トヨタにたった4人のEVベンチャーが誕生、何が期待されているか

トヨタにたった4人のEVベンチャーが誕生、何が期待されているか

2016.12.01

変化の兆しを見せるトヨタ自動車のエコカー戦略。「究極のエコカー」と位置づける燃料電池車(FCV)に加え、電気自動車(EV)への取り組みも加速させるのではとの見方があったが、トヨタの出した答えは、計4名からなるEV開発の社内ベンチャーを設立することだった。ベンチャーであることもそうだが、そのスタッフの少なさにも驚かされた今回の発表。トヨタはEVベンチャーに何を期待するのだろうか。

EV戦略を一気に加速させるトヨタ

トヨタがEVの開発を担う社内ベンチャーを12月に立ち上げる。この新ベンチャーは、豊田自動織機、アイシン精機、デンソーのグループ企業とトヨタ本体から各1名ずつが選抜され、4名という少数精鋭部隊がトヨタのEV開発を推進することになる。

中間決算説明会に登壇したトヨタ代表取締役副社長の伊地知隆彦氏(画像)は、FCVが「エコカーの本命」としつつも、トヨタのエコカー戦略は全方位だと述べた

トヨタは、環境対応へのエコカー戦略として全方位での取組みを進めてきた。その中でハイブリッド車(HV)は先行優位の実績を確立。さらにプラグインハイブリッド車(PHV)からFCVの市販化も先行させ、FCVを「究極のエコカー」と捉えて重点的に開発を進めてきた流れがある。

しかし、EVに関しては近距離用途としての限定的な位置づけを強めてきたことで、開発に遅れを取っていた感がある。そのトヨタが、先の「パリ協定」(2020年以降の地球温暖化対策の国際ルール)による世界の環境規制強化の動きや、中国・欧米でのEV推進といった直近の流れに対応すべく、EV戦略を一気に加速させ、早期に商品投入する方針を打ち出してきた。

それにしても、トヨタがグローバル1,000万台体制に見合う新たな展開を見せる中で、EVでの社内ベンチャーを誕生させるという、従来のトヨタからの変革を促すような思い切った動きに出たことは、大いに注目されるものである。

主要グループ企業も巻き込むベンチャー組織

トヨタが12月からスタートさせるEV開発の社内ベンチャー組織「EV事業企画室」。その室長には、昨年12月に発売した4代目プリウスと今冬に発売する新型プリウスPHVで開発責任者(チーフエンジニア)を務めた豊島浩二氏が就任する。

豊島EV事業企画室長をトップとして、グループ中核企業であるデンソー、アイシン精機、豊田自動織機から1人ずつ出向する、4人体制での異色の社内ベンチャーとなる。直轄の社内ベンチャー設立にあたり豊田章男社長は、「EV分野のことだけを専門に考え、スピード感のある仕事の進め方を確立することで、トヨタやトヨタグループの仕事の進め方改革を牽引して欲しい」(豊田章男社長)とコメントしている。

HV主流戦略を確立し、PHVでも近く本格的な商品投入を予定するトヨタ。FCVではすでに「ミライ」の市販を始めているが、EVは多少、軽視していたきらいがある。しかし、ゼロ・エミッション車普及に向けた規制強化が急速に進んでいくことから、トヨタとしてもゼロ・エミッションの達成を目指し、FCVとEVを二本柱に据えてきた感がある。

そのためには、EVの早期商品投入を可能とする体制づくりが必要で、主要サプライヤーのグループ各社も巻き込むベンチャー発足に踏み切ったことになる。

パワートレーン多様化時代、エコカーが続々と登場

かつて1990年代末の世界自動車大再編の引き金を引いたのが、独ダイムラーと米クライスラーの「大西洋をまたぐ合併劇」だった。その背景となったのは、21世紀の自動車の大テーマである環境対応だ。「究極のエコカー、FCV」の先行開発には莫大な投資が必要だが、単独企業では開発投資余力に限界がある。企業規模の拡大を求めて、ダイムラーとクライスラーは合併に踏み切った。

つまり、当時は水素を燃料とし、水しか排出しないFCVが、将来の究極のエコカーということで自動車各社が開発に向かったのである。

トヨタのFCV「ミライ」

しかし、その後十数年を経る中で、環境対応に向けては内燃機関のガソリン車・ディーゼル車がクリーン化・燃費向上へと進化し、HVおよびPHVは実用化へと進んだ。FCVの市販化に踏み切ったのはトヨタと本田技研工業だけだ。またEVは、三菱自動車の軽EVに続き、日産自動車のEV「リーフ」の市場投入など、ゼロ・エミッション車として展開された。

現状は「パワートレーン多様化時代」の様相を呈しており、日本国内市場ではトヨタHV戦略が初代プリウスの1997年末投入から十数年を経過し、主流化している。ただ、欧州では乗用車の5割を占めるディーゼル車が、クリーンディーゼルエンジンへと進化していまだ主流の座にある。

しかし、先の「パリ協定」発効に見られるように、世界の環境規制は厳しくなる。パリ協定では、すべての国・地域が二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出を今世紀後半までに「実質ゼロ」にすることを目指す。

