なぜ、ドコモは「ワイモバイル」のようなサブブランドを展開しないか

なぜ、ドコモは「ワイモバイル」のようなサブブランドを展開しないか

2016.11.02

ソフトバンクがワイモバイルブランドで、KDDIがグループ企業のUQコミュニケーションズが展開する「UQ mobile」で、低価格を求めるユーザーの獲得を積極化している。一方NTTドコモ、はグループ企業を活用したり、自社でサブブランドを展開したりするなどして、低価格ユーザーを獲得するという動きが見られない。なぜNTTドコモは、低価格サービスを提供する企業やブランドにあまり関与しようとしないのだろうか。

急拡大するワイモバイルやUQ mobile

近頃、スマートフォンを低価格で利用できるサービスを提供する企業やブランドによる競争が、非常に激しくなっている。実際10月にも、多くのMVNOが新サービスや新端末などを発表している。

中でも大規模な発表会イベントを開いて注目されたのは、KDDIグループのUQコミュニケーションズである。同社は昨年10月、KDDI子会社のKDDIバリューイネーブラーと合併したことで、「UQ mobile」ブランドでKDDI(au)の回線を用いたMVNOによるスマートフォン向け通信サービスを提供しているが、今年に入ってから月額2,980円で、1GB分の高速通信容量と、1,200円分の音声の無料通話が利用できる「ぴったりプラン」を提供したり、iPhone 5sの販売を手掛けたりするなど、積極的な攻めの姿勢を見せている。

10月24日に実施されたUQコミュニケーションズの発表会でも、そうした攻めの姿勢は目立っている。UQ mobileはau回線を用いていることから、対応するSIMフリー端末の数が非常に少なく、スマートフォンの選択肢がとても狭いことに大きな課題があった。だがUQ側の働きかけなどによって、au回線のVoLTEに対応したSIMフリー端末新機種が急増。UQ mobileが提供する端末も、8メーカー・12機種にまで一気に拡大してきている。

au回線を用いた「UQ mobile」の最大の弱みは対応端末数だったが、10月24日の発表会では8メーカー・12機種にまで拡大し、選択肢が大幅に拡大した

さらにショップ展開に関しても、UQコミュニケーション独自のショップ「UQスポット」を全都道府県に展開するほか、携帯電話ショップなどでの販売も拡大することにより、全国でのタッチポイントを2000箇所に増やすことを発表。これだけの規模で販売拠点を設けることは、ほとんどのMVNOには真似のできない、大手キャリア傘下の企業ゆえだといえる。

「UQスポット」は、今後全都道府県に拡大するとのこと。大半のMVNOには真似できない規模のショップ展開を進める点からも力の入れ具合が分かる

UQ mobileとはスタイルは異なるものの、大手キャリアが低価格を求めるユーザー層に力を入れる動きは、もう1つある。ソフトバンクのワイモバイルブランドがそれだ。

ワイモバイルはソフトバンクが買収した通信会社をベースに生まれたブランドだが、月額2,980円の料金で、1GBの高速通信容量と10分間の通話し放題を利用できる安価な通信サービスと、大手キャリアが提供している安心感を武器としてユーザーを急拡大。中でもUQ mobileに先駆けて、今年3月にiPhone 5sを正規に取り扱いを開始したことは大きな話題となった。

ワイモバイルはUQ mobileに先駆けて、今年3月にiPhone 5sを投入したことから大きな注目を集めた

ワイモバイルはソフトバンクのサブブランドとして、ソフトバンク自身が直接運営することを強みとして低価格なサービスを実現している。またUQ mobileは、厳密にいえばサブブランドではないものの、最近ではauとの販売連携を強化するなど、KDDIの傘下企業であることを強みとして攻めの姿勢を強めている。

NTTドコモのサブブランドの可能性は?

このように、大手キャリアのうち2社がサブブランドや傘下企業を活用し、低価格を求めるユーザーの開拓を積極化している。だが最大手キャリアであるNTTドコモに関しては、自社もしくはグループ企業を活用し、低価格のサービスを提供するという動きは見られない。実際、NTTドコモ代表取締役社長の吉澤和弘氏も、10月28日の決算説明会において、サブブランドに関する質問に関して「考えていない」と答えており、サブブランド展開を実施する考えがないことを明確にしている。

NTTグループとして見れば、現在NTTコミュニケーションズがNTTドコモのMVNOとなり、「OCNモバイル」としてサービスを提供してはいる。だが電気通信事業法でNTTドコモに課せられている禁止行為規制の影響などもあってか、他の2社のように密接な連携をしているわけではなく、両社はあくまで個別のサービスとして展開しているようだ。

MVNO最大手のNTTコミュニケーションズは、ゲオなどと協力して販売拡大を進めるなど、NTTドコモとは一線を画す取り組みを進めている

もっともワイモバイルのように、NTTドコモ自身が低価格のサブブランドを作って展開すること自体は、電気通信事業法上の規制に抵触するわけではない。それでもなお、NTTドコモはサブブランドを展開しない理由がどこにあるのかと考えると、MVNOの存在にあるといえそうだ。

