新「MacBook Pro」から見えてくる、アップルのパソコン事業の未来

新「MacBook Pro」から見えてくる、アップルのパソコン事業の未来

2016.11.01

アップルは米国時間10月27日、コンピュータの中で主力となるノートブック型Mac、「MacBook Pro」を刷新した。Macは、世界的なパソコン市場の低迷の中でも、マイクロソフトのSurface、グーグルのChromebookとともに善戦しているブランドだ。今回の新製品は、実に4年ぶりのモデルチェンジとなり、またスティーブ・ジョブズ氏が封筒から取り出して披露したMacBook Airが、主力から外れるラインアップの変更も行っている。アップルのコンピュータ事業は、どのような戦略を採っていくのだろうか。

1991年発売の「PowerBook」以来、25年が経過したというアナウンスから新型「Macbook Pro」の説明が始まった

新しいMacBook Pro

最新のMacBook Proについて簡単に解説をしておこう。MacBook Proは、アップルのMacの中で、上位モデルとなるポータブルコンピュータだ。現代のコンピュータはノート型が主流となっており、事実上、MacBook Proが最上位に位置するコンピュータとなる。この部分は、後の話に関係するので、覚えておいていただきたい。

MacBook Proは、Intel Core i5/i7を核とするハイエンドノートブックで、今回の刷新では高精細のRetinaディスプレイを、iPhone・iPad・iMacで先行して採用した広色域(P3)とし、さらに明るさ、コントラストも高めた。実際に花の写真をデモで見せていたが、赤と緑の深み、そして鮮やかさは息を飲む。

加えて、薄さとコンパクトさを高めつつ、使いやすさを向上するため、薄型のキーボードを再設計し、トラックパッドも2倍のサイズに拡大した。

キーボード上部でタッチ操作を可能にする「Touch Bar」ほか、表示の美しさ、薄さ、コンパクトさを高めたことなどが新型「MacBook Pro」の特徴

アップルが披露した最新機種のテーマは、「正常進化」の一言に尽きる。既存の機種と同様に、フラッシュストレージを搭載、光学式ドライブを排除し、信頼性、バッテリー持続時間、そしてディスプレイの美しさにこだわった。丁寧かつ実直に、これを進化させた点で、戦略に対する驚きは特にないはずだ。

すでにある自然に売れていくエコシステム

Mac事業は、つい最近まで、アップルの中で3つ目に大きな事業だったが、最近、第2位に返り咲いた。当然トップはiPhoneで、長らく第2位はiPadだったものの、iPadの販売不振で、再びMacが第2位の規模になった。とはいえ、こちらも減少傾向だ。

アップルはiPod以来、マスに人気のある製品を活用した、同社の製品やサービス全体のエコシステムを潤す「ハロー効果」を上手く活用してきた。iPodをWindowsユーザーにも開放したが、そのユーザーをMacへ移行させる「Switchキャンペーン」も有名だった。

現在の中心はiPhoneだが、ブランドの身近さをアピールするに留まらない綿密な戦略がある。まず、iPhoneユーザーに対しては、App Storeの充実ぶりを強調する。例えばPokemon GOやSuper Mario Runといった人気タイトルの配信をアピールすることは、これらのゲームがAndroidプラットホームで配信されていても、アプリ購入や課金売上はアップルのほうが大きくなる。

またApple MusicやiCloudなどのサービスの拡充は、前述のApp Storeの売上とともに、「サービス」というカテゴリの2桁成長を持続させている。製品でみると、Apple Watchも、iPhoneと組み合わせる前提となる製品だ。

ではMacはどうだろうか。

iPhoneユーザーが同じブランドのMacを選択するメリットを、macOS Sierraでは整えている。Apple Payの利用や、Apple Watchによる自動ログイン、iCloudでの写真や文書の共有、端末間で作業を引き継ぐハンドオフ機能などがそれにあたる。

macOS SierraではApple Payの利用が可能
Apple Watchによるロック解除もある意味iPhoneがもとになる機能だ

さらに、成長するApp Storeに対してアプリを開発するためには、現段階では(そして今後も)Macで動作する開発アプリXcodeが必要となる。Macも、開発者向けには、すでにiPhoneのエコシステムに組み込まれ、iPhoneとApp Storeの継続的な成長が、Macの成長につながるという形ができあがっている。

