【ハウス食品】壱番屋に続き、ギャバンも食う カレールウと融合しさらにおいしく

【ハウス食品】壱番屋に続き、ギャバンも食う カレールウと融合しさらにおいしく

2016.12.06

【ハウス食品】壱番屋に続き、ギャバンも食う カレールウと融合しさらにおいしく

「バーモントカレー」や「シチューミクス」等、有名芸能人を多く起用したTVコマーシャルを多く見かけるハウス食品グループ本社<2810>。確立している自社プライベートブランドと巧みな広告により、「おいしさとやすらぎを」食卓に提供している。2015年、廃棄冷凍カツの横流し問題で高い商品管理体制につき脚光を浴びた「カレーハウスCoCo壱番屋」の運営を行う壱番屋にTOB(株式公開買付け)を実施。2016年には香辛料を手がけるギャバンも子会社化した。カレールウを中心にレストランやスパイスまで事業を拡大するハウス食品のM&A戦略をひも解いていく。

【企業概要】1920年代からカレー粉を研究、M&Aで本格進出

 創業者である浦上靖介は、1892年に徳島の士族の家に生まれる。僅か10歳で単身大阪へ出たのち、兄の経営する船場の薬種問屋で商売の修行を積む。21歳の時に独立を決意し、ハウス食品の前身となる「浦上商店」を開業した。浦上商店は、肉桂、大黄などの和漢薬品、丁子、唐辛子、クミン、セージなどのソース原料、また松脂粉末、アラビア糊、硫酸、炭酸などの工業薬品類を取り扱う薬種科学原料店であった。

 同社にとっての転機は、実はM&Aによって訪れている。

 浦上商店は1921年、得意先からカレー粉の販売を委託され、カレー粉の研究をスタート。研究をしていたさなか、1926年、「ホームカレー」の商標でカレー粉を製造販売していた稲田食品製造所の社長より、「会社を譲りたい」と申し入れがあった。当時の日本人のほとんどはカレーを食べたことがない、というレベルの知見度だった様子で、市場としては非常に未成熟なものだったという。浦上も非常に悩んだものの、夫人の後押しもあり、この申し入れを受諾した。

 この翌年の1927年は日本におけるカレーの黎明期で、中村屋の「純印度式カリー」や、東京の下町のパン屋さんで「カレーパン」が誕生するなど、市場の啓蒙が進んでいった。浦上商店もこの流れに乗るべく、1928年に「ハウスカレー」に商標を換え、小売店での実演販売や、パッケージを象った宣伝車など、本格的な宣伝活動に乗り出した。その後も順調に改良を重ね、同社の主力商品へと変貌を遂げていく。

 途中、太平洋戦争等により食料統制がかかったものの、戦後の1949年に「株式会社ハウスカレー浦上商店」に社名変更・製造再開を為し、1959年には東大阪工場内にて固形ルウの「印度カレー」工場を新設するなどしている。このような流れからも、同社内でのカレーが主軸になっていっている点が伺える。

 1960年には、「ハウス食品工業株式会社」へと社名変更をする。その後も子供向けに林檎や蜜柑を材料に加えた「バーモントカレー」や、「ククレシチュー」の発売によるレトルト食品分野参入などを果たしている。1973年に「シャンメン」により即席麺分野、1977年には「ポテトチップス」によりスナック、1983年には「六甲のおいしい水」飲料分野に参入。この時点で大凡は今あるハウス食品への姿へと変革をとげた。1993年には、現在の「ハウス食品株式会社」へと社名変更をする。


【経営陣】創業家の浦上博史氏、2009年に社長就任

 浦上博史社長は創業者の浦上靖介氏の孫。三井住友銀行を経て1997年にハウス食品に入社。2009年に当時43歳の若さで社長に就任した。51歳。


【株主構成】創業家の資産管理会社が筆頭

 

 筆頭株主のハウス興産は元社長の浦上郁夫氏の妻、浦上節子氏が代表取締役を務める資産管理会社。2.62%を保有する味の素は2016年5月にTOBを実施したギャバンの元親会社である。

【M&A戦略】飲料・健康食品、カレー関連に資源集中

 ハウス食品のM&A戦略について詳しくみていく。

 1993年のハウス食品への社名変更後、コア事業としてルウカレー、シチュー、レトルト、スパイス製品の強化を進めていくが、飲料・健康食品を育成事業とし、2007年大規模なM&Aを行った。武田薬品工業より、C1000タケダビタミンレモン、C1000タケダレモンウォーターなどC1000ブランドを中心とした健康飲料の製造販売事業を取得した。買収は武田薬品工業から会社分割、という形で行われ、2回に分け株式取得が行われた。株式は66%で198億円と、かなり大規模なものとなった。

 一方で、ノンコア事業からは撤退を行っている。2010年、1983年に「六甲のおいしい水」ブランドを立ち上げ参入したミネラルウォーター事業をアサヒ飲料株式会社に売却している。本事業は、売上高が121億円、当時のハウスの連結売上高が2,225億円の為、自社売上の5.5%を担っていた。譲渡資産が簿価55億円に対し譲渡価額は53億円と、簿価割れで売却している。

 譲渡理由は「経営資源の集中」とされている。理由は恐らく2点あり、①ブランドを安心して委ねることができる相手がいたこと ②安定している物の飛躍性の薄いミネラルウォーター事業よりも、急速に成長している健康食品事業に注力すべきと考えたこと だと考えられる。

