父親の家業をヒントにブレイクスルーしたベンチャー

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第1回

父親の家業をヒントにブレイクスルーしたベンチャー

「利益が出ない」などの理由から新規事業が打てず、硬直してしまっている企業は多いのではないか。だが、ベンチャーなら早さが信条。連載「先鋭ベンチャー LOCK ON!」では、奮闘するスタートアップの姿をレポートする。

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アメリカ西海岸発祥といわれる「コールドプレスジュース」をご存知だろうか?

原料はフレッシュな果物や野菜のみ。砂糖や香料、そして水さえも入れない、いかにもヘルシーなジュースのことだ。

「それな。俺もコンビニで野菜と果物のジュース、よく買うわ」、「僕は駅のジューススタンドをよく利用しますねえ」。という人もいるかもしれないが、少し違う。

コンビニなどで流通するパック入りの野菜ジュースは、食品衛生上、「加熱殺菌」が義務づけられている。すると日持ちはするが、熱によってどうしてもビタミンなどの栄養素が減ってしまう。後者のジューススタンドもミキサーで野菜や果物を粉砕するので摩擦熱が発生する。やっぱり栄養価がスポイルされるうえ、酸化もしやすいわけだ。

しかし、コールドプレスジュースは、熱を出さないよう、ゆっくりと圧搾(プレス)して絞る独特の製法だ。野菜や果物の栄養価が損なわれないのがまず大きなメリット。くわえて、果肉や皮などが入らないため、水溶性の食物繊維と栄養素だけを胃腸に負担をかけずに摂取できるメリットもあるのだ。

ターゲットと価格、そして出店場所で差別化

「EJ JUICE&SOUP」は、そんなコールドプレスジュースなどヘルシーな飲食メニューを提供する店だ。

オープンしたのは2015年。すでに日本でも何店舗かコールドプレスジュースを出す専門店はいくつかあったが、同店はそれらとは似て非なるスタイルで差別化をはかっている。

まず、ターゲットを「男女問わないビジネスパーソンとした」ことだ。

ヘルシーなライフスタイルを好むアメリカのセレブたちから火がついたこともあり、コールドプレスジュースの日本での支持層は、圧倒的に“美容・健康意識の高い女性たち”だ。

「EJ JUICE&SOUP」麹町店。中小企業などが入った雑居ビルの1階にある。店内で新鮮な野菜と果物だけしぼって、手間をかけてつくったコールドプレスジュースがメインの商材。1本600~700円は破格だ

そのため専門店は広尾や表参道や代官山など、いかにもそういう女性が好みそうなファッショナブルな街に集中している。

しかし「EJ JUICE&SOUP」では、ファッショナブルな要素が極めて少ない、ビジネス街である麹町を選んだ。店舗やパッケージもクールで洗練されたデザインだが、やたらと「女性向け」に偏って押し出すことはない。

「『食事に気を使いたいけど面倒くさい』『忙しいけれど健康に気を配りたい』――。こうしたニーズはおしゃれな女性に限らず、多くの人が抱えていますからね」と、株式会社イージェイの代表で、「EJ JUICE&SOUP」の生みの親である岩崎亘さんは話す。

「むしろファッショナブルな街でゆっくり過ごす……なんていうことが難しい、忙しいビジネスパーソンこそコールドプレスジュースの潜在顧客になるだろうと考えたわけです。現にうちのお客様の男女比は4:6。ほかとはかなり違うと思いますよ」(岩崎さん)。

もうひとつは「ほかに比べてぐっと低価格にした」ことだ。

株式会社イージェイ代表取締役・岩崎亘さん。1983年静岡県生まれ。みかん農家の長男。早稲田大学商学部卒業後、リクルート、コンサル会社、農業法人を経て、独立。2015年コールドプレスジュースなどの製造販売をする「EJ JUICE&SOUP」を立ち上げる

