボットが、IoTデバイスによって、タイムラインやスマホの画面の外の世界に登場したらどうだろう。多くのIoTデバイスはセンサを持っており、アクティビティトラッカーが我々の身体データを集めるように、IoTデバイスはその場所や特定の事象のデータを蓄積している。IoTデバイスは、そうした現実世界の事象をデータ化する役割を持つ。データ化されれば、今までサーバの中で動いていたボットが現実世界の事象を扱えるようになる。

IoTデバイスも汎用化が進んでいる。例えばRaspberry Pi財団は、Raspberry Pi ZEROという5ドルの基盤型コンピュータをリリースした。これとなんらかのセンサを組み合わせれば、自宅でなんらかのデータを取り続けるセンサを1,000円以下で作っておくことができるようになる。これによって、ボットのための栄養分であるデータはさらに多く作り出され、我々はより多く、即座に世の中のことを知ることになるだろう。

ライブ

2016年のモバイルのトレンドとして注目していたのは、ライブ放送だ。これまでもPeriscopeやLiveStream、日本ではニコニコ生放送、Ustream、ツイキャスといったサービスが花開いてきたが、米国で動いたのはFacebookだった。2016年4月にFacebookは同社のSNS上でライブ配信を行うことができる仕組みを披露、発展させた。

また、Snapchatはストーリーという機能を備え、リアルタイム性の高い情報を世の中から切り取る仕組みを作り出した。Facebook傘下のInstagramは、Snapchatのストーリーとともに、Facebookのようなライブ配信を行う仕組みをアプリに入れた。

Twitterは、Periscopeを買収し、Twitterアプリ自体でライブ配信を可能にした。またアメリカンフットボールや大統領選挙など、米国で注目が集まるイベントについて、Twitterアプリ内でライブ配信を見ながらツイートができる仕組みを実現した。

2016年のソーシャルメディアでのトレンドは間違いなくライブであり、2017年はケーブルテレビ局などの大手メディアがさらに力を入れてくる分野になると考えている。

その際に期待されることは2つだ。

1つ目は、コンテンツの制作方法だ。YouTubeでのコンテンツ作りや人気チャンネル作りのテクニックは収斂しつつあるが、ライブのコンテンツ作りのノウハウが蓄積していくのはこれからだ。Vidpressoなどの企業は、ライブコンテンツをビジネス化したり、より多くのコミュニケーションを作り出すためのツールを提供し成長している。

2つ目は、ライブと他の技術との融合だ。例えばライブ放送とVRが紐付けば、多くの人がその場所に行ったかのような疑似体験ができるようになる。またライブとアシスタントの組み合わせは、映像や音声から自動的に周辺情報を提示してくれるコンテンツを作り出せるかもしれない。

セキュリティとパーソナリティ

2016年12月から、米国にビザなし渡航する際に取得するESTAに、ソーシャルメディアのアカウントを登録する欄が追加されている。もちろん現在はオプション扱いであるが、将来的には必須になる可能性もある。

国家安全保障上の措置であることは理解できるし、例えばテロリストがすんなりとこの情報を登録することはないだろうということも想像に難くない。しかしSNS情報の提出が、より安全な人物であると証明する情報の提供、つまりホワイトリスト入りのための条件になるとすれば、それはプライバシーや人権の問題として見過ごすことができない。

前述のようにSNSには、友人とのつながりや体験したこと以外にも、様々なデータが紐付けられていくことになる。同時に、どんなデータが蓄積されているのか、我々で管理することが難しくなってきている。

データの流失のリスクとともに、SNSに記録されたデータが、本人とは異なるパーソナリティを発揮することも考えられる。前述の例であれば、ちょっとおふざけで撮影したハロウィンのコスチュームの写真が、「なんらかの軍事訓練の風景」と機械的に判断されれば、事実とは異なるフラグが立ち、入国の障害になることも考えられるからだ。

これは現在見えていないが、突発的に発生する可能性があるリスクであり、2017年にこうした問題に関する議論と、その解決策に向けた動きがどのように進展するか、注視していく必要がある。

