【リクルートホールディングス】上場で海外M&A加速、世界一の人材系企業めざす

【リクルートホールディングス】上場で海外M&A加速、世界一の人材系企業めざす

2016.12.20

【リクルートホールディングス】上場で海外M&A加速、世界一の人材系企業めざす

リクルートホールディングス<6098>は言わずと知れた国内最大の人材系ビジネスの事業会社である。1988年のリクルート事件を乗り越え、2014年に東京証券取引所第一部に株式を上場した。国内企業のみならず海外企業も積極的にM&Aを行い、「グローバルNO.1」を目指す。同社のM&A戦略について検証する。

【企業概要】販促、求人メディア、人材派遣が主力

 同社は1960年「大学新聞広告社」として創業した。1963年に日本リクルートセンターに社名変更。1984年にリクルートに社名変更し、「とらばーゆ」「From A」などの人材系雑誌のみならず「AB-ROAD」「Car Sensor」など海外旅行や中古車販売の情報誌も創刊し順調に事業領域を拡大していった。

 そんな中、1988年に「リクルート事件」が勃発。リクルートコスモスの未公開株の贈賄で創業者を含めた関与者に2003年有罪判決が下された後、新体制の下で「誠意と努力で信頼創造」をスローガンに経営の立て直しを図る。

 その後2000年代に入り、国内のM&Aも積極的に行い業容を拡大した。2007年には人材派遣最大手スタッフサービスを買収し人材派遣業界トップに躍り出ると2009年以降は海外にも展開。2012年には7事業会社、3機能会社と統合すべく持ち株会社制を導入した。2014年には東証一部に上場した。上場以降も海外企業を中心に積極的に事業を買収し、国内にとどまらず「世界のリクルート」を目指す。

 同社の事業セグメントは大きく3つに分けることが出来る。販促メディアは「SUUMO」「ゼクシイ」「じゃらん」「HOT PEPPER」などのサービスブランドがあり、売上は全体の22%を占める(2016年3月期)。人材メディアは「リクナビ」「リクナビNEXT」「TOWN WORK」などがあり、売上は全体の23%。人材派遣は「リクルート スタッフィング」「スタッフサービス」などで構成され、売上は全体の56%を占めている。

【経営陣】峰岸社長、2012年に就任

 社長の峰岸真澄氏は1987年にリクルート入社。2009年に取締役就任。2012年から代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)。52歳。社外取締役として帝人会長の大八木成雄氏、日本たばこ産業副社長の新貝康司氏を迎え入れ、コーポレートガバナンスを強化している。

【株主構成】印刷会社などと株式持ち合い

筆頭株主は凸版印刷、僅差で大日本印刷、電通と取引先の大手事業会社が続く。リクルートも3社の株式を保有しており持ち合い関係にある。第4位は社員持株会。メガバンク3行も均等に株式を保有している。

【M&A戦略】国内外で優良企業を迅速に買収

 2006年頃から国内企業のM&Aによる事業領域の拡大に積極的に取り組む。2007年には人材派遣業界最大手のスタッフサービス社を1,700億円で買収、当時人材派遣業界第5位であったリクルートがM&Aによりパソナを抜き業界最大手となり、大きな話題となった。

 その後2009年以降は海外企業の買収に着手。米国、欧州、アジアにおける人材派遣会社や求人サイト運営会社、飲食店・美容室の予約サイト運営会社などを次々に買収している。

 また中国企業に対するM&Aについては消極的である。

 世界における人材系企業上位3社はアデコ(スイス)、ランスタッド(オランダ)、マンパワー(米国)である。現在リクルートは業界第4位の規模であり、「グローバルNo.1」を目指しているが、上位3社もM&Aにより随時事業規模の拡大を行っている。首位の座を獲得する為には上位3社を上回るM&A戦略を遂行する事が成功のカギを握っていると言えよう。

 国内の人材系業界においても競争は激化している。国内2位のテンプホールディングスは2013年にインテリジェンスを買収。国内3位のパソナグループについても過去より随時同業を中心とした買収を行っている。

 しかし上位3社のリクルート以外の2社は国内のM&Aが中心であり、海外M&Aにおいてはリクルートが他社を圧倒している。「規模の利益」の追求によりシェアを確保し競争優位に立つには、国内外問わず優良企業をスピーディーに買収していく必要がある。その点においてリクルートは上場こそ遅かったが早い段階からグローバルな視点で企業の成長ビジョンを描き実行に結び付けたといえる。

