あの“歌姫”が音楽の先生に!? ヤマハが進める教育ICT化の可能性

あの“歌姫”が音楽の先生に!? ヤマハが進める教育ICT化の可能性

2017.01.19

IT企業やICTに関わる企業が“ザワザワ”としている。というのも、文部科学省が2020年を目途に、生徒一人に一台の端末を配し、ICTを利活用した教育現場を築くと息巻いているからだ。全国には小学校が約22,000校、中学校が約10,000校、合わせて約32,000校あり、それらがタブレットやPCの“一人一台環境”を構築するとなれば巨大なマーケットが生まれる。いや、もう生じている。この巨大マーケットに新たなプレイヤーが参戦してきた。楽器メーカーの雄、ヤマハだ。

教育現場のICT化に際し、どのような分野に需要が生じるのだろうか。

もっともわかりやすいのがハードウェアだ。タブレットやPCといった、生徒が直接操作を行う端末、電子黒板やプロジェクターといったおもに教師が扱うであろう機材。こうしたハードウェアを教育現場に導入していただこうと、各PCメーカーなどは鼻息が荒い。

次に挙げられるのはソフトウェアの分野だ。一人一台、生徒に端末が行きわたっても、教育向けのアプリが導入されていなければ学習での効果は半減してしまう。この分野に関しては、ソフトウェアメーカーはもとより、教科書出版社や塾・予備校といった企業が虎視眈々と市場をにらんでいる。

そのほか、教員に対するICT取り扱いおよび端末を使った授業のノウハウに関するレクチャー、多数の端末を支える通信環境や電力供給といったインフラなど、教育のICT化が生み出す需要は広範にわたる。

「Smart Education System」の第1弾は3種のアプリ

発表会で行われた「ボーカロイド教育版」のデモ

では、ヤマハはどの市場に参入するのだろうか。ズバリ、2番目に挙げたソフトウェアの分野である。しかも、楽器メーカーならではの視点ともいってよく、音楽の授業でのICT活用を宣言した。

具体的には「ボーカロイド」を利用した教育向けアプリや、楽器の演奏方法を学べる音楽教材ソフトなどを提供するとしている。ヤマハは同社が提供する教育向けICT機材などを「Smart Education System」と名づけ、今回はその第1弾と位置づけた。

今回リリースされたのは「ボーカロイド教育版」、ギター演奏が学べる「ギター授業」、琴の弾き方をレクチャーする「琴授業」の3種。ヤマハならではのラインナップといえるだろう。

左が「ギター授業」、右が「琴授業」のデモ。それぞれ弦を弾くタイミングが視覚的にわかる

なかでも注目なのは、ボーカロイド教育版だ。ご存じのとおり、ボーカロイドは音符がわからなくても作曲でき、そのメロディに合わせてサンプリングされた人の声がうたってくれるというもの。「ボカロ」などと略され、多くのユーザーに親しまれている。ボーカロイド教育版は、文字どおりそれを教育現場向けに最適化した製品だ。

ただ、「ボーカロイド教育版を音楽の授業で使う」と聞いたとき、若干の違和感を覚えた。音楽は立派な授業のひとつだが、教養を育てるという役割も担っている。ヤマハの実証実験では、生徒たちがボーカロイド教育版で作詞・作曲し、完成した楽曲を卒業式で歌うという例があるらしい。

このように、実際の合唱までつながるのならば、音楽の授業での活用も理解できる。しかし、ボーカロイド教育版で生徒がただ単に作詞・作曲するだけとなった場合、教養を育てる役割も担う音楽の授業に相応しいのだろうか。

ヤマハの説明を聞き進めると、合点がいった。もちろん、卒業式の合唱につなげる例のように音楽の授業に生かすことも考えているだろう。だが、むしろ軸足はほかの授業に重心を置いているように感じた。

その授業とはズバリ、プログラミング授業だ。

2020年に必修化される小学校でのプログラミング教室

文科省は昨年、「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」を開催し、プログラミング教育の重要性について議論をとりまとめた。そして2020年を目標に、小学校でのプログラミング教育必修化を目指す方針を示した。

ボーカロイド教育版の実証実験の様子(提供:ヤマハ)

これを受けてプログラミング教育の実証実験が各地の小学校で始まった。ヤマハも、お膝元である浜松の小学校など、複数校でボーカロイド教育版やギター授業、琴授業を使用した実証実験に乗り出した。前述した卒業式の合唱は、浜松の学校における成果だ。

