2017年、ウェアラブルに熱狂は戻ってくるか

2017年、ウェアラブルに熱狂は戻ってくるか

2017.01.14

スマートフォンは我々のポケットやカバンの中に入っている、1人1台のデバイスだった。スマートフォンと組み合わせ、身につけて利用するのがウェアラブルデバイスと呼ばれる分野だ。

ウェアラブルデバイス市場は2016年、拡大を続けた。IDCによると、直近の2016年第3四半期、ウェアラブルデバイスの出荷台数は3.1%増加し、2300万台だった

このカテゴリをリードしているのは、運動や活動量などを計測するフィットネスバンドと言われる製品で、その筆頭はフィットビットだ。デバイスの出荷台数で2位につけているのはアップルだが、こちらはより単価や付加価値、汎用性が高いスマートウォッチを販売している。2016年のウェアラブル市場は、フィットネスバンドの躍進と、スマートウォッチの停滞、という様相を見せた。

ウェアラブル市場をリードするフィットネスバンド。写真はFitbit Alta

停滞したスマートウォッチ

Apple Watchは2016年第3四半期、110万台を出荷しているが、前年同期比71.6%減の急ブレーキとなった。新モデルが発表されて、ほぼ1カ月間買い控えが起きたこともあるが、スマートウォッチ市場全体を見ても、51.6%減と振るわなかった。

2015年に登場した新しいカテゴリであり、スマートフォンのような買い換えサイクルなどが不透明なこともあるが、いくつかの問題を含んでいるとみている。

スマートウォッチの草分け的な存在で、クラウドファンディングでの熱狂的な支持によって製品化が行われてきたぺブルは、2016年11月末で、ウェアラブル最大手のフィットビットに事業の大半を売却してしまった。

3,400万ドルから4,000万ドルと見られる買収金額は、ぺブルの負債を埋める程度の金額と言われており2018年までの製品の継続を持って、その歴史を閉じることになりそうだ。フィットビットも高付加価値のスマートウォッチへの移行を目論んでおり、ぺブルのノウハウは生かされるだろう。

しかし、フィットネス機能に力点を置いて成功している現在のフィットビットと、より汎用的な可能性を夢見たぺブルでは文化の違いが大きいように感じられる。ただ、アップルですら、手首のコンピュータとしてのスマートウォッチを思うように販売できていない現状を考えると、より体力のないスタートアップには厳しい環境となってしまった。

キラーアプリの発見が課題

2016年9月に登場したApple Watch Series 2は、デザインは同じだったが、より高速に動作するプロセッサにGPS、防水機能を備え、ナイキとのコラボレーションも実現した。

どれも、運動計測としての性能を強化し、フィットネスバンドに追いつこうとしている。しかし、価格、バッテリー持続時間、それに起因する睡眠計測への対応の難しさなど、埋められない溝が存在する。

ウェアラブルは引き続き、フィットネスバンドが市場を牽引していくことになるが、その理由は、デバイスを購入し身につける動機がより明確であることだ。健康的に生活しようとすることは、現代の人類にとって共通のテーマで、否定することは難しい。

逆にスマートウォッチには、フィットネス以上の強い動機が存在するかといわれると、現状は「ない」といえる。Apple Watchですら、登場後20カ月たってもまだ難しいのだ。ただ、筆者は明るい兆しを10月25日からの1カ月間につかむことができた。それは決済機能だ。

Apple Watch Series 2の日本向けモデルにはFelicaが内蔵されており、10月25日からスタートしたApple Payを設定することで、Suicaを利用できるようになる。東京で1カ月過ごす中で、Apple WatchとSuicaの組み合わせではじめて、「フィットネス以外のキラーアプリを見つけた」という感想を持った。改札、コンビニ、タクシー、コインロッカーなど、あらゆるところで手首をかざすだけでよい快適さは、Apple Watchを東京で身につける強い動機になると感じた。

Apple Watch Series 2で改札の通貨や支払いが快適に

しかし、筆者が住んでいるサンフランシスコに戻ってくると、再びフィットネス機能中心の活用になってしまった。つまり、スマートウォッチにとって決済機能はキラーだが、それがキラーアプリとしての役割を果たすには、街のインフラの普及が必要である、ということだ。

