アップルやグーグルに対抗? サムスンのハーマン買収をどう見るか

アップルやグーグルに対抗? サムスンのハーマン買収をどう見るか

2016.12.05

サムスン電子は、11月14日、これまでにない大規模な買収を決めた。80億ドルに上る規模で買収した企業は、米国のハーマンインターナショナルだ。

ハーマンは音響機器で有名なメーカーで、JBLやAKGなどは、コンシューマー、プロフェッショナルから支持を集めるブランドだ。現在のサムスンの製品ビジネスの中心であるスマートフォンと、ハーマンのオーディオ技術が融合されることは想像に容易い。

ただ、今回の買収の目的は、自動車関連技術だ。ハーマンの売り上げの65%は、自動車に関する売上で占められており、フェラーリ、BMW、メルセデス、トヨタ、レクサス、スバルといったメーカーに、オーディオ機器を納入している。

サムスンによるプレスリリースからも、コネクテッドカー分野、つまりインターネットに接続しながら、センシングや安全性能を生かしたり、保険やエンタテインメント分野を強化することを目的としていることがわかる。

ハーマン買収により自動車関連市場における巨額の市場機会があるとサムスンは見ている(サムスンIR資料より)

別の側面から見れば、サムスンによる「スマホの次」のビジネス領域の模索もある。先進国を中心にスマートフォン市場の飽和が伝えられており、中国市場は地元の低価格高性能な製品を提供できるメーカーの台頭により、アップルとともに、急速に中国市場から押し出されつつある。

加えてサムスンは、世界的に人気だった最上位機種であるGALAXY Note 7の発火による販売停止で、スマートフォンブランドとしての信頼性も毀損してしまった。

比較的潤沢な手元資金を、いかに早く次の領域に投資するか。これはサムスンにとってのテーマであり、その投資先がハーマン、カーインフォマティクスの領域だった。

モバイルテクノロジーと自動車

モバイルテクノロジー企業と自動車は、現在最も注目を集める新しい領域の1つだ。アップルはすでに地図アプリを自社内製へと切り替え、自動車載デバイスとiPhoneを連携させるCarPlayを提供している。また「Project Titan」と呼ばれる自動車に関連するプロジェクトが走っていると言われており、中国最大のタクシー配車アプリ「滴滴出行」への10億ドルの投資や、インドにおける地図などを開発する拠点の開設、また噂レベルではあるが、今年9月にはF1カーでもおなじみのマクラーレンの買収などが報じられてきた。

アップル、グーグルは自動車とスマホを連携させるサービスも提供する。写真はアップルのCarPlay

グーグルは、早くから、レクサスをベースとした自動運転車の技術をテストしており、筆者が過ごすカリフォルニア州バークレーでも、街中で一般の車に混じって、華麗なドライブを見かけることができる。

ハンドルすらない小型の自動運転車の展示も開発者会議Google I/Oで展示してきた。カーシェアリングアプリ企業のUberやLyft、そしてボルボなどの自動車メーカーとともに、自動運転に関する連合作りを進めている。人工知能を用いた人の移動の最適化は、自動車の所有にかかわらず、今後の街のインフラへの昇華などの可能性を秘める期待の領域だ。

また、Androidをベースとした車載デバイス「Android Auto」を展開している。日本では、ホンダ、アウディ、フォルクスワーゲン、マセラティといったラインアップで、Android Auto搭載車種を選択することができる。

サムスンが狙う自動車市場とは

スマートフォンとの連携は、生活必需品同士の融合によるユーザーのメリットをもたらすとともに、運転中のスマートフォン利用による危険を避ける効果も期待される。

また、移動に関して、アプリやその先でつながるクラウド、人工知能を活用したサービスの提供への道を開くものであり、アプリ経済が自動車に流れ込む突破口になる。

こうした環境の中で、サムスンがハーマンを買収することで得られるメリットは、既に培ってきた自動車業界におけるハーマンの各ブランドと、前述の自動車企業とのパイプと言えるだろう。

主要自動車メーカーの9社との取引を行っているハーマンは、3000万台近い自動車に製品を供給してきた。もしもサムスンが新しいテクノロジーやサービスを自動車に導入する際、実績のあるハーマンを通じることで、他社よりも有利に製品やサービスを展開していくことが可能になると考えられる。

自動運転の実現に向けてどう取り組むか

1つ懸念していることは、サムスンとハーマンの連合が、今後いかにして、今現在進んでいる自動車とテクノロジーのトレンドに関わっていくのか、という点だ。現在、自動車とテクノロジーが注目しているのは、自動運転の実現だからだ。

例えば、スマートフォンとの連携でいえば、世界的に普及しているモバイルOSを擁するアップルとグーグルと比べれば、サムスンが有利な位置にいるとは考えにくい。今後の自動車とテクノロジーの領域で注目される各種アプリケーションの前提となる自動運転についても、サムスンは2016年に本格的な開発をスタートした状況だ。

今後、更なる企業買収や技術提携などを通じた急速なノウハウ獲得を行っていかなければならないことが予測できる。その1つ目のマイルストーンは、2018年の平昌冬季オリンピック。韓国政府はオリンピックにおける試験走行を実現し、2020年に実用化する計画を打ち出している。

自動運転の体験

カリフォルニア州ではすでにテスラに実装されているアダプティブクルーズコントロールでの運転を体験することができる。いわゆる「レベル2」、加速・ブレーキ・ハンドル操作の複数の作業を自動的に行うことができる。

高速道路における自動追従等、機械に運転を任せることに対して、最初は非常に大きな不安もあった。ただ、安全運転支援システムの延長としてとらえ、システムの特性などを理解しながら、自分も周囲の状況に注意していくと、非常に快適な移動体験をもたらしてくれると感じた。

サンフランシスコやシリコンバレー周辺の朝夕の大渋滞においては、レベル2の自動運転は絶大な効果を発揮しており、ユーザーに話を聞くと、口々に「もう自分で運転なんてしたくない」と言う。

まだまだステアリングから手を離すには至らないが、これも時間の問題ではないか、と思えるほどに、走行距離に比例する知見がテスラに蓄積されていることが分かる。段階的にでも、早く実用化していくことが重要な世界だと感じさせてくれる。

サムスンが今後、どれほどのスピードで、この業界にキャッチアップしていくのか分からないが、いずれにしても素早い動きが求められる。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。