プログラミング教育のねらいは、“論理的”な思考力を育て、“表現力”を磨くことにある。さらにロボット掃除機やゲーム機などが、プログラムを介して動作していることを理解してもらうことにある。コーディングといった小学生には難しい作業を強いるものではない。

現在、よく知られているのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した「Scratch 2.0」(スクラッチ)や、レゴが開発した「レゴWeDo2.0」といったプログラミングツールだ。どちらも操作アイコンを並べるだけでプログラミングを体験でき、「こうアイコンを並べれば、対象はこう動く」といった論理的な思考につなげられる。生徒独自の動作を編み出すことで、創造性・表現力の向上にも役立つだろう。だが、ボーカロイド教育版は楽曲の作詞・作曲を目的としたツール。短絡的な考えかもしれないが、表現力の向上という意味では前出の両者よりも効果が高いのではないだろうか。小学校のプログラミング教育を支える強力なツールが誕生したといってよい。

学校教育のICT化もプログラミング教育の必修化もある問題をはらんでいる。それは、都市部と地方での普及に差が出てしまうということ。ある地方自治体の教育委員会の方とお話しさせていただく機会があったが、「ICTを活用した授業にしてもプログラミング教育にしても、これらに精通した企業や人物の協力が物理的に得られにくい」と心境を明かした。

そもそも教育のICT化は都市部でも地方でも、同等の教育水準とするのが目的のひとつ。長期的にみれば達成できるだろうが、文科省が目指す2020年までの短期間には、都市と地方の教育に格差が生じかねない。

ヤマハ 上席執行役員 技術開発本部 本部長 研究開発統括部 統括部長 飯塚朗氏

そして間の悪いことに2021年には大学入試改革が行われ、現在のセンター試験を廃止、“思考力”“判断力”“表現力”が問われる試験内容になるという。これは現在の中学校2年生以下に適用されるので、都市と地方の小学校で教育格差があると、大学入試試験で不利になりかねない。

こうした問題に対しヤマハ 上席執行役員 飯塚朗氏に聞いてみたところ、「弊社は全国にヤマハ音楽教室を展開しています。そこのスタッフを派遣し、地方の小学校でもアドバイスできる体制を考えています」と語った。

さて、スクラッチを使った授業もレゴ WeDo2.0を使った授業も見学させていただいたことがあるが、どちらも生徒の歓声に満ちていた。ヤマハが誇るあの“歌姫”も、生徒たちの目を輝かせるにちがいない。

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

2018.11.20

ゴーン氏による3つの重大な不正とは

不正は「ゴーン統治の負の遺産」と西川社長

ゴーン不在でアライアンスの今後は

カルロス・ゴーン氏が日産自動車で働いた不正が発覚し、東京地検特捜部に逮捕される事態となった。企業再生の旗手ともてはやされた豪腕経営者は、自らが代表取締役会長を務める会社の資金を私的に使うなどの理由で失墜してしまった。なぜ、このような不正が起こったのか。その理由を探るため、西川広人(さいかわ・ひろと)社長が出席した日産の記者会見を振り返ってみたい。

日産の西川社長は、11月19日に記者会見を開催した。横浜の日産グローバル本社には200人を超える報道陣が詰め掛け、質疑応答は深更に及んだ

ゴーン依存から抜け出すチャンス?

西川社長の説明によると、ゴーン氏が日産で働いた不正は「開示される自らの報酬を少なく見せるため、実際より少なく有価証券報告書に記載」「目的を偽り、私的な目的で日産の投資資金を支出」「私的な目的で日産の経費を支出」の3つ。内部通報を受けて数カ月間の調査を行った結果、不正が判明したという。不正の首謀者はゴーン氏と同氏側近のグレッグ・ケリー代表取締役の2人。11月22日には取締役会を招集し、不正を働いた2人の職を解くことを提案するという。

会見で西川社長は、本件について「残念というより、それをはるかに超えて、強い憤りというか、私としては落胆が強い」との感想を述べた。不正の具体的な経緯や内容については、検察当局の捜査が進行中であるため、詳細には説明できないという。「約100億円の報酬で約50億円しか申告していないとすると、消えた50億円を日産ではどのように処理したのか」という記者からの質問に対しても、「今の段階では」回答できないとして明言を避けた。

この問題は日産の、ひいてはルノーと三菱自動車工業を含むアライアンスの今後に、どのような影響を及ぼすのか。「将来に向けては、極端に特定の個人に依存した状態から抜け出して、サステイナブルな体制を目指すべく、よい機会になると認識している」というのが西川社長の言葉だ。