複数技術の組み合わせによる「体験」が加速する年に

人工知能や機械学習といわれても、何が起きるか、すぐに想像できる人は少ない。確かにこれまでもこれからも注目されていく技術であるが、「何に使うか」「どんな問題を解決するか」が重要であり、その技術だけがあっても何も起きないのだ。目的と、それを達成するためのデータが必要になる。

同じように、ARやVR、ロボット、IoT、センサなど、ここで挙げる様々な要素技術は、それだけあっても多くの人が何かに気づくことは難しいのだ。ただ、これらの技術を組み合わせて「体験」を作り上げることで、人々を惹きつけ、また新しい時代を感じさせることに成功する。

例えばPokemonGOは、スマホのカメラのプレビュー画面にポケモンが登場することで、実際の街を歩きながらそこポケモンがいるかのようなワクワク感を作り出した。キャラクターとゲームのルール、そしてARという表現の組み合わせによって作り出された世界観だ。

前述のSpireは、呼吸データから割り出した集中やリラックス、ストレスといった状態と、その人がいた場所(位置情報)、見たもの(写真)、会った人(スケジュール)と組み合わせて、どこが仕事に集中できるか、何を見たらリラックスできるか、誰に会ったらストレスを感じるか、といった傾向を教えてくれる。これも、呼吸データの解析とその他の情報との組み合わせによって知ることができる新しい事実だ。

また、Amazon GOは、機械学習、マシンビジョン、センサネットワークを生かして、顧客がカバンに商品を入れて店を出るだけで決済が済む店舗の仕組みを実現した。米国での生活において、スーパーのレジ待ちはいやな時間として筆者も日々経験している。それをなくしてくれるという「体験」によって、こうした技術が何の役に立つのかを知ることができる。

トレンドとなっているが、どんな役に立つのか分からない技術は、実際、体験して初めて、その技術の有用性に気づくことができるのだ。

2017年は、技術の成熟によって、こうした技術の「体験化」が加速していく1年になると予測している。2016年よりも、技術に驚かされ、その意義を実感できる瞬間が増えていくことに期待している。

「クラロワリーグ」プレイオフの波乱、大会システムもeスポーツ発展の課題か

「クラロワリーグ」プレイオフの波乱、大会システムもeスポーツ発展の課題か

2018.11.20

「クラロワリーグ アジア」のプレイオフが開催

世界一決定戦への出場権を手にしたのはどのチームか?

盛り上がりを見せる一方で、大会システムには疑問も

11月11日にお台場フジテレビの湾岸スタジオにて、「クラロワリーグ世界一決定戦」への出場権をかけた「クラロワリーグ アジア」のプレイオフが開催された。

波乱の展開を見せたプレイオフ

プレイオフには、「クラロワリーグ アジア」の地域で分けた3グループ(日本、韓国、東南アジア)のなかで、もっとも成績が優秀だった各1チームと、それぞれの地域で2番目に成績の良かった3チームがワイルドカードを争い、そこで勝ち抜けた1チームの合計4チームが出場する。

今回、日本からはPONOS Sports、韓国からはKING-ZONE DragonX、東南アジアからはBren Esports Sが1位通過し、ワイルドカード争いによって韓国のSANDBOXが出場した。

プレイオフ初戦の組み合わせは、抽選によって決められた。その結果、KING-ZONE DragonXとSANDBOXによる韓国勢が対戦し、PONOS SportsとBren Esportsが対戦。韓国対決を制したKING-ZONE DragonXと、日本のPONOS Sportsを破ったBren Esportsが決勝へコマを進めた。

日本代表のPONOS Sportsは、初戦2試合目の3ゲーム目に痛恨の反則負け。まさかのストレート負けを喫してしまう。クラロワリーグ世界一決定戦2018は、日本の幕張メッセで行われるので、開催国枠として、PONOS Sportsの出場は確定していたが、「プレイオフ初戦敗退」という結果で出場することは予想していなかった。

