新ブランドの投入で顧客層の拡大なるか? ワタミの宅食戦略

新ブランドの投入で顧客層の拡大なるか? ワタミの宅食戦略

2017.01.20

東京・新宿3丁目に居をかまえるバル&ダイニングレストラン「GOHAN」に、多くの記者が集まった。各家庭に調理済みの料理を届ける「ワタミの宅食」に新ブランドが追加されるのに際し、マスコミ向け試食会が開催されたからだ。

ワタミがこうした機会を設けるのは初めてではない。昨年も居酒屋用の新メニューを試食する会をマスコミ向けに開催していたが、その際、担当者は「こうした試みは弊社では初めてです」と語っていた。そのときの感覚からか、一般的な記者会見よりも試食会のほうが効果的と判断したのかもしれない。それとも、試食会だけに“味をしめた”のか……。

高齢者をターゲティングにした意図

さて、ダジャレはさておき、今回試食会で披露されたブランドに着目してみよう。ワタミの宅食では「まごころ御前」や「まごころ万菜」など、4ブランドが展開されていたが、新たに「いきいき珠彩(しゅさい)」が追加された。既存の4ブランドはすべて商品名に“まごころ”という語句が冠されていた。だが、新ブランドではワタミの宅食では初の“いきいき”という語句が使われている。そのあたりに新ブランド投入の意図があるのかもしれない。

結果からいうと、まさにそのとおりだった。

ワタミ 執行役員 宅食営業本部長 大根田淳氏

ワタミ 執行役員 宅食営業本部長 大根田淳氏は、「これまでのラインナップは、おいしさと栄養のバランスを重視していました。ターゲットも75~89歳というご高齢な方です」と話す。料理の準備や食器洗いといった後片付けなど、面倒な作業を避けたいと感じている方が多くいるであろう高齢者層なら、宅食サービスを受け容れやすいというねらいがあったといえよう。

こうした高齢者層に向けたメニューとなると、栄養バランスに細心の注意が必要になり、カロリーも抑え気味に考えなくてはならない。「まごころ御前」などはごはんがお皿に盛りつけてあるにも関わらず、1食500kcalが基準になっている。こうした戦略が功を奏し、ワタミの宅食の顧客は、ほとんどが高齢者層で占められている。ある意味、ねらいどおりといえよう。

ところが、これがある問題を浮き彫りにした。60~75歳という、まだまだ活動力が衰えていない、いわゆる“団塊の世代”から「ものたりない」という声が上がったのだ。つまり、もっとボリュームのあるメニューが求められた。こうした世代のなかからは、ワタミの宅食を離れた顧客もあったという。

そこでワタミが打った戦略が「いきいき珠彩」というワケだ。主菜がボリューミーで、満足感を得られる新ブランドとしてメニューを展開し、同社が“アクティブシニア”と呼ぶ60~75歳の取り込みを図る。

“いきいき”という冠が使われている意味を理解した。先ほどのダジャレと異なり、“珠彩”と“主菜”がかけられている点も洒落たネーミングといえよう。

塩分少なめでもシッカリした味付け

さて、ワタミの宅食に新ブランドが投入された背景はわかった。では肝心の味はどうだろうか。

試食タイムになると記者たちの前に続々と料理が載ったトレーが運ばれてくる。メニューは豚の生姜焼きだ。アクティブさを失っていないシニア層だけでなく、働き盛りのビジネスパーソンでもよろこびそうなメニューだ。

記者たちの試食に提供された豚の生姜焼き
健康長寿科学栄養研究所の麻植有希子氏。宅食による栄養バランスについて評価していくという

イタリアンバル・スペインバルのお店で“生姜焼き”というのは少し妙な気がしたが、早速、主菜である豚肉を口に運んでみると、しょうがの香りが口の中でシッカリと広がった。事前に食塩相当量4.0g以下と説明を受けたが、その少なさでこの味がでるのだろうかというのが正直な感想だった。また、豚肉を1枚口に運んでもまたその下から豚肉が現れ、主菜の量の多さがうかがえる。同席していたほかの記者からも「味がシッカリしている」「ボリューミーだ」といった感想が上がっていた。

ちなみに、主菜と副菜4品が添えられたこのメニューで450kcal基準。ごはん1膳を添えると700~800kcalぐらいか。それでも外食に比べ、カロリーが抑えられるといえよう。

試食後、この生姜焼き以外のメニューが披露された。「イタリアンハンバーグ」「エビとブロッコリーの塩だれ和え」「チキン南蛮」「カレイの和風あん」「味噌カツ」などだ。和風から洋風とバリエーションが豊富だ。

上段左から、イタリアンハンバーグ、エビとブロッコリーの塩だれ和え、チキン南蛮、カレイの和風あん、味噌カツ。右下はエビ、カレイ、味噌カツを並べたカット

だが、担当者は「これはメニューの一部でしかありません」という。さらに、「お客様の要望によりメニュー開発は常に進められています」と付け加えた。前出の大根田氏も「製造部門と営業部門が同じ社内にある“製販一体”だからこそ、お客様の要望に素早く応えられます」と胸を張る。

最後に大根田氏に「今後の戦略として、今回の施策よりも下の年齢層に行くのか」と質問したところ、「今までメインとしていた層よりも、さらに高齢な方々にアプローチしたいです」と話す。たとえば“食事困難者”に向けたメニューづくりなどは、長年、介護事業に携わってきたワタミ(今は事業譲渡されている)のノウハウが生かせるという。

試食を終えて、店を後にした際、本来ならば取材後は記事の構成などを考えるのだが、この日は「うん。1食浮いたな。次にこの手の機会があれば、また参加するか」と考えてしまった。冒頭のダジャレではないが、“味をしめた”のは筆者のほうだったようだ……。

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。