コールドプレスジュースは、製法上、新鮮で味の良い野菜や果物が大量に必要となる。砂糖や香料で味をつけられないし、水も加えられないためだ。しかも日持ちしないため、工場などでの集中調理に向かない。結果として製造コストがあがり、たいてい1杯・1,000円前後というやや高めの価格帯がスタンダードだ。

しかし、同社ではこれを600~700円という、挑戦的な低価格に設定した。

「1杯1,000円だと、お客様を選んでしまうし、『たまに飲む流行りの飲み物』というイメージになって、ブームで終わる可能性も高い。もう少し気軽に、毎日のように飲んでもらうためには、やはり値段は落としたかった」(岩崎さん)。

もちろん質を落としたわけじゃない。繰り返しになるが、コールドプレスジュースは、砂糖や香料などを入れないため、素材の味がダイレクトに出る。コストを下げようとして鮮度の低い野菜や味の悪い果物を使ったら、ダイレクトにまずくなるからだ。

そこで腕のいい生産者と直接取り引きして、質を担保。さらに管理栄養士や野菜ソムリエに監修を依頼してメニューを考案した。たとえばりんご、ビーツ、ニンジン、柑橘などを配合した「消化促進・二日酔い対策が期待できる」などと銘打ち、現代人の多くが抱える健康に関する悩みや不安を解消してくれそうな“課題解決型”のジュースとして提供した。

結果、ヘルシーで美味しいジュースが、どこよりリーズナブルに飲める同店は、ねらい通り、近隣のビジネスパーソンの心をとらえた。

日課として出勤前に一杯飲んでいく50代のビジネスマン。ランチ代わりに買っていくOLなどが後を絶たない。また渋谷と京橋にも間借りのスタイルではあるが店舗を増やし、じわじわと拡大中だ。

「売り物にならないミカンを何とかしたい」

それにしても気になるのは、どうして新鮮で質の高い野菜と果物をリーズナブルに提供できたるのか? ということだろう。

秘密は、材料の“形”にある。

「実はうちで使っているりんごも、ミカンも、クレソンも小松菜も…すべて“規格外”ではじかれたもの。形が不揃いで、スーパーや八百屋で売られない野菜や果物を使っているんですよ」(岩崎さん)。

「EJ JUICE&SOUP」の人気商品「DAILY NUTRITION 1/2」。ビタミンCやカルシウム、鉄など、不足しがちな栄養素が、1日必要分の約1/2摂れるすぐれもの。内容量の3倍の生産野菜&果物から絞られている

規格外の野菜や果物で、リーズナブルなコールドプレスジュースをつくる――。

「EJ JUICE&SOUP」の今に繋がる起点は、岩崎さんの出自にあった。実家が、静岡のミカン農家。子供の頃から収穫などを手伝い、寒い冬の時期に、高い木に登ってミカンをとった。

「これがキツくって。だから長男でしたけど、まったく継ぐ気もなくて、大学も農学部などには見向きもせず、商学部を選びました」(岩崎さん)。

しかし、その商学部で3年になる頃、あらためて「家業=農業」と向き合うことになる。 入りたかったゼミが人気教授のマーケティングゼミだった。ゼミ面接で勝ち残るため、岩崎さんは「ここでも差別化をはかった」という。

「『ミカン農家の長男で、日本の1次産業の未来を憂いている。マーケティングの力で変えたい! 実家のミカンを新たな形でビジネスにしたい!』と。まあ当時は口からでまかせで訴えたのですが(笑)。それがやたらにウケて、ゼミ生になれたんです」(岩崎さん)。

かくして口からでまかせは、取り組まざるを得ない研究課題となった。そして、岩崎さんは、このときに改めてミカン農家の実態を、父にヒアリング。JAとのしがらみや非効率な生産体制など、山積みだった農業がかかえる課題に、あらためて気づかされた。

