MVNOは第3ステージへ、個性と網羅性が求められ始めた格安通信

MVNOは第3ステージへ、個性と網羅性が求められ始めた格安通信

2016.12.03

「格安スマホ」という言葉とともに認知度も普及率もアップし、全国で500社を超えるというMVNO(仮想移動体通信事業者)。景気低迷の中、高止まりで家計を圧迫する通信費削減の切り札として、総務省なども大いに期待する存在だ。そんなMVNOは加熱する価格競争というフェーズを終え、新たな競争の段階に入っている。

MVNOの数は500社を超える。今年9月にはLINEがMVNO参入するなど話題に

第1ステージ:料金競争の終焉とサービス開拓への移行

自社で通信網を持つキャリア(MNO)に対し、MNOから回線を借り受けて、独自の価格設定やサービス内容で展開するのが「MVNO」だ。日本でMVNOが注目され始めたのは、スマートフォンが主流になってから。MNOのスマートフォン向け通信プランは比較的高額なこともあり、それよりだいぶ安い価格設定のMVNOは「格安スマホ」として認知度を上げてきた。

MVNOの普及初期は、低価格が最大の魅力として考えられてきた。特にMVNOがユーザーごとの回線速度を制御できる「レイヤー2接続」が可能になってからはその傾向が顕著になり、MVNO各社は積極的に安さをアピールするようになった。

結果として、今ではデータ通信のみであれば月額500円未満という超低価格なサービスも提供されており、MVNO同士で利益を削りあって争う、体力勝負となってしまった。

MVNOの仕組みとして、MNOからの回線レンタル料以下に料金を下げることはできず、価格競争には限界がある。このためMVNO各社は料金競争から付加価値競争へと舵を切ることになった。

第2ステージ:独自サービスの模索と模倣

MVNOは当初、データ通信のみのサービスが多く、ユーザー側もメインの通話用回線としてキャリアの携帯電話を契約し、MVNOのSIMを挿したスマートフォンはデータ通信専用に使う、といった使い分けをしていた。しかし、LINEや各種ソーシャルゲームなど、SMSをユーザー認証に使うサービスが増えたことなどにより、オプションでSMSや音声通話のついたサービスも登場してきた。

単純な価格競争では疲弊するだけだと悟ったMVNO各社は、他者との差別化を図るための独自サービスの提供へと進むことになった。独自サービスの提供は、MVNO自身が開発力や資本力など、競合他社と比べて傑出した部分があることを示すひとつの指標になる。これが2015年前後から始まった、MVNOの第2ステージとも言える状況だ。

独自サービスにもさまざまな形態があるが、主にシェアが高めな大手MVNO各社が力を入れたのがサポート体制だ。第1ステージでは、MVNOユーザーは自分で情報を集め、問題に当たれるITリテラシーの高いユーザーが多かった。

ところがMVNOの知名度の上昇に伴って増えてきた、ITリテラシーの低いユーザーに対するサポート体制の充実が急務とされてきたのだ。これは実際に顧客にトラブルが発生した場合だけでなく、購入時に対面販売などで安心感を売る、ということも含まれる。MNOが高くても多くのユーザーを惹きつけている理由の一つに、実店舗が各地にあり、トラブル時には持ち込んで修理やサポートを受けられるという安心感がある。SIMだけを店頭に並べて販売しているMVNOは、いくら安くとも心理的な障壁が高いわけだ。

こうした施策は、もともと全国的な販売網を持つ「イオンモバイル」や、CD/DVDのレンタル・販売「GEO」と提携した「OCN モバイル ONE」が先行して着手し、「FREETEL」や「mineo」のように、大手家電量販店に対面カウンターを設置する、数は少ないものの対面販売が可能な直営店舗を大都市圏に作る、といったところも出てきた。

直営店を設けるMVNOも出てきた

サポートという点では、口コミの力やユーザー同士の情報交換も一種のサポートリソースとなりうる。「mineo」はウェブ上に会議室を設けるなどしてユーザー同士が助け合う互助組織を構築したり、「IIJmio」はユーザーと開発者が直接対話できるイベントを開催することで、キャリアによるバイアスのない、ユーザーの忌憚ない意見がやり取りされるようになり、初心者からベテランユーザーまでを広く惹きつけている。

別の方向性でもユーザーに訴求したのが「楽天モバイル」や、TSUTAYAで販売される「TONE」だ。これらのサービスは利用することで楽天ポイントやTポイントが貯まりやすくなっており、ECサイトなどでの買い物で貯めたポイントを電話料金の支払いに充当するといったことも可能。自社の経済サイクルに組み込むことで、サービスの魅力を高めている。

ポイント制度を武器にユーザーへの訴求を図るところも出てきた

多彩なサービスでの差別化が進む第3ステージ

サポートやサービスの強化で勝負でききるのは、現時点でシェアがそれなりに大きく、経営母体の体力に頼れるMVNOが中心となる。こうした母体がないところは別の手段で対抗することになる。第1ステージですでに料金競争が限界に達していると説明したが、そこをうまく突いた形のサービスが登場している。

FREETELなどが開始し、「LINEモバイル」らが追従しているのが、特定のアプリの通信のみをパケットに課金しないで済ませるサービスだ。TwitterやFacebookといった人気SNSやポケモンGOのようなゲームをパケット課金対象から外すことで、トータルの利用料金を安くするというわけだ。値引きという体力勝負には変わらないが、純粋に技術力だけで実現する施策であり、メリットも強調しやすい。