 最近では中堅の人材系企業についてもM&Aによる事業拡大を図り、上場する企業も増加しているが、ガリバー化したリクルートとは格差が大きく、企業ブランド力・知名度がものを言う人材・メディア業界においてリクルートは国内で突出した存在である。

 近年リクルートのM&Aは海外企業の買収が中心となっているが、一方で2015年にオンライン教育サービスを手掛ける国内のスタートアップ企業「Quipper」の大型買収を行っている。リクルートは国内の経営戦略として「中小企業向け業務支援分野」「ヘルスケア産業」「教育産業」の新規事業開発を掲げており、この3分野の事業領域の拡大においてもM&Aを活用していくことが想定される。ベンチャー・スタートアップ企業にとって大手企業と資本提携することによる事業シナジーは大きい。今後は人材系のベンチャー・スタートアップ企業に対する大手企業の熾烈な買収争奪戦が繰り広げられることになるであろう。

【財務分析】M&A効果、4年前から売上高倍増

 国内における既存事業の強化やITを活用した新規事業の開発だけでなく、M&Aを活用した海外展開を積極的に行うことにより、売上高及びEBITDA(利払い、税引き、償却前利益)は増加している。2016年3月期の連結売上高は前期比22%増の1兆5886億円と4年前からほぼ倍増。EBITDAは前期比6%増の2022億円だった。

 この成長の源泉は国内外のM&A戦略が結実したものである。2012年の持ち株会社制の導入、2014年の東証一部上場を経て豊富な資金力を得たリクルート。事業領域の拡大とグローバル展開を迅速に行う上でM&Aの活用は今後も引き続き重要な施策となる。

 同社最高財務責任者(CFO)の取締役兼常務執行役員の佐川恵一氏も「M&Aを活用した海外展開の加速により、EBITDAを持続的に成長させることで、中長期的な株主価値の向上を目指している」と戦略を述べており、「中長期的には7,000億円程度の投資が可能である。」としている。

 ただのれんの償却費などを考慮した営業利益でみると2016年3月期は前期比7%減の1140億円で、4年前のほぼ横ばいの水準にとどまっている。今後はのれんの負担をこなしても増益になるよう、買収先の収益力強化も課題になる。


【株価】年初来高値、会計基準の変更もプラスに

 株価は2016年に入り、上昇基調が続いている。12月14日には一時4550円を付け、年初来高値を更新した。2016年4~9月期の連結売上高は前年同期比11%増、営業利益は12%増と業績が好調に推移していることが背景にある。

 また同社は2018年3月期に国際会計基準(IFRS)の任意適用をめざすことを表明している。IFRSではのれんを定期償却する必要がなく、M&Aを積極的に活用する同社にとって営業利益の押し上げ要因となる。会計基準によって経済実態が変わるわけではないが、純利益やPER(株価収益率)などの指標にも影響を与えるだけに株価のプラス要因になりそうだ。

【まとめ】源流に起業家精神、大型M&Aに果敢に挑戦

 リクルートの成長の歴史はまさに「M&Aの歴史」である。国内企業のM&Aにより事業規模・事業領域を拡大したのちに株式を上場。信用力と資金力を活かし海外企業のM&Aを加速化させ、グローバル企業に成長した。企業の成長モデルとしてはお手本といえるが、そこにはリクルート特有の企業風土が影響している。創業当初からの「起業家精神」を重視した企業カルチャーが源流として存在し、常に高い目標設定と挑戦を繰り返してきた事が、結果的にM&Aの積極的活用に繋がった。

 現在は、企業が一丸となって「グローバルNo.1」を目指しており、M&Aの活用を主戦略と位置付けている。7,000億という巨額の投資額を実行していく一方、厳格な投資基準の運用を行う事でリスク軽減を図っている。M&Aによる事業拡大にリスクは付き物であるが、人材業界世界3大企業を超え「グローバルNo.1」となるために今後も大型M&Aを実行していくであろう。競合他社も含め今後の動向に注目したい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

カレー沢薫の時流漂流 第15回

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

2018.11.12

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「プリンセス駅伝の四つん這い走行」問題について

今年は「パワハラ」「黒い交際」「殺人タックル」など、スポーツ界が荒れに荒れた。

スポーツにつきまとう「感動」という尺度

というよりは、今までずっと「わかり哲也」の背景ぐらい荒れ続けていたが、関係者専用のプライベートビーチだったため、一般人の目につかなかっただけのような気もする。

その一方、ワールドカップでは予選を批判した奴は全員死んだのかというぐらい本戦の健闘が称えられたり、夏の甲子園では金足農が秋田県勢として103年ぶりに決勝に進出し大きな注目を集めたりと、感動的なこともあった。

