風評被害と闘う自治体 – 福島県いわき市が“見せる”地道な取り組み

風評被害と闘う自治体 – 福島県いわき市が“見せる”地道な取り組み

2016.03.28

2011年3月11日に発生した東日本大震災。数多くの尊い命を奪っただけでなく、被災者の生活基盤・経済基盤を破壊し、さらに続いた福島第一原発事故が追い打ちをかけた。原発周辺の被災者は他地域への避難を余儀なくされ、放射性物質汚染を懸念する風潮により福島県の産物は敬遠され大打撃を被った。あれから5年……福島県の各自治体はさまざまな対策を施し、いわゆる“風評被害”の払拭に努めている。なかでも積極的な取り組みをみせているのが、県最東南部に位置する「いわき市」だ。

ハウス栽培されるトマト生産量は日本有数(写真:PIXTA)

いわき市は、東京23区の約2倍の広さに相当する1232.02平方キロメートルの広大な土地に、人口348,791人(2016年2月1日現在)が住む県内屈指の自治体だ。夏冬での寒暖の差が少なく、しかも日照時間が長いため農作物の生産に向き、米のほか、大豆、ネギ、イチゴ、トマト、梨など、露地栽培・ハウス栽培を問わず農業が盛んに行われてきた。

また、県の最東南に位置するというのもポイント。南側は茨城県に隣接しているため、“首都圏の台所”的な役割で米・青果を出荷してきた。そんな農業に好適な気候・立地にあるいわき市も、風評被害という災禍にあらがえなかった。いわき市が実施した「農作物の風評被害に関するアンケート」によると、34.7%の農家が震災前に比べ生産規模が縮小したと答えた。

“生産者”“消費者”“自治体”を結ぶ新設課

いわき市 農林水産部 次長 高木忠之氏

2016年3月、都内で行われた「いわき市見せる課メディアセミナー」で登壇した、いわき市 農林水産部 次長 高木忠之氏は「震災直後から、農業分野において風評の払拭に向けキャンペーンを行う必要があった」と切り出した。「2011年10月から放射性物質の検査結果の公表や、生産者の現場を見学してもらうためのバスツアーを開始した」と、取り組みの発端を解説し、5年という歳月を経て、ようやく回復傾向になりつつあると展望を示した。そして、1日も早い復興を目指すため、市の各部署や生産者、消費者を“横串”で結ぶための組織、「見せる課」を開設したと語った。

いわき市 見せる課 課長 渡邉正俊氏

いわき市 見せる課 課長 渡邉正俊氏は、「安全・安心を押し売りするのではなく、いわきの野菜を購入していただけるかどうか、そして食べていただけるかどうか、判断材料として情報を公開していく」と、見せる課の意義を語った。そもそも、見せる課の前身は2011年10月から開始した「見せます! いわき」というプロジェクト。このプロジェクトは前述のとおり、市で生産される農作物の放射線物質量を検査し、その数値を公表するものだ。

2011年は2,238件の検体を検査し、検出下限値20ベクレル/kg未満が2,047件、20~50ベクレル/kgが123件、51~100ベクレル/kgが45件、100ベクレル/kg超が23件で、うち1件が当時の国の基準値500ベクレル/kgを超えていた。そして、翌年以降は1箇所の検査場を6箇所に増強し、検出下限値を10ベクレル/kg未満とより厳格にして調査を行うようになった。年を追うごとに放射性物質の検出量は減っていき、2015年は6,574件の検体数のうち、検出下限値未満が6,548件、10~50ベクレル/kgが24件、51~100ベクレル/kgが2件、現在の国の基準値である100ベクレル/kg以上となった農作物は0件となった。

消費者目線でのいわき野菜の評価を!

