構造改革にメド、

構造改革にメド、"現場主義"のリコー次期社長のミッションとは?

2017.01.27

リコーは、2017年4月1日付で、代表取締役社長執行役員に、山下良則取締役副社長執行役員が就任するトップ人事を発表した。1月26日に行われた取締役会で決議した。現社長の三浦善司氏は、3月31日付で取締役を退任し、特別顧問に就任する。また、現代表取締役会長の近藤史朗氏は、代表権のない取締役会長となり、取締役会議長には稲葉延雄氏が就任する。

モノづくり部門出身の山下良則次期社長

社長に就任する山下良則氏は、1957年8月、兵庫県加西市出身の59歳。1980年3月、広島大学工学部卒後、同年4月にリコーに入社。2008年4月にRicoh Electronics, Inc.社長に就任。2010年4月にグループ執行役員、2011年4月に、リコー常務執行役員および総合経営企画室長を経て、2012年6月に取締役に就任し、専務執行役員にも。2013年4月に内部統制担当、2014年4月にビジネスソリューションズ事業本部長、2015年4月に基盤事業担当、2016年6月に副社長執行役員に就任していた。

会見に臨むリコーの山下良則次期社長

山下次期社長は、「常識や前例にとらわれず、リコーを再起動していきたい」と発言。「プリンティング事業の再構築」、「生産性改革、働き方改革」、「スピード経営と未来人財の育成」の3点に力を注ぐ方針を示した。

具体的な業績目標については、社長就任後の2017年4月以降に、新たな中期経営計画とともに説明するとしたが、「優先するのは増益。これは確実に進めたい。それにより次への投資が可能になる」とした。

三愛精神とお客様ファースト

山下次期社長は会見において、創業者の市村清氏が打ち出した「三愛精神」について言及。この姿勢がリコーの事業を拡大してきたグループの礎と位置づける一方、「経営の原理原則は、お客様ファーストである。常にお客様を中心において、顧客に感動してもらう製品を追求するところにイノベーションが生まれ、新たな市場が創造できると考えている」とし、自らがモノづくり部門を担当してきた経験をもとにした考え方を示した。

また、「問題は現場で起こっている。その答えも現場にある。会議室では解決できない。これまでと同じように、自ら現場で、現物を確認して、現実を認識して、問題の本質を捉えていく。これからも現場を大切にする会社でありたい」などと述べた。

3つの柱のひとつである「プリンティング事業の再構築」では、「収益拡大を狙う攻めの戦略を展開したい」とし、「マーケットシェアを重視した、モノづくりを自前でやるといった、これまでの常識や前提をとらわれず、規模重視から付加価値重視への戦略上の大転換を行う。収益力強化という観点からゼロベースで考えたい。また、プリンティング技術が応用できる範囲を増やしたい。プリンティング技術は、プリンタ、複合機に留まらず、産業領域や3Dプリンティング領域にも応用されている。印刷材料は、トナーやインクだけでなく、金属や人の細胞にまで可能性は広がっていくことになる。Print to Everything、プリンティング・ルネッサンスを打ち出し、オフィス以外、紙以外にもプリンティング領域を拡大したい」とした。

社長就任会見で、こうした新たなメッセージを明確に打ち出す新社長もあまりの例がないといえよう。

さらに、「リコーには、全世界130万社で、400万台が利用されている。こうした顧客基盤を生かして、従来にない高付加価値の製品を投入したい。リコーらしいデバイスで、キャプチャーした情報で予測し、これを有用な情報として提供したい。それにより、より速く、的確な意思決定を行い、経営スピードをあげる創造インフラをつくりたいと考えている。リコーが持つプリンティング技術と屈指の顧客基盤を生かしたい」とした。

企業の宝は社員のモチベーション

「生産性改革、働き方改革」では、十分な利益確保に向けて、生産性改革、働き方改革を社員全体でやる姿勢を強調。「オペレーションスルーの観点から、ゼロベースでの生産性改革とともに、コスト構造の見直しを行っていく。リコー自らが働き方改革のリーダー企業として、これを実践し、製品にも反映していく」と述べた。

