シャープが再び欧米でテレビを売る? 手放したブランドを取り戻しに動くワケ

シャープが再び欧米でテレビを売る? 手放したブランドを取り戻しに動くワケ

2016.12.28

鴻海精密工業の傘下で再建を進めているシャープが、戴正呉社長のもとで、改革に乗り出している。

2016年8月12日の買収完了以降、堺への本社移転、合弁解消などによる子会社の再編、集中購買の促進、有機ELディスプレイのパイロットラインへの投資などのほか、信賞必罰型人事制度の導入や、ローテーション制度の廃止、45歳以下を対象にした退職した社員のカムバック制度の導入といったように人事面にもメスを入れている。そして、2016年度下期の黒字化、2018年度までの東証一部復帰などの方針を打ち出す一方、新たなスローガンとして「Be Original.」を掲げるなど、矢継ぎ早に手を打っている。

そのなかで、戴社長が打ち出したのが、欧米のテレビ事業などにおけるライセンスビジネスの再編だ。

初めての決算会見に臨むシャープの戴正呉社長

シャープの戴社長は、「シャープのブランドライセンスを世界中から買い戻したい」と語る。実際、2016年12月22日には、工場を売却するとともに、ブランド供与を開始していたUMCを、逆に買収することを発表。ブランドを買い戻すだけでなく、子会社化するという動きに打って出た。

シャープのライセンスビジネス

シャープは、鴻海傘下に入る以前に実行していた自主再建において、海外の一部事業の、事実上の事業撤退を決断。ブランドライセンスビジネスへと移行していた。

具体的には、欧州においては、テレビ生産から撤退し、ポーランドの生産拠点をスロバキアのUMCに売却。UMCにシャープブランドを供与し、液晶テレビを販売する体制へとシフト。また、白物家電は、トルコのVestelに販売を移管。タイや上海のシャープの工場で生産したシャープブランドの白物家電を、欧州で販売しているほか、Vestelが生産した家電もシャープブランドで販売している。米国においては、中国のハイセンス(海信集団)に、メキシコのテレビ工場を売却。同社にシャープブランドを供与するビジネスにシフトしていた。

当時シャープの社長を務めていた高橋興三氏は、「欧州市場は国ごとにニーズが異なる市場性に対応できなかったことに加え、シャープの販売シェアが小さいため、開発コストに見合う販売量を確保できずに赤字が続いていた。欧州市場からの生産撤退により、テレビ事業の最大の赤字が消えることになる」などと、ライセンスビジネスにシフトした狙いを説明していた。

鴻海傘下に入って進む自主再建策の見直し

だが、戴社長は、こうしたライセンスビジネスを見直し、自らの力で、全世界におけるシャープブランドによる製品ビジネスを展開することを視野に入れている。世界最大のEMS(電子機器受託製造)である鴻海の力を活用できるいまは、当時のシャープの状況とは置かれた立場が異なるのは明らかだ。

「シャープの物流に鴻海精密工業の仕組みを利用した結果、白物家電とテレビだけで、半年間で20億円のコスト削減ができた」(シャープ・戴社長)ということからも、シャープブランドを海外で展開する効果はありそうだ。

実は、見直しを図ろうとしているのは、ライセンスビジネスだけではない。シャープが自主再建のために行ってきたいくつもの取り組みについても、戴社長は見直そうとしている。

実際、本社エリアにある田辺ビルは、NTT都市開発に一度売却したものの、これを買い戻すことに成功している。このほかにも、ニトリに売却した本社ビルを買い戻すための話し合いを行うなどの動きをみせている。

戴社長は、「今までシャープが結んできた契約は不平等なものが多い。契約は尊重するが、私は社長としてそれを再交渉し、見直していく」と発言。具体的なものとして、太陽光発電事業で使用しているシリコンの調達や、オフィスの10年間の長期契約などを指摘。そのなかで、シャープのブランドライセンスビジネスもその対象であることに言及してみせた。

「鴻海の力を利用して、解約を行ったり、見直しをしていく」と、戴社長は意気込む。

世界最大のEMS(電子機器受託製造)という立場は、世界的に通用するものだといえる。その立場にある鴻海が、影響力を活用して、シャープが結んできた契約を見直すというわけだ。

今後、ただ、ライセンスビジネスを展開しているハイセンス、Vestelに対しても交渉を続けていくことになるだろう。

ホンハイにとってブランドビジネスとは

シャープが、ブランドを買い戻すという「荒技」に打って出るのは、鴻海にとって、ブランドビジネスが、シャープ買収における重要な柱のひとつになっているからだ。

鴻海は、部品などにおいてフォックスコンというブランドを展開しているが、これは一般ユーザー向けのブランドではない。さらに子会社を通じてスマホブランドのインフォーカスなどのブランドも持つが、これらのブランドビジネスは決して成功してはいない。

その点、液晶テレビ市場において、世界で戦ってきた経験を持つ「シャープ」ブランドは、鴻海にとっては重要なものになる。

ところが、シャープの自主再建策のなかで、シャープブランドを主要市場となる欧米において、テレビや白物家電事業で自ら使用できない契約を結んでしまった。ブランド戦略を世界的に展開したい鴻海にとって、ブランドビジネスに関するいまの契約内容を早期に見直したいと思うのは当然のことだろう。

ブランド強化の思惑は実現するか

戴社長は、社長就任後の2016年8月22日に、社員にあてた最初のメールで、そのタイトルを、「早期黒字化を実現し、輝けるグローバルブランドを目指す」とした。ここでは、自らが「シャープ」ブランドにこだわっていることを示しながら、信用の蓄積の証である「ブランド」を強化する方針に言及。「いま一度、ブランドを私たち自身で磨き上げ、グローバルで輝かせたいと考えている。そのためには、まず、私たち全員がお客様の気持ちに寄り添い、お客様一人ひとりが自分らしさを実現できる商品やサービスを提供する姿勢を持ち続け、シャープらしいオリジナリティあふれる価値を実現していくことが必要。シャープがこのようなブランドであり続けることを世界中のお客様に約束するメッセージを、今後、グローバルに発信していく」と述べた。

また、11月1日に打ち出した事業方針では、「成長軌道への転換」のひとつに「ブランド強化」を掲げ、「欧州テレビブランドライセンス先(UMC)との業務提携の強化」として、出資も視野に入れた関係強化、欧州市場での事業拡大などを盛り込んでおり、さらに、「その他地域・事業におけるブランドの再強化」も、ブランド強化策のなかに入れたていた。

この時点から、出資をしてまで、欧州でのブランドを買い戻す姿勢すら見せていたのだ。

ただ、シャープが、ブランドを強化していくと、鴻海の本業であるEMS事業において、自らが取引先と競合する立場になりかねない。

「シャープのブランドライセンスを世界中から買い戻したい」とする戴社長の思惑はどこまで実現するのか。そこにこだわればこだわるほど鴻海の立場は危うくなるともいえる。

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。