「中でも最も衝撃的だったのが“規格外農産物”だったんですよね」(岩崎さん)。

形が悪い。サイズが違う。色みがダメ――。味は変わらないのに流通からはじかれるミカンが、全収穫量の約3割にも及ぶことをこのときはじめて知った。

「形になんてこだわらない消費者もいるんじゃないないのか……」。

丹精込めてミカンをつくる父の横顔を見続け、また収穫の苦労を少年時代から体感していただけに、ことさらショックだったわけだ。

「もちろん一部には規格外農産物を、ジャムなどの加工品にして売る意識の高い人もいる。けれどうちの父も含めて、コストも手間もかけたくないから、二束三文で農協に出したり、人にあげたり、廃棄するケースがほとんどでした。しかし、この規格外品にうまく価値を付けられれば、もっと売上、利益が安定する。農家が抱えている問題の多くの解決にもつながるのに……と思って」(岩崎さん)。

以来、岩崎さんは、“規格外農産物”の新たな流通、あるいはビジネスモデルの構築がライフワークになった。もともと起業意識が高かったため、大学卒業後はまず起業家を多く排出するリクルートに就職。その後、中小企業を多く顧客に持つコンサル会社に転職したあとも、ずっと頭の片隅にひっかかっていた。

「実家を離れて東京で別の仕事をする農家の子どもが『何か実家の手伝いができないか』と考える“セガレ”というサークルに参加したりもしましたね。そこで同じく規格外農産物に問題意識を持つ人は多かった。けれど、『ECでそれを安く売ろうとしても安定供給できないし、配送コストばかりかかるよね』という結論になった」(岩崎さん)。

ブレイクスルーとなったのは、20代後半で千葉の農業ベンチャー企業に転職したこと。産直野菜の販路を自ら広げると同時に、レストランやバーベキュー、貸し農園と宿泊施設をあわせた農園リゾートなど、農業に新たな付加価値をつけて注目される企業。1次産業に、2次産業、3次産業の要素をかけあわせる、いわゆる「6次産業」のパイオニアと称されていた。

自らうまく付加価値をつけることで農業が十分、売上利益を出せることを実感したそうだ。そして、規格外野菜に、どんな付加価値をつけられるかどうかと考えていた矢先……「コールドプレスジュース」の人気が日本で出始めた。

圧搾という手間のかかる製法。だからこそ、高い栄養素が摂れるジュースをみて「これだ!」と飛びついた。

「これなら形なんてどうでもいいじゃないか! と。しかも加熱殺菌などできない商品だから工場で大量生産できない。ようは大手が参入しづらい。僕らのように小さくスタートアップ企業を立ち上げるのにぴったりだと思った。つまり、規格外農産物を6次産業にするには、コールドプレスジュースは最適な商材だと考えたわけです」(岩崎さん)。

起業、そして農家とのフェアな取引

そこで友人と二人で独立。ほかとの差別化から、「忙しいビジネスパーソンの健康をサポートするジュース」というコンセプトを導き出した。そして、コールドプレスジュースの機械を特注で製造し、麹町で「EJ JUICE&SOUP」を立ち上げた、というわけだ。

「ブランド名は『手軽に楽しく心地よく健康的な生活をしてもらいたい』という意味をこめて『イージー』や『エンジョイ』を想起させるアルファベットにしました」(岩崎さん)。

「EJ JUICE&SOUP」に野菜や果物をおろしているの生産者の方たち。しっかりとサイト上で紹介して、顔が見えるジュースになっている

材料はもちろん、規格外または無選別(農家は規格に選別する手間が省ける)の野菜や果物にした。ルートは、前職のベンチャー農業法人時代に培ったネットワークや、農家の子どものサークル「セガレ」で知り合った知人たち。もちろん、実家の父親のミカンも仕入れている。こうした幅広いネットワークをすでに持っていたことが、規格外農産物を、安定して仕入れられているポイントというわけだ。

