ライク 保育事業のM&Aに先見の明 幼児から高齢者まで必要な企業へ

ライク 保育事業のM&Aに先見の明 幼児から高齢者まで必要な企業へ

2017.01.19

ライク 保育事業のM&Aに先見の明 幼児から高齢者まで必要な企業へ

 ライク(旧社名ジェイコムホールディングス)<2462>は、もともと携帯電話業界向け人材サービスが主力だった。2005年の株式上場時にみずほ証券によるジェイコム株の誤発注事件が発生、一躍その名が全国に知られるようになった。2009年に保育園の運営企業を買収したことを転機に保育や介護事業にも進出。幼児から高齢者まで人生のどの段階においてもなくてはならない企業に事業ポートフォリオを進化させている。

【企業概要】人材サービス、携帯業界向けが8割

 ライクは1993年、大阪で設立された。当初はパッケージ旅行の企画事業を目的としており、社名も現在とは異なりパワーズインターナショナルと称していた。その後1996年に代理店として携帯電話の販売を開始、他社から代理店契約を譲受したりしながら成長し、1998年に現在の主業となる人材サービス事業を開始するのだが、この沿革から、今現在もライクの人材サービス売上高のうち8割をモバイル業界が占めている。

 2005年に東証マザーズに上場、2007年に東証一部へ市場変更。現在の持ち株会社体制になったのは2009年のことである。2016年5月期の連結売上高は318億4千万円。求職者、スタッフ、保育・介護施設の利用者、 株主様等全てのステークホルダーに愛される企業グループでありたいという気持ちを込めて、2016年12月に社名をライクに変更した。

【経営陣】創業者の岡本氏が社長

 創業者の岡本康彦氏(55)が社長を務める。岡本氏は広島銀行出身。文化倶楽部を経て1993年にパワーズインターナショナル(現ライク)を設立した。取締役8名のうち2名を女性が占める。同社は女性の従業員比率が高いことに加え、保育事業を営むサクセスホールディングスを子会社に持つため、女性の意見を経営に反映する意向があるとみられる。

【株主構成】岡本一族で48%を保有

ライクの主要株主
氏名又は名称 所有株式数(株) 持ち株比率(%)
岡本 泰彦 3,490,900 34.98
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 932,700 9.34
有限会社マナックス 840,000 8.42
ジェイコムホールディングス 637,065 6.38
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 303,900 3.04
岡本 久美子 280,000 2.81
テー・オー・ダブリュー 280,000 2.81
岡本 真奈 230,000 2.3
三品 芳機 155,000 1.55
BARCLAYS BANK PLC A/C CLIENT SEGREGATED A/C PB CAYMAN CLIENTS 127,900 1.28
7,277,465 72.91
2016年5月末時点、有価証券報告書に基づき作成

 筆頭株主は岡本康彦社長で保有割合は34.98%。岡本氏の親族及び親族所有の法人の保有割合も合わせると一族での保有割合は48.51%に上り、大きく差をあけて日本トラスティ・サービス信託銀行が9.34%と続く。

【M&A戦略】働く女性を意識、段階買収で保育事業に進出

ライクの主なM&A
年月     内容
2007年3月 人材サービス会社のアトランティス(売上高3億2千万円)の株式100%を5千6百万円で買収。
2007年4月 完全子会社であるアトランティス(売上高3億2千万円)を吸収合併。
2007年10月 体育会系の大学生に特化した就活支援等を手掛けるインダス(売上高2億5千万円)の株式100%を3億3千万円で買収。
2008年5月 パッケージ事業、デジタルプロモーション事業等を行うエクサージ(売上高3千9百万円)の株式50%を2千万円で第三者割当増資引受により取得。
2008年7月 九州地区を中心に体育会学生の就職支援に強みを持つガーディアンシップ(売上高2億8千万円)の株式の45%を1千8百万円で第三者割当増資引受により取得。
2009年1月 関連会社のエクサージ(売上高3千9百万円)の保有全株式を5百万円で売却。
2009年11月 連結子会社のインダス(売上高1億5千万円)の保有全株式(保有割合100%)を5百万円で売却。
2009年11月 保育園等の運営を手掛けるサクセスアカデミー(売上高30億6千万円)の株式20%を1億1千万円で取得。
2011年9月 デザイナーやパタンナー等の人材紹介を行うアイ・エフ・シー(売上高非公開)の株式100%を3千5百万円で買収。
2013年6月 事務派遣、ビジネススクール事業を手掛けるエーススタッフ(売上高非公開)の株式100%を5千5百万円で買収。
2013年9月 子会社のACAヘルスケア・再編1号投資事業有限責任組合を通じて介護施設を運営するサンライズ・ヴィラ(売上高35億8千万円)と食堂・給食の運営受託を行うジャパン・コントラクトフード(売上高14億6千万円)の株式のそれぞれ87%を10億円で買収。
2014年7月 連結子会社のジャパンコントラクトフード(売上高14億6千万円)の保有全株式(議決権84%)を4億2千万円で売却。
2015年5月 TOBにより持分法適用会社のサクセスホールディングス(売上高101億1千万円)の株式23.93%を21億3千万円で買収。