この放射性物質の検査結果公表とともに進められたのが、いわき市産農作物への消費者の理解促進だ。プロジェクト開始1年後の2012年10月に見せる課を発足。単に数値を公表するだけではなく、より一層厳しい判断を下すであろう料理人などの第三者に農作物を評価してもらうようになった。加えて農作物だけではなく、水産物・観光の面からもいわき市をPRする施策を行うようにもなった。

こうした施策の代表例が“見せる”役割を市民にもシフトした「いわき野菜アンバサダー」の創設と、当初から行っている消費者と生産者を結ぶバスツアーの取り組みだろう。前者は “野菜大使”ともいえる存在を募集し、セミナーやウェブレポートなどを通じていわき市の野菜の魅力を消費者の目線でPRしてもらうというもの。すでに1,000名を超えるアンバサダーが活躍しているという。そして後者は、消費者だけでなく料理人と生産者とをつなぐ役割も果たしている。

メディアセミナーに参加した、いわき野菜アンバサダーのみなさん

いわき市 見せる課 メディアセミナーは、東京・神谷町にあるイタリアンレストラン「ラ・ターナ・ディ・バッコ」で行われた。同店の直井一寛シェフも見せる課主催のバスツアーでいわき市の農産物の魅力に触れた一人。今回のセミナーによろこんで協力したという。また、当日メディアにふるまった料理メニューの解説で「いわき産の野菜は火の通りがよく、旨味を生かした調理がしやすい」といわき市の農作物を評価した。

同じくメディアセミナーに参加したフレンチレストラン「ル・マンジュ・トゥー」の谷昇シェフは、「われわれ料理人は素材がなければ何もできない。そして素材は生産者がいなくては生まれない。東京で店をかまえる一人として応援したい」と、いわき市に限らず福島県全体の生産者に向けエールを送った。

いわき産野菜を使った料理の数々。「メヒカリとなめこ茸のスカベーチェ」(左上)、「イカの一夜干しとほうれん草のイン・ジィミーノ」(右上)、「いわき産いろいろ茸のストゥルーデル」(左中)、「青ねぎといわき産コシヒカリの豆乳スフォルマート」(右中)、「いわき冬野菜のミネストローネ」(左下)、セミナーが行われたラ・ターナ・ディ・バッコ(右下)

つい先日、福島県産農作物に批判的なツイートをした著名人に対し反論が巻き起こり、炎上騒ぎとなったばかり。こうしたツイートが出るということは、まだまだ福島県産農作物や水産物に対して不信を抱く人が根強く存在するという表れだ。各自治体は、風評被害に対しての取り組みをこれからも続けなくてはならないだろう。

ただ、いわき市の高木次長も見せる課の渡邉課長も、説明のあいだ「風評被害」といわず、「風評を払拭したい」という表現に徹していた。偶然使わなかったのか、それとも意識していたのか……後者だとしたら“被害”という文言を使わなかった姿勢に頼もしさを感じる。

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

2019.03.22

ネットの学校「N高」の卒業式に潜入

開校時に入学したN高1期生が卒業した

世間の注目を浴び続けた生徒は、何を想う?

3月、角川ドワンゴ学園「N高等学校」の卒業式が東京・お台場にて開催された。

「ネットの高校」として、3年前に設立したN高。この日、2016年の開校時に入学した第1期生と、途中転入・編入した生徒をあわせ、計1593名が卒業した。3年前、『VR入学式』で世間を賑わせたこの学校を巣立つ卒業生たちは、N高での日々をどう捉え、今後はどのようなキャリアを描いていくのだろうか。

卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた

卒業式を彩る最新テクノロジー

N高は、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合で誕生したカドカワが設立母体となり、2016年4月に開校された通信制高校だ。同校は開校後、2年次編入なども受け入れてきたため、これまでも卒業生を排出してきてはいたが、「1年生~3年生をN高で過ごした生徒」が卒業するのは、初めてのことだ。

卒業式には多くの報道陣も参加した。生徒にとって、「卒業式に記者がいる」「自分たちが卒業する様子がテレビやWebで取り上げられる」というのは不思議な感覚だろう。とはいえ、もう「VR入学式」に「ニコニコ超会議」へのブース出展(N高ではそれを「文化祭」と表現)などの経験を経て、メディアへの露出には慣れてしまっているのかもしれない。

そして、今回の卒業式も例によって独特だった。

卒業式は任意参加で、会場には袴や制服に身を包んだ生徒が集まる一方、その様子をライブ配信することで、会場に来られない生徒生徒も参加できる仕組みになっていた。会場のスクリーン上にはニコニコ生放送さながら、リアルタイムでコメントが表示されており、こうした演出は「N高らしい」といった印象を受けた。

卒業式の様子。オンライン参加者のコメントがスクリーンを流れる

中でも印象深かったのは、当日来られなかった生徒を代表して、米シリコンバレーに留学中の佐々木雅斗さんが「ロボット」に自分の顔を映して卒業証書を