サンフランシスコですら、Apple Payで鉄道に乗ることはできないし、そもそも買い物をするにも、身近なスーパーやカフェでのApple Pay利用はまだできないからだ。

スマホからの独り立ちはあり得るか

フィットネスバンドやスマートウォッチは、基本的に、スマートフォンのアプリと同期してデータを保存し、通信回線につながる仕組みを取っている。ウェアラブルデバイスがスマートフォンと組み合わせることを前提に成立している、スマホのコンパニオンデバイスと言われる理由だ。

2017年は、特にスマートウォッチについて、スマートフォンから切り離して機能し始めることへの期待も考えられる。

グーグルが開発するAndroid Wear 2.0では、LTE回線に対応するスマートウォッチの例が示されており、VoLTEによる音声通話の着信や、フィットネス中スマートフォンを持ち出さなくても音楽ストリーミングサービスを利用でき、またフィットネスデータをクラウドに直接アップロードすることもできる。

Google I/Oの場で受けた説明によると、スマートフォンのSIMカードと同じ電話番号の回線をスマートウォッチにも割り当てることで、手元にスマホがない場合はスマートウォッチに着信するような仕組みをとるという。

現在は親子関係となっているスマホとスマートウォッチだが、今後単体でインターネットや電話回線につながるモデルが増えてくると、より並列的な関係性になっていくことが期待される。しかしそれが、前述の「キラーアプリ」かと言われると、そうではない。

腕の次は耳?目?

これまで体や腕に身につけるタイプのウェアラブルデバイスが普及してきたが、今後はもっと異なる体の場所に、異なる目的で装着するデバイスも増えてくるだろう。

例えばアップルがリリースしたAirPodsは、左右それぞれの耳に独立して装着するヘッドフォンだが、イヤーピースを2回ノックするとSiriが立ち上がり、音声アシスタントを利用する事ができる。タイマーをセットしたり、天気を聞いたり、メッセージを送ったりでき、広い意味でのウェアラブルデバイスとして位置づけることができるだろう。

アップルが今冬にリリースしたワイヤレスイヤホンのAirPods

またスナップは、Snapchatのストーリー機能に直接アップロードできるカメラつきメガネ、Spectaclesを発売し好調だ。

メガネ型デバイスと言えばGoogle Glassの失敗が未だに印象深いが、メガネ型デバイスの可能性は広がっている。日本のメガネブランドJINSは「JINS MEME」といわれるメガネ型ウェアラブルデバイスをリリースしている。

JINS MEMEの見かけは普通のメガネだが様々なセンサを搭載。姿勢の矯正に役立てたり眠気などをセンサを通じて計測できたりする

メガネに内蔵されたモーションセンサやジャイロによって、今までのフィットネスバンドで取得できなかったまぶたや眼球の動き、頭の動きが取得でき、姿勢の矯正や、ストレスや眠気と行った脳の計測を行うことができるようになった。

その他にも、呼吸の計測によってマインドフルネスの分野に踏み込んだスパイアなど、新しいデータを取得し、トレーニング機能などを提供するデバイスは今後も増えていくだろう。

また音声アシスタントはアマゾン、グーグル、アップルともに取り組んでおり、これらと直接的、間接的に連携して賢さを実感できるデバイスの登場にも期待していきたい。

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

カレー沢薫の時流漂流 第15回

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

2018.11.12

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「プリンセス駅伝の四つん這い走行」問題について

今年は「パワハラ」「黒い交際」「殺人タックル」など、スポーツ界が荒れに荒れた。

スポーツにつきまとう「感動」という尺度

というよりは、今までずっと「わかり哲也」の背景ぐらい荒れ続けていたが、関係者専用のプライベートビーチだったため、一般人の目につかなかっただけのような気もする。

その一方、ワールドカップでは予選を批判した奴は全員死んだのかというぐらい本戦の健闘が称えられたり、夏の甲子園では金足農が秋田県勢として103年ぶりに決勝に進出し大きな注目を集めたりと、感動的なこともあった。

しかし、結果だけを言えば、ワールドカップは1回戦敗退だ。金足農も決勝で敗れ準優勝。逆に優勝したのに金足農の陰に隠れた大阪桐蔭が可哀想なぐらいだ。

つまり、見る側はスポーツに対し、時に結果よりも「感動」を求めがちということだ。金足農が仮に優勝していたとしても、その勝利が「地獄甲子園」式で得た物なら讃えられなかっただろう。

