任天堂は「ニンテンドースイッチ」で存在感を取り戻せるか

任天堂は「ニンテンドースイッチ」で存在感を取り戻せるか

2017.01.16

任天堂が次世代の家庭用据え置き型ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」を発表した。基本的に1家に1台の据え置き型ゲーム機の世界では、ソニーの「プレイステーション4(プレステ4)」が販売台数を順調に伸ばしている一方で、任天堂の現行機「Wii U」は前世代機の「Wii」に比べて販売台数が1割強と伸び悩む。家庭用ゲーム機の先駆者である任天堂は、次世代機で再び存在感を示すことができるのだろうか。

任天堂が家庭用据え置き型ゲーム機の次世代機を発表

3つのプレイスタイルを自由に“スイッチ”

ニンテンドースイッチの売りは、プレイスタイルを自由に切り替えて(スイッチして)遊べること。具体的にはテレビにつないで遊ぶ「TVモード」、タブレットのような本体にゲーム画面を映し出し、「Joy-Con(ジョイコン)」と呼ばれる小さなコントローラーで遊ぶ「テーブルモード」、本体にジョイコンを装着して携帯型ゲーム機のように遊ぶ「携帯モード」の3つのスタイルが選べる。発売は全世界同時で2017年3月3日、価格は日本で2万9,980円(税抜き)、米国では299.99ドル。2017年3月末までに全世界で200万台を販売する計画だという。

ゲームソフトは専用の「ゲームカード」を購入するかダウンロードして遊ぶ。本体容量32GBはゲームをダウンロードするには少ない印象だが、容量はマイクロSDカードで拡張できる。

左側の画像がTVモード時のニンテンドースイッチ。手で掴んでいる部分がタブレット状の「本体」で、この画像では専用の「ドック」に収まっている。いわゆるコントローラーが手前に見えるが、これは2つのジョイコン(赤と青の部分)を「ジョイコングリップ」に取り付けている状態で、このジョイコンを取り外し、本体の側面に取り付ければ携帯モードに移行する(右側の画像)
左側はテーブルモードで遊ぶ時の画像。ジョイコンは単体でコントローラーとして機能する(右側の画像)。例えば本体を知人の家へ持って行き、2つのジョイコンで同じゲームを同時に遊ぶといったような使い方が想定できる

ゲーム機のアイデアを集約

「これまで任天堂が提供してきた、数々のゲーム機のDNAを受け継いでいる」。任天堂の常務執行役員でソフト開発の責任者を務める高橋伸也氏は、ニンテンドースイッチをこのように表現した。

任天堂が世に問うてきた家庭用据え置きゲーム機を振り返り、スイッチが何を受け継いでいるかを考えてみると、例えば「ファミリーコンピューター」からは2つのコントローラー(つまりは複数のプレイヤー)で遊ぶという概念を、「ゲームボーイ」からはゲーム機の携帯性を継承している。

「NINTENDO64」からは同機が世界で始めて導入したアナログ入力用スティックとコントローラーの振動機能を、Wiiからはコントローラーを振ったり捻ったりする遊び方を、Wii Uからはテレビの前から離れてもゲームをプレイできるという概念を受け継いだ。持ち運びに便利な“取っ手”が付いていた、時代を先取りし過ぎた存在ともいうべき「ゲームキューブ」からは、据え置き型ゲーム機なのに外に持っていけるという、ニンテンドースイッチ最大の特徴を引き継いでいる。

任天堂のゲーム史を体現するのがニンテンドースイッチだ

「常に娯楽を追求」(高橋氏)してきた任天堂は、新たなゲーム機を発表するたびにユーザーが驚くような遊び方を提示してきた。ニンテンドースイッチは、同社が歩んできたイノベーションの歴史を1台に凝縮したようなゲーム機だ。ここで気になるのは、このゲーム機が提示する、プレイスタイルをスイッチするという遊び方がユーザーに受けるかどうかと、実際にニンテンドースイッチが売れるかどうかだ。

まずスイッチする遊び方が受けるかどうか。そもそも、“家庭用据え置き型ゲーム機”を外に持ち出したいかどうかという点が問題なのだが、これは未知数というしかない。しかし、任天堂が新型ゲーム機で新しい遊び方を提示するのは今回が初めてではない。それどころか、同社は常に、それまでになかったゲーム機を世に問い続ける存在であったので、受けるかどうか分からないゲーム機を発売するということ自体が、同社らしい取り組みだと捉えることもできるだろう。

Wiiユーザーの買い替え需要に期待?

