見えてきた各社のエコカー戦略、2017年に注目すべきポイントは

見えてきた各社のエコカー戦略、2017年に注目すべきポイントは

2016.12.26

2016年は自動車メーカー各社のエコカー戦略が見えてきた年だった。世界的には航続距離の長い電気自動車(EV)の開発競争となっている模様で、燃料電池車(FCV)を本命に据える日本メーカーもEVへの対応を迫られている。米国カリフォルニア州のZEV(Zero Emission Vehicle=排ガスゼロ車)規制が目前に迫るなか、米国市場を得意とする日本勢はプラグインハイブリッド車(PHV)の商品化も急ぐ必要がありそうだ。エコカーを取り巻く環境は2017年にどう変わるのだろうか。

欧州勢は電動化に素早く対応

2016年を振り返ると、欧州自動車メーカーの急速な電動化への動きが印象深い。

EVについては、BMWが2014年4月に日本国内へも導入したのにとどまり、逆にダイムラーの「スマート」は最新型にEVの設定がない。フォルクスワーゲン(VW)も「アップ」と「ゴルフ」にEVを用意したが、国内の急速充電器への対応が不十分で、立ち消え状態だ。だが、PHVについては、ドイツの5メーカー(メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、VW、ポルシェ)が設定車種を用意している。なかでもメルセデス・ベンツとBMWは、高級車から普及車種まで幅広く車種展開を進めている。

BMWのPHV「330e」

また、秋のパリモーターショーにおいて、EVではBMWに出遅れ気味のVWやメルセデス・ベンツが、コンセプトカーを意欲的に出展した。

先見の明を示した日本勢は…

一方、国内では日産自動車の「ノートe-POWER」やスズキの「ソリオハイブリッド」など、ハイブリッド車(HV)の新顔は現れたが、トヨタ自動車の「プリウスPHV」は秋発売の予定が冬へ持ち越されるなど、もたつきが見える。他の国内メーカーからPHVの新たな動向は聞こえてこない。

ディーゼルエンジン車の普及は、2000年代に欧州で顕著だった。対する日本国内では、排出ガスに対する2009年のポスト新長期規制以降になって、東京都の「ディーゼル車NO作戦」以後の復権を果たしてきているが、そうしている間に、欧州では電動化が進んだといえる。ディーゼルエンジンに10年遅れの日本が、電動化でも10年遅れの様相である。

欧州の動きはいずれも、EUでのCO2排出量規制や、米国カリフォルニア州でのZEV規制強化に素早く反応し、手を打ってきているのを実感させる。一方、日本の自動車メーカーの動きはどちらに対しても鈍い。

20年ほど前の1997年に、トヨタが世界で初めてHVの「プリウス」を市販したことに始まり、2011年には日産がEVの「リーフ」を世界に先駆け市販した。そうした先見の明を示しながら、いずれもその後の世界動向の見方が甘いのか、見誤ったのか…。欧州勢に後れを取ってしまったというのが、2016年の率直な実感である。

ZEV規制への対応が急務

2018年からは、日本の自動車メーカーにとって重要な市場である米国のカリフォルニア州で、ZEV規制の強化が始まる。しかも、米国における2018年モデルとは、2017年の秋から発売されるため、すでに規制強化に向けて1年を切っている。

ZEV規制の強化では、これまでZEVの勘定に入れられてきたHVが除外される。したがって、いまごろHVを市場導入しても、ZEV規制には何の効果も得られない。EV、FCV、PHVを販売できなければ、罰金を支払うか、EVを数多く販売するメーカーから余剰のクレジットを購入するしかない。

バッテリーの増産が電動化の追い風に

ところで、米国のEVメーカーであるテスラモーターズは、日本のパナソニックと共同で米国内にリチウムイオンバッテリーのギガファクトリーを建設し、2018年には最大生産能力に達するとしている。そうなると、現在世界で製造されているリチウムイオンバッテリーの生産量がほぼ倍増する予定だ。

ほかにも、韓国のLGエレクトロニクス、中国の比亜迪(BYD)、シャープを買収した台湾の鴻海、米国のボストンエナジーが、ギガファクトリーの建設を計画しているとの話もある。EVやPHVに必要なリチウムイオンバッテリーの生産能力は、2018年以降、急速に高まる様相となっている。

これらが2020年ごろまでに稼働し始めれば、これまで世界で生産されてきたリチウムイオンバッテリーの数倍に達する生産規模になるとの見方も出ている。

バッテリーの生産規模が増えればEV普及に追い風となる(画像は日産リーフ)