しかし、結果だけを言えば、ワールドカップは1回戦敗退だ。金足農も決勝で敗れ準優勝。逆に優勝したのに金足農の陰に隠れた大阪桐蔭が可哀想なぐらいだ。

つまり、見る側はスポーツに対し、時に結果よりも「感動」を求めがちということだ。金足農が仮に優勝していたとしても、その勝利が「地獄甲子園」式で得た物なら讃えられなかっただろう。

スポーツに感動を求めるのは悪いことではない。私のような、床を這っているコードでこけるような先のない中年は、もはや他人の活躍に乗っかって泣いたり笑ったりするしかないのだ。

だが、「感動した! 痛みに耐えてよく頑張った! 」という言葉があるように、スポーツの感動には「選手が無理をする姿」も含まれていることは否定できない。その無理が「43度の風呂」レベルならまだ良いが、選手生命、さらには最悪命を脅かしかねない時もある。

インターネット大相撲では済まない「プリンセス駅伝」問題

そんな、文字通り「選手が痛みに耐えて頑張った」事件が、先日行われた「プリンセス駅伝」で起こった。女子駅伝だからプリンセス駅伝なのだろうが、私が走者だったら相当居心地の悪いネーミングだ。

その駅伝の中で、10代の走者が中継所の直前で走行不能となったが、何と四つん這いの状態で流血しながらタスキをつないだという。四つん這いで移動した距離は約200メートル。私だったら小一時間かかる、結構な距離だ。その選手がリードの外れた柴犬ぐらいのスピードで四つん這い走行した、というなら制止する間もなくタスキは渡されていたかもしれないが、満身創痍の状態なら相当時間がかかっただろう。

当然、その姿には「誰か止めろよ」と批判が噴出した。しかし、批判がある一方で「感動した!」と、流血四つん這いで走る女子の姿にバッチリ感動した勢がいるのも事実だ。それに対し「怪我しながら走る選手を美談にする勢を許さない勢」が現れ、いつものインターネット大相撲に発展しているのはよくあることなのだが、これはかなり複雑な問題なのである。

監督が倒れた選手に「お前棄権したらわかっとるやろな? 」とアイコンタクトをしたり、観客が「俺たちを感動させるために走れや」と選手を後ろからジープで追い立てたりしたと言うなら論外だが、監督はテレビモニターで「二足歩行が厳しい」という致命的な状態の選手を見て、ちゃんと棄権を申し入れている。

だが、その棄権が現場の審判に伝わった時には、すでにタスキ受け渡し地点の20メートル手前に来ていたそうだ。つまり、満身創痍の選手が四つん這いで180メートル移動してしまうまで棄権の申し入れが審判に伝わらなかった、ということだ。ここでまず連絡体制の不備が指摘されている。

そして、審判は棄権の申し入れを知った後も、「あとちょっとだし」と最後まで走らせてしまったと言う。痛みに耐えて頑張る選手、という「感動」に流され、無理をさせてしまった感は否めない。

そもそも棄権の申し入れがあるなしに拘わらず、現場判断で中止させるべきはなかったのか、という声もある。今、試しに家の中を四つん這いで走ってみたが、これで200メートルはなかなかキツイ。何より見た目が痛々しい。

私の場合、無職の中年が昼間に家の中を四つん這いで走っているというただの「イタい」状態だが、走れなくなった若い選手が流血しながら四つん這いで走る姿は、十分制止すべき痛々しさだろう。実際、棄権申し入れがなくても、現場判断で走れなくなった選手を止める権限が審判にはある。

それでも懸命に走る意志を見せる選手に心打たれて止められなかったのかというと、必ずしも感動だけが理由ではないようだ。企業にとって駅伝というのは非常に重要なものであり、それをチームではなく審判の判断で止めるというのは、審判員側と企業側に大きな禍根を残すことになりかねないのだという。よって審判側は「よほど勇気がないと止められない」そうだ。

また、選手にとっても企業の名前を背負っている上、「自分がコケたら皆コケる」という駅伝のルール上、選手には大きなプレッシャーがかかっている。つまり選手も現場も「止まるに止まれないし、止めるに止められない」状況になっていたのかもしれない。

そして結果から言うと、この選手は「全治3~4か月の骨折」となった。あの四つん這いでの200メートルがなかったら、もう少し怪我が軽くなった可能性は大いにある。

このように、無理は早めに止めないと、逆に有望な選手を潰すことになりかねない。

「無茶しやがって…」という展開は漫画などに任せ、ダメな時は「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と早々に打ち切り、次のチャンスに賭けるべきだろう。

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

2018.11.12

オリパラの裏側には、さまざまな最新技術が隠れている

パラアスリートを支える、ブリヂストンの「タイヤ技術」って?