スポーツに感動を求めるのは悪いことではない。私のような、床を這っているコードでこけるような先のない中年は、もはや他人の活躍に乗っかって泣いたり笑ったりするしかないのだ。

だが、「感動した! 痛みに耐えてよく頑張った! 」という言葉があるように、スポーツの感動には「選手が無理をする姿」も含まれていることは否定できない。その無理が「43度の風呂」レベルならまだ良いが、選手生命、さらには最悪命を脅かしかねない時もある。

インターネット大相撲では済まない「プリンセス駅伝」問題

そんな、文字通り「選手が痛みに耐えて頑張った」事件が、先日行われた「プリンセス駅伝」で起こった。女子駅伝だからプリンセス駅伝なのだろうが、私が走者だったら相当居心地の悪いネーミングだ。

その駅伝の中で、10代の走者が中継所の直前で走行不能となったが、何と四つん這いの状態で流血しながらタスキをつないだという。四つん這いで移動した距離は約200メートル。私だったら小一時間かかる、結構な距離だ。その選手がリードの外れた柴犬ぐらいのスピードで四つん這い走行した、というなら制止する間もなくタスキは渡されていたかもしれないが、満身創痍の状態なら相当時間がかかっただろう。

当然、その姿には「誰か止めろよ」と批判が噴出した。しかし、批判がある一方で「感動した!」と、流血四つん這いで走る女子の姿にバッチリ感動した勢がいるのも事実だ。それに対し「怪我しながら走る選手を美談にする勢を許さない勢」が現れ、いつものインターネット大相撲に発展しているのはよくあることなのだが、これはかなり複雑な問題なのである。

監督が倒れた選手に「お前棄権したらわかっとるやろな? 」とアイコンタクトをしたり、観客が「俺たちを感動させるために走れや」と選手を後ろからジープで追い立てたりしたと言うなら論外だが、監督はテレビモニターで「二足歩行が厳しい」という致命的な状態の選手を見て、ちゃんと棄権を申し入れている。

だが、その棄権が現場の審判に伝わった時には、すでにタスキ受け渡し地点の20メートル手前に来ていたそうだ。つまり、満身創痍の選手が四つん這いで180メートル移動してしまうまで棄権の申し入れが審判に伝わらなかった、ということだ。ここでまず連絡体制の不備が指摘されている。

そして、審判は棄権の申し入れを知った後も、「あとちょっとだし」と最後まで走らせてしまったと言う。痛みに耐えて頑張る選手、という「感動」に流され、無理をさせてしまった感は否めない。

そもそも棄権の申し入れがあるなしに拘わらず、現場判断で中止させるべきはなかったのか、という声もある。今、試しに家の中を四つん這いで走ってみたが、これで200メートルはなかなかキツイ。何より見た目が痛々しい。

私の場合、無職の中年が昼間に家の中を四つん這いで走っているというただの「イタい」状態だが、走れなくなった若い選手が流血しながら四つん這いで走る姿は、十分制止すべき痛々しさだろう。実際、棄権申し入れがなくても、現場判断で走れなくなった選手を止める権限が審判にはある。

それでも懸命に走る意志を見せる選手に心打たれて止められなかったのかというと、必ずしも感動だけが理由ではないようだ。企業にとって駅伝というのは非常に重要なものであり、それをチームではなく審判の判断で止めるというのは、審判員側と企業側に大きな禍根を残すことになりかねないのだという。よって審判側は「よほど勇気がないと止められない」そうだ。

また、選手にとっても企業の名前を背負っている上、「自分がコケたら皆コケる」という駅伝のルール上、選手には大きなプレッシャーがかかっている。つまり選手も現場も「止まるに止まれないし、止めるに止められない」状況になっていたのかもしれない。

そして結果から言うと、この選手は「全治3~4か月の骨折」となった。あの四つん這いでの200メートルがなかったら、もう少し怪我が軽くなった可能性は大いにある。

このように、無理は早めに止めないと、逆に有望な選手を潰すことになりかねない。

「無茶しやがって…」という展開は漫画などに任せ、ダメな時は「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と早々に打ち切り、次のチャンスに賭けるべきだろう。

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

2018.11.12

オリパラの裏側には、さまざまな最新技術が隠れている

パラアスリートを支える、ブリヂストンの「タイヤ技術」って?

