急成長企業だからこそ?! 楽天が抱える女性活躍の課題とは

急成長企業だからこそ?! 楽天が抱える女性活躍の課題とは

2016.11.04

「女性活躍推進法」が施行され、ますます女性が活躍する社会が期待されている。しかし企業によってその進捗度合いはまちまち。主役となる女性も現場で様々な悩みを抱えている。そこで本連載は、自身も子育てをしながら企業に勤めた経験を持ち、現在は「女性のリーダーシップ」育成研修など、企業の女性活躍推進のサポートを行う杉浦里多が、企業が乗り越えてきた課題と、そこで働き続ける女性社員の生の声を通じてビジネスの現場で起こり得る課題を提示、解決のヒントを提示する。今回で連載は3回目となる。

第一回「P&Gの経営戦略に女性活躍が必要だった理由」
第二回「創業135年のOKIが短期間で女性活躍に舵を切れた理由」

1997年創業の楽天は、ECモールを中心としたベンチャー企業から、金融やスポーツの分野までそのすそ野を広げる大企業へ変貌した。企業の急激な成長とともに、社員のグローバル化、多様化が進む中、女性管理職の登用にはまだ課題が残る。活躍の機会は公平なのになぜ……? 急成長企業だからこその課題に迫る。

楽天本社

職場復帰後の女性に「活躍」を支援

楽天は、「男女関係なく、能力のある人がキャリアアップする」という考え方のもと、活躍の機会は男女公平に与えられている。女性活躍に関しても、「『長く休みスローダウンするよりも、活躍して欲しい』という意図から、敢えて法定以上の制度は取り入れない(育児休暇は1歳まで。時短勤務は3歳まで)」と明確なポリシーを持つ。

育児休暇や時短勤務の期間を延ばす、正反対の施策を充実させる企業も多いが、長く休みすぎるとかえって復職しづらくなるという“復職の壁”を考えると、女性の「活躍」という観点では至極、理に適った方針だ。同社の復職率は97%と数字もそれを物語る。

【楽天のダイバーシティの歩み】

(グローバル化によるダイバーシティ)
2010年、社内公用語英語化への移行開始

(女性活躍取り組み強化)
2014年、社員のボランティアによるワーキングマザーのコミュニティが発足
2015年、人事部内に専任組織「ダイバーシティ推進課」を設置
女性活躍推進法で2019年までに女性幹部社員比率を22%にすると設定(現在18%)
・意識醸成:ダイバーシティに関する社内情報サイト開設、セミナー実施
・成長支援:上司とともに、キャリアやアクションプランのセッションの実施
・早期復職戦力化:託児所、搾乳室(マザーズルーム)、休職前・復職前セミナー実施

三木谷浩史氏が創業した楽天は、わずか20年で売上収益7000億円超えの企業に成長。「楽天経済圏」と名付けたビジネスモデルは、今やオンラインだけ、日本だけにとどまらず、リアルへもグローバルにも突き進む。2010年、社内の公用語を英語にするとの宣言が記憶にある人も多いだろう。その時代を読むスピード感をもって、社員の多国籍化(60か国以上)など、積極的にダイバーシティに取り組む様子がみえる。女性活躍については、社内に託児所を設置したり、制度の拡充などで両立支援を講じたりしている。しかし、数字で見える現実は、新入社員の男女割合が半数なのに対し管理職以上の女性の割合が18%であり、課題もある。

楽天が女性活躍推進に本格的に取り組み始めたのは2015年。人事部内に専任組織「ダイバーシティ推進課」を設置、2019年までに女性の管理職以上の割合を22%にすることを掲げた。理想は、「女性が性別やライフステージにかかわらず、自分の能力を生かしたキャリア形成ができている状態」だという。

公平なキャリアのチャンスがあるとはいえ、女性は出産などといったライフイベントがあり、配慮すべきことが多い。これまでは、必要性を感じた社員が声を上げ、経営者層が動くというボトムアップにより、託児所や搾乳室の設置など、女性の活躍のサポートが実現されてきた。その成果もありワーキングマザーの人数も急激に増加しているため、会社が経営戦略として、体系的に女性活躍を進める時期に来たと考えているのだ。

