ホンダが復活させたスーパーカー「NSX」が背負った使命

ホンダが復活させたスーパーカー「NSX」が背負った使命

2016.11.03

2005年に初代NSXが生産終了となってから約11年。長いインターバルを経て2代目NSXが発売されたのだが、実はもっと前に登場するはずだった幻の2代目NSXが存在するのをご存知の人もいるだろう。ちょうど初代NSXが生産終了を迎えた頃にプロジェクトが進行中であることが明らかにされた、「HSV-010」である。

紆余曲折を経て発売となった2代目NSX

開発の最終段階で発売中止に

当時、開発の最終段階にあったのは紛れもない事実のようだ。ところが、2008年のリーマンショックを受けて、本田技研工業(ホンダ)は市販化を断念。ただし、HSVの名の付く車両は、2010年からスーパーGTという国内トップカテゴリーのツーリングカーレースに出走した。

結局、HSVの市販化は見送られたまま完全に白紙となったわけだが、ホンダとしては、すでに次なるNSXを考え始めていた。

発売中止となったHSVだが、その名を冠するレーシングカーは誕生した

車名が示すNSXの存在意義

さて、NSXという車名には、N=NEW、S=SPORT、X=EXPERIENCEという意味が込められている。それはすなわち、ホンダが考えるスーパースポーツの新たな走りの喜びを提案するクルマである。

初代NSXが世に出た当時、フェラーリなどのスーパースポーツといえば、もっと乗り手を選ぶ敷居の高いものだった。ところが、NSXは扱いやすく快適かつ安全で、ドライバーの意志に素直に応答するという、「人間中心」とホンダが表現する新しい領域を目指した。それが世に出るや世界中で高く評価された。

市販化の実現しなかったHSVで特徴的だったのは、エンジンの搭載位置が初代のようにコクピット後方ではなく、フロントミッドシップとされていたこと。動力源にはホンダ第3期F1を象徴するV10エンジンを用意するなど、当時の時代背景を反映したスーパースポーツとなるはずだった。

喜びの核となる技術とは

そして今回の2代目NSXも、まさしくホンダが考える新しいスーパースポーツ像を具現化したものだ。もっとも特筆すべきは、ターボエンジン、3モーター、9速DCTの3つを核とする「スポーツハイブリッドSH-AWD(Super Handling All-Wheel Drive)」である。

開発初期においては、「新たな走りの喜び」をどういうパッケージで構築するかが検討されたが、この方向性で行くことが決まったのが2011年の終わり頃の話だという。

これはエンジンとミッションの間に配したリアモーターがターボラグを補いつつ、フロントに配したツインモーターユニットが左右輪を独立して駆動力を制御するとともに、抵抗に差をつけることで減速時のトルクベクタリングを可能としたというものだ。

ホンダはかねてから「ダイレクトヨーコントロール」に力を入れており、1996年の「ATTS」(プレリュード)や2004年の「SH-AWD」(レジェンド)などを実用化してきたが、今回のスポーツハイブリッドSH-AWDはモーターを用いているのが特徴で、より高度な制御を実現している。

エンジンの置き方を変更する大きな決断も

一方で動力性能についても、目標をどこに設定するかについて大いに議論がなされた。エンジン形式についてはV6でいく方針を固め、V8以上にはしないことを早い段階で決めたものの、自然吸気のままでNSXとしてのステップアップを果たせるのかと自問し、すでに世にあるスーパースポーツに比肩するパワーが必要との考えから、V6のままパワーを上げるべくターボチャージャーの装着に踏み切った。

エンジンルームには3.5リッターV6DOHCツインターボエンジンが積まれている。スペックはモーターを合わせたシステム最高出力で581ps(427kW)、同じくシステム最大トルクで646Nm(65.9kgm)だ

すると当初予定していた横置きでは冷却の問題が解決できないので、エンジンを横置きではなく縦置きにする必要が出てきた。これは文字にすると簡単そうに感じるが、非常に大きな決断であり、あるところまで開発が進んでいたものが、ゼロに近いところからの再スタートとなった。それが2013年のことだ。

開発は日米をはじめとするグローバル開発チームを主体に、ボディはアメリカ、パワートレインは日本、さらにテストなどには欧州の研究所のメンバーも加わり、日米欧の共同で進められた。

モーターというのは大きなトルクを瞬間的に出すことができるゆえ、ステアリングフィールやクルマの挙動に大きく影響を与えるので、それをいかに違和感なく仕上げるかも問題。そのあたり一連のパワートレインの協調制御こそ、他のスーパースポーツに対するNSXのもっともチャレンジングな部分であると開発関係者も述べている。

様々な課題をクリアして発売に至った今回のNSX

ホンダの方向性を明確にするのがNSXの使命

ただし、世界に類のないシステムとはいえ、すべての技術は他のクルマにも展開できるものであり、ホンダが目指す方向性を象徴している。ホンダにとってNSXとは、単に高性能なスーパースポーツではなく、その時その時において新しい扉を開けていくクルマという使命を負っているわけだ。

なお、生産はアメリカの専用工場で行なわれ、日本には年間100台のみが導入される。また、2,370万円という価格に驚いた人も少なくないだろう。これも当初はもっと低く抑えられるはずだったが、前述のような経緯を経た結果、こうなった。それも時代背景を象徴するひとつの側面といえる。まずは、日本のメーカーからもこうした本格的なスーパースポーツが誕生したことに賛辞を贈ろうではないか。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。