義足用ソールの開発に挑む研究者らに話を聞いた

東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の開催まで2年を切った。自国開催ということもあり、現地で観戦しようと考えている人も多いだろう。そこで1つ提案したいのが、オリンピック・パラリンピックを「技術」の視点で見ることだ。

2018年の平昌オリンピック・パラリンピックでは世界初の5Gの実証実験サービスが行われ、開会式ではインテルがドローンによる光のパフォーマンスが行われた。このような派手なものに限らず、大会の裏にはいくつもの技術が隠れている。パラアスリートが用いる器具などがその典型的な例と言える。

そこで本稿では、「ワールドワイドパラリンピックパートナー」であるブリヂストンによる、自社技術の活用によってパラアスリートを支援する取り組み「パラアスリート技術支援プロジェクト」に注目。東京2020を支える技術の裏側に迫る。

タイヤ技術でパラアスリートを支えよ! 

パラアスリート技術支援プロジェクトは、同社のオリンピック・パラリンピックのパートナー契約締結を機に『タイヤやゴムの技術をアスリートのために活かせないか』という想いから発足したという。ではその技術で何を作っているのかというと、1つの例が義足用の「ソール」(地面に接する部分、靴底)だ。

今回話を聞いた、ブリヂストン 先端企画本部 先端技術推進部 先端技術企画推進第1ユニット 主任部員の小平美帆さん(左)とオリンピック・パラリンピックマーケティング推進部 アクティベーション推進ユニット 課長 鳥山聡子さん(右)

「当社では、パラトライアスロン選手の秦由加子さんの義足用ソールを開発しました。現在も定期的に本人と話し合いの場を設けながら、当社の技術でサポートできる部分はないか、ということを模索しています」(鳥山さん※以下、鳥山)

秦由加子 選手。1981年生まれ。千葉県出身。3歳から10歳まで水泳を習う。13歳で骨肉腫を発症し、右足の大腿部切断を余儀なくされたが、2007年に障がい者水泳チームで水泳を再開。2013年にパラトライアスロンに転向した。大腿部切断でパラトライアスロンを行っている唯一の日本人選手だ

なぜ同社がソール部分に注目するようになったかというと、「タイヤ技術との親和性の高さ」が理由だと小平さんは語る。

「もともと当社では、タイヤはもちろん、ゴルフシューズや農業機械用のゴムクローラなど、『地面と接する部分』の製品開発に強みを持っております。ソールも同じく、地面と接するモノ。そこで当社の持つ技術との親和性が高いと感じ、注目するようになりました」(小平さん※以下、小平)

さらに、ソールの素材はゴムと高分子の複合体であり、これは同社の製品でもよく使われる素材であった。タイヤ製品で培った技術を活用することで、選手をサポートできるのではないか? と考え、新ソールの開発を始めたというわけだ。

義足イメージ。ランニングシューズの底のように、特有なパターン(模様)の入っている部分が、ブリヂストンの開発したソール

「ランニングシューズを切って、義足に貼る」が当たり前?

そもそも、義足用のソール開発に力を入れている企業というのはグローバルで見ても少ない。義足を必要とする人は多くいる一方で、切断箇所や筋肉量の違いなど、個人個人によってのニーズが異なるために、高ロットでの生産ができず、なかなかビジネスとして成り立たないことが原因だという。では、秦選手の使用していたソールには具体的にどのような課題があったのか。

「これは秦さんに限らず、ほとんどのパラアスリートに当てはまることなのですが、それぞれが個人に最適化されたツールを使えていないという課題がありました。もともと、多くの種類が市場に出回っているわけではないので、パラアスリート向けの『高品質な製品』自体が少なく、モノによっては、開発されて数十年経っている”最新モデル”もあります」(鳥山)

驚くべきことに、世界大会で活躍する秦選手のような人であっても、ランニングシューズを買って、ソール部分を切り取り、義足に貼り付けて使っていたのだとか。そのように「売られているものを転用して使う」というパラアスリートは少なくないそうだ。

