真の狙いはゲーム以外に? スマホメーカーはVRで何を目指すのか

真の狙いはゲーム以外に? スマホメーカーはVRで何を目指すのか

2016.03.11

スマートフォンでVR(仮想現実)を提供しようという動きが急加速している。VRの市場自体がまだ立ち上がっていない段階にありながら、スマートフォンメーカーは何を見据えてVRに力を入れ始めているのだろうか。

モバイルのイベントでVRが注目を集める

2月22日より、スペイン・バルセロナで開催されていた、携帯電話・モバイルに関する世界的な見本市イベント「Mobile World Congress」(MWC)。そのMWCにおいて、今年最も話題になったテーマを1つ挙げるならば、それは「VR」ということになるだろう。

先にも触れた通り、MWCはあくまでモバイルに関するイベントだ。にもかかわらず今年のMWCにおいては、スマートフォンメーカーを中心として、VRに関する新製品や発表が相次いだのだ。中でも、そのことを象徴しているのがサムスン電子。同社は今回のMWCに合わせて、新しいスマートフォン「Galaxy S7/S7 edge」を発表したのだが、その発表会イベントでの主役は、スマートフォンの新機種よりもVRがメイン、という印象であった。

MWC前日に実施された、サムスンの「Galaxy S7/S7 edge」発表イベントでは、VRが大きなテーマとして打ち出されていた

というのも、発表会会場にはサムスンが発売しているVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)の「Gear VR」が全席に設置。発表会のイベント中には随所でヘッドマウントディスプレイを用いたデモが実施されたほか、会場にはフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏がサプライズゲストとして登場。VRに向けた取り組みや可能性について語るなど、VR一色というべき内容となっていたのである。

サムスンの新機種発表会に、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏がサプライズゲストとして登場。VRの可能性などについて話をしていた

VRに関する発表をしたのはサムスンだけではない。LGエレクトロニクスも、同社の新機種「G5」の発表に合わせて、G5に接続して利用できるVR HMD「LG 360 VR」を発表。Gear VRのようにスマートフォンをHMDに装着するのではなく、ケーブルでスマートフォンとHMDを接続して利用するなど、VRを手軽に体験できる点に力が入れられている。

LGエレクトロニクスのVR HMD「LG 360 VR」。スマートフォン新機種「G5」に接続し、手軽にVR体験ができるのが特長となっている

また、「ALCATEL ONETOUCH」ブランド(今後「alcatel」にブランド変更予定)で日本に進出しているTCLコミュニケーションも、新機種「IDOL 4S」のパッケージがVRゴーグルとして利用できる仕組みを用意。スマートフォンを用いて簡易的なVRを実現する、グーグルの「Cardboard」プラットフォームを活用しており、Cardboardのコンテンツが利用できるのが特長となっている。

MWCではこの他にも、いくつかのスマートフォンメーカーが、HMDを用いたVRに関する発表や展示を実施していた。モバイルに関するイベントで、まだ市場自体が立ち上がったとは言い難く、しかもどちらかといえばモバイルとは縁が薄いように思えるVRが、これだけ大きなテーマとなったことには驚きがある。

スマートフォンのVRは良質な体験を提供できない?

HMDを用いた没入感のあるVRは、元々ゲームの分野で大きな注目を集めているものだ。フェイスブック傘下となったOculus VR社の「Oculus Rift」や、ソニー・コンピュータエンタテインメントの「PlayStation VR」、そしてHTCの「HTC VIVE」などが、ゲームの分野で高い注目を集めているVR HMDの代表的存在といえるだろう。

これらのVR HMDが注力しているポイントは、高精細なCGを用いた臨場感のあるVR体験を、快適な形で提供することである。というのも、VR HMDは視界をディスプレイが完全に覆い、そこに映し出された世界がユーザーの視界のすべてとなる。それだけに、非常にリアルなVR体験を提供できるメリットがあるのは確かだが、一方でいくつかの問題も抱えることとなるのだ。

代表的な問題として挙げられるのが"VR酔い"と呼ばれるもの。VR HMDは実際の動きと、ディスプレイに映し出される映像の動きにずれがあると、脳が違和感を引き起こして乗り物酔いのような症状を起こしやすいのである。そうしたことから快適なVR体験を与えるには、VR HMDの動きを正確に、かつ細かく検出するセンサー技術と、それに合わせてグラフィックを素早く描画する性能が求められることから、高いハード性能が求められるわけだ。

HTCの「HTC VIVE」を体験しているところ。位置や傾きを細かく計測できる仕組みを備え、酔いを防止し滑らかな動きを実現するが、その分求められるハード性能も高い