コンピュータという存在の再編

筆者がもう1つ、昨年から今年にかけて、アップルの考え方の変化を感じている点がある。アップルは「コンピュータ」の入り口を、必ずしもMacに限定しないと、明確に舵を切ったのではないか、ということだ。その理由は、2016年3月に発表したiPad Pro 9.7インチモデルの存在にある。

製品発表を行ったフィル・シラー上級副社長は、古いPCからの乗り換えを狙っている製品だ、と指摘した。いままでであれば、MacBook Airを勧めていたと考えられるが、今回の発表でMacBook Airは併売される13インチモデルを残して、ラインアップのアップデートを終えている。

アップルは、iPhoneユーザーが新たに覚えることなく、すぐに仕事やクリエイティブに利用できる「入り口となるコンピュータ」としてiPadを設定した。Macよりも単価は1/3に下がるが、それ以上の販売台数が出るという算段だろう。

いままでのコンピュータが使いたい人、そしてプロフェッショナルに向けたラインアップとして、MacBook、MacBook Proの2本立てに統一したと考えている。

併売モデルを除き、MacBookは1299ドルから、MacBook Proは1499ドル、1799ドル、2399ドルという価格展開に整え、1台あたりの販売価格を上昇させた。製品単価の上昇は、iPhone、iPad Proでも同様であり、アップルがより効率的に収益を上げていく戦略にも一致する。

新MacBook Proの価格は左から1499ドル、1799ドル、2399ドル

iPadについても、iPad AirシリーズはiPad Proシリーズに統合され、より身近な「iPad」が改めて追加されるかもしれない。

MacBook Pro、3機種の理由

MacBook Proの位置づけをもう少し考えていこう。

今回のラインアップで、15インチ・13インチモデルに「MacBook Pro with Touch Bar and Touch ID」という上位機種を設定した。本格的に写真やビデオ、グラフィックスなどの編集を行う人は、AMDのグラフィックスが搭載された15インチモデルを用意した。

Touch Bar搭載のMacBook Pro 13インチモデルは、高い性能とコンパクト性のバランスをとった最も販売台数が期待できるモデルと言える。

Touch BarとTouch IDが搭載されない13インチMacBook Proについては、ディスプレイやキーボード、トラックパッドは共通だが、CPUやグラフィックス、そしてThunderbolt 3ポートを半分に減らすなど、価格を抑えたものとなる。

この最も価格が安いMacBook Pro 13インチは、MacBook Airのユーザーの取り込みを狙っているものだ。これは、今回もプレゼンテーションに立ったフィル・シラー氏も、MacBook Airとの比較を披露したことから明らかだ。

一世を風靡したMacBook Airは主力から外れたか

13インチMacBook Proは、MacBook Airに比べ、重さ20g増、そしてバッテリー持続時間は2時間短くなった(ちなみにTouch Bar付きの13インチMacBook Proも同じプロフィール)が、上位機種と同じワイドカラーのディスプレイを搭載した点は評価できる。店頭で、そして買い換えて使い始めて、見違える画面のキレイさに満足するユーザーは多いだろう。

Touch Barに隠された成功への追体験

さて、最後にTouch Barについて触れておこう。

アップルはこれまで、iPhoneで親しまれている技術を、他の製品に活用することで、「体験のブランド化」を図ってきた。マルチタッチ、Force Touch、Retinaディスプレイ、Siriなどがそれにあたる。その一方で、iPadの存在もあり、Macがタッチディスプレイになる必要がない、とも考えているようだ。

キーボード上部でのタッチ操作を可能とするTouch Bar

そこで、キーボードという、タッチデバイスには馴染みの薄いデバイスと、マルチタッチディスプレイを融合させたTouch Barを登場させた、ということだ。

現段階は突飛なギミックにも見えるし、Windows PCでもマネできるだろうが、アップルの目的は、Macアプリ開発者との連携の強化だと考えている。

クラウドサービスが普及した現在は、WindowsからMacへ、その逆、iPhoneからAndroidへ、といったプラットホームの移行が容易になっている。特にコンピュータは、同じアプリが動くなら、価格が安く性能の高い製品を魅力に感じる。

