原発の誤算と半導体分社化、復活かけた東芝の土俵際

原発の誤算と半導体分社化、復活かけた東芝の土俵際

2017.01.30

東芝は、2017年1月27日、同社本社において、半導体メモリ事業の分社化および原子力事業の見直しについて緊急会見を行った。

会見では、東芝の綱川智社長は、「今回、一度後戻りしたが、私は、東芝の再生を果たせると考えている。財務基盤を強化することから始めなくてはいけない」、「半導体メモリは、分社化しても注力事業であることに変わりはない」などと語るものの、「お宝」とも称された成長事業である半導体事業の分社化、そして、原子力事業を最注力事業から外すという決断は、同社の再生戦略の大きな転換を意味するものになる。

会見に臨む東芝の綱川智社長

不適切会計処理問題から始まった同社の屋台骨を揺らす激震はいまだに続いている。

2016年春の東芝メディカルシステムズの売却により、一度は債務超過を回避したものの、原子力事業に関する減損損失の発生により、再び、債務超過の可能性が生まれているからだ。不適切会計処理を発端にした東芝が創業以来迎えている最大の危機は、いつまで続くのだろうか。

半導体メモリ事業を分社化の方針

東芝によると、社内カンパニーであるストレージ&デバイスソリューション社の半導体メモリ事業(SSD事業を含み、イメージセンサ事業を除く)を、会社分割によって、2017年3月31日付けで分社化。20%未満の外部資本を導入することになる。

綱川社長は、「メモリ事業は、大規模な設備投資を適時に行うことが必要であり、迅速な経営判断が行える体制を整備することが必要。今回の決定は、資金調達手段の拡充を図り、事業の成長、企業価値の最大化を図るものであり、取締役会では満場一致で決定した」と説明した。

分社化後は、ストレージ&デバイスソリューション社の傘下に置くことを明らかにする一方で、ディスクリートやシステムLSI、ハードディスク事業は分社化の対象から外し、東芝本体で維持する。一方で、三重県四日市の四日市工場の新製造棟は、予定通りに2月に着工する考えを強調した。

新製造棟は予定通りに着工すると言ったが……

「平面NANDでは、年間2000億円規模の投資が必要だったが、3D NANDでは年間3000億円の投資が必要になる。そこに向けた投資が可能になる」と、会見に同席した成毛康雄副社長は語り、「20%未満という外部資本の出資比率は、東芝のなかでNAND事業が大事な事業であるという位置づけを継続したいという意味を持つ」と説明した。

こうしたメモリ事業の成長維持の手立てとして、今回の分社化を決断したと説明するが、外部資本を入れる事態にまで陥ったのは、メモリ事業そのものに課題があったわけではない。

本質的な問題は、東芝が、早急に資本増強をしなくてはならない立場に追い込まれている点にある。

綱川社長は、「今回の分社化は、メモリ事業の強化とともに、東芝の資本増強を実現することが、もうひとつの狙いである」と説明する。

原子力事業の誤算による影響

東芝は、原子力事業において財務戦略で大きくつまずいた。

東芝では、昨年末に、同社傘下の米ウェスチングハウスが、2015年末に米CB&Iから買収した建設子会社のCB&Iストーン・アンド・ウェブスターにおいて、のれんおよび損失計上が、数10億ドル(数1000億円)規模で発生することを発表している。

東芝の自己資本は、2016年9月末時点で、3632億円。上期業績見通しは、3回の上方修正を行い、通期見通しでも1度の上方修正を行い、2016年度上期には1153億円の当期純利益を確保するという好調ぶりを見せている。綱川社長も、「第2四半期以降も、原子力事業を除いて、メモリを中心に、業績は計画よりも好調に推移している」と語る。

だが、円高により外貨換算調整額が悪化し、株主資本比率は、2016年3月末に比べて1.4ポイントだけ改善した7.5%に留まっている。思うように財務体質を強化できていないのが実態だ。

そして、この自己資本の水準では、米子会社ののれんおよび損失によって、一気に債務超過に陥ってしまう可能性が捨てきれない。

「現在、影響額の確定に向けた作業を進めており、2月14日に予定している第3四半期決算発表の場において、影響額および当該事象発生の原因、再発防止策について説明する」と綱川社長は影響額については明言を避けたが、一部には、7000億円規模の減損損失が計上される可能性も指摘されている。

東芝は、2016年3月末にも、債務超過に陥る可能性があったが、東芝メディカルシステムズを、キヤノンに6655億円で売却。これによって、債務超過を回避した経緯がある。だが、1年を経過して、また同じ状況に陥っているのだ。