NTTドコモがサブブランド展開しない理由はMVNOにあり

一般的に低価格なサービスを提供するMVNOが増えることは、大手キャリアにとってはユーザーがMVNOに流出することから、デメリットであると捉えられているが、実は必ずしもそうとは限らない。というのも、キャリアはMVNOに回線を貸し出す際、MVNO側から毎月「接続料」が支払われるので、MVNOが増えれば接続料収入が増え、メリットにもなってくるのだ。

また、キャリアから直接回線を借りてサービスを提供する「一次MVNO」の大半は、NTTドコモから回線を借りているので、MVNOの増加はNTTドコモにとっても売り上げを増やす要素になっているのである。

確かにキャリアからMVNOにユーザーが移れば、ユーザー1人あたりの売り上げは下がってしまう。だがそれでもNTTドコモの回線を用いたサービスにとどまっている限り、何らかの形で収入を得ることができることから、他キャリアの回線を用いたサービスにユーザーが流れ、ライバルの売り上げを増やすよりはメリットなのだ。しかも、大半のMVNOがNTTドコモの回線を利用している現状、仮にNTTドコモ自身がサブブランド展開を進めてしまった場合、MVNO側からの反発は免れないだろう。

そうしたことから、NTTドコモとしては自社で直接低価格のブランドを展開するよりも、多数存在するMVNOを拡大することで、ワイモバイルやUQ mobileに対抗して低価格を求めるユーザー層を獲得していきたい狙いがあるものと見られる。実際NTTドコモはいくつかのMVNOと、「dTV」「dマガジン」など、「dマーケット」のサービス販売で協力しており、MVNOを敵としてではなく、味方として活用しようという様子がうかがえる。

NTTドコモはインターネットイニシアティブ(IIJ)やビッグローブなどと、dマーケットのコンテンツ販売で連携も実施している

それでも「MONO」を展開した理由とは?

しかしながら一方で、NTTドコモは冬・春商戦に向けて、低価格のスマートフォンシリーズ「MONO」を展開しているほか、LTE対応フィーチャーフォン向けに、月額1,800円から利用できる料金プランを提供するなど、低価格指向のユーザーに向けた施策も打ち出している。これは低価格を求める層をMVNOに移行させまいとする動きにも見える。

NTTドコモは冬商戦に向けて、オリジナルの低価格スマートフォンブランド「MONO」を展開することを発表した

だが実際のところ、MONOなど今回NTTドコモが打ち出した一連の施策は、ワイモバイルやUQ mobileへの対抗と考えられそうだ。MVNOは確かに価格は安いが、規模が小さい企業が大半を占めるため、ブランド力や信頼、安心感という面では劣る部分がある。実際ワイモバイルやUQ mobileのように全国くまなく実店舗展開できている、あるいはしようとしているMVNOは極めてごく少数にとどまり、大半のMVNOは買いやすさやサポートなどの面で、今なお多くの課題を抱えている。

もちろん、インターネットイニシアティブ(IIJ)のように日本郵政とタッグを組み、郵便局のカタログ販売を活用するなどして販路を拡大するMVNOや、楽天の「楽天モバイル」のように、企業体力があることを活用し、テレビCM展開や独自の端末調達などでブランド力を高めているMVNOなどは出てきている。だがそれでもまだ、大手キャリアの後ろ盾がある2つのブランドと比べると力不足という印象は否めない。

楽天の「楽天モバイル」のように、企業体力の大きな会社がMVNOの事業を大規模展開する事例も増えているが、ワイモバイルなどと比べるとまだ規模は小さくブランドも弱い

それだけにNTTドコモとしては、現在MVNOに欠けている安心・信頼・ブランド力という部分をカバーし、ワイモバイルやUQ mobileに流出しようとしてるユーザーを阻止するためにも、低価格の端末やサービスを提供するに至ったといえそうだ。特にワイモバイルやUQ mobileは、価格の高騰を嫌ってスマートフォンへ移行しようとしない、NTTドコモのフィーチャーフォンユーザーを主要ターゲットの1つとしていると見られることから、NTTドコモとしてはMVNOが成長する前に、フィーチャーフォンユーザーがNTTドコモ以外の回線に流出しないよう、対処をする必要があったといえるだろう。

自社やグループ会社の活用に舵を切った2社とは異なり、多数のMVNOに回線を貸すことによって、低価格ユーザー獲得を託したNTTドコモ。その戦略が吉と出るかは、ある意味ワイモバイルやUQ mobileに匹敵する規模にまでMVNOが成長し、NTTドコモが直接介在する必要なく、三つ巴の戦いを繰り広げてくれるかどうかにかかっているといえるかもしれない。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。