決勝では、KING-ZONE DragonXがBren Esportsを下し、見事、世界一決定戦への切符を獲得した。

プレイオフを制したKING-ZONE DragonX
開催国枠で世界一決定戦へ出場するPONOS Sports

疑問が残ったプレイオフのシステム

下馬評では圧倒的にPONOS Sports有利であったにも関わらず、こういった結果になるのはワンデイトーナメントならでは。ただ、そもそもプレイオフの出場に関するシステムには、疑問が残る結果だったと言えるのではないだろうか。

なぜなら、クラロワリーグ アジアのリーグ戦で、PONOS Sportsは11勝3敗という文句なしの成績で1位を獲得しており、東南アジアのBren Esportsも10勝4敗という好成績を残している。韓国1位のKING-ZONE DragonXは7勝7敗と5割の勝率だった。

東南アジア1位通過のBren Esports

日本、韓国、東南アジアで順位を分けているが、クラロワリーグ アジアでは、すべてのチームと総当たりで対戦し、同じ国や地域のチームのみ2回対戦する仕組みになっている。したがって、別の国や地域との対戦により、勝ち越すことなく1位になってしまうこともあり得るわけだ。

今回のクラロワリーグ アジアにおいて、韓国チームはいずれも振るわず、2位以下はすべて負け越している。ワイルドカード枠を獲得したSANDBOXは5勝9敗。この成績は日本で最下位だったDetonatioN Gamingや、東南アジアで最下位だったKIXと同じだ。クラロワリーグ アジア全体の順位で見てみるとPONOS Sportsが1位、Bren Esports 2位、KING-ZONE DragonXが6位タイ、SANDBOXが8位タイである。

東南アジア3位のAHQ ESPORTS CLUBは8勝6敗と、KING-ZONE DragonXよりも好成績を残している

やはり勝率5割で、リーグ戦順位が6位のチームがクラロワリーグ アジア代表として、世界一決定戦へ出場することに対して、違和感を覚えてしまうのは仕方ないだろう。

プロ野球のクライマックスシリーズでも、3位のチームが日本シリーズに出場することについては賛否両論があり、長年話し合われてきた事案だ。その結果、上位チームにアドバンテージをつけることで、とりあえずの折り合いが付けられている。

今回のプレイオフでは、上位チームにアドバンテージがなく、一発勝負だったのも、それまで戦ってきた3カ月間が水泡に帰するような印象を受ける。場合によってはSANDBOXが優勝することもあり、その場合は大幅に負け越したチームがアジア代表チームとなってしまうわけだ。

また、トーナメントの組み合わせは抽選により決定したのだが、こういったトーナメントの場合、初戦は1位通過のPONOS SportsとワイルドカードのSANDBOX、2位通過のBren Esportsと6位タイ通過のKING-ZONE DragonXの組み合わせになるのが一般的ではないだろうか。今回の組み合わせだと、初戦に事実上の決勝戦と言えるカードが発生してしまい、強豪がつぶし合うという結果にもなっている。4チームのトーナメントなので、今回はシードという概念はないのだが、強豪が初戦に当たらないように、シードによるブロック分けをするのは多くのスポーツや競技で使われている常套手段だ。

クラロワリーグは、アジア以外に、北米、欧州、ラテンアメリカ、中国の4つの地域でリーグが開催されている。すでに地域分けされているなか、クラロワリーグ アジア内で、さらに3つの地域に分ける必要はあったのだろうか。今回の結果はそこにも疑問が大きく残った。

リーグ戦での結果のみで出場権を与えるだけでも十分だという考えもある。ただ、プロ野球のクライマックスシリーズがそうであるように、プレイオフを実施することは、リーグ終盤の試合が消化試合にならなくなる施策でもあり、最後に盛り上がる山場を作れるという利点もあるのだ。したがって、プレイオフ自体を廃止する必要はないのだろうが、その出場資格においては、一考の余地があると思われる。

順当に考えれば、国や地域は関係なく、クラロワリーグ アジアのトータル順位1~3位がプレイオフ出場確定で、ワイルドカードをプレイオフ出場権のあるチームを除いた国や地域の最上位3チームによる争奪戦にすれば納得いくのではないだろうか。今回に限ってはPONOS Sportsが開催国枠で出場できることが確定していたので騒動にはならなかったが、他の国で開催され、アジアリーグで1位を取った日本のチームが出場権を獲得できなかったとなれば、騒ぎになってしまう可能性もあるだろう。