「規格外農産物は巷であまり流通していないだけに産地と繋がる必要がある。実家含めて、こうした農家の人たちとの繋がりを持てていたことが大きな強みになりましたね」(岩崎さん)。

仕入れには、もうひとつ大事なポイントがあるという。規格外農産物とはいえ、“フェアな価格で仕入れる”ということだ。

「もともと二束三文だったんだから、とにかく安く譲ってくれ」では、生産者が不満を持つのは当然だ。もちろん、正規品に比べれば安価だが、岩崎さんは生産者にもしっかり利益が出るような値付けにこだわり仕入れている。

「そもそも生産者側目線でスタートしたビジネスで、ライフワークですからね。当然です。それでもエンドユーザーの方々には、十分にほかより安く、質の高いジュースを提供できますから」(岩崎さん)。

フェアな取引は「EJ JUICE&SOUP」のブランド力を高めることにも繋がった。

「あそこは規格外農産物を適正価格で仕入れてくれる」「新しい付加価値をつけてくれる」と、生産者から信頼をよせられるようになった。結果として、質の高い材料が多く集まり、商品の安定供給をさらに支えると同時に、新たな仕入先の手もあがりやすくなり、商品バラエティを増やすことにも繋がっている。

こうして魅力を増しながら、「EJ JUICE&SOUP」は立ち上げから2年半になる規格外農産物を価値あるものに作り替え、また多くのビジネスパーソンの健康をカジュアルにフォローし続けている。またいまは規格外農産物を使った、ジュース以外の業態も画策中だという。

「規格外農産物に付加価値をつける方法はまだまだあると思っているんです。僕らがしていることをベースにもっともっと生産者の方々を支援していけたらいいですね」(岩崎さん)。

農業とはこういうもの。飲食業なんだから、こうすべき。健康を欲するのはこんな層だ――。

“当たり前“から抜け出した先に、さまざまな課題の答えはあるのかもしれない。岩崎さんの着想と「EJ JUICE&SOUP」の成功をみて、そう感じた。ようするに、形になんてこだわらなくていいのだ。

進化を続ける観光列車、ローカル路線で活きる「短編成」戦略とは?

進化を続ける観光列車、ローカル路線で活きる「短編成」戦略とは?

2018.09.26

高級クルージングトレインとは異なる観光列車

個人旅行の活況に沿った新たな魅力を提案

ローリスクを狙った各社戦略と、地元利害が一致

国鉄末期からJRの初期にかけて、「ジョイフルトレイン」と通称された観光向けの特別な仕様の車両が数多く登場した。昭和40年代から走り人気があった「お座敷列車」の発展のような形で、2~6両程度の1編成を1つの団体で貸し切って旅行してもらうというのが、基本的な販売方法である。

しかし、バブル景気の崩壊を経て約30年が経過した今日では、こうしたスタイルの団体専用車両は、大半が姿を消してしまった。代わって人気を得ているのが、「ななつ星in九州」「TRAIN SUITE 四季島」「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の3本がある超ハイクラスの「クルージングトレイン」。そして2~3両程度の短い編成で、家族連れや小グループを主な対象とした、貸切ではない観光列車である。

いずれも、風光明媚な車窓風景や特徴のある沿線のグルメなどがアピールポイントだが、短編成の観光列車は、リーズナブルな値段かつ予約方法を簡便にして、誰でも気軽に乗車できることも特徴としている。社員旅行のように数カ月前から旅行代理店に手配を依頼する大規模な団体旅行がすたれ、思い立ったら吉日とばかりに出かける個人旅行が主流となった、大きな時代の流れに沿った施策だ。

こうした施策の実例を、2018年7月1日に最新の観光列車「あめつち」をデビューさせたJR西日本を例にみていこう。JR東日本の観光列車(例えば「フルーティア」)のように、個人でも申し込める、旅行代理店が販売する旅行商品(ツアー)の形を取っている会社もあるが、JR西日本では基本的に駅の窓口で乗車券と指定席券を購入すれば、簡単に観光列車に乗ることができる。

