商品化まで6年! くら寿司が本気で牛丼を出す理由

商品化まで6年! くら寿司が本気で牛丼を出す理由

2016.11.04

くらコーポレーションは、11月4日から新メニュー「牛丼を超えた、『牛丼』」を全国の無添くら寿司で販売開始した。これまでもラーメン、カレーと回転寿司の枠を超えた商品で注目を集めてきた無添くら寿司だが、あえて寿司店でおなじみの海鮮物を使った丼ではなく牛丼で勝負を仕掛けてきた。牛丼といえば、吉野家や松屋、すき家などといった大手チェーンがひしめく激戦区である。くらコーポレーションは販売目標として、3カ月で100万食を目指していると強気だ。果たして牛丼を出してきた同社の狙いとは?

「牛丼を超えた、『牛丼』」の発表会にて。左から岡田結実さん、くらコーポレーションの田中信取締役副社長、じゅんいちダビッドソンさん

7種類の魚介だしを使用した牛丼

今回、無添くら寿司で販売される「牛丼を超えた、『牛丼』」は、最初に玉ねぎを特製ダレで煮こんで取り出し、それから牛肉を入れて火を通すことで食材の味や食感を生かすという独自製法が採用されている。また、回転寿司店ならではなのが、特製だれにマグロ、カタクチイワシ、ウルメイワシ、カツオ、ソウダガツオ、アジ、サバと7種類の魚から取っただしを使用している点だ。

同社では、牛丼は回転寿司チェーンの初の試みであることから今ある大手各社の味を目指しても意味がないと考え、開発には6年をかけたという。実際、食べてみると他社の商品に比べ、甘めでだしが効いており、濃いながらも優しい味わいとなっている。寿司用のガリで味にさっぱりとした変化をつけられるというのも回転寿司店らしい試みだ。

「牛丼を超えた、『牛丼』」は11月4日から発売。価格は税別370円

それにしてもどうして牛丼なのだろうか。

目指すは牛丼市場と人気外食メニューの全制覇

その背景として、くらコーポレーションは寿司以外のサイドメニューの拡充により顧客の来店回数の増加を狙っていることが挙げられる。回転寿司が普及し手ごろな価格で寿司が食べられるようになったとはいえ、お客さんに毎日食べてもらうというのは難しい。寿司だけだと利用客が店に足を向ける頻度がどうしても減ってしまう。そこで寿司以外のメニューを提供することによって、「昨日はお寿司だったけど、今日はラーメン」という風にリピートして来店してもらえるようになるのだ。

同社の第三四半期の数字は売上840億1,500万円、昨年に比べ8.6%増。経常利益も50億2,200万円で4.7%増と好調だが、田中信取締役副社長は業績を支えているのは「美味しさはもちろん、安全・安心にこだわったお寿司、そして専門店以上の味にこだわったサイドメニュー」と寿司以外のメニューも強調する。実際、3年連続で既存店売り上げが100%を超え、寿司以外のメニューが新たに登場するたび話題となる現状を考えると、無添くら寿司の戦略は正しいといえるだろう。

そして今回、牛丼を選んだ理由のひとつが市場規模の大きさだ。同社では牛丼チェーン大手4社の売上総計は現状3,665億円と、無添くら寿司を含めた回転寿司チェーン4社の総計に匹敵すると見ており、牛丼を販売することで巨大規模の市場獲得に乗り出すという。

牛丼チェーンの市場規模は回転寿司の規模に並ぶ大きさである

またもうひとつの理由が、牛丼は外食における人気メニューであること。同社では回転寿司、ラーメン、カレー、牛丼を「外食メニュー4冠」ととらえており、老若男女問わず人気だと見ている。回転寿司を主としながら、これまでラーメン、カレーと販売してきた同社としては、牛丼の販売はただサイドメニューを拡充するだけでなく、外食における人気商品を制覇するために欠かせないという思いがあったようだ。

外食の人気商品をラインナップに取り込むことで顧客の選択肢を増やす狙いだ

ターゲットは牛丼チェーンに行けない層も

今回の牛丼の発売で、同社は牛丼市場における既存の顧客の取り込みを図っている。しかし加えて、同社のさらなる狙いどころは潜在的なマーケットだ。

広報宣伝部の辻明宏東日本担当マネージャーは牛丼のターゲットを明確には設けていないとしつつも、「子供から高齢者まで食べられ、また女性の需要を喚起できたら」と話す。女性にとっては牛丼チェーンの店舗はハードルが高く、食べてみたくとも店に入るのが難しいということがある。しかし、回転寿司店の1メニューということであれば注文しやすい。女性以外にも男性客中心の牛丼店に入りづらいというファミリー、高齢者などといった層が少なくない状況を考えると、無添くら寿司における牛丼のニーズは実は高いのではなかろうか。

回転寿司チェーンが新商品として牛丼を出すとなると、つい既存のチェーンとの競合ばかりを考えてしまうところだ。しかし、逆に回転寿司店の強みである女性やファミリー、高齢者の需要を満たすことができれば牛丼市場全体の拡大につながっていく可能性も期待される。ただし、無添くら寿司の意外な新メニューはまだ提供が始まったばかり。はたして、こだわりの味付けは顧客の心をとらえることができるだろうか。

無添くら寿司におけるこれまでのサイドメニュー。今後はどのようなメニューを導入するのだろうか
根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。