特定のアプリの通信をカウントしないサービスも登場

ただしこのサービスは、通信対象を見分ける行為そのものが通信の秘密の保持に抵触する可能性がある、といった指摘や、LINEモバイルのような人気アプリの提供元自体が割引対象を決めるのは不公平ではないか、など、さまざまな懸念が払拭しきれていない。人気のサービスだけに、総務省などがどういった判断を下すかが注目されている。

端末も魅力のひとつに

端末の魅力もサービスの一種と数えてもいいだろう。MNOは最新鋭の端末を安価に購入できるよう、サポート割引制度などを使い、通信料金と端末代を一緒に払うことで端末が実質0円に近い価格で入手できるような、大幅な割引を適用できるようにしている。これがiPhoneなどの高級スマートフォンが日本でたくさん販売される要因だったが、総務省などから指導が入り、あまりに大きな値引きができなくなった。

MVNOの場合、SIMフリー端末が基本ということもあり、どこも同じような端末を扱う事態になっている。しかしそんな中でも、楽天モバイルが「ファーウェイhonor 8」を専売にするように、特定のMVNOでなければ手に入らない端末が登場しており、こうした端末と電話料金をセットにしたプランも登場している。MNOの販売方法と被っており、ある意味MVNOのMNO(キャリア)化という皮肉な見方もできるが、ユーザーにとってはわかりやすい販売方法がとられるようになったと言ってもいいだろう。

楽天モバイルが「ファーウェイhonor 8」を国内独占専売するといった動きも

またFREETELのように、端末価格込みのプランに、自社販売のスマートフォンを一定期間の間自由に機種変更で選択できるサービスを用意したところもある。メーカーならではのサービスだが、機種変更後は前の端末の残債を支払わなくていい、という大胆なプラン内容になっており、画面のひびなどが気になりつつも残額があってなかなか機種変更できなかったユーザーにとっては嬉しいサービスだ。

第3ステージはMVNOごとの体力や特徴に応じて提供されるサービスも実に多彩であり、特にシェア上位を占める十数社の中ではかなり特徴がはっきり現れている。傾向としては、上位に行こうとすれば特徴的な一芸だけでは足りず、あれもこれもと、網羅的にさまざまなサービスを提供できるところがやはり人気を集めている、という点だ。これではMVNOのMNO化に他ならず、体力が低い下位のMVNOにとっては厳しいものがある。そろそろMVNOの合併・統廃合などが起き出すことになりそうだ。

MNOはサブブランドで攻める

3大キャリアのうち、MVNOに最も積極的なのは業界最大手であるNTTドコモだ。ドコモは回線の貸し出し料金も他社の半分以下と安く、現在MVNOといえばドコモ回線を使っていると言い切ってしまっても、ほとんど問題ないほどだ。MNPでもドコモは基本的に転出する側であり、転出した先がライバル2社になるよりは、自社ネットワークを使うことで間接的にドコモの設備利用率を上げてくれるのであれば好都合ということだ。

一方、ドコモを追う立場のau、ソフトバンクの2社はMVNOにあまり積極的ではない。しかし両社とも回線の貸し出し料金はドコモより高く、MVNOは価格では勝負できない。auもソフトバンクも、MNPで転出されれば、先は多くの場合ドコモになるため、できるだけMVNOへの転出は避けたいと感じるのも無理はないだろう。

そこでauとソフトバンクが注力しているのが、MVNO的な低価格のサービスを提供するサブブランドの存在だ。auの場合は関連会社であるWiMAX2+サービスを展開するUQコミュニケーションズと、au回線を使ったMVNOである「KDDIバリューイネーブラ(KVE)」を合併させ、「UQモバイル」ブランドでのMVNOサービスを展開している。見かけ上は別会社だが、実質auの低価格ブランドとして扱われている。

ソフトバンクの場合は、1.7GHz帯でサービスを展開していたイーモバイル、2.5GHz帯でサービスを展開していたワイヤレスシティプランニング(旧ウィルコム)が合併した「ワイモバイル」を吸収合併。「ワイモバイル」のブランドだけ残し、低価格サービスを展開している。

UQモバイル、ワイモバイルに共通するのは、「MNO未満・MVNO以上」といった価格帯にサービスを投入し、MVNOへ流出する可能性の高いユーザーを手前で引き止める役割だ。3年前の型落ちとはいえ人気端末である「iPhone 5s」も導入し、MNOへ不満のある層を一定の割合で繋ぎ止めている。

UQモバイルは価格と価値のバランスをとった第3極を目指す

MNOの3社は長期利用ユーザーへの還元策などを打ち出しつつ、サブブランドで足元を固めるなどしてMVNOへの流出をできるだけ防ごうとしている(ドコモ自体はサブブランドを持たないが、格安端末「MONO」でSIMフリー端末への流出を防ごうとしている)。

MVNOの普及が始まって数年、MVNOはMNOにできないサービスと低価格を武器に、総務省などの施策も追い風としながら、ようやく「らしさ」を打ち出せるようになってきたが、全体としてMNOが圧倒的に支配的である状況はまだ変わらない。ユーザーがより安価に、より自由にネットワークを利用できるようになるよう、行政のさらなる施策などを期待したい。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。