【森永製菓】買収後に成長した「ステラおばさん」 不採算事業の整理も加速

【森永製菓】買収後に成長した「ステラおばさん」 不採算事業の整理も加速

2017.01.27

【森永製菓】買収後に成長した「ステラおばさん」 不採算事業の整理も加速

 森永製菓は食品業界の中でもM&Aに積極的な会社ではない。しかし数少ない買収案件である「ステラおばさんのクッキー」を手がけるアントステラを2008年に買収。現在も着実に成長している。一方で食料品卸売事業ではM&Aで不採算部門の切り出しを進める。

【会社概要】

 森永製菓<2201>は、おいしく、たのしく、すこやかに をコーポレートビジョンとし、「ハイチュウ」や「ミルクキャラメル」と共に親しみ深いエンゼルマークをシンボルとした、お菓子メーカーである。創業者の森永太一郎がアメリカから帰国し、日本に西洋菓子を普及させるべく、約2坪の工場からスタートした事業は、現在国内企業を牽引する製菓会社グループへと飛躍を遂げている。

 なじみ深い黄色いパッケージのミルクキャラメルは1914年発売、茶色いパッケージに包まれた板チョコ、ミルクチョコレートも1918年発売とまさに世代を超えて愛される超ロングヒット商品で、大人から子供まで老若男女問わず愛される商品を提供し続けている。

 うち、食料品製造事業が売上高構成比の95.5%を占めており、現在は菓子事業、食品事業、冷菓事業そしてウイダーインゼリーなどのウイダー事業、ヘルスケア事業の5つの事業を軸に展開している。

図 森永製菓 セグメント別売上高構成比

平成29年3月期第2四半期決算説明会より作成

森永製菓の沿革と主なM&A
年月 出来事
1899年 東京・赤坂に西洋菓子製造所を創設。「森永商店」と称する
1910年2月 株式会社へ組織変更。株式会社森永商店を設立
1912年11月 「森永製菓株式会社」に改称
1920年7月 日本煉乳を合併
1942年10月 森永乳業、森永食品工業、東海製菓、森永関西牛乳を合併
1943年11月 「森永食糧工業株式会社」に改称
1949年4月 森永乳業設立
5月 東京・大阪・名古屋証券取引所に上場
10月 乳業部門を分離し、森永乳業に譲渡。「森永製菓株式会社」に復称
1954年7月 売店部門を分離し、森永キャンデーストア(1987年レストラン森永に社名変更)として発足
1969年8月 当社と米国ゼネラルミルズ社との合弁で森永ゼネラルミルズを設立(現・森永スナック食品、連結子会社)
2001年1月 福徳長酒類を合同酒精(現オノエングループ)へ譲渡
2003年7月 レストラン森永より営業権を譲り受け、エンゼルフードシステムズを設⽴
2004年12月 レストラン事業撤退。エンゼルフードシステムズをあかつきビーピー(現ヴィア・ホールディングス)へ譲渡
2008年1月 アントステラ(現・連結子会社)を100%子会社に持つディューアソシエイツの株式を全株取得(同年10月アントステラがディューアソシエイツを吸収合併)
2010年11月 子会社のサンライズ(アイスクリーム卸)を国分へ譲渡
2011年5月 子会社の森永フードサービス(給食事業)を西洋フードシステムへ譲渡

【M&Aその1】不採算の飲食事業を撤退

 森永製菓のM&Aは、ある程度事業体を広げた後、事業の再編を目的としたものから始まる。

 エンゼルフードシステムズは、中華イタリアンや南欧風家庭料理等のカフェ形態の店舗約90店舗を保有している売上約73億円の子会社であった。譲渡金額は3億9千万円。事業セグメントとしては「食料卸売及び飲食店事業」にあたり、この売却に伴い飲食店事業は撤退となった。

 当時の決算短信の当該セグメントを表にした。

食料品卸売及び飲食店 2004/3 2005/3 変化
外部売上高 23,536 21,205 ▲ 2,331
内部売上高 1,179 1,288 109
24,715 22,493 ▲ 2,222
営業利益 19 264 245
資産 7,776 4,921 ▲ 2,855
減価償却 199 124 ▲ 75
資本的支出 146 143 ▲ 3
単位百万円。▲は減少。決算短信より作成

 短信によれば、卸売の業績が好調であったという。これにより、本来であれば抜けたエンゼルフードシステムズの売上73億円が減収となるはずが、2005年3月期のセグメント売上高は 約212億円となり前年度の約235億円と比較すると約10%近くのみの減収で抑えることが出来た。むしろ一方で営業利益は2億6400万円と前連結会計年度に比べ2億4500万円の増益となっている点をみると、恐らく飲食事業の利益率が低迷し、卸売の高利益率の足を引っ張っていたものと推察できる。

