【夢真ホールディングス】敵対的TOBの先駆者、夢破れてM&Aは堅実型に

【夢真ホールディングス】敵対的TOBの先駆者、夢破れてM&Aは堅実型に

2016.12.01

【夢真ホールディングス】敵対的TOBの先駆者、夢破れてM&Aは堅実型に

 2005年、買収防衛策導入企業への初の敵対的TOB(株式公開買い付け)で世間を騒がした会社がある。建設技術者派遣事業を主力とする夢真ホールディングス<2362>だ。自社で証券会社をつくるほどM&Aに力を注いだが、TOBはあえなく失敗。経営不振の建設会社買収で財務内容も傷つき、一転して事業の整理を迫られることになる。その後、夢真はM&A戦略を堅実路線に修正し、業績回復を果たす。成功と挫折が混在する夢真ホールディングスのM&Aの軌跡を追う。

【企業概要】海外設計事務所に施工図を発注

 夢真ホールディングスは建設技術者派遣事業を主力とするジャスダック上場企業である。2015年9月期の売上高は211億円。1980年に有限会社佐藤建築設計事務所として施工図の作図を目的として設立され、1980年代から海外設計事務所に施工図の発注を行っていた。1990年に株式会社化し、商号も株式会社夢真に変更。現在の本業である建築技術者派遣事業を開始したのは翌1991年だ。2003年に大阪証券取引所ヘラクレス市場(現ジャスダック)に上場し、2005年に持株会社体制に移行した。

 夢真ホールディングスの主業は前述通り建築技術者の派遣であるが、グループでは現在この他にエンジニア派遣、人材紹介事業と計三つのセグメントを擁する。これらは夢真ホールディングスが得意分野且つ高付加価値のビジネスとして掲げる事業であるが、このポートフォリオに辿り着いたのはつい最近のことである。過去には真逆の方針で買収によって事業の多角化を行い、その後事業の選択と集中を重ねて今に至る。

【経営陣】創業者は会長の佐藤真吾氏、長男の大央氏が昨年社長に

 創業者の佐藤真吾氏は1980年、夢真の前身となる有限会社佐藤建築設計事務所を設立して以来、社長を務めてきた。2005年4月に夢真ホールディングスに社名変更したのを機に同年8月から会長兼社長に就任した。長男の佐藤大央氏は野村不動産を経て2010年に夢真ホールディングスに入社。2015年12月に社長に昇格した。これに伴い、真吾氏は代表権を伴う会長職に専念することになった。年齢は真吾氏が74歳、大央氏が33歳。

【株主構成】創業オーナー、42%超を保有

 筆頭株主はホールディングス化の前後を合わせて、創業以来一貫して創業オーナーの佐藤真吾氏である。上場直後の2003年時点で佐藤氏が59.75%、徐々に割合を減らして2015年は30.01%に至るが、親族及び親族所有の会社等を合わせると42.83%を保有しており、オーナー企業であると言うことが出来る。

【M&A戦略】朝令暮改もいとわぬ迅速な軌道修正

 買収と譲渡を重ねた同社のM&A遍歴を見て行こう。

 上場後、夢真ホールディングスは顧客のニーズの多様化に対応すること、グループ内での健全な競争を行うことを目的として持株会社体制に移行する。同時に掲げたのが周辺事業への積極的な進出であり、その一環として手始めに環境プラントの維持管理等を行う朝日エンジニアリングを買収した。

 その次に大胆にも白羽の矢を立てたのは建設コンサルティングを行う日本技術開発である。当時を知る人には、上場間もない夢真ホールディングスを一躍有名にしたTOBとして印象深い一件だ。

 民間事業中心の夢真ホールディングスに対し、日本技術開発は公共事業が中心であり、事業領域の補完として申し分ないというのがTOBの目的である。しかし、多額の現預金を持ちながらも株価に割安感があり、かねてより買収を警戒していた日本技術開発は事前警告型の買収防衛策を導入。これは事前に経営計画を提出しない企業からのTOBに対しては最大で5倍までの株式分割を行うことが可能というものであり、当時の松下電器産業等も同様の防衛策を導入していたことや、初の買収防衛策導入企業への敵対的TOBの事例であること等から世間の注目が高まった。

 夢真ホールディングスは買収防衛策を踏まえた上でTOBを公表。日本技術開発の株式分割実施後、夢真側は東京地裁に差し止め請求を行うも却下され、さらにはホワイトナイトとして現れたエイトコンサルタントの友好的TOBに妨げられてTOBは失敗に終わる。当時の夢真ホールディングスの社長が引責辞任をする始末となった。