義足用ソールの開発に挑む研究者らに話を聞いた

東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の開催まで2年を切った。自国開催ということもあり、現地で観戦しようと考えている人も多いだろう。そこで1つ提案したいのが、オリンピック・パラリンピックを「技術」の視点で見ることだ。

2018年の平昌オリンピック・パラリンピックでは世界初の5Gの実証実験サービスが行われ、開会式ではインテルがドローンによる光のパフォーマンスが行われた。このような派手なものに限らず、大会の裏にはいくつもの技術が隠れている。パラアスリートが用いる器具などがその典型的な例と言える。

そこで本稿では、「ワールドワイドパラリンピックパートナー」であるブリヂストンによる、自社技術の活用によってパラアスリートを支援する取り組み「パラアスリート技術支援プロジェクト」に注目。東京2020を支える技術の裏側に迫る。

タイヤ技術でパラアスリートを支えよ! 

パラアスリート技術支援プロジェクトは、同社のオリンピック・パラリンピックのパートナー契約締結を機に『タイヤやゴムの技術をアスリートのために活かせないか』という想いから発足したという。ではその技術で何を作っているのかというと、1つの例が義足用の「ソール」(地面に接する部分、靴底)だ。

今回話を聞いた、ブリヂストン 先端企画本部 先端技術推進部 先端技術企画推進第1ユニット 主任部員の小平美帆さん(左)とオリンピック・パラリンピックマーケティング推進部 アクティベーション推進ユニット 課長 鳥山聡子さん(右)

「当社では、パラトライアスロン選手の秦由加子さんの義足用ソールを開発しました。現在も定期的に本人と話し合いの場を設けながら、当社の技術でサポートできる部分はないか、ということを模索しています」(鳥山さん※以下、鳥山)

秦由加子 選手。1981年生まれ。千葉県出身。3歳から10歳まで水泳を習う。13歳で骨肉腫を発症し、右足の大腿部切断を余儀なくされたが、2007年に障がい者水泳チームで水泳を再開。2013年にパラトライアスロンに転向した。大腿部切断でパラトライアスロンを行っている唯一の日本人選手だ

なぜ同社がソール部分に注目するようになったかというと、「タイヤ技術との親和性の高さ」が理由だと小平さんは語る。

「もともと当社では、タイヤはもちろん、ゴルフシューズや農業機械用のゴムクローラなど、『地面と接する部分』の製品開発に強みを持っております。ソールも同じく、地面と接するモノ。そこで当社の持つ技術との親和性が高いと感じ、注目するようになりました」(小平さん※以下、小平)

さらに、ソールの素材はゴムと高分子の複合体であり、これは同社の製品でもよく使われる素材であった。タイヤ製品で培った技術を活用することで、選手をサポートできるのではないか? と考え、新ソールの開発を始めたというわけだ。

義足イメージ。ランニングシューズの底のように、特有なパターン(模様)の入っている部分が、ブリヂストンの開発したソール

「ランニングシューズを切って、義足に貼る」が当たり前?

そもそも、義足用のソール開発に力を入れている企業というのはグローバルで見ても少ない。義足を必要とする人は多くいる一方で、切断箇所や筋肉量の違いなど、個人個人によってのニーズが異なるために、高ロットでの生産ができず、なかなかビジネスとして成り立たないことが原因だという。では、秦選手の使用していたソールには具体的にどのような課題があったのか。

「これは秦さんに限らず、ほとんどのパラアスリートに当てはまることなのですが、それぞれが個人に最適化されたツールを使えていないという課題がありました。もともと、多くの種類が市場に出回っているわけではないので、パラアスリート向けの『高品質な製品』自体が少なく、モノによっては、開発されて数十年経っている”最新モデル”もあります」(鳥山)