検察当局の捜査が進行中で、不正の内容については多くを語れないとした西川氏だが、一刻も早く自らの言葉で状況を伝えたいという理由から、このタイミングで記者会見を開催したという

ルノーと日産のCEO兼務が権力肥大の温床に

逮捕の時点で、日産と三菱自動車では会長、ルノーでは会長兼CEOを務めていたゴーン氏には、西川社長が「極端」と表現するほど、権力が集中していた。なぜ、このような体制となったのか。「長い間に、徐々に形成されたということ。それ以上に言いようがない」とした西川社長だったが、1つの要因として「ルノーと日産のCEOを兼務した時期が長かった」点を指摘し、「このやり方は、少し無理があった」と述懐した。

業績不振の日産にルノーから乗り込んだゴーン氏は、日産を立て直し、2005年にはルノーのCEOにも就任して、両社のトップに立った。その当時を西川社長は、「当たり前に、日産を率いるゴーンさんが、ルノーのCEOをやるのはいいことじゃないかと考えて、あまり議論しなかった。どうなるかについては、日産としても、十分に分かっていなかった」と振り返る。

誰かに権力が集中したからといって、その企業で必ずしも不正が起こるとは限らないし、権力を持ちつつ、公正な企業経営を行っている人もたくさんいる。そう語った西川氏ではあったが、今回の不正については「長年にわたるゴーン統治の負の遺産」であり、「権力の集中が1つの誘引となった」と結論づけた。経営陣の1人でありながら、ゴーン氏をコントロールする役割を果たせなかった責任については、「ガバナンスで猛省すべきところはあるが、事態を沈静化して、会社を正常な状態にする必要もある。やることは山積している」とする。

権力者が去った日産は今後、どのような企業になっていくのか

内部通報によりゴーン氏が日産を去るという構図は、クーデターに見えなくもない。不正が日産ブランドに与える負の影響は計り知れないが、これを機に、有機的で透明性の高い企業統治の在り方を追求できるかどうかが、日産とアライアンスの今後を左右しそうだ。ゴーン不在の新生日産にとって、真の実力を問われる局面になる。

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

2018.11.20

サントリー「ストロングゼロ」の新商品が11月20日より発売

「食事に合う」を押し続けた広告展開の狙い

-196℃製法は居酒屋の「不味い」チューハイから誕生?

サントリーの缶チューハイ「-196℃ ストロングゼロ」という商品に、どのような印象を持っているだろうか?

飲みやすい、度数が高い、お手頃価格――。さまざまなイメージを想起することかと思うが、サントリーの打ち出すメッセージは、一貫して「食事に合う」だ。特に、「唐揚げとよく合う」という点を全面に押し出した広告を見たことがある、という人も多いのではないだろうか。

確かに、味そのものを広告で伝えるのは難しいし、度数が高いからお得に酔えるとお茶の間に出すのはなんだか気が引けるのも想像できる。とはいえ、コーンポタージュ味のガリガリ君くらいディープなイメージになりかねない「食事に合う」缶チューハイというメッセージも、かなりの勇気が要ったのではないだろうか。

なんで缶チューハイが食事に合うなんて言ってるの? サントリー商品開発センター(神奈川県・川崎市)で聞いてきた

居酒屋の「美味しくない」チューハイがキッカケに

そもそも、ストロングゼロのきちんとした商品名で記載される「-196℃」とは何だろう。これは、果実などを-196℃で瞬間凍結し、パウダー状に微粉砕したものをアルコールに浸漬してチューハイに仕上げるという、サントリー独自の「-196℃製法」を意味するもの。

ストロングゼロの開発に携わるサントリースピリッツ商品開発研究部の藤原裕之氏によると、この製法が誕生したキッカケは、居酒屋での「美味しくないチューハイ」にあったのだという。

「居酒屋で飲む“生絞りチューハイ”って、美味しいですよね。でもある日、レモンは入っているのに、全然美味しくないチューハイがあったんです。なぜ同じ組み合わせなのに、味が変わるのか。それは“自分でレモンを絞る・絞らない”の違いにあったんです」(藤原氏)

「-196℃」製法、誕生のキッカケは居酒屋にあった

つまり、美味しさの要因は「手についたレモンのフレッシュな香り」にある、というのだ。

そこで、「レモンを、丸まる1つ使ったチューハイを作りたい」というコンセプトのもと、「果実」だけではなく、「果皮」に含まれる香り・美味しさ成分まで余すことなく作る製法として、果実を瞬間冷凍し、まるごと砕いてお酒に入れる「-196℃製法」を開発した。同じようなコンセプトのチューハイは他社でも見られるが、この製法はサントリーの特許技術だ。