 一連のTOB合戦は最終的には翌年6月、エイトコンサルタントのTOBに夢真ホールディングスが応募する形で幕を引くのだが、この間にも夢真ホールディングスは丸紅設備及び東亜建設技術の2社を買収。東亜建設技術は公共工事を主体としていたが、市町村合併等による公共事業の縮小に対応し切れず、経営難の状態にあった。その後日本技術開発の買収は頓挫したものの、建設業の最上流である建設コンサルタント領域に進出するという悲願を果たす。

経営難の総合建設会社を買収

 この時期、夢真ホールディングスは『ストック&フロー型M&A企業』を標榜し、M&Aを行う為に自社で証券会社まで設立している。

 続いての買収は2006年7月の勝村建設だ。勝村建設は元東証1部上場の総合建設業であり、直近の売上高は41,063百万円。しかしながら東京都が発注した水道工事の入札を巡って同社社員が逮捕・起訴され、地方自治体の指名停止処分によって経営難に陥っていた。2005年9月に民事再生手続きの申立を行った直後から夢真ホールディングスは再生支援を表明しており、このほど新設分割により設立された、いわば新・勝村建設を譲受する形だ。

 これにより夢真ホールディングスは施工部門をも傘下に収め、ワンストップで建設業界に携わることができるわけだが、その対価は当初の予定で71億円。最終契約時点で減額の余地を持たせるも、譲渡側からは満額での債務存在確認請求の訴訟を起こされ、和解を経て65億円に落ち着くが、それでも安くはない金額だ。

 直後に、共に不動産販売のスピリット及びデントハウスの買収を行い、建設業の更に先へと事業の展開を試みる。結果から言うと、スピリットに関しては一度は契約を解除、紆余曲折して社名も変えて買収にこぎつけるが、デントハウスに関しては買収後に財務内容の悪さが明るみに出て追加の第三者割当増資は断念、売主に買い戻させるというてん末となる。

 ただし、円満に買収が成立していたとしても、この後グループ企業として共に歩んだかどうかは怪しい。これまでの買収がウソのように、この直後から夢真ホールディングスは矢継ぎ早な子会社の売却に転じる為だ。

拡大路線一転、矢継ぎ早に売却

 まず手始めに2006年9月に売却したのは、2005年12月に買収し再生を進めていた東亜建設技術である。保有期間は一年に満たず、従業員の立場を思うといたたまれないが売却先が事業ノウハウのある同業者であることが救いだろうか。次いで2007年2月には旧丸紅設備等が合併した夢真総合設備。事務所の統合や人員整理等により今期は10億円近い利益が出ると見込まれていたが、夢真ホールディングスは売却を断行した。譲渡先はファンドであり、譲渡金額は非公開ながらも25億から30億の売却益が出たとみられる。この時期夢真ホールディングスの会長は売上高よりも売却による利益を優先すると語る。

 その後も勝村建設、夢真証券、夢真キャピタル等と売却が続く。とりわけ夢真キャピタルに関しては、売却額はさほどではなく、多額の利益は見込めないものの、折しも新会社法の施行により連結基準の変更があった。一度売却がご破算になっても更に二度目の相手を探し売却を急いだ背景には、子会社の定義が形式基準から実質基準に変わったことで、業績の振るわない投資先が連結対象に含まれかねないこともあったとされる。

買収額は小粒化、本業強化型に

 手痛い失敗を踏まえてか、2009年以降の夢真ホールディングスのM&Aは憑き物が落ちたかのように堅実だ。2009年のアイゼックス・アルファの事業譲受やアークウィズの第三者割当増資引き受け、2011年1月のユニテックソフトの子会社化共に買収価額はこれまでに比べて桁が一つか二つ少ない。2011年5月には技術者派遣を行うフルキャストテクノロジーの株式の83.56%を1,707百万円で取得しているが、この頃夢真ホールディングスは従前通りの技術者派遣と、新たに設立した我喜大笑での保育園運営事業を主業とうたう。ノウハウもある本業を強化する形の買収であるとすれば、高すぎる買い物ではないだろう。

 そうかと思えば2014年7月に建築工事請負業を手掛ける岩本組を買収、翌2015年6月には売却を済ませる。単に投機的な売買かと思いきや、事業の柱と掲げたはずの保育事業の我喜大笑も共に売却しているのだが、譲渡先が代表取締役社長の佐藤大央氏が代表を兼務する佐藤総合企画である点に留意が必要だ。当該事業を成長分野として見ているものの、公私を分ける形で、あくまで夢真ホールディングスとしては手を引くといった印象だ。

 2016年に入って夢真ホールディングスはシステム開発系を2社、教育関連事業を一つ買収している。2016年10月現在の夢真ホールディングスの事業ポートフォリオは冒頭の通り、建築技術者派遣とエンジニア派遣、人材紹介事業の三つである。取得比率は低いながらも直近の日本サードパーティーへのTOBもエンジニア派遣に付帯する事業の強化の一環である。