7月1日に運転を開始したばかりのJR西日本最新の観光列車「あめつち」
観光列車にふさわしいよう、完全に刷新された「あめつち」の車内

安くつくれる、既存車改造の観光列車

JR西日本に限らず、各地の観光列車は既存の車両を改造したものがほとんどである。一から新製した方が自由が効き、さまざまなアイデアの実現に対する制約も少なくなるが、そういう例は限られる。

実際に、独創的な設備を備える「クルージングトレイン」は、各社とも完全新製車だ。ただ、これは1人あたり数十万~100万円以上もの旅行料金を収受できる列車だからこそ、できること。鉄道車両を新製する場合、1両あたり一般的な車両で2億円ほど。特殊装備を持つ車両だと3億円やそれ以上かかる。投資の回収という意味で、新製は難しいのだ。

これが改造車だと車体やエンジン、台車といった、初期費用が大きくかかる部分をそのまま利用できる。インテリアや車内設備の刷新には、実はさほどの費用がかからない。家の新築とリフォームの違いと同じことだ。

JR西日本の観光列車は、2005年に呉線広島~三原間に登場した「瀬戸内マリンビュー」に始まり、2007年の山陰本線「みすゞ潮騒(現在の『○○のはなし』)」、2014年の七尾線「花嫁のれん」、2015年の城端・氷見線の「ベル・モンターニュ・エ・メール」と、キハ40系気動車(ディーゼルカー)を改造したものが、かなりの割合を占める。編成はいずれも1両ないし2両だ。

「あめつち」「○○のはなし」などの原形であるキハ47形気動車
萩など、山口県の日本海側の観光地と山陽新幹線新下関駅を結んで走る「○○のはなし」。「みすゞ潮騒」からの再改造車だ

鳥取~出雲市間を走る「あめつち」も2両編成で、キハ40系に属するキハ47形をリニューアルしたもの。改造の要点は、一部の乗降扉を埋めて室内スペースを広げ、内装を全面リフレッシュ。座席はゆったりした2・4人掛けシートと海側(宍道湖側)を向いた1人掛けシートに交換し、そのほか、販売・供食用のカウンターの設置、最新式トイレへの更新といったところだ。車内を見る限り、原形を想像することは難しい。

たがしかし、窓はほとんど改造されておらず、冷房装置も流用されている。原形と詳細に比べてみると、大規模な車体の変更が避けられているのがわかる。

ほかの観光列車もおおむね、こういう方針で改造されている。「○○のはなし」のように窓を大型化して眺望を改善したものや、「花嫁のれん」のように前面を大きく改造しイメージを変えた例もあるが、基本的にどれもキハ40系の面影は強く残っている。

こうした方針を採る理由はまず気軽に乗車してもらうため、特急の普通車指定席(「花嫁のれん」)や、快速のグリーン車(「あめつち」)あるいは普通車指定席(「○○のはなし」など)として、座席を販売していることがある。例えば、「あめつち」に鳥取~出雲市間で乗車するならば、運賃2,590円に普通列車用グリーン料金1,950円をプラスするだけでよい。つまりは初期投資は押さえ、その分、安く販売しようということなのだ。

ただし「ちょっと豪華な車両」というだけではアピールに欠けるため、地元企業・商店の協力を得て、地域性が感じられる料理やスイーツなどを、予約制で提供している例が多い。これらは本格的なコース料理でもなく、デラックスな駅弁という感じだ。値段も「休日のちょっとしたおでかけ」にふさわしいものとしている。

多くの観光列車の車内では、食事やティータイムが楽しめる。「あめつち」のスイーツセット

短期的なマーケティングか

「あめつち」などの改造種車となったキハ40系は、1977~1982年に国鉄が新製した気動車。すでにデビュー後、35~40年程度が経過している。鉄道車両の寿命は十分な補修を加えても40~50年程度とされているので、キハ40系改造の観光列車は実はそれほど長い期間、走ることは想定されていないと考えられる。せいぜいあと10年程度だろうか。