こちらは「-196℃製法」を再現した実験。写真は液体窒素を容器に流し込んでいるところ
ちなみに、液体窒素の中に花を入れると、すぐに凍ってしまう。軽く握っただけでパラパラと粉々に砕ける
レモンを数十秒いれると、こちらも完全に凍ってしまった。さすがに素手で砕くのは無理だそうで、本来は機械でクラッシュしてパウダー状にしているそう

市場拡大の追い風に乗り、「食中酒」として存在感増す

余談になるが、ここ最近はストロングゼロを筆頭に、「ストロング系チューハイ」がSNSで異様な広まりを見せている。昨年末には「#ストロングゼロ文学」という大喜利ネタが流行り、今年も「#わたしのストロングゼロ」なるハッシュタグが誕生し、盛り上がった。このあたりの話題に興味のある人は、こちらの記事(「ストロング系チューハイ」、なぜ人気? 愛飲者が理由を分析)も読んでみてほしい。

では、なぜここまでの人気がある商品になったのか。それは、市場全体の盛り上がりをタイミングよく追い風にできたことも大きい。

「RTD(Ready to drink:缶チューハイやカクテルなど、フタを開けてすぐにそのまま飲める飲料のこと)市場は、2007年から、10年連続で伸長しています。この傾向は2018年も継続しており、本年度は1~9月だけで、前年比111%増えています」(藤原氏)

RTD市場・アルコール度数別販売状況。ちなみにサントリーが「-196℃」シリーズを発表したのは2005年、ストロングゼロシリーズが生まれたのが、2009年だ

RTD市場の中でも、特に高アルコール(アルコール8%以上のもの)飲料が市場を牽引する存在になっていて、これらは2012年に市場シェア24%だったところ、2017年には33%にまで伸長している。

高アルコール飲料が伸びている理由は「お得に酔える」ことが求められたからと考えられるが、「経済性のみでここまでの伸びがあるとは思えない」と藤原氏は説明する。

「なぜ、高アルコール飲料を飲む人が増えているのか。我々の見解としては、それは『食』にあると考えています。2015年、2018年の『食事中にRTDを飲んでいる数』を比較すると、ここ3年で約5%伸びていることがわかりました」(藤原氏)

特に40~50代の伸びが大きく、これまで食事中にビールを飲んでいた所を、チューハイに置き換える傾向にあるようだ。スーパードライやプレミアムモルツ、一番搾りといった人気ビ―ルの度数は、5~5.5%。そこから流入した層が、「低アルコールのチューハイでは物足りないから」と、高アルコールのものを選ぶようになっているのかもしれない。

そこでサントリーは、「食事に合う」チューハイという立ち位置を明確にする戦略に動いた。味の改良だけでなく、世の中のニーズの変化にも敏感に反応した結果の、「食事に合う」だったのだ。

「食事に合う」というイメージ訴求を続けてきたサントリー

市場を牽引する「ストロングゼロ」、次の一手

サントリーが初めて「-196℃」の缶チューハイを商品化したのが2005年。それ以降、RTD市場の成長に沿って売り上げを伸ばし続けている。特に、-196℃のラインアップに高アルコールの「ストロングゼロ」を追加してからの成長が顕著だ。市場の成長に沿って、というよりはむしろ同社のイメージ戦略も相まって、「市場を牽引している」ともいえるかもしれない。

「-196℃」シリーズの販売実績。ストロングゼロが誕生したの2009年以降、急激な成長を遂げている

「食事中のお酒にチューハイが選ばれるキッカケとなったのは、『レモン』味のフレーバー。今後もレモンをRTD市場の成長のキードライバーと捉え、力をいれていきたいと考えています」(藤原氏)

既存の人気商品「ストロングゼロ ダブルレモン」に続き、ストロングゼロが次に指す一手も、やはり「レモン」だ。さらにレモンを”マシマシマシ”した、その名も「ストロングゼロ トリプルレモン」で、まだ食事中に缶チューハイを飲んでいない新規層への訴求を目指す。

「-196℃ ストロングゼロ トリプルレモン」は、11月20日より販売開始。価格は350mlが141円、500mlが191円(税抜き)
同社が押し出す「食事と合う」チューハイ。見ているだけで仕事を放棄したくなってくる