 2007年3月、ライク(当時はジェイコム)が初のM&Aを行う。買収したのは東京を本社とする人材派遣会社のアトランティス。アトランティスはライクと同じく、携帯電話業界向けの人材派遣を主体とする完全な同業である。大阪に本拠地を置くライクは西日本には地盤を築いたが、東日本にはいまひとつ入り込めずにいた。地理的な弱みを補い、進出の足掛かりを作る形の買収だと言える。買収からわずか一ヶ月後にはライクは経営の効率化の為にアトランティスを吸収合併してしまう。

 同年10月に、就活支援等を手掛けるインダスを完全子会社化した。学生の短期就業を含めて若年層をターゲットとするライクにとって、インダスの持つ就職支援メディアや、体育会系学生を企業に橋渡しするという事業モデルにシナジーを見出したとする。

 なお、ライクはアトランティスを5千6百万円で買収しているが、これは当時のアトランティスの純資産4千5百万円からさほど開きはない。キャッシュの潤沢な市場変更直後にしては控えめな買い物という印象を受けるが、その一方でインダスの買収は対照的だ。純資産1千6百万円に対し、売上高をも上回る3億3千万円という値を付けた。3億円もののれんがつくほどにインダスの収益力が高いのかと思いきや、当時の営業利益はわずか6百万円程度である。加えて買収の後には赤字に転じていることから、実質の営業利益の高さも伺えず、やはり高すぎる印象が残る。

 2008年にはIT関連事業を行うエクサージの株式50%と、インダス同様の体育会系学生の就職支援を行うガーディアンシップの株式45%を第三者割当増資で引受けた。ガーディアンシップに関しては、既に買収していたインダスとの地理的な補完も含めてシナジーを狙い買収をした格好ながら、翌2009年にジェイコムホールディングスはインダスをわずか5百万円で売却してしまう。前述通りインダスに関しては高値づかみをしている感が否めないため、採算が合わず手放したと見るべきか。この高値づかみと損切りの潔さにはオーナー企業ならではの大胆さが透けて見える。加えて、インダスほどのインパクトはないものの、同年にライクはエクサージの株式も売却している。取得からわずか一年足らずと、こちらも実に見切りが早い。

 正直ここまではぱっとする買収のないライクであるが、サクセスアカデミーの買収は一つの転機であり、現在のポートフォリオの礎となっている。

 2009年11月、インダスを損切りした直後にライクは保育園の運営や児童向けのサービスを行うサクセスアカデミーの株式の20%を取得し持分法適用関連会社にした。サクセスアカデミーは後に保育業界3位の売上高となるサクセスホールディングスの前身だ。当時ジャフコ等の出資を受けており、上場に向けて準備を整えていたものとみられる。

 携帯電話やアパレル業界への人材サービスを主業とすることから、ライクは若年の女性従業員の比率が高い。保育事業は全くの畑違いでありながら、働く女性の保育への需要を肌で理解していた為に、保育園不足が本格的に騒がれる数年前には既に時代のニーズを先読みしていたようだ。なおかつ、保育分野での人材需要に本業の人材派遣とのシナジーがあるという読みも持つ。

 次いで小さな買収を挟んだ後に目を付けたのが介護事業だ。2013年、連結子会社として有するファンドを通じて、有料老人ホームの運営を行うサンライズ・ヴィラ及びそれに付随して食堂・給食の運営受託を行うジャパンコントラクトフードを買収。両社の行う介護事業を通じて、本業の人材サービス業での介護業界向け人材の採用・教育ノウハウも視野に入れる。実際に、相互に連携した人材採用や人材出向により介護分野での売上を伸ばすこととなるが、2014年、本命であるサンライズ・ヴィラの適正な購買を促すためとして、付随事業を行う形であったジャパンコントラクトフードを売却。あくまで介護に注力をする。

 そして現在のポートフォリオへの集大成と言えるのが、2015年、前述のサクセスアカデミー(現サクセスホールディングス)へのTOBによる連結子会社化である。これにより売上に保育事業セグメントが加わり、名実ともに保育分野への進出を果たした。