すなわち、リチウムイオンバッテリーの部品メーカーはいずれも、それだけの需要があると見込んでいるわけで、各社がEUのCO2排出量規制やカリフォルニア州のZEV規制を意識しているのは言うまでもない。また、ZEV規制は、カリフォルニア州だけでなく他の州へも広がるのは確実だ。

そうしたなかで日産は、2018年ごろをめどにリーフの先のEVを発表するとの噂がある。それ以外では、プリウスPHVがこの冬のいつ頃に発売となるのか。年明け早々の注目ポイントはまずそこにある。

プリウスPHVは大衆のクルマになれるか

プリウスPHVについて、実は自動車ジャーナリストにはすでに事前の試乗会が催され、私も施設内のコースながら運転をしている。EV走行を約60キロメートルできるということで、競合PHVの中ではEV走行可能距離で最長水準に達する性能を備えたクルマだ。その一方で、気掛かりな点もあった。

それは、4人乗りとするなど、FCVの「MIRAI」同様に、高級車扱いをしようとしている気配を感じさせたことだ。実際、米国で発表された際の車名は「プリウス・プライム」とされている。プライムには“最上の”という意味がある。

ドイツ勢が次々に市場投入するPHVを見ると、上級車種もありながら、できるだけ購入しやすい価格でのPHV像を定着させようとしている姿勢が感じ取れる。なかでもBMWは、その傾向が強い。たとえば、エンジン車で同等車格のメルセデス・ベンツ「Cクラス」とBMW「3シリーズ」を比較した場合、CクラスのPHVは721万円であるのに対し、BMW3シリーズは554万円からの価格設定だ。

なおかつ、EVモードの走行距離はCクラスが28.6キロメートルであるのに比べ、3シリーズは36.8キロメートルと長い。さらに、BMW「2シリーズ」のSUVでは506万円からPHVを購入できる。

価格設定が焦点に

2016年12月の時点で、まだプリウスPHVの価格は発表されていないが、HVのプリウスが後席3人掛けであるのに対し、PHVは2人掛けとして上級車感を演出しており、HVからPHVへ乗り換えようと考えていた人はそこに躊躇するのではないだろうか。しかも、HVより大きいリチウムイオンバッテリーを搭載するため、荷室の床が高くなって、荷室の使い勝手はプリウスより劣る。

次のプリウスが“大衆のクルマ”として日本のPHV市場を創出できるかは1つの焦点となる

実用性を犠牲にしてまでPHVを上級車種に見せることが、顧客にとって、また環境意識が高くCO2排出量をより減らしたいと考える人にとって、本当に必要なことなのだろうか。PHVが、HVに次いで標準となる時代が目の前に迫っているのである。

とはいえ、年明けにプリウスPHVが発売されたときの価格がいくらであるのか、そこは新年の注目ポイントの1つにはなる。

エコカー戦略が試される時代、2017年は幕開けの年

そのうえで、2017年秋からのカリフォルニア州のZEV規制へ向け、日本の自動車メーカー各社からどれほどのPHVやEVの話が出てくるのか。また、カリフォルニア州および米国対応だけでなく、日本の市場にもそうした電動車両が手に入るような販売戦略がとられるのか、あるいは当面の間、米国対応だけになるのか。その対応によって、日本の自動車メーカーの電動化へ向けた本気度が見えてくる。

もっと強く言えば、2017年は、そのメーカーの存続を左右するこの先数年の、はじまりの年ともいえるのである。

これからの製造業は、従来に比べ、ただ単により良いものを作っていればいいという時代ではなくなってくる。もちろん高い技術と品質、そして耐久信頼性は従来のまま土台として持ちながら、明確な将来への構想をより具体的に明らかにすることが、これからの自動車産業には不可欠であろう。

景気低迷がなお続くなかで、消費行動を後押しするものは何か。それは、良いものをこの先5年、10年と使い続けることへの安心と、それにより豊かな生活への期待が持てるという希望なのではないだろうか。

2017年は、自動車メーカーがクルマを消費者にとって安心して利用できるものへと発展させられるかどうかに注目したい。そして、どう発展させるのかを各社がしっかり発信できているかどうかにも目を配るべきだろう。そうすることで、どこのメーカーのクルマを買えばいいかが見えてくるはずだ。

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

関連記事
訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

関連記事