伊藤園はお茶だけでない コーヒー・乳製品にも進出 M&A駆使し総合飲料メーカーへ

伊藤園はお茶だけでない コーヒー・乳製品にも進出 M&A駆使し総合飲料メーカーへ

2016.12.27

伊藤園はお茶だけでない コーヒー・乳製品にも進出 M&A駆使し総合飲料メーカーへ

 お茶製品、野菜飲料、コーヒー飲料を扱う飲料メーカーの伊藤園<2593>。1980年、世界初の「缶入りウーロン茶」を開発。1985年に販売開始した「缶入り煎茶」を1989年に「お~いお茶」に名称変更したことで販売数が増加し、2003年に全ての茶系飲料の中で販売量No.1ブランドとなった。茶系飲料のイメージが強い伊藤園について主にM&Aの観点から分析する。






【企業概要】 茶系飲料への依存度高く

 代表取締役会長である本庄八郎氏が、兄である正則氏と共に設立したフロンティア製茶が1969年に商号変更により伊藤園となった。

 伊藤園の経営理念は「お客様第一主義」、全てのお客様(消費者、株主、販売先、仕入先、金融機関、地域社会)を大切にすることを経営の基本としている。

 伊藤園の経営理念は営業にも表れている。伊藤園の営業の特徴として「ルートセールス」が挙げられる。飲料メーカーの多くは問屋を経由し卸しているが、伊藤園では創業当初より問屋を経由せず直接小売店に卸す仕組みを採用している。小売店はもちろん自動販売機も店であるとし、一軒一軒営業担当が訪問している。対面で顧客と話すことで、顧客が何を欲しているか、どのような商品が売れているか等の情報を直接入手することができるのが強みである。余談だが、自動販売機については商品配置の変更はもちろん、自動販売機周辺の清掃や空き缶回収も営業担当が行っているという。

 上記の経営理念をもとに、伊藤園は1996年に東証二部に上場、1998年に東証一部に鞍替えした後も順調に業績をのばし、2016年4月期の連結売上高は4655億円、経常利益は150億円、子会社36社、関連会社3社、連結従業員数8044人となっている。

伊藤園は総合飲料メーカーを目指して商品ラインナップの充実を図っているが、「お~いお茶」のイメージが強いのが実情である。今後は茶系飲料への依存度を低下させることが一つの課題となる。

【経営陣】 創業者一族による経営

 創業者である本庄八郎氏が会長、同じく創業者である本条正則氏の長男である大介氏が社長、八郎氏の長男である周介氏が副社長となっている。いずれも代表取締役であり、創業者一族による経営が行われているといえる。本庄大介氏は2009年に社長に就任、53歳。

【株主構成】 創業者一族の影響が強い

 伊藤園の筆頭株主及び第2位は創業者一族が代表であるグリーンコア、本庄国際奨学財団、第4位には代表取締役会長である本庄八郎氏となっており、創業者一族の持ち株比率は27%ほどとなっている。

【M&A戦略】 品揃え拡充へ買収を重なる

 伊藤園は「お~いお茶」を筆頭に茶系飲料ではすでに高シェアを占めているが、総合飲料メーカーとしての地位を確立するため、品揃えを充実させることを目的にM&Aを行っている。すでにコーヒー飲料市場には参入していたが、2007年にコーヒー飲料強化を目的にタリーズコーヒーを経営する会社を買収した。2011年には乳製品市場に参入するため中堅乳業メーカーのチチヤスを買収した。

 飲料メーカー業界においては近年、M&Aが活発に行われている。特に日本国内においては人口の減少が始まっており、限られたパイを得るために国内の同業を買収するケースがある。一方、海外に目を向けて外国の飲料メーカー等を買収するケースも多い。ここで、主な飲料メーカーの売上高及び時価総額をグラフにしてみる(売上高は直近の有価証券報告書上の金額、時価総額は2016年11月末時点)。

 アサヒグループホールディングス(以下、アサヒ)とサントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)が他社を圧倒しているのが分かる。アサヒ、サントリーはいずれも積極的に大型のM&Aを手掛けている。2社の直近の主なM&Aは以下の通りである。伊藤園もM&Aは行っているが、M&Aの規模としては上位2社のM&Aに比べ相当小さいといえる。

アサヒ

サントリー

2016年、ABインベブより東欧5カ国でのビール事業を8800億円で買収 2015年、JTの飲料事業を1500億円で買収
2016年、欧州ビール事業を3300億円で買収 2014年、米国ウイスキーメーカーを1兆6500億円で買収
2014年、マレーシア乳製品メーカーを334億円で買収 2013年、英国飲料事業を2106億円で買収
2013年、インドネシアの飲料水メーカーを189億円で買収 2009年、フランス清涼飲料水メーカーを3500億円で買収
2012年、カルピスの全株式を1200億円で買収 2008年、ニュージーランドの飲料大手を750億円で買収
2011年、ニュージーランド・豪州酒類販売会社を976億円で買収

 アサヒ及びサントリー以外の飲料メーカーの時価総額は3000億円台が多い。アサヒ及びサントリーが過去手掛けたM&Aの金額だけみると、今後国内飲料メーカーが買収される可能性も否定できない。