【財務分析】脱モバイル依存、事業構成が多様化

 ライクの行ったM&Aについて時系列に沿って辿ったが、業績面の推移を見たい。

 上記業績の数値は2007年5月期までは単体、翌期以降が連結のものである。売上・営業利益ともに若干の波はあるものの、パソナやテンプホールディングス等大手の派遣事業者のようにリーマンショックによる大幅な落ち込みは見られない。派遣は派遣でも、上がり基調のモバイル市場のみに特化していたために、リーマンショックのあおりは軽く済んだ様子だ。

 よって、同業他社のように売上を上積みするための買収が必要なかったために、ここ最近まで大型の買収が必要なかったと見ることもできる。

 冒頭にも、ライクの総合人材サービス業におけるモバイル業界への比重が高いことを述べた。それでは、総合人材サービス業自体が全体に占める割合はどれほどか。実は、ライクは2010年5月期までは90%以上を占めることを明言しており、以降2013年5月期までは「総合人材サービス事業以外の事業に関しては重要性が乏しい」としてセグメント情報を開示していない。売上のほとんどを総合人材サービス事業≒モバイル業界向けの派遣事業に依存していたことを裏付けている。

 新たな事業の柱としての保育事業や介護事業を取得したのはごく近年のことであり、理念として掲げる「人生のどの段階においても」なくてはならない企業グループとしての事業ポートフォリオはM&Aによって構築したと言える。

 同時に、バランスシートを見てみよう。2015年5月期まで実質無借金経営であるのだが、もっと言うならば2013年5月期までは有利子負債自体が存在しておらず、名実共に無借金経営を行っていた。ライクのバランスシートに初めて有利子負債が現れたのは2014年5月期、介護事業の買収のための資金調達によるものだ。手元資金で小粒の買収を行う方針から、リスクを取りながらも新規事業の柱としての大型案件を狙う形への大胆な方向転換が見て取れる。直近期ではサクセスホールディングスの買収に費用がかさみ、現預金を有利子負債が上回っている。

【株価】保育事業の収益化を好感

 株価は2015年後半から2016年前半にかけて大幅に上昇している。これは2015年7月にサクセスホールディングスを連結子会社化し、保育事業が収益に貢献し始めた時期と重なる。さらに人手不足を背景に総合人材サービス事業も好調に推移しており、2016年1月に連結業績予想の上方修正と増配を発表したことで株価上昇に弾みがついた。

 大量保有報告書によると独立系運用会社のレオス・キャピタルワークスが2016年4月までにライク株の5%を取得。その後、2016年12月までに9%強まで買い増したことが明らかになっている。ちなみにレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は同年12月、講師を務める明治大学の講座でライクについて紹介している。岡本社長も学生向けに話をするなど(ライクホームページより)、投資家と良好な関係を築いていることが伺える。

 足元では株価の上値が重くなっている。今期の予想PERは約25倍。家電や携帯電話向け人材派遣事業を手掛けるヒト・コミュニケーションズ<3654>の15倍、保育事業のJPホールディングス<2749>の約21倍と比べて割安感は乏しい。しかし、幼児から現役世代、高齢者までカバーする同社の事業ポートフォリオに対する投資家の成長期待は高い。足元の業績は好調に推移しており、中期経営計画で目標に掲げる2019年5月期の売上高552億円、経常利益35億円が視野に入ってくれば、株価は再び上昇に転じる可能性もありそうだ。

【まとめ】時代をとらえたタイムリーなM&A

 2016年現在、行政指導でスマートフォンの料金が高騰し、販売件数の伸び率への影響が懸念された。結果的にはキャリア及び業界への影響は限定的だとされるものの、一時は紙面を騒がせていた。店舗への人材派遣業に対してどれだけの余波があるかは定かではないが、単一の業界に依存する場合、こうしたリスクは今後も避けられない。

 一方で、与党が一億層活躍社会を掲げる中で多数の待機児童が社会問題となり、保育士の不足が顕著となった。2015年度には1,318億円だった国の保育対策関係予算が2016年度は9,294億円と大幅に増加しており、市場の拡大が見込まれる。ライクはこの市場へいきなり業界3位の地位で参入したわけだから、M&Aの意義は大きい。入口としての買収規模では比べものにならないが、同じく成長市場である介護分野での買収、新規参入という意味では同様だ。単一業界への依存を脱却するのみならず、成長市場へ参入を果たした良いポートフォリオを築いたと言える。

 時代のニーズを上手く捉えても、一から事業を立ち上げていては時流に乗り遅れる可能性もある。財務面での多少のリスクは伴うものの、本業外の成長市場にタイムリーに参入し戦うことが出来るところに、M&Aで時間を買うことの妙味がある。その意味で、ライクはM&Aを活用して本業とシナジーのある成長分野を迅速に立ち上げた好例と言えるだろう。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。