だが、高いハード性能が必要なぶん、高額になりがちでありユーザー体験の幅が狭いのが、現在のVRの弱みにもなっている。実際、一般発売が決まっているOculus Riftは599ドル、日本では送料込みで94,600円となっているほか、HTC VIVEも799ドル、日本では112,000円と決して安いとはいえない額だ。

しかも、これらのVR HMDはパソコンに接続して初めて利用できる上、そのパソコンにも高い処理能力が求められるため、さらなる高額な投資が求められる。個人が容易に手を出せるものではないことが、理解できるのではないだろうか。

Oculus VRの「Oculus Rift」。Xbox Oneのコントローラーとリモコン「Oculus Remote」が付属し、599ドルという価格で販売されている

裏を返せば、そうした高い性能がなければ、仮想空間を用いた快適なVR体験を提供することはできないし、スマートフォンを用いたVR環境が、そこまでの性能を実現できているわけではない。実際、MWC会場でいくつかのHMDを用いてVRデモを試してみたが、性能やコンテンツ共に、Oculus RiftやHTC VIVEのVR体験とは大きく異なるものだと感じた。

良質なVR体験を提供するには高性能なハードが必要だが、現状のスマートフォンではそれが難しい。なのであれば、スマートフォンメーカー各社は性能の劣るVR環境で、一体何を提供しようとしているのだろうか。

360度カメラと動画が普及の鍵を握るか

そのヒントとなるのが、先のサムスンの新製品発表イベントに、ザッカーバーグ氏が登壇したことにあるといえよう。ザッカーバーグ氏はその檀上で、「VRは次のプラットフォームになる」と話し、フェイスブックでは今後、ソーシャルVRアプリに力を入れていくことを打ち出している。

ザッカーバーグ氏はサムスンの発表イベントで、VRが次のプラットフォームになると話している

そもそもフェイスブックがOculus VRを買収して傘下に収めたのは、スマートフォンの次となる新しいプラットフォームをVRに見出したためとも言われている。フェイスブックはVR HMDを、ゲームなどのコンテンツを楽しむプラットフォームとしてだけでなく、新しいコミュニケーション体験を実現するプラットフォームと捉え、システムやデバイスの開発に投資を進めているわけだ。

またOculus VRは、自社でHMDを手掛けるだけでなく、サムスンと共同で、スマートフォンを用いたVR HMDのGear VRも開発している。このことからは、仮想空間での良質なVR体験を提供するだけでなく、普及しているスマートフォンを活用することで、より幅広い層に対してVR体験を提供することを狙っていると見ることができる。

そして、現状のスマートフォンを活用したVRを広める鍵として、サムスンやフェイスブック、そして他の多くのメーカーが期待しているのが"動画"ではないかと考えられる。実際、サムスンやLGは今回、HMDだけでなく360度撮影可能なカメラも発表しており、カメラとスマートフォン、そしてVR HMDを用いたVR体験の提供に力を入れようとしている。またFacebookも、昨年9月より360度動画の投稿を可能にするなど、VRで動画を楽しめる仕組みの構築に力を入れている。

サムスンはスマートフォンと連携できる360度カメラ「Gear 360」を発表。Gear VRとの組み合わせでVRをより楽しみやすい仕組みを整えようとしている

ゲームなどのインタラクティブなコンテンツを動作させるには確かに高いハード性能が必要だが、360度カメラで撮影した動画の再生であれば、そこまでの性能は必要ない。それでいて、360度カメラによる映像をVRで再生すれば、あたかもその場にいるかのような臨場感ある体験を手軽に得ることができ、距離や時間を超えた共通体験の実現に一歩近づくこととなる。そうした360度動画がSNSに広まってくれば、VR HMDがコミュニケーションツールの1つとして認識され、広まっていくと考えられよう。

もしVRがゲームの範囲内でとどまってしまえば、その広がりは限定的なものとなってしまう。スマートフォンという誰でも持っているデバイスで、しかも日常的なコミュニケーション用途を主体としてVRが利用されるようになれば、その広がりは非常に大きなものとなり、可能性も大きく広がることになるだろう。VRの可能性を広げる上でも、スマートフォンを用いたVRがユーザーにどのような体験を与え、それが受け入れられるかどうかが大いに注目されるところではないだろうか。

ZTEの新製品発表会プレゼンテーションより。スマートフォンによるVRは、入院中の子供がCardboardで世界中の風景を体験できる可能性も示しているという
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2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
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