 上記のC1000ブランドに加え、平成16年にはメガヒット商品である「ウコンの力」を発売している。こちらに開発を含めた経営資源を割く方が、将来的なキャッシュフローが生まれると考えていたものと思われる。

壱番屋のTOB、同族株式の引き受け

 2015年には、序文に記述した、壱番屋の株式を買収している。元々ハウス食品と壱番屋は、2008年10月から数度に渡り、資本業務提携を強化しており、2015年度時点では持分法適用会社(持株比率19.5%)となっていた。

 また、ハウス食品は中国・台湾・韓国にて「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開しており、同国内でNo1のカレーチェーンとなるべく、海外レストラン事業の拡大を狙っていた。

 壱番屋の状況はというと、全国に1,200店舗以上を運営し、国内で圧倒的No1の座を築き上げていた。体質も非常に良好で、売上は400億円超、営業利益率も10%を切ることはなかった。経営についても、カリスマ的創業者の宗次徳二氏が後任の浜島俊哉社長に代表権を譲り自身は顧問として経営を見守っていた。一方で、同社の株式は一族で23%以上を保有しており、円満な状態ながら、株と経営が分離している状況にあった。

 この同族株式の引き受け、というのが本TOBの骨子にある。

 壱番屋としては、ハウスのように予てから商流・資本関係のある、安心して株式を委ねることのできる相手は他におらず、ハウスとしては自社とシナジーの強い飲食フランチャイザーとの強い結びつきを獲得でき、自社の海外レストランの展開について更に加速することができる。

 両社とも、ニーズが合致した中で非常に良好な関係のもと、本TOBは実行されたと聞く。

 TOBの内容としては、対象会社の前日終値に対し11.7%のプレミアムを加えた額で、全株式の31.45%を上限とした買付(元々保有していた19.55%と合わせ51%)、代金は301億円となった。

 続いて、2016年5月、またTOBを行った。ブラックペッパー等を中心に香辛料の製造と販売を行う、ギャバンである。

 同社も既に資本提携関係にあり、2004年5月に同社の第三者割当及び自己株式の処分により、ハウスは発行総数割合15.85%を保有していた。同社は元々、味の素が55%の株式を保有しており、味の素グループとして事業を推進してきた。2004年8月に改めて味の素・ハウス・ギャバンの業務提携契約を締結し、両社との人材の交流やハウスを通じての販売を行っていた。

 その中で、ハウスとしては自社カレーとギャバンのスパイスにつき親和性があること、国内事業の収益力強化、新規需要の創出並びに海外事業の成長加速の実現を企図し、子会社化について味の素に交渉を行っていた。

 結果としては、対象会社の前日終値に対し18.33%のプレミアムを載せた形で味の素と合意。100%子会社化を目指し上限なしの公開買付に踏み切り、82.71%の取得(既存株数と合わせ98.61%)となった。価額は約64億円。

【財務分析】のれん償却、利益の圧迫要因に

 壱番屋とギャバンの2件のM&Aはここ2年で行われており、両社とも大幅なのれんを計上している。ここでハウス食品の財務状況に言及しておきたい。

 2016年3月期に大きく自己資本比率が落ちている。これは、壱番屋のM&Aが大きな影響を及ぼしている(この時点での決算では、ギャバンの件は未算入)。具体的には、TOBに伴い取得した株式31.5%だけでなく、既存保有の19.5%ものれんの計上対象となることが起因している。純粋なのれんだけで、約171億円が計上された。

 さらに、連結子会社化した壱番屋自体も商標権やフランチャイズ契約等、償却資産を大幅に保有している。商標権が267億円で42年償却、契約関連無形資産が290億円で30年償却となる。これらの償却が、今後、利益を押し下げていく原因となる。

 キャッシュアウトの無い為、ハウス自体は痛手を負うことはない。

 一方で通常であれば株主の配当が減り、痛手を負うものの、ハウスは新たな配当方針として、「企業結合に伴い発生する特別損益やのれん償却影響を除く、連結配当性向30%以上を基準とした安定的配当を継続する」と2016年の決算説明会にて指針を表明している。

 同説明会において、事業投資資金として500億円、必要に応じ借入を行い、最大700億円まで活用していく、とも指針発表をしていた。壱番屋とギャバンを併せても400億に満たない為、今後とも積極的にM&Aを行っていくものと推察される。

【株価】買収効果の実現に不透明感、上値重く


 株価は底堅く推移している。2013年末に1500円台だったが、デフレ脱却期待が高まるなかで、商品ブランド力のある食品メーカー株の一角として買いを集め、2015年春には一時2600円台まで上昇したが、その後は下落基調に転じた。TOBで2015年末に壱番屋、2016年6月にギャバンを相次ぎ傘下に収めたが、前述ののれん償却負担を上回る買収効果が発揮できるか不透明感もあり、本格的な株価上昇には至っていない。

 今期の予想PER(株価収益率)は約31倍。カレールウやスパイスで競合するエスビー食品(約13倍)と比べて割安感に乏しい。さらに上値を追うには買収企業における相乗効果の実現など成長戦略の強化が必要になりそうだ。

【まとめ】バリューチェーンを意識したM&A巧者

 ハウス食品のM&Aは、自社商品のバリューチェーンを強く意識してまとまって行われており、M&A巧者といえるであろう。先述の通り、今後も100~300億円までのメガディールを行っていくことを示唆しており、今後の躍進を期待を込めて見守りたい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。