「当たり前ですが、ランニングシューズのソールは、義足を必要とする人向けに開発されたものではありません。地面と接触した際にかかる力は違うし、耐摩耗性が求められる箇所も異なります。秦さんは以前、雨の中でのレースで、『滑るのが怖くて、思い切って走ることができなかった』という経験をしたそうです。そうした意見を聞き、どんな状況であっても安心して走れるようなソールを開発したい、と考えるようになりました」(小平)

タイヤ開発のノウハウを詰め込んだソール開発

しかし、いくら「地面と接するモノ」だからといって、タイヤとソールで求められる技術が一緒だとは思えない。どのようにブリヂストンの持つノウハウをソール開発に適応させたのか。

「はじめはゼロからの挑戦でした。そもそも、『義足のソールに求められることって何? 』という疑問からのスタートなんです。勉強の日々でしたね。どうにか当社の技術を活用できないか、と考え、まずは走る際にかかる力を測るために、タイヤ開発に使用する測定器を使って圧力測定を行いました」(小平)

圧力測定時の様子。ランニング時、ソールへの力のかかり方がどう変化するかを調査した

ほかにも、使用した後の摩耗部分の分析などを行い、グリップ力を上げつつ摩耗を抑えられるソールはどのようなゴム材料・溝形状にすればよいかをひたすら考えたそう。

さまざまなデータから見えた課題に対して「どうブリヂストンの技術を適応させれば良いか」と考え、試行錯誤を重ねた後に、ようやくソールを開発。2017年4月、初めて秦選手に新ソールをつけた義足で走ってもらうことになった。

「私たちのソールで走ってみた秦さんには『全然違う! 』と、すぐに気に入っていただきました。その1カ月後には早速、新ソールで大会にも出場していただきました。その大会もあいにくの雨だったのですが、確実に滑りにくくなっているとのフィードバックをいただき、手応えを感じました」(小平)

小平さんや鳥山さんは、秦選手と密にコミュニケーションを取りながら、フィードバックを元にソールの改良を続けた

さまざまな領域での技術活用も視野

そのレース以来、秦選手は変わらずブリヂストンが開発したソールを使い続けている。現在のソールは2代目で、2017年に開発したモデルから、パターンと材質を変更しているそう。

しかし、いくら製品の改良を実現したと言っても、事業化につなげられなければ、同社の「パラアスリート支援」は一過性のものになってしまう。同社は今後、この取り組みをどのように続けていく予定なのか。

「秦さんとの協力によって生まれた技術が将来、当社製品のブレイクスルーにつながる可能性はあると考えています。将来的には、さまざまな領域での技術の活用も視野に入れております。ですが、何よりこの取り組みは、当社がグローバルメッセージとして掲げる『CHASE YOUR DREAM』を体現するもの。

CHASE YOUR DREAMとは、ブリヂストンが、さまざまな困難を乗り越えながら「夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えていく」という想いを表現したメッセージ

そのため、必ずしも『将来的なリターン』を求めてこの活動をやっている訳ではありません。私たちの取り組みが社内外に広がり、当社の『夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えたい』という想いに触れていただき、一緒にオリンピック・パラリンピックを応援してくれる仲間を広げていくことを目指しています」(鳥山)

「2020東京」まで1歩ずつ、2人3脚で

現在、すでに秦選手用の最新ソールは完成しているそうだが、まだまだブリヂストンの挑戦は続く。

「最新モデルは、秦さんの要望を満たし、かつさまざまなデータから考えられる問題点を解決した自信作。しかし、パラリンピックまではまだ時間があります。今後も本人のフィードバックをもとに、より改良を続けていきたいです」(小平)

パラアスリートと一緒に夢を追い続けるブリヂストン。今回紹介したのは、同社の秦選手との取り組みだけだが、それに限らず、ほかにも多くのアスリートを支援しているそうだ。

オリンピック・パラリンピックでもっとも日の目を浴びるのは選手。しかし、その周りには、選手たちを支えている多くの人たちがいる。来る2020年、パラリンピックでは、選手の義足や車椅子などにも注目し、そこに隠れた技術の背景を想像してみるのも楽しみ方の1つだ。

ブリヂストンと秦選手の挑戦をこれからも応援したい