トヨタが新規事業を公募、脱・自前主義で“創業以来の変革期”に挑む

トヨタが新規事業を公募、脱・自前主義で“創業以来の変革期”に挑む

2016.12.09

トヨタ自動車は12月7日、オープンイノベーションプログラム「TOYOTA NEXT」をスタートさせると発表した。自前主義を貫いてきたトヨタがなぜ、ここにきて他の企業や研究機関などと新たなサービスを共同開発していくことにしたのだろうか。

TOYOTA NEXTの発表会に登壇したトヨタ常務役員の村上秀一氏

トヨタに押し寄せる荒波

今回の発表会は、今年4月にオープンしたばかりの東京・新宿駅南口のLUMINE0(ルミネゼロ)で行われた。場所からしても、これまでのトヨタの発表会とは違っており、同社にとって斬新な取り組みであることが伺えた。

最初に挨拶に立ったトヨタの村上氏は、トヨタが今、創業以来の変革期を迎えているとの見方を示したうえで、グローバルマーケットも大事だが、日本国内での生産や販売などもまた重要だと語った。この点をさらに成長させるべく、トヨタは今年1月に国内販売事業本部を再編し、営業・販売面での生まれ変わり(reborn)を目指す「BR J-ReBORN室」を新設している。

このスライドを背景に、村上常務はトヨタに変革期が訪れていることを指摘。同社が80年にわたって続けてきたビジネスモデルが通用しない時代に入りつつあるとの危機感を示した

自前主義からの脱却を加速

その中で、これまでの自前主義にとらわれず、他の企業や研究機関が持つ新しいアイディアやテクノロジー、ソリューションを活用して新しいサービスを共同開発していくことも大事だと考え、TOYOTA NEXTの開始を決めたと説明した。人を中心としたモビリティ社会に必要なサービスを募集し、未来の自動車産業を作ることが目的だという。募集テーマは「すべての人の移動の不安を払拭する安全・安心サービス」などの5つだ。

募集テーマの5つの基軸

募集期間は12月7日から来年2月20日までとしており、すでに専用ウェブサイトもオープンしている。今後は2月下旬に書類審査を行い、一次選考、二次選考、最終選考を経て、7月下旬に選定企業を決定し、8月以降に開発やサービスをリリースする予定としている。

トヨタが提供するアセットとは

応募者に対し、トヨタが提供するのは同社が保有するアセット(資産)だ。具体的にはビッグデータ、ディーラーおよびオウンドメディアからなるタッチポイント、先日のコネクティッド戦略発表会で紹介された「スマートキーボックス」や、法人向け車両運行管理サービス「トランスログ」、パーソナルモビリティ「i-ROAD」、ナビなどを利用した通信サービス「T-Connect」、スマートフォンを利用したナビサービスとして先日リリースされた「TCスマホナビアプリ」などとなる。

トヨタのビッグデータを活用した新たなサービスが生まれるかもしれない

応募資格としては、ビジネス利用が見込める革新的な技術やソリューション、サービスの開発を行っている技術者や研究開発者、大学・企業などの団体としている。日本語での応対ができれば年齢は問わない。企業についてはトヨタグループか否かを問わず、大企業、中小企業、ベンチャーの全てが応募可能としている。

また応募条件については、トヨタとの協業やシナジーが見込めること、トヨタとの共創に向けた取り組みの実現に向けてリソースを割けること、中長期的にトヨタとの提携を前向きに検討できること、提出する資料やプレゼンテーションには日本語を使用すること、事業内容が公序良俗に反していないことが挙げられている。

トヨタはこのプロジェクトについて、サービス開発にかかわる費用の全額または一部を負担する。得られた成果物は選定企業とトヨタの双方に帰属し、選定企業とトヨタがともに無償で利用することができるとしている。

選考メンバーとしては、トヨタの村上氏、Inamoto & Co.共同設立者でクリエイティブディレクターのレイ・イナモト氏、デジタルガレージ執行役員SVPの佐々木智也氏をはじめ、数名の有識者などを予定しているという。Inamoto & Co.とデジタルガレージ、および同社グループ企業のDGインキュベーションは、TOYOTA NEXTのパートナー企業にもなっている。

イノベーションが民主化、求められるスピード感

発表会にはイナモト氏と佐々木氏も姿を見せ、トークセッションに参加した。

左から佐々木氏、村上氏、イナモト氏

イナモト氏は、20世紀のイノベーションが企業の中で行われたのに対し、21世紀はインターネットやスマートフォンが発達し、イノベーションが民主化していると指摘。企業だけではスピード感についていけない現状が今回の取り組みを生んだと語った。

一方の佐々木氏は、最近のオープンイノベーションの例として、大企業の任天堂と米国のスタートアップ企業であるナイアンティックが共同開発した「ポケモンGO」を挙げた。こうした協業がますます一般的になっていく中で、トヨタが同様のスタイルを取り入れたことを評価しているという。

国内中心のオープンイノベーション?

ところで今回のプログラムは、ここまで読んできた方ならお分かりのように、国内でのサービスに対象を絞っており、参加企業も日本人や日本企業を念頭に置いている。オープンイノベーションという概念に反するのではないのではないかという質問も出た。

この点について村上氏は、将来的には海外展開も視野に入れていると述べていたが、筆者は創造性溢れる国内のベンチャー企業やスタートアップ企業に活躍の舞台を与えるという観点から、日本を念頭に置いたことにはむしろ納得している。

個人的に気になるのは、日本のモビリティーシーンはレギュレーション(規制)が厳しく、斬新な取り組みであってもスムーズに導入されない事例を何度も目にしてきていることだ。

トヨタが提供可能なアセットのひとつとして挙げたi-ROADにしても、現状では専用の車両規格が日本には存在せず、1人乗りは原動機付自転車、2人乗りは軽自動車をベースとした超小型モビリティ認定制度のもとでの走行と分かれている。後者にはさまざまな制約がある。

日本にはi-ROADに適合する車両規格が存在しない

こうした障壁は、ベンチャー企業やスタートアップ企業が単独でクリアできるものではない。そのため、いち早く事業化に結びつけるべく、せっかく日本で育んだ発想を、米国や東南アジアで展開している企業もある。

どういう枠組みかではなく、何に結実するかが重要

日本のモビリティのレギュレーションは、多くが昔に作られたものであり、高齢化や一極集中など、さまざまな問題が山積している現在の事情に則したものとはいえない。現状を変えていくためにも、トヨタのような大企業の力とベンチャーやスタートアップ企業の技が結集する今回のプログラムは有効だろう。

この点について筆者が質問したところ、基本的にはルールに則って進めるものの、現状でも地方自治体などが工夫して新しい取り組みを進めており、必要があれば渉外の分野もトヨタが担当していくと答えていた。

トヨタは米国に人工知能(AI)研究の新会社トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)を設立するなど、近年、外部の会社や研究機関との新しい枠組みづくりを進めている。今回のTOYOTA NEXTもそのひとつといえよう。

しかしもっとも大切なことは、枠組みを作ることではなく、そこから何を生み出すかだ。日本のモビリティーシーンを大きく変えていくようなサービスが、ここから誕生してくることに期待したい。

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第1回

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

2018.11.16

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏による新連載!

第1回は、「多様化するビジネスホテルの今」について

料金変動「するホテル」と「しないホテル」 それぞれの狙いは?

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏が、意外と知らないホテルビジネスを語る新連載。第1回は、瀧澤氏が“注目度の高いカテゴリー”と説明する「ビジネスホテル」について。ここ数年で急速に「多様化」が進んでいるビジネスホテルのこと、どれだけ知っていますか?

ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。