驚くべきことに、世界大会で活躍する秦選手のような人であっても、ランニングシューズを買って、ソール部分を切り取り、義足に貼り付けて使っていたのだとか。そのように「売られているものを転用して使う」というパラアスリートは少なくないそうだ。

「当たり前ですが、ランニングシューズのソールは、義足を必要とする人向けに開発されたものではありません。地面と接触した際にかかる力は違うし、耐摩耗性が求められる箇所も異なります。秦さんは以前、雨の中でのレースで、『滑るのが怖くて、思い切って走ることができなかった』という経験をしたそうです。そうした意見を聞き、どんな状況であっても安心して走れるようなソールを開発したい、と考えるようになりました」(小平)

タイヤ開発のノウハウを詰め込んだソール開発

しかし、いくら「地面と接するモノ」だからといって、タイヤとソールで求められる技術が一緒だとは思えない。どのようにブリヂストンの持つノウハウをソール開発に適応させたのか。

「はじめはゼロからの挑戦でした。そもそも、『義足のソールに求められることって何? 』という疑問からのスタートなんです。勉強の日々でしたね。どうにか当社の技術を活用できないか、と考え、まずは走る際にかかる力を測るために、タイヤ開発に使用する測定器を使って圧力測定を行いました」(小平)

圧力測定時の様子。ランニング時、ソールへの力のかかり方がどう変化するかを調査した

ほかにも、使用した後の摩耗部分の分析などを行い、グリップ力を上げつつ摩耗を抑えられるソールはどのようなゴム材料・溝形状にすればよいかをひたすら考えたそう。

さまざまなデータから見えた課題に対して「どうブリヂストンの技術を適応させれば良いか」と考え、試行錯誤を重ねた後に、ようやくソールを開発。2017年4月、初めて秦選手に新ソールをつけた義足で走ってもらうことになった。

「私たちのソールで走ってみた秦さんには『全然違う! 』と、すぐに気に入っていただきました。その1カ月後には早速、新ソールで大会にも出場していただきました。その大会もあいにくの雨だったのですが、確実に滑りにくくなっているとのフィードバックをいただき、手応えを感じました」(小平)

小平さんや鳥山さんは、秦選手と密にコミュニケーションを取りながら、フィードバックを元にソールの改良を続けた

さまざまな領域での技術活用も視野

そのレース以来、秦選手は変わらずブリヂストンが開発したソールを使い続けている。現在のソールは2代目で、2017年に開発したモデルから、パターンと材質を変更しているそう。

しかし、いくら製品の改良を実現したと言っても、事業化につなげられなければ、同社の「パラアスリート支援」は一過性のものになってしまう。同社は今後、この取り組みをどのように続けていく予定なのか。

「秦さんとの協力によって生まれた技術が将来、当社製品のブレイクスルーにつながる可能性はあると考えています。将来的には、さまざまな領域での技術の活用も視野に入れております。ですが、何よりこの取り組みは、当社がグローバルメッセージとして掲げる『CHASE YOUR DREAM』を体現するもの。

CHASE YOUR DREAMとは、ブリヂストンが、さまざまな困難を乗り越えながら「夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えていく」という想いを表現したメッセージ

そのため、必ずしも『将来的なリターン』を求めてこの活動をやっている訳ではありません。私たちの取り組みが社内外に広がり、当社の『夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えたい』という想いに触れていただき、一緒にオリンピック・パラリンピックを応援してくれる仲間を広げていくことを目指しています」(鳥山)

「2020東京」まで1歩ずつ、2人3脚で

現在、すでに秦選手用の最新ソールは完成しているそうだが、まだまだブリヂストンの挑戦は続く。

「最新モデルは、秦さんの要望を満たし、かつさまざまなデータから考えられる問題点を解決した自信作。しかし、パラリンピックまではまだ時間があります。今後も本人のフィードバックをもとに、より改良を続けていきたいです」(小平)

パラアスリートと一緒に夢を追い続けるブリヂストン。今回紹介したのは、同社の秦選手との取り組みだけだが、それに限らず、ほかにも多くのアスリートを支援しているそうだ。

オリンピック・パラリンピックでもっとも日の目を浴びるのは選手。しかし、その周りには、選手たちを支えている多くの人たちがいる。来る2020年、パラリンピックでは、選手の義足や車椅子などにも注目し、そこに隠れた技術の背景を想像してみるのも楽しみ方の1つだ。

ブリヂストンと秦選手の挑戦をこれからも応援したい