クラロワリーグは今年から始まったばかりで、まだいろいろな点で整っていないというのは十分わかる。ただ、今回のプレイオフの件は、システムを見直す良い機会となったのではないだろうか。次への糧とし、ファンにも選手にも納得のいくシステムの改善を期待したい。

明朝体でもゴシック体でもない書体

1969年(昭和44)、写研から「タイポス」という書体の文字盤が発売された。ひらがな、カタカナ、記号で構成された「かな書体」。桑山弥三郎氏、伊藤勝一氏、長田克巳氏、林隆男氏の4人による「グループ・タイポ」(*1)がデザインした書体である。

グループタイポ編『typo1〈普及版〉』表紙(グループタイポ/初版は1968年7月、普及版は1970年2月)

橋本さんは振り返る。

「写植が普及し、広告やポスターなどさまざまな媒体に使われるようになった昭和30~40年代、本文用の明朝体やゴシック体とは違う、新しい書体が求められるようになりました。そんななか、初めて登場した『新書体』がタイポスでした。発売されるや、爆発的に売れました」

タイポスは、時代にいくつもの新しい風を吹きこんだ書体だった。

まず1つ目に、そのデザインの新しさだ。タイポスは、明朝体とゴシック体のどちらでもない、その中間を目指してつくられた「ニュースタイル」の書体だった。(*2)

誕生のきっかけは1959年(昭和34)、武蔵野美術学校(現・武蔵野美術大学)の3年生だった桑山弥三郎氏と伊藤勝一氏が、卒業制作でタイプフェイスデザインをやりたいと考えたことだった。

「美しい書体は読みやすさを生み出すと考え、かな特有の毛筆の流れをできるかぎり排除して、幾何学化、モダン化を図ろうとした」と、かつて桑山氏は語っている(*3)。

文字の骨格そのものを改革し、ふところを大きくして、明るい字面をつくった。かな特有の文字の曲線はできる限り水平垂直に近づけ、視線がスムーズに移動できるようにデザインされている。卒業制作としての発表はかなわなかったものの、桑山・伊藤両氏は卒業後さらに研究を続け、長田氏、林氏を加えてグループ・タイポを結成。1962年(昭和37)、第12回日宣美展に「日本字デザインの提案」として入選を果たしたのが、「タイポス」の誕生へとつながった。

「いままでの活字にはなかった書体をつくるということが、『タイポス』のデザインの前提にあったのだと思います。当初からファミリー展開することを考えて設計されたアドリアン・フルティガー氏による欧文書体Universのように、しっかりとした設計思想のもとでつくられていました」

数字で表す書体

1969年(昭和44)に写研から発売された「タイポス」は35、37、45、411の4種類だ。

「それまでウエイトを表していたL(細)やM(中)、B(太)のような概念的な言い方ではなく、タイポスは数字で表す書体でした。感覚的に書かれた文字ではなく、もっとデジタルっぽくつくられた書体なんです」

上から、タイポス35、タイポス37、タイポス45、タイポス411

タイポスの書体名についている数字は、横線と縦線の太さを表している。文字を入れる枠を100目のマスと考えたときに、「35」であれば横線3の縦線5、「37」なら横線3で縦線7、「45」は横線4で縦線5、そして「411」は横線4で縦線11というように、線の太さを表しているのだ。

アドリアン・フルティガー氏が欧文書体Universで「ファミリー」という考え方を書体デザインに打ち出したことに影響を受けながら、タイポスはそのさらに先を行くファミリー展開を考えた。

「ゴシックのように線幅が均一ではなく、明朝体のように横線が細くて縦線が太い。けれども、明朝体のようなウロコや打ち込みはない。むしろグループ・タイポは、明朝体やゴシック体のような既存の書体の枠を打ち破り、『タイポス』という提案そのものを認識させるための書体をつくったといえるのではないでしょうか。ニュースタイルのデザインで、既存の石井明朝体の漢字などと組み合わせると、おおきく印象が変わり、モダンな表情の組版になった。『タイポス』の登場以降、ニュースタイルの書体が次々と登場していきました。時代が変わるきっかけをつくった書体といっていいと思います」