けれども観光客の嗜好は、もっと短いタームで変化してもおかしくはない。長く使っていると「時代遅れ」になる可能性はむしろ高い。

ならば、短期間で廃車にしても惜しくはない、減価償却も終わった車両を安く、かつ徹底的に改造するのが得策ということになる。飽きられたら、また新しいタイプの観光列車をつくって取り換えればよいという考え方だ。

既存車を改造すると、乗務員やメンテナンス担当職員にとっても、見た目は違っても扱い慣れた車両であるメリットがある。また単線区間が多いローカル路線では、元をただせば同じ、という車両が使われている快速や普通列車などと連結して運転すれば、ダイヤ編成上も楽になる。「フルーティア」が例である。

JR東日本の「フルーティア」(手前2両)は東北のフルーツが楽しめる列車。写真は快速列車と連結された姿

数はわずかでも、目新しい車両は話題にもなり、観光的なアピール度も高い。経営的には古い車両の改造でしかつくれなくても、地元観光業界にとってはありがたい存在にもなるだろう。ローカル路線の利用客増にもつながる。ローリスク・ハイリターンを狙ったJR各社の戦略と、地元の利害が一致した現れが各地で花盛りの観光列車といえる。

ゴンチャに日本独自メニューが登場 既存客層「以上」にリーチなるか

ゴンチャに日本独自メニューが登場 既存客層「以上」にリーチなるか

2018.09.26

台湾ティーカフェ「ゴンチャ」に日本オリジナルメニューが登場

独自に開発した「ほうじ茶のミルクティー」で客層の広がり狙う

既存店と同数を翌年に出店し、店舗網の拡大も

近年、台湾発のカフェがにぎわい、タピオカ入りミルクティーをはじめとした茶飲料が人気を集めている。

中でも若年層からの強い支持を受けているのが、台湾発祥のグローバルカフェチェーン「ゴンチャ」。日本への出店は他国と比較して後発となったが、2020年までに100店舗という目標を掲げ急拡大している。

このほど、ゴンチャは進出3周年を記念し、オリジナルの日本茶を国内の茶問屋と開発し、9月26日よりメニューに加えた。「台湾の茶」にこだわる同ブランドが、国産のオリジナルメニューに着手した理由とは。

日本独自メニューは「ほうじ茶 ミルクティー」

日本の茶、と言っても種類はさまざま。今回、ゴンチャが静岡の茶問屋・マルニ茶藤と開発したのは「ほうじ茶」だった。この新しい茶葉は、期間限定メニュー「ほうじ茶 ミルクティー」として提供される。

価格はSサイズ420円、Mサイズ470円、Lサイズ570円。既存ラインアップと比較すると「基本メニューより数十円高いが、スムージーよりは安価」という立ち位置にある。

同社の開いた試飲会で提供された「ほうじ茶 ミルクティー」。同日より"復刻"するトッピング「あずき」が追加されたもので、和を全面に押し出した構成だ

飲んでみると、ミルクと合わせてもほうじ茶の味わいが色濃く感じられ、既存商品とは違う口当たり。自宅やペット飲料で飲む"ストレート"のほうじ茶と比較して濃厚で、香りに華やかさがあり、渋みもなく飲みやすい。

ほうじ茶を決め打ちで開発したのではなく、煎茶、玉露、和紅茶、玄米茶、ほうじ茶で検討を開始し、ほうじ茶に決定した後も15種の茶葉、300のブレンドで試作が行われた。ちなみに、既存メニューの抹茶 ミルクティーはグローバルメニューのため、こうして日本での提供のためだけに開発された茶葉は初めてとなる。

ゴンチャ ジャパン 取締役社長兼COOの葛目良輔氏(左)、マルニ茶藤 加藤重樹代表取締役(右)