必然的に世界各国の環境規制も強まる。世界最大の自動車市場となった中国は、EVやPHVを「新エネルギー車」に指定し、台当たり補助金を支給。米カリフォルニア州の「ZEV規制法」では、2017年から発売する製品規制が厳しくなる。中国とカリフォルニアの規制では、HVがエコカーの範囲から外れる。これは世界的に波及していく流れでもある。

「脱エンジン」を目指す「トヨタ環境チャレンジ2050」

トヨタは、昨年10月に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表し、2050年の「脱エンジン」を宣言した。具体的には2050年にグローバル新車平均走行時CO2排出量を90%削減(2010年比)するというものだが、当面の主な取組み・目標としては、FCVの販売を2020年頃以降はグローバルで年間3万台以上にすると打ち出し、エコカーの本命はFCVという姿勢を鮮明にしていた。

つまり、将来のモビリティの棲み分けをEVは近距離用途、FCVは中長距離用途とし、EVは一充電で走行できる航続距離と充電時間の課題から用途限定の見方をしていた。ただ、FCVでは水素スタンドのインフラ整備の課題もあり、一長一短はある。電池が進化したことで、EVの航続距離も改善されつつある。

両者のメリット・デメリットを埋めるべくトヨタは、EV開発促進も含めた全方位を強める戦略に切り替えてきたのである。

トヨタとテスラ、複雑に絡み合う両社の関係

テスラモーターズ。米シリコンバレーに拠点を置くEVベンチャーだが、いまやEVメーカーとして世界的に脚光を浴びる存在だ。このテスラとトヨタは関係がある。両社は2010年にEV共同開発の業務提携を締結。テスラの製造工場は、かつてトヨタがGMとの合弁生産を行っていたニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング(NUMMI)のカリフォルニア・フリーモント工場の跡地である。トヨタはテスラとの業務提携に基づき、「RAV4 EV」を2012年まで米国で販売していた実績もある。

トヨタとテスラが共同開発したRAV4 EV

テスラは起業家イーロン・マスクのベンチャー経営で、「モデルS」、「モデルX」に続き、量販低価格車「モデル3」を発表し、その予約販売方式で大きな評判を呼ぶなど、今や世界のEVメーカーをリードするほどの勢いを示している。一方で、モデルSに搭載したオートパイロットシステムでは、半自動運転で死亡事故を起こしたことでも世間の耳目を集めた。

毀誉褒貶はともかくとして、テスラはEVメーカーとしてフロントランナーのポジションにあり、リチウムイオン電池は米ギガファクトリーでパナソニックとの合弁生産を行っている。トヨタはパナソニックと国内でニッケル電池・リチウムイオン電池の合弁企業「プライムアームEVエナジー」を展開する関係にある。トヨタとテスラの関係は、その後両者の思惑がずれ始めて協業の動きはなくなっているようだが、複雑に絡み合っている。

トヨタが社内ベンチャーでEV開発を急ぐ方針を打ち出したのも、米テスラとの業務提携(提携時点でトヨタはテスラに出資)に学ぶところがあったのだろう。

欧州勢を筆頭にEVシフトが鮮明

FCVに関しては、安倍政権の水素社会到来に向けての国策もバックにあるが、グローバル戦略として、トヨタは独BMWと技術提携関係にある。他社の動きとしては、ホンダがGMと技術提携しており、日産ルノー連合もダイムラーおよびフォードと技術提携関係にあるといったように、FCVの今後に向け、日米欧のメーカー間協力は多様化している。

一方で、欧州勢がこのところEV戦略を強めてきている。特に独フォルクスワーゲン(VW)がディーゼル排ガス不正問題以降、一気にEV戦略を鮮明にしているのだ。ダイムラーもEV新ブランド「EQ」を立ち上げるなど意欲的な動きが目立つ。米国も然りで、GMはEV「ボルト」の航続距離を383キロメートルに延ばし、テスラ「モデル3」の346キロメートルを上回ってくるなど本腰を入れてきている。

「リーフ」発売以来、EVで世界をリードすると豪語していたゴーン日産は、このところテスラの台頭に対し伸び悩んでいた。しかし、EV開発で実績のある三菱自を傘下とし、オール日産連合でEV戦略の巻き返しを図ろうとしている。

矢継ぎ早に新たな手を打つ豊田社長

こうした中で、トヨタはエコカー全方位戦略をとっていたものの、EV開発では出遅れており、一気に遅れを取り戻すための策を模索し始めた。それが、デンソーなど主力サプライヤーも巻き込んだ社内ベンチャーの発足だったのだろう。トヨタは奥田体制時代、社内ベンチャー企業「VVC」を発足させたことがある。当時も「トヨタには社内変革が必要だ」(当時の奥田社長)との観点によるものだった。

トヨタは豊田章男社長が就任して8年目を迎えている。グローバル1,000万台体制となり世界覇権を競う中で、カンパニー制度の導入やダイハツの完全子会社化、スズキとの提携、AI(人工知能)の米国子会社設立など、矢継ぎ早に新たな手を打ってきている。

FCVにしてもEVにしても、トヨタはマツダや富士重工業(スバル)、さらにはスズキとも連携していき、かつグループの主力サプライヤーとの一体感醸成とスピードアップを図っていく考えなのだろう。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。