つぎに、このゲーム機は売れるかどうかについて考えてみたいが、これについては、ニンテンドースイッチが既存の任天堂ファンを引き継げるかどうかと、同機が他社製ゲーム機のユーザーや非ゲーマーに訴求できるかどうかに掛かっている。

少なくとも任天堂は、現行機の「Wii U」について「近く生産を終了する」とアナウンスしている。このため、現在はWiiやWii Uで遊んでいる任天堂ファンは、買い替えのタイミングでニンテンドースイッチの購入について考えてみることになるだろう。

そんな時、既存ゲーム機で親しんできた「マリオ」、「ゼルダの伝説」、「スプラトゥーン」といったタイトルの新作をニンテンドースイッチで遊べるという事実は、購入を後押しする要素となりうる。もちろん、ローンチタイトルとなる「ゼルダの伝説 ブレス オブ ワイルド」のようなビッグタイトルに惹かれて、現行機の買い替え時期を待たずにニンテンドースイッチに乗り換える人も出てくるはずだ。

左は2017年冬に発売予定の「スーパーマリオ オデッセイ」。デモでは、マリオがニューヨーク風の現代的な町並みを疾走する姿が印象的だった。「ゼルダの伝説 ブレス オブ ワイルド」(画像右)は途中までプレイできたのだが、広大なマップを自由に探索できる「箱庭ゲーム」に、アクションや謎解きといったゼルダ的な要素を落としこんだソフトらしく感じた
開発中のタイトルとしては、スクウェア・エニックスがニンテンドースイッチ向けに完全新規のRPGタイトルを準備中との発表があった(画像左)。セガは「ソニック」を開発中らしい(画像右)。現時点で、開発中を含むニンテンドースイッチ向けタイトルは80以上、参加を表明している企業は50社以上とのこと

任天堂ファン以外には訴求できるか

他社製ゲーム機からユーザーを引き込めるかどうかについて考えると、ライバルのプレステ4は全世界の販売台数が5,000万台を突破するなど堅牢なユーザー基盤を構築していることもあり、簡単ではなさそうだ。任天堂によるとWiiは1億台強、Wii Uは1,336万台の販売実績があるそうなので、まずは既存ファンの需要を喚起し、特にWiiユーザーの買い替えを促すことが急務となりそうだ。すでに他社のゲーム機を持っている人が、ニンテンドースイッチが提示する新たな遊び方に魅了され、2台目のゲーム機として同機を購入するケースも出てくるかもしれない。

非ゲーマーを取り込む時に重要になるのは、ゲームに親しんでいない人でも遊びたくなるソフトを用意できるかどうかと、ゲーム以外のコンテンツを充実させられるかどうかだろう。

ソフトについては、初心者向けの“入門編”を作ることについて任天堂ほど適した存在は滅多にいないという気がする。これは一例に過ぎないが、ポップな世界観で三人称視点のシューティングゲーム(TPS)を楽しめるWii U向けタイトル「スプラトゥーン」は、子供が購入したにも関わらず、その親がはまってしまうという現象を生み出していると聞いたことがある。このケースには、ゲームをしたことのない人でもプレイしたくなるソフトを生み出すヒントがありそうだ。

「スプラトゥーン2」(2017年夏に発売予定)でゲームデビューする人が出てくるかもしれない

では、ゲーム以外のコンテンツは充実していくのだろうか。Wii Uでは、「ニコニコ動画」や「Hulu」といった動画配信サービスを楽しむことができたし、家庭用カラオケ機としての活用法もあった。

ニンテンドースイッチのゲーム以外のコンテンツは公開されていないが、任天堂は将来的に動画配信サービスに対応させる方針だという。タブレットのような形状で、液晶部分はタッチパネルになっているニンテンドースイッチの本体は、ゲーム以外の用途でも色々な仕掛けが工夫できそうだ。任天堂のアイデアに期待したい。

モバイルゲームが主流になったゲーム産業

発売前でもあり未知数な部分も多いが、ニンテンドースイッチがWiiのようなヒット作となれば、家庭用据え置き型ゲーム機の覇権争いが盛り上がるのは確実だ。しかし、任天堂の新型ゲーム機には、ゲーム産業全体を拡大させるような方向性も期待したいところだ。

カドカワのゲーム総合情報メディア「ファミ通」が「ファミ通ゲーム白書2016」を発刊する際に出したプレスリリースを見ると、世界のゲーム産業の市場規模は、スマートフォン向けのいわゆるモバイルゲームが伸張していることもあって、2015年は前年比で約25%増の8兆2,667億円と拡大している。その内訳は、家庭用およびPC向けパッケージゲーム市場が1兆3,080億円であるのに対し、モバイルゲーム、PC配信ゲーム、家庭用ゲーム配信を足し合わせたデジタル配信ゲーム市場は6兆9,587億円と圧倒的な差がある。

日本国内市場の推移はどうかというと、やはり全体の規模は拡大しているが、伸びているのは「オンラインプラットフォーム」のみで、「家庭用ソフト」と「家庭用ハード」のカテゴリーは縮小を続けているのが現状だ。この流れを受けてか、任天堂もソニーもモバイルゲーム事業への参入を決めており、任天堂については「スーパーマリオ ラン」の投入が記憶に新しい。

人気のIP(知的財産)を大量に抱える任天堂が今後、スマホ用ゲームを大きなビジネスに育て上げる可能性は十分にありそうだ。しかし、任天堂が提供する娯楽の本流は、あくまで家庭用ゲーム機にあるような気がしている。ファミコンでゲームの裾野を広げ、いまや8兆円を超えるまでに拡大したゲーム市場に礎石を据えた任天堂。ニンテンドースイッチでは、プレステ4に押され気味の「家庭用ハード」市場で存在感を取り戻すだけでなく、「家庭用ゲーム」全体の市場規模を底上げし、家庭におけるゲームの存在感そのものを再定義するような展開を期待したいところだ。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。