ゴンチャ ジャパン 取締役社長兼COOの葛目良輔氏によれば、ほうじ茶を選択した理由は、「ほうじ茶が、近年デザート類のフレーバーで高い支持を得ていること」、「試作した他の種類に比べて、求める風味に一番近いのがほうじ茶だったこと」の2点にあったという。

確かに、ほうじ茶をベースにしたスターバックスのフラペチーノをはじめ、パフェやケーキなどにもほうじ茶を使ったものはあり、抹茶に次ぐフレーバーとして定着してきた感がある。

また、既存の茶葉はミルクティー・ストレートティーいずれでも選択できるが、ほうじ茶に関してはアイスのミルクティーでメニューが固定されている。これは、「自信を持って提供できる状態」がこのメニューであったため。

ゴンチャでは今回の限定メニューやスムージーなど一部を除き、茶葉の種類や氷の量、甘さなどをカスタマイズできる自由度を持ち味のひとつとしている。グラフ下部の四角い枠内の数字は、注文全体においてどの選択肢が選ばれたかというパーセンテージだ

その裏には、ミルクティーが注文の7割を占める人気という状況もある。「提供時期はホット・アイスどちらもご提供可能な季節ですが、アイスの仕上がりに自信があったので、アイスに絞って提供したいと考えた」(葛目COO)

外食で「茶」はまだ伸びる

試飲会の中では、コーヒーではなく茶を主軸とした「ティーカフェ市場」のポテンシャルについて、葛目COOのプレゼンテーションが行われた。

カフェ市場の規模と提供形態の割合

現在のカフェ市場の39パーセント、4000億円強がセルフサービス型コーヒーショップであるが、紅茶などのティーメニューの認知度はきわめて低い状況にある。

同社では、「ティーカフェ市場」のポテンシャルは1800億円に届くと予想

それに反して、「お茶」というカテゴリはペット飲料や茶葉含め市場規模が大きい。外食での提供機会がまだ少ないため、「ティーカフェ市場」には現在の3~6杯の市場機会があると考えている、と葛目COOは語った。同社の経営理念については、本誌が行った葛目COOのインタビューに掲載しているので、こちらを参照してほしい。

2018年の出店予定

続々と進めている出店について、2018年中にさらに店舗数を伸ばし、年末の段階では23店舗となることを発表。2019年は新たに約30店舗を出店予定で、既存店と同数を翌年に出店するような想定で伸ばしていく想定だという。

既存客層「以上」にもリーチ狙う

同社はターゲット層を「20代の女性」と設定しており、実際に店頭に列を成す人たちを見ると若い女性が中心。赤いストローの刺さった容器を持って飲み歩く姿を見ると、ゴンチャでの喫茶は若者のトレンド、という印象を受ける。一方、取材する側の記者にその年代はほぼいないため、現在の人気についての質問が相次いだ。

中でも、現在の客層より上の世代の支持の有無について質問を受けた葛目氏は、「若年女性に支持いただいている反面、それ以上の年齢層の方にとって遠い存在であることも事実と受け止めている。しかし、住宅地、ビジネスエリアの店舗では(客層は)その限りではなく、男性の来店者も全体の3割まで増えている」とコメントした。

今回開発されたほうじ茶の茶葉。収穫時期が最も早く、高品質な一番茶にカブセ茎茶をブレンドした。

今回リリースしたほうじ茶は「全年齢にリーチしやすい商材」のため、この新メニューで客層を広げていきたいと抱負を語った。

台湾発祥のティーカフェが新たに開発した「日本茶」メニュー。ほうじ茶に関して、反応次第で定番化も検討ということだが、葛目氏は今回見送ったその他の種類の茶葉についても、開発の意向をのぞかせていた。

ほうじ茶しかり、長く親しまれてきた日本茶は、客層拡大に寄与する可能性がある。台湾文化であるティーカフェが日本独自に広がっていく可能性について、今後も注視していきたい。