CPUも新たなAI発達の選択肢に? インテルが描く人工知能戦略

CPUも新たなAI発達の選択肢に? インテルが描く人工知能戦略

2016.12.30

米インテルが開催した「Intel AI Day」では、同社の人工知能戦略が明らかになった。近年、AI分野ではディープラーニングの台頭に伴いGPUコンピューティングに押され気味の同社CPU群だが、AI市場においても再び存在感を表す意気込みが感じられる。

AI市場にかけるインテルの本気

インテルは半導体市場における世界第1位の企業であり、特にCPUにおいては市場の8割近いシェアを持つ。だが、近年はスマートフォン・タブレット向けのARMアーキテクチャの台頭とPC市場の縮小などで以前のような存在感は薄れており、またAI市場においては、NVIDIAのGPUをディープラーニングに利用する手法が定着してからは、CPUは完全に脇役のような位置付けになってしまっている。

同社は2020年にはAI向けのコンピューティングサイクルは現在の12倍に拡大すると推測しており、クラウドからデバイスまで幅広く半導体を提供する同社にとって、AIに注力するのは、再び業界の中心として返り咲くための戦略として、当然の帰結ともいえる。

インテルは2015~2016年にかけて、AI関連の企業を多数買収している。この中には独自のコグニティブコンピューティングプラットフォームを持つSaffron Technology、組み込み機器向けのコンピューティングビジョン用SoCの開発を行うMovidius、ディープラーニングを専門とするNervana Systemsなどがある。

特にNervana Systemについては非常に重視しており、同社のAI向けプラットフォームを「Nervana Platform」、データセンター向け製品群を「Nervana Portfolio」と名付けたほどだ。この中には、同社の「Xeon」および「Xeon Phi」といったCPU製品群も含まれている。

Nervana PortfolioとしてCPU製品群も紹介された。2017年度以降に製品化される世代がこれらの中に含まれる

Xeonプロセッサはワークステーションなどに搭載されるCPUであり、研究室などで実際にAI開発に使われているCPUとしてはおそらく最大のシェアを誇る製品だ。またXeon Phiはメニイコア(数十以上のCPUコアを搭載するプロセッサ)のMICアーキテクチャを採用したCPUおよびコプロセッサボードの製品であり、GPUと同様に並列コンピューティング向けになる。Nervanaの中では高性能なマシンラーニング向けに提供される。

さらに、学習済みのディープニューラルネットワークを使った推論システム向けにはXeonと昨年買収したAltera通信社のArria 10 SoC(FPGA)の組み合わせを、ディープラーニングの学習向けにはクラス最高のニューラルネットワーク性能を実現するべく、XeonとNervanaのテクノロジーを投入する「Lake Crest」コプロセッサの組み合わせが提供される。

Xeon Phiについては2017年に販売される次世代版「Nights Mill」にいてディープラーニング性能が4倍に向上し、32ノードにスケーリングした場合はマシンラーニングにかかる時間が31倍高速化されるとしている。また「Lake Crest」およびXeonと統合された「Knights Crest」世代が投入されることにより、マシンラーニングにかかる時間は2020年までに現在の100分の1に短縮できるとした。

Lake Crestはコプロセッサボードとして提供される見込み。CPUに統合されるKnights Crest世代は2018年前後の登場と見られる

無償のソリューション提供で普及に拍車をかける

さらにインテルは、Nervanaが開発していたディープラーニング向けのフレームワーク「neon」の提供や、ディープラーニング用SDK、マス・カーネル・ライブラリやデータ解析用ライブラリ(DAAL)を無償で提供するなど、オープンエコシステムを通じてAIソリューションを提供することで、AI市場全体の普及を促進するとしている。

さまざまなフレームワークやライブラリといった開発向けソリューションを無償またはオープンソースで提供することでNervanaプラットフォーム全体の普及を促進する

また、グーグルとも提携し、コンテナ型仮想化技術「Docker」の管理フレームワーク「Kubernetes」、ディープラーニングソフト「TensorFlow」、そしてGoogle Cloud Platformを、ぞれぞれインテルアーキテクチャ上で最適化することを明らかにしている。特にAI関連の最適化はまだほとんど進んでおらず、最適化が行われるだけで、現在よりも数段高速化することが見込まれるという。

インテルはAI関連のソフトウェアの97%はインテルアーキテクチャ上で動作していると推測しており、こうしたAIのメインストリームにける圧倒的な実績と、データセンター向けコンピューティング向け「Nervana Platform」の提供、またさまざまな買収によって得られたAI関連の資産や提携・標準化への取り組みなどを経て、IoTからクラウドまでの市場ニーズを満たす唯一のサプライヤーとしての優位的な位置付けを活かしていきたいという意向を示した。

インテルアーキテクチャ上で動作するソフトウェアが多いと言うことは、それらがそのまま動作するNervanaプラットフォームであれば移行が容易であり、コストも低いことを意味する

AIはどのように発達するのか

人工知能にはさまざまなタイプや学習方法があるが、近年話題になっているディープラーニングでは、人間が特定のデータにラベルをつけて正解を教えてやらなくても自分で正解を探してくれるため、人間の仕事だった処理を自動化できるのが最大のメリットだ。ただしこの学習には非常に大きなデータが必要になり、データのやり取りを行うI/O自体がボトルネックとなってしまっている。

現在のシステムではCPUにせよGPUにせよ、プロセッサー(コア)数を増やしていっても、線形的に学習速度は向上してくれない

インテルがNervanaテクノロジーで目指しているのは、メニイコアを前提とした高並列の分散システムへの最適化と、それによるAI処理のスループットの向上だ。GPUを大きく上回る、高速かつ巨大なメモリへのアクセスが可能になることで、コア数あたりの学習速度は線形的に向上するようになる。学習速度が大幅に向上すれば、それだけAIが活躍する場面も増えてくる。インテルの目論見通り、現在の100倍も高速なディープラーニングが可能になれば、現在なら数カ月かかっていたものが1~数日で解決することになる。よりユーザーの位置に近い、学習データを使った推論システムを搭載した機器類(=IoT)も、従来よりはるかに高い水準の性能と改良速度を得られるはずだ。

Xeon Phiでは半年程度の最適化で、最大400倍ものパフォーマンス改善を実現したという。ソフトウェアの改良だけでなく、メニイコアや非常に広いメモリ幅といったハードウェアの特徴があってこその数値だ

なにより、ベースとなる学習速度が高まれば、これまで時間の問題から検証できなかった新しい学習アルゴリズムが発見される可能性もある。演算速度の大幅な向上はAI自体の発展にも予測のできない影響を与える可能性があるわけだ。

ひとつだけ心配するとすれば、インテルはその歴史上、企業買収では失敗しているほうが多い。買収したはいいがその分野を伸ばせずに売却したり、消滅していった製品や企業も数多い。幸い、AIではハードウェアの改良もさることながら、ソフトウェアの最適化や改良も大きなポイントとなっている。

AI分野ではGPUに最適化されたソフトも多いが、主要なソフト類はまだまだインテルアーキテクチャ上で動作するものが大半だ。それらが高速化・最適化によって、何も手を入れない状態で高速に動作するようになるとすれば、開発コストの低減や開発サイクルの高速化に大きく貢献できるはずだ。

難しいことを考えずに導入したハードウェアで、これまでのソフトがそのまま高速に動作する、という状況を計画通りに作り上げることができれば、AI開発におけるインテルプラットフォームの重要性はこれまで以上に増すだろう。AI業界全体の発展のためにも、インテルの思惑がうまく作用することを期待したい。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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