前述の通り、アップルが製品単価を高める努力を続けていくとすれば、価格競争から逃れる手段を模索していたはずだ。

その可能性を作り出すのがTouch Barだ。この新しいインターフェイスは、すでにAdobeやMicrosoft、あるいはMacの人気DJアプリなどから対応がスタートした。もちろんMacにTouch Bar非搭載モデルが存在する以上、必須のインターフェイスと言えるものではない。

とはいえ、アップルが重要視している「体験」は、これまでの製品から大きな差別化を図ることができる。アプリ開発者はMacアプリで新たな体験作りを楽しむことができるし、ユーザーが本当に便利だと思えば、Macプラットホームを使い続けることになるだろう。

今現在、突飛なアイデアに見えるTouch Barだが、アプリの充実と利用シーンの拡大は、一般ユーザーの見えないところで、Macの価値を絶大なものに変えていく可能性を秘めている。

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

2019.03.20

モバイル業界を変える「携帯値下げ議論」が過熱

ファーウェイは日本を取り巻く環境を「歴史的チャンス」と発言

コスパ高いミッドレンジ端末でシェア拡大を目指す

20日、NTTドコモが特定の端末の購入を条件に通信料金を割り引く「docomo with」、購入する端末に応じて通信料金を割り引く「月々サポート」を終了する方針を固めたという報道が話題となっている。

国内のモバイル業界では携帯電話料金見直しが進んでおり、3月5日には総務省が中心に進めてきた端末代金と通信料金の分離が閣議決定された。NTTドコモは分離プランを軸とした新料金プランを4月に発表する見込みだ。

日本のモバイル市場を大きく変えるこの動きを「歴史的チャンス」と見ているのがファーウェイだ。2018年末から米中対立が加速する中、ファーウェイが打ち出すメッセージも語気を強めている。果たして日本市場でシェアを拡大できるのだろうか。

逆風吹けども、依然として業績は好調

今年に入り、ファーウェイの周辺が騒がしい。3月7日には、ファーウェイは米国政府を相手取って訴訟を起こした

さらにその内容をFacebookでライブ配信するなど、米国以外の世界市場に向けたメッセージにもしており、そのメッセージをまとめたウェブサイト「Huawei Facts」は、わざわざ日本語版も用意している。

2018年末から続く米中対立を巡る報道は、ファーウェイの業績にどのような影響を与えたのか。MWC19でインタビューに応じたファーウェイ・ジャパンの呉波氏は、「一部の消費者は影響を受けたが、2019年に入ってから売上は大幅に伸びている」と語った。

ファーウェイ デバイス 日本・韓国リージョン プレジデントの呉波(ゴ・ハ)氏

話題の「折りたたみスマホ」でもファーウェイは先行する。

ファーウェイに先立って折り畳みスマホを発表したサムスンだが、こちらはMWCではガラスケース内での「展示」のみにとどまったのに対し、ファーウェイは「Mate X」の実機を用いて報道関係者に折り曲げを試させるなど、製品化で一歩先を行っていることをアピールした。

ファーウェイの折りたたみスマホ「Mate X」。報道陣には手に取って折り曲げてみる機会も用意された

Mate Xは次世代移動通信の「5G」にも対応しており、日本では5Gサービスの開始を待って投入時期を見極める方針だという。

ちなみに3月26日に発表予定のフラグシップ機「HUAWEI P30」シリーズは、例年通りのタイミングで日本市場に投入するようだ。SIMフリーでの発売だけでなく、ドコモが採用した「HUAWEI P20 Pro」のように大手キャリアによる採用があるかどうかも注目したい。

分離プランを「歴史的チャンス」と捉えるワケ

一方、2019年の国内モバイル市場で話題となっているのが携帯料金における「分離プラン」の導入だ。KDDIとソフトバンクはすでに導入済みだが、NTTドコモは4月に発表する新料金プランから本格導入するとみられている。

分離プランの特徴は、NTTドコモの「月々サポート」のように回線契約と紐付けた端末の割引が禁止される点だ。端末の割引自体が禁止されるわけではないというものの、大幅な割引は難しくなる。その結果、10万円を超えるようなハイエンド機ではなく、3〜4万円で一括購入しやすいミッドレンジ機の需要が高まるとの見方が有力だ。