「今までは、社員が声をあげるボトムアップで物事が進んできた。大企業となった今、これまでの多様化から次のステージに来ている」(ダイバーシティ推進課担当者)と、会社の組織規模の変化による文化変容の視点でもその必要性を示唆する。

そこで求められるのが、楽天の考える“女性活躍”を体現する「ロールモデルの存在」だ。

林亜紀子さん

ママ管理職としてのロールモデルの存在

ロールモデルとして、期待されている社員の一人にECカンパニーサービス管理部の林亜紀子さんがいる。現在、7歳と3歳の男の子を育てながら、企画グループのマネージャーとして、楽天市場のバックオフィス業務オペレーション改善のマネジメント業務に携わっている。

新卒で2003年に入社。ECコンサルタントという店舗をサポートする、いわゆる営業職に就いた。まだ楽天がベンチャー色の濃かった時代、就職先としての選択に、周囲からは「もっと安定したところに行ってほしい」と反対する声もあった。しかし、WEBデザイナーなどインターネットに関わる仕事に就きたいという思いから、楽天を選んだ。職種採用ではなかったため、望んだ職種とは違う営業へ配属されたが、「苦手なことを早く経験しておいた方が成長できるかもしれない」と受けいれた。

林さんのキャリアの転機は、3回ある。

1回目は入社して3年目、一緒にワインジャンルの出店者サポートの部署の立ち上げからやってきた上司が異動となったとき。それまでは、指示通り100%返すことを心掛けていたが、全てを自分で考えてやらなければいけない、過酷なチャレンジを経験した。「最初の4年間で10年分くらいの濃い時代を過ごした」と自身で振り返る日々は、彼女をタフにした。そんな彼女は、ワイン・アルコール事業部を軌道に乗せるという本来マネージャー職(係長級)で担うレベルの業務を任され、結果を出していたことから、同期の中でも出世は早く、入社4年でマネージャーに昇進した。

2回目は、その後結婚、出産を経て、1年後に復職した際、営業企画のリーダーとしてチーム作りに携わったとき。営業という最前線の現場から、今までとは勝手が違う未知の分野で、中長期ビジョンの設定、仕組みづくり、委託先の教育など、全く違う職種をにおけるチャレンジを経験した。しかも育児休暇復帰後という不安を抱えながら。「今までと同じ働き方はできないな」と思い時短勤務を選択したため、自身としては管理職ではなく一般社員として働く覚悟で復職したが、結果的に復職後3ヶ月でリーダーとして新たなチームの立ち上げを任され、順調に組織も拡大していき結果的に復職前よりも規模の大きいチームのマネジメントを経験することになった。

楽天では、時短勤務でも、管理職につけ、一定の格付け以上は給与の減額はない。著者が驚いたこの制度は、“公平な機会提供”として楽天が進める、裁量労働制、評価制度で、時間で働くのではなく、能力・成果主義という考えからだ。ゆえに、時短で働くことが昇進の足かせになることもなく、林さんは、2014年に第2子を出産、復職をしたのち、2015年に、時短のままマネージャー職へ復帰した。

3回目は、昨年マネージャーに復帰したとき。職位があがり、マネジメントするグループや範囲が広がった、新たな管理職としてのチャレンジだ。これまでのゼロから作りだすプロジェクトやチーム管理の経験とは違い、すでに出来上がっているチームをリードすることにプレッシャーを感じていっぱいいっぱいになったこともあった。しかも、2人の育児を1人で行うという、プライベート側の危機もあった(昇進と同時に、夫は海外赴任)。時短で育児と両立を図りながらマネージャー職を担うというチャレンジは、途方もなく大きく感じたのだ。しかし今となっては、そんな困難な転機も「チームと一緒に自身も成長できた」と、好意的に振り返る。

「時短という働き方においては、管理職の方が実はできることが多いと感じる。ビジョンの設定といった中長期的に物事を考えたり進めたりすることが多いから」と管理職になったメリットも大いに感じている。

育児がタスクとして増えた時、どうしたか

そんな何でも卒なくこなすように見える林さんも、第1子出産後の復帰1年目はペースがつかめず、苦労したという。「なぜか遠慮してしまった」と夫に家事や育児の手伝いを頼むことができず、すべてを1人で抱え込んだことを明かした。ついにはストレスが爆発し、夫にエクセルで全てのタスクと頻度と時間をまとめて見せ、現状を訴えたという。