 いずれにしても、オーナー企業ならではと言うべきか、企業集団として事業の取捨選択の決定が迅速である。人により朝令暮改と見るか、機動力があると見るかは分かれるところかもしれないが、過去にM&Aでの失敗をM&Aで補うことが出来たのはオーナー主導のこの敏しょうさゆえであるのは間違いない。

 前述のポートフォリオ自体が今後変容を遂げる可能性もある。自社や業界の状況を鑑みて柔軟に経営方針を変更することはM&Aにも肝要だ。M&Aで業績の伸長を目指す場合、とかく買う・買わないの判断にとらわれがちだが、売るという選択肢を視野に入れる場合、M&Aでの失敗のリスクは大きく低減できると言える。

【財務分析】脱ジェットコースター経営、自己資本比率60%超に上昇

 M&Aの成果を振り返りたい。2005年から2006年にかけての売上高の伸びは目覚ましい。2005年9月期の売上が6,499百万円であるのに対し、2006年9月期は41,554百万円と約6倍だ。もっとも、新設分割設立会社とはいえ民事再生前には41,000百万円を超える売上を誇った勝村建設を譲り受けているのだから、売上の伸長は至極当たり前のことである。

 一方で、営業利益は伸び悩み、2005年9月期から2006年9月期はわずか500百万円足らず増加したに過ぎない。増加と言えば聞こえは良いが、これを売上高営業利益率にしてみると実に5.4%から2.0%へと半減しており、楽観は出来ない状況がよくわかる。ちなみに売上高経常利益率で見るならば、11%から3%へと下げ幅は尚深刻だ。


 さらに、毀損したのは収益性のみではない。夢真ホールディングスはブレイントラスト以外全ての買収を現金対価で行っており、これには約200億円を要したとされる。この資金調達は他人資本に依存しており、長短共に借入金が増加。ここに社債も加えてネットデットの推移を見てみたグラフは次の通りだ。当然ながら過少資本を招き、2006年9月期の自己資本比率はわずか3%にまで低下している。こうなるともはや買収した企業を再生する為に必要な資金の調達さえも難しくなり、自社の財務の立て直しが喫緊の課題となる。ここから売却に舵を切ることとなる。

 海外子会社の清算や子会社の吸収合併等、再編を進めて迎えた2009年9月期、夢真ホールディングスの決算書には連結財務諸表がない。関連会社を整理して夢真ホールディングス単体となったこの期の売上高は5,482百万円。M&Aを行う以前に近い水準に減少したが、自己資本比率が44.1%にまで持ち直したこと、営業利益率が13.8%と上場後最高値を記録したこは見過ごせない。買収での失敗を売却によりきれいに清算したと言える。

 その後、2010年9月期を底に業績は回復基調に転じている。2016年9月期の売上高は前期比10%増の232億円。売上高営業利益率は10.5%とフタ桁を回復。自己資本比率は65.7%に上昇した。事業の選択と集中が進み、身の丈にあった買収戦略に切り替えたことが奏功している。

 なお、事業の取捨選択が激しくセグメント情報がよく入れ替わるため、推移を見るのにあまり適さず、今回はセグメント毎の損益は取り上げない。参考として、象徴的な時期のセグメント別売上高の構成を一部掲載する。


【株価】じりじりと値を戻す展開に

 株価は2013年末から2014年にかけて1000円を上回る場面もあったが、その後、600~800円前後のボックス圏の動きとなっている。しかし、足元の株価はじりじりと値を切り上げている。今年に入り、バーチャルリアリティ(VR)関連のゲームやミドルウエアを開発するダズル、仮想通貨ビットコインの決済プラットフォームを運営するBTCボックスと相次ぎ資本業務提携を結んだ。投資家の注目度の高い成長分野への足がかりを築きつつあることが株価の押し上げ要因になっているとみられる。

【まとめ】売る選択肢で失敗リスク低減

 これまで見てきたように夢真ホールディングスは、M&Aの失敗をM&Aで補ってきた歴史と言える。創業オーナーの高い持ち株比率を背景に、迅速な意思決定と事業を大胆に取捨選択する姿勢には他社も参考にすべき点も多い。とりわけ、買収の失敗で一時的に財務が毀損しても、その後の迅速な売却とよって、経営の立て直しにつなげていることは注目に値する。売るという選択肢を視野に入れる場合、M&Aでの失敗のリスクは大きく低減できる。紆余曲折を経て、手堅さを増す夢真ホールディングスが今後どんな買収を仕掛けてくるか、後継ぎの佐藤大央社長の手腕にも注目したい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。