この動きをファーウェイはどう見ているのか。

呉氏は「非常に重要視している。スマホが登場したときや、SIMフリー市場が始まったときのインパクトに引けを取らない、歴史的な瞬間になる」と興奮気味に語る。

日本のSIMフリー市場でベストセラーとなった「HUAWEI P20 lite」を始め、ファーウェイのミッドレンジ機のラインアップは厚い。モデルによってはフラグシップと同じCPUでミッドハイの価格を実現するなど、コスパの高さも特徴だ。大手キャリア向けにさまざまな提案ができる体制といえる。

フラグシップと同じ「Kirin 980」搭載でミッドハイ価格の「HONOR View 20」

また、5G対応も順調だ。

モバイルWi-Fiルーターに強みを持つファーウェイは、MWC19でも5G対応ルーターを多く出展していた。日本ではまだ周波数の割り当てが終わっていないものの、国内大手キャリアは2019年内にもプレサービスを始める動きがある。5Gスマホが普及するまでの間、5Gルーターの需要は高まる可能性がある。

5G対応のモバイルWi-Fiルーターも出展していた

ミッドレンジ市場の拡大を狙って、今年はシャープやサムスン以外にも、ソニーモバイルの参入も予想されている。

この価格帯が激戦区になることは間違いないが、ファーウェイはその中で高コスパの製品ラインアップや、国内での地道な販促活動やブランドメッセージの打ち出しによって対抗していく構えだ。

ヨドバシカメラ梅田店での販促イベントの様子
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2019.03.20

Googleが新しいゲームプラットフォームを発表

配信方式でゲーム機不要、「ゲーム機」の時代の終焉?

2019年内にローンチ、性能はプレステやXbox以上か

3月19日、米国で開催中のゲーム開発者会議「GDC 2019」の会場で、Googleがクラウドベースのゲーミングプラットフォーム「STADIA」を発表した。特定のゲーム機に縛られず、ネットに接続したスマホやパソコン、テレビを通してストリーミング(配信)形式でゲームをプレイできる。

この事業を担当するバイスプレジデントとして、STADIAを発表するフィル・ハリソン(Phil Harrison)氏。そもそも彼からして、元はソニーのプレイステーション立ち上げの主要メンバーで、その後Microsoftに移りXboxを担当したという経歴の持ち主

かねてより、MicrosoftのXbox事業のトップマネージャーを引き抜いた、ソニーでPlayStationのハード開発にかかわったエンジニアが転職したといった噂が頻繁に流れており、「Googleがゲーム市場に本格参入する」という憶測は強まっていた。実際に2018年には、Googleは「Project Stream」と呼ばれるストリーミング形式のゲーム基盤の計画を発表し、米国内でベータテスターを募って技術テストを行っていた。

STADIAは、Project Streamの延長線上にあるサービスと見られる。ユーザーは特定のゲーム機を持っている必要がなく、従来のゲーム機の役割をするのはGoogleの設置するデータセンターだ。簡単に言えばクラウドサービスのように、実際にゲームタイトルが動作しているのはデータセンター側で、ユーザーはインターネットを介してゲームを遠隔でプレイする。

STADIAのデータセンターから配信されたゲームをパソコンでプレイしている様子
パソコンで遊んでいたのと同じゲームを、タブレットやテレビでも同じように遊ぶことができる

このプラットフォームの特徴によって、例えばYouTubeで新作ゲームのトレーラー動画を見ていて気に入ったときには、そのページ内の「プレイする」ボタンを押すだけで、インストールすら不要で、動画を再生するかのようにそのゲームをプレイできるようになる。

そして、STADIAのデータセンターが持つゲーム機としてスペックは、サービス開始時のものとして、GPUの演算性能は10.7テラFlopsに達するといい、これはPlayStation 4 Proの4.2テラFlopsや、Xbox One Xの6.0テラFlopsを大きく上回る。映像品質も4K/60fpsのストリーミングに対応し、将来は8K/120fps対応も予定しているという。

STADIA用の「STADIAコントローラー」も販売する。SNSアップ用のボタンや、Googleアシスタントボタンが備わっている

Googleは2019年中にSTADIAをローンチする予定で、まずは米国、カナダ、欧州でサービスを開始すると説明している。発表を受けた翌20日の東京株式市場では、任天堂とソニーの株価が揃って大きく下落した。投資家たちが、GoogleのSTADIAによって、Nintendo SwitchやPlayStationのビジネスが脅かされると考えたからだ。

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