また、「スピード経営と未来人財の育成」では、「顧客の課題は刻々と変わっている。これまでの上意下達の体制ではなく、意思決定機能を顧客に近いところに持って行くことが大切である。効率的に動ける事業単位に分けて、意思決定を迅速化し、グローバル事業責任者には、経営者と同じ資質を求め、地域ごとの事業推進者には未来の経営幹部候補を登用する。経営陣には、性別、国籍は問わずに幹部に登用したい」と述べた。

さらに、「企業の宝は社員のモチベーションである。これは三愛精神である。企業の成長はシステムではなく、社員の高い志によって実現する。リコーグループの社員一人一人が学びながら、自己変革を通じて、会社を変えてくれると考えている。そして、その場を提供するのが経営者の重要な役割である。先頭に立って、リコーの目指す方向を示し、輝ける会社にすることを約束したい」とした。

一方で、山下次期社長は、「リコーは、組織が大きくなり、意思決定のスピードが遅くなっていたという反省がある。私自身、社長就任後、全社員となんらかの方法を使ってコミュニケーションを取りたい」と述べた。

近藤社長「山下氏は、はっきりモノを言う人物」と評価

近藤会長は、山下氏を次期社長に指名した理由として、「明るくて、生意気である点を評価した。はっきりとモノを言う人物であり、自分の意思を伝えてくる。長年見て、しっかりとした経営者になると感じていた。米国、英国に駐在し、リコーのほぼすべての領域を担当しており、そこで成果を出してきたことが大きい」とし、「私が、リコー全体の70%の売上高を担当していた大事業部長だったときに、英国を担当していた山下氏が、怒りのメールを送ってきたことがあった。デジタル複写機のオプションが数多くあり、現場が困っていたことを指摘するものであった。その後、工場において、顧客先仕様(コンフィグレーション)を行う仕組みを構築してくれた」といったエピソードを披露した。

リコーの近藤史朗会長

これに対して、山下次期社長は、「会社がよくないときには、誰かが言わなくてはいけない。だから、生意気ではない」としたほか、「今後は、人の話をよく聞くことに注意したい」などとした。

一方で、近藤社長は、「会長は、技術、事業、人の見極めが大切な仕事である。たくさんのエンジニア、社員の心の拠り所になるような仕事をしたい」などとした。

構造改革にメドついたタイミングで社長交代

都内で午後5時30分から行われた会見は、三浦社長が出席しない異例の形で行われたが、山下次期社長が「リーマンショック後の業績回復が進んでいない」と指摘したのに対して、「社長交代は、責任を取ったということではない」と近藤会長が説明。「三浦現社長は、2013年に社長に就任して以降、ビジュアルコミュニケーション、ITソリューションをはじめ、サービス事業の拡大に取り組み、プロダクションプリンティングおよび産業分野への本格的参入をリード。環境事業などの新規分野を拡大させ、新たな顧客価値を提供してきた。その一方で、オフィスにおける印刷ボリューム減少、社内外の経営環境の変化に備えた構造改革に着手。「その活動にも一定の目処がついたと判断し、来年度からスタートする第19次中期経営計画を新たな布陣で推進していくことにした」と語る。

また、「三浦社長は私と同い年であり、世代交代が必要だと考えた。経営のスピードをさらにあげていくことが必要であり、世代交代を早い時期にやらなくてはならないと考えた。交代には、タイミングがある。また、現体制の取り組みがひとつの節目を迎えたことでもある。新たな布陣で期待に応えたいと考えている」と述べた。

リコーは、2016年10月時点で、2017年3月期の業績見通しを下方修正しており、通期売上高は前年比9%減の2兆100億円、営業利益は61%減の400億円、当期純利益は同71%減の180億円の見通し。円高影響や景気減速などが影響。米国の複写機工場の閉鎖や、本社部門の人員削減などの構造改革に着手する方針を示していた。

三浦社長が経理畑出身であり、この4年間は、その視点からの改革に取り組んできたが、山下次期社長は、モノづくりの観点から改革に取り組むことになる。

3期連続の営業減益となるリコーは、新体制での反転攻勢が期待されるが、それに向けては、さらなる構造改革の実行に加えて、早急に新たな成長事業領域を創出する必要がある。また、山下次期社長が語るように、社員の意識改革も必要であろう。これまでの常識や前例にとらわれずに、リコーを再起動するという「山下改革」の実行が、どんなスピード感をもって実行されるのかに注目したい。

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

関連記事
【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

関連記事