綱川社長は、「CB&Iの損失を認識して以降、今後の推移次第では、東芝の財務状況に影響を与える可能性があり、それを最小限にするために、取り得る現実的な施策を検討している。一昨年の会計処理問題以降、財務基盤が毀損したことへの対策として、メモリ事業の分社化も選択肢のひとつとして検討していた経緯もあり、今回、この事態を受けて、その検討を加速した。CB&Iの米国子会社買収におけるのれんの減損損失が、数1000億円規模になる可能性があり、3月末までに東芝グループの財務体質を強化する必要がある。メモリ事業の分社化においては、資本対策として、外部資本の導入を視野に入れた。限られた時間のなかでは、この分割方法が自然の流れである」と説明する。

成毛副社長

東芝メディカルシステムズは、綱川社長の出身母体であり、2016年春の優良事業の売却は、将来の東芝にとっては痛手となるのは明白だろう。そして、今回、もうひとつの優良事業であるメモリ事業に外部資本を入れるということは、東芝にとって、収益事業の切り売りといえなくもない。

外部資本の相手先については、「従業員、事業を強くすることを本質として、相手先と交渉したい」と綱川社長。成毛副社長も、「外資を含めて様々な可能性はあるが、これから募って、相手を吟味したい。金額については、参加する企業の評価に依存する。可能性のひとつとしてIPOもありうる」と述べた。

見直しを図る海外の原子力事業

一方で、今回の会見では、原子力事業に関する基本的な考え方についても説明した。

綱川社長は、「エネルギー事業は、社会インフラ事業とメモリ/ストレージ事業と並んで、当社の注力事業としている。この姿勢は変わらない。社会的な使命を果たせるように、引き続き注力事業とし、体制を維持強化していく姿勢には変わりがない」とするものの、「だが、原子力事業についてはエネルギー事業の最注力事業の位置づけを変える。国内では、再稼働、メンテナンス、廃炉を中心に事業を継続し、福島第一原発の処理もやりきり、社会的責任を果たす。一方で、海外事業は見直しを行う。原子力事業部門は、エネルギーシステムソリューション社から社長直属組織として独立させ、情報共有、意思決定の迅速化を図り、米国建設プロジェクトのコスト管理の徹底、ウェスチングハウスへのガバナンス強化を図る」とした。

東芝では、全世界で2029年までに64基の原子力発電を受注するという計画を掲げていたが、「受注の内容が変わってくることになる。建設まで含めて受注するのか、タービンなどの機器設備だけでやるのかといったことが変わってくることになる。いま建設に関わっているのは米国での4基だけ。これを見直すことで、基数は同じでも売上金額は下がるといった可能性がある。基数を含めて、中期経営計画のなかで明らかにしていく」とした。中期経営計画は、2016年度第3四半期決算が発表される2月14日に公表する考えだ。

会見場には、多数の報道関係者・アナリストがつめかけた

海外ではウェスチングハウスが約100基の設置ベースがあり、燃料供給やサービスを提供するが、「新規受注は、今後考え直す」と述べたほか、「ウェスチングハウスを継続保有していくのかどうかも含めて、2月14日に説明する」として、原子力事業の事実上の縮小を示唆した。

東芝の業績回復には課題が山積

原子力事業が、メモリ事業という成長事業を毀損する形になったとの指摘も出たが、メモリ事業を担当する成毛副社長は、「東芝全体の危機と受け止めて、これを全力で乗り切ることに注力したい」とする。

また、綱川社長は、「今回のことについては責任を感じている。投資家、ステイクホルダーに心配をかけている」としながらも、「自らの去就については、指名委員会に委ねる。3月末までは責任を持って遂行する」と語る。

債務超過を回避できれば、東芝が再建の最初のゴールとして設定した「特設注意銘柄」からの指定解除にもつながることになるだけに、東芝の経営層にとっては、この山場を何とか乗り切る必要がある。

だが、メモリ事業の分社化に伴う外部資本の導入だけで、債務超過を回避できるのかどうかは不明だ。

綱川社長は、「第3四半期の業績も確定していない。減損額も確定していない。外部資本導入による目標額も明らかにはできない」として、債務超過を回避できる手応えについては明言を避けた。

その一方で、「社会インフラは事業の柱であり、重要なものである。売却などは考えていない」としながらも、「今回の施策以外にも、株式や不動産の売却による資金捻出を進めている。取り得るすべての手段を講じる」と語る。

「今年はすべての事業を黒字化するという思いでやってきた。実際、テレビ事業以外のすべての事業が黒字であり、東芝が問題を抱えるなかで、従業員ががんばってくれたことには敬意を表している」と、綱川社長は業績の回復には自信をみせる。

これが、復活に向けた最後の山場になるのか。いつまで立っても膿が出し切れない東芝は、体質改善と財務基盤の強化の成果が出せず、成長戦略を打ち出せないままだ。

2月14日に打ち出す中期経営計画はどんな内容になるのか。トンネルを抜け出すのに、まだ多くの時間を要するのであれば、従業員のモチベーションが下がり、成長力が失われることになりかねない。

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。