「かなり引いていました」という夫は特別、非協力的な人物というわけではなく、「言わないと気づかない、やらない」そういうものなのだとその時気づいたのだという。その後は、夫と家事や育児を分業し、会社の福利厚生で使える家事手伝いサービスや病児保育支援なども活用しながら、時短勤務の管理職との両立を図る。

考える前にやってみる、経験が自信になる

現在の自分については、「1人目でいっぱいいっぱいだった時よりも、各段に仕事のスピードが上がり、幅が広がっている」と成長を感じている。「不安もあったけれど、考える前にやってみたら、なんとかなるもの。慣れというか、それまでの経験が学びとなって身につき、やり方やスキルも向上している。だから、子どもが2人になりタスク量は増えても、アウトプットが上がり、成長している。」

これまでのキャリアと子育てを振り返ると、「自分の能力が求められるなら、その期待に応えたい。きっとそこには意味がある」「子育て中は、制約条件はあるが、その中でできることを精一杯する、最大限する」気持ちで、果敢に新しいことを受け入れてきた。その結果が、“成長”として自身に還ってきていると思う。そんな林さん。同じ働く女性として「考える前に、不安に思う前に、やってみよう」と女性にエールを送った。

社員の声から改革が進む社風

入社間もなくから活躍している林さんのように、同社は社員一人一人が戦力となることを期待し、その機会を公平に与えることを大事にしている。

林さんも自身が活躍できた背景を、実例から制度ができる柔軟な会社の対応にあったと感じている。実例からとは、現場の声から制度ができるということ。楽天は、復職前後のセミナーや、託児所、搾乳室の設置など様々な両立支援が行われているが、それらすべては、社員たちが自発的に始めたり、上層部に声をあげたことで実現してきた。

これを可能にしているのは、社員が声をあげやすい、社員の声を吸い上げやすい機会(朝礼やメールによる相談窓口、ヒアリングの場など)を会社側が意識的につくり、それをスピーディに実現してきた実績だ。会社が応えてくれたという信頼が、また社員が声をあげやすくする。こういった働きかけが好循環を生んできたのだろう。

社員の声から実現。楽天の女性活躍がボトムアップで進められてきた背景には、同社の公平性、オープン、実現のスピードという社風があるといっていいだろう。

「もっと活躍」のために

ベンチャーから大会社へと、会社も人も大きく変貌してきた楽天。会社の成長と並走するように歩んできた林さんも「会社っぽい会社になった」と話す今、ベンチャー時代の自走する社員とは違い、“大会社”が引きつける人材は様変わりしている。楽天の抱える多様化の課題は、国籍や性別などの違いというよりも、人の性質や文化の違いにある。 これからの成長を加速させるために、「ボトムアップ」を大切にしつつ、会社としてのメッセージの発信も強化していく。トップのコミットメントを高くし、経営戦略の1つなのだと社員に伝えていきながら、女性活躍のためのソフト面ハード面のサポートを体系立ててやっていかなければいけない。

新たなチャレンジをスタートさせたばかりであるが、スピーディにベンチャーから大企業に大成した同社であるから、「女性活躍の目標達成も実現していける」とダイバーシティ推進課担当者は自信をのぞかせた。

【楽天の女性活躍のポイント】

1:早期戦力化のサポート
2:ロールモデル提示による意識醸成
3:会社のメッセージ発信と体系化

杉浦里多(すぎうらりた)
人材育成の研修などを行う株式会社DELICE(デリィス)代表取締役社長。P&Gジャパンでのマーケティング・広報渉外部での経験をベースに、マーケティングや経営戦略の教鞭をとる傍ら、最近は特に女性のリーダーシップについての研修、講演に力をいれる。著書に「1年で成果を出すP&G式10の習慣」、「がんばりが評価される女性の仕事術」などがある。杉浦里多ブログ会社HP

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第1回

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

2018.11.16

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏による新連載!

第1回は、「多様化するビジネスホテルの今」について

料金変動「するホテル」と「しないホテル」 それぞれの狙いは?

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏が、意外と知らないホテルビジネスを語る新連載。第1回は、瀧澤氏が“注目度の高いカテゴリー”と説明する「ビジネスホテル」について。ここ数年で急速に「多様化」が進んでいるビジネスホテルのこと、どれだけ知っていますか?

ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。