 セグメント資産は約77億円(2004年3月期)から約49億円(2005年3月期)となっており、恐らく3億9千万円という譲渡額は、廉価での事業切り出しであったと推察できる。

 結論からするとこのM&Aはいわゆる「不採算部門の撤退」と評することができるだろう。

【M&Aその2】ステラおばさんのクッキーを買収 菓子事業を強化

 今度は森永製菓が買収側となる案件をみてみよう。

 2008年1月、「ステラおばさんのクッキー」として知名度が高い株式会社アントステラを100%子会社に持つ、株式会社ディューアソシエイツを買収した。アントステラは当時から、有名百貨店や全国駅構内に60店舗以上展開している知名度の高い企業であり。財務内容としても、売上高41億円、営業利益2億円という堅調な売上推移をしていた。

 森永の買収目的としては、①直販事業への進出 ②アントステラ他のブランド力を生かした、製品ラインナップの増加による菓子事業の強化 が挙げられる。

 アントステラが属する食料品製造部門の推移を追ってみた。 なお食料品製造部門には「ハイチュウ」や「ミルクキャラメル」など森永製菓の主力商品が含まれているため、アントステラ単独での状況や実際にシナジー効果が発揮されたのかについては、言及することができない。

図 食料品製造部門の推移

単位:百万円。短信決算より作成

 アントステラの菓子商品は、「ステラおばさん」ブランドでチョコチップクッキー、バターガレット、マカダミアナッツクッキー、アーモンドココアクッキーなどを販売している。ローソンで販売されているオリジナルブランドのチョコチップクッキーも、アントステラの製造のものであるとローソン側のホームページにて告知されていることから、他社ブランドによるOEM生産も請け負っているものと思われる。

 引き受け時の従業員数が約130人(公表時)であったのに対し、現在のアントステラのホームぺージによると約1000人となっている。実店舗も毎年度スクラップアンドビルドを繰り返し、微増の約70店舗となっている。

 以上のことを鑑みると、アントステラは同社グループ内でも着実に存在を示し、企業価値を伸ばしているのではと推察できる。

【M&Aその3】アイスクリーム卸売子会社を売却 大幅減収も増益に

 続いて森永製菓は、2010年9月にアイスクリームの卸売をしている子会社のサンライズを酒・食料品卸大手の国分に譲渡した。譲渡時のサンライズの売上高は約85億円。エンゼルフードシステムズと同じく食料品卸売及び飲食店セグメントに区分されている。

食料品卸売及び飲食店 2010/3 2011/3 変化
外部売上高 20,478 17,112 ▲ 3,366
内部売上高 1,231 1,038 ▲ 193
21,710 18,151 ▲ 3,559
営業利益 321 350 29
資産 6,219 4,455 ▲ 1,764
減価償却 68 65 ▲ 3
資本的支出 20 215 195
単位百万円。▲は減少。決算短信より作成

 およそ36億円の大幅な売上減少となっているが、それに反し営業利益は増益となっている。譲渡理由は、「経営資源の集中及びグループ再構築推進」と公表しており、こちらも「不採算部門の撤退」であると思われる。

 2011年5月には、給食事業、レストラン事業、売店事業を行っていた森永フードサービスを西洋フード・コンパスグループに譲渡した。

 森永フードサービスは、1960年創業とグループ会社の中でも設立が古い会社である。しかし「経営資源の集中及びグループ再構築推進」を目的として、西洋フードに譲渡した。

食料品卸売及び飲食店 2011/3 2012/3 変化
外部売上高 17,112 8,762 ▲ 8,350
内部売上高 1,038 615 ▲ 423
18,151 9,377 ▲ 8,774
営業利益 350 304 ▲ 46
資産 4,455 4,153 ▲ 302
減価償却 65 16 ▲ 49
資本的支出 215 26 ▲ 189
単位百万円。▲は減少。決算短信より作成

 食料卸売事業は減少傾向が続いており、森永製菓が譲渡した3件は全て、「食料品卸売及び飲食店セグメント」に区分され、同社は本セグメントにつき事業整理を行っていたものと推察される。

【総括】国内で買収の必要性薄く、海外M&Aに期待

 森永製菓自身はそこまでM&Aによる買収に積極的に取り組んでいる会社とは言えない。しかし「アントステラ」のような、誰が見てもシナジーを生み出すことが想定できる堅実な取り組みをしていると評価できる。

 同業の江崎グリコもあまり積極的な買収には取り組んでおらず、総じてみると菓子メーカー業界として取り組む必然性が薄い可能性も示唆できる。森永製菓はむしろ、不採算部門について積極的に切り出しを行っており、健全な財務体質を維持すべく努力をしている。

 近年の動きを見ると、海外拠点を構えたりしており、目線が海外へと向いている。海外ブランドのライセンス取得や生産拠点の取得などの買収はあり得るだろう。期待を込めて今後のM&A動向を見守りたい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。