 再編が進んでいる飲料事業において伊藤園が一定の地位を保つためにも今後M&Aをさらに積極的に行うべきである。ここで、主な飲料メーカーの現預金と有利子負債の比較をグラフにしてみた。

 主な飲料メーカー8社のうち売上上位4社は現預金に比べ有利子負債の金額が大幅に大きくなっている一方、下位4社は現預金と有利子負債がほぼ同額、または現預金のほうが大きくなっている。下位4社については有利子負債を増やす、つまり資金調達を行う余地は多分に残っていると言える。再編の波にのまれないよう、資金を調達し積極的にM&Aに投じることで会社の規模を拡大し、身を守ることを検討する必要があると思われる。

【財務分析】 業績は堅調、M&A効果は限定的

 伊藤園は中長期計画において2017年4月期の連結売上高5000億円、ROE(自己資本利益率)10%、配当性向40%を掲げていたが、2016年4月期決算発表において公表された2017年4月期の計画は、連結売上高4715億円(前期比1.3%増)、ROE9.1%、配当性向44.5%となっている。茶系飲料メーカーだけあって渋い(手堅い)計画となっている。

①売上高と経常利益

 売上高は2015年4月期に減少しているが、それ以外は順調に増加している。経常利益は2008年4月期、2009年4月期及び2015年4月期に減少している。2008年4月期、2009年4月期は、原材料の高騰や販売促進費の増加が影響している。2015年4月期は全国的な天候不順による影響の他、2014年4月より引き上げられた消費税の影響で売上及び経常利益が減少している。外部的要因(原材料の高騰、天候、税金等)により売上等が左右されることが分かる。

 なお、2007年4月期にフードエックス・グローブ、2013年4月期にネオスを連結子会社としている。2007年4月期は売上が前期比221億円増加、2013年4月期は前期比346億円増加している。

②財務キャッシュフロー

 伊藤園のキャッシュ・フロー計算書の財務キャッシュ・フロー(CF)に注目してみた。2008年4月期、2012年4月期、2015年4月期に大きく増加(資金を調達)していることが分かる。2008年4月期は「株式の発行による収入」(優先株式の発行)により145億円増加している。調達した資金は設備投資に充当する他、コマーシャルペーパーの償還(76億円)にも充当している。このコマーシャルペーパーは2007年6月に実行したフードエックス・グローブの株式の追加投資の際に発行したものである。2012年4月に「社債の発行による収入」により調達した200億円の一部はネオスの株式買収に充当し、2015年4月期に「長期借入れによる収入」により調達した130億円の一部はDISTANT LANDS TRADING CO.の株式買収に充当している。

③自己資本比率と有利子負債

 自己資本比率は70%近くまで上昇したが、徐々に下降し2016年4月期では43.9%まで下がっている。その要因は、上記グラフから明らかで、有利子負債の増加である。2007年にフードエックス・グローブを買収したが、その資金は上記の通り、最終的に優先株式の発行で対応したことで有利子負債は増加していない。2009年4月期まで有利子負債ゼロであったが、2009年からネオスを段階的に買収したこと及び2015年にDISTANT LANDS TRADING CO.を買収したことで有利子負債が増加。これにより自己資本比率も下降している。

④セグメント情報

 2007年4月期から「その他」の金額が徐々に大きくなってきている。これは2006年にフードエックス・グローブの株式を買収したことで飲食関連事業(タリーズコーヒーの経営)の売上が増加したことが要因である。2013年4月期からは、セグメント情報の有用性を高めるため、飲食関連事業を独立したセグメントとして扱っている。M&Aにより獲得した事業が順調に成長していることが伺える。

 しかし、主要セグメントであるリーフ・ドリンク関連事業の割合が圧倒的に大きいため、飲食関連事業が柱となるのは相当先の話であり、現時点ではリーフ・ドリンク関連事業の単一セグメントであるといっても過言ではない。リーフ・ドリンク関連事業は天候等の外部要因で業績が左右されるリスクがあるため、別の柱となる事業をM&Aにより手に入れることが重要であると思われる。

【株価】業績好調を受け、高値圏に

 伊藤園の株価は堅調に推移している。2016年7月には一時4000円台に上昇し、現在も高値圏で推移している。2017年4月期の業績が好調に推移していることが背景にある。12月1日に通期の業績予想を上方修正した。日本茶、健康茶、コーヒー飲料の販売が好調なほか、販売管理の管理強化も奏功している。通期の売上高は前期比2%増の4750億円、経常利益は29%増の195億円を見込んでいる。

 今期の予想PER(株価収益率)は約40倍。約28倍のダイドートリンコや約35倍のヤクルト本社に比べて割高感がある。さらに上値を追うには、既存事業を伸ばすことに加え、新たなM&Aなどによる成長戦略の強化が必要になりそうだ。

【まとめ】再編に備え必要、積極的なM&Aを

 伊藤園は総合飲料メーカーを目指すべくM&Aを行ってはいるが、他社(特に上位2社)に比べまだ消極的であるといえる。業績が順調に推移していることもあり、M&Aに積極的になる必要性が乏しいのかもしれない。しかし、飲料事業は天候不順等の外部要因により業績が左右されるリスクが高いこともさることながら、飲料事業の再編に飲み込まれないためにも、積極的な投資を行うことが必要ではないだろうか。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。