写研の発行した書籍『文字に生きる』では「タイポス」の特徴を次のようにまとめている。

〈一、    従来の漢字とかなの大きさと比較して、かなが大きく、このため字間が均等となり、上下、左右のラインがそろって、きれいに見える。
〈二、    曲線をできるだけ垂直、水平な線に近づけた。このため、視線の移動がスムーズになる。
〈三、    毛筆のなごりである不必要なハネを取り除いた。このため、すなおな書体となった
〈四、    濁点の位置を一定にし、垂直にした。このため縦、横のラインを強めるのに役立っている。〉

文字を12のエレメント(=要素/てん、よこせん、たてせん、むすび、さげ、わ、まわり、あげ、はね、かえり、かぎ、まる)に分け、そのエレメントによる文字構成を示したのも新しい手法だった。

デザイナーが書体をデザインする時代へ

タイポスが吹きこんだ新しい風の2つ目は、「デザイナーがデザインした書体」であるということだ。タイポスの登場前、日本では、書体といえば活字書体で、「職人がつくるもの」だった。それが、デザイナーが設計したタイポスが登場し、注目を集めたことで、「日本語でも、新しい書体をデザインできるのだ」という意識を、デザイナーに芽生えさせることになった。

そして3つ目に、かな書体だったということ。(*4) 日本語で新しい書体をつくる場合、漢字まで含めると、少なくとも約3000字は必要とされた。金属活字でこれをつくる場合は、使用サイズすべての母型が必要だったため、つくらなくてはならない文字数はその数倍にふくれあがった。

写植機のレンズを通して文字を拡大縮小できる写植では、金属活字に比べれば新書体がつくりやすい状況ではあったが、それでも数千字である。けれども、両がなと記号だけであれば約150字程度で済む。しかも日本語では、文章の6割前後をかなが占めるため、ひらがなとカタカナのデザインが変わるだけで、紙面の印象を大きく変えることができた。

1972年(昭和47)には、石井ゴシックと組み合わせて使うことを想定した「タイポス」44、66、88、1212が発売された。社外のデザイナーがデザインした書体を写研が文字盤化し、写植書体として販売するという流れを最初に実現したのが「タイポス」だった。(つづく)

(注)
*1:グループ・タイポ:1959年(昭和34)、武蔵野美術学校の同級生だった桑山弥三郎氏(1938-2017)、伊藤勝一氏(1937-)、林隆男氏(1937-1994)、長田克巳氏(1937-)で結成。学生時代から開発していた「タイポス」が1969年(昭和44)写植文字盤として発売され、一世を風靡。1974年(昭和49)、有限会社に改組。2007年、桑山氏・伊藤氏のディレクションによって、タイポス漢字書体の原字をタイプバンクがデジタルデータ化。2008年、タイプバンクより「漢字タイポス」OpenTypeフォントが発売された。

*2:タイポスは、明朝体でもゴシック体でもないあるカテゴリーをつくった。カテゴリー名について、小塚昌彦氏はかつてこんなエピソードを書いている。
〈「タイポス」はタテとヨコの線幅(太さ)比を変えることによって、明朝風にもゴシック風にも展開できるが、もっぱらヨコが細くタテが太いものが多く使われていた。他にも同様なコンセプトの書体もかなり発表されたこともあり、在来のタイプフェイスのどこにも属さない、あるカテゴリーを作ったといえるのである。タイポグラフィ研究科、故佐藤敬之輔氏から「コントラスト体」ではどうかと提案があったこともあるが、未だ名案がないままになっている〉
(小塚昌彦「東西活字講座4 新しい時代へ」『たて組ヨコ組』No.23(モリサワ、1989) P.20

*3:筆者による桑山氏への聞き取りから(2008年9月5日)

*4: 2008年、タイプバンクより漢字も含む「漢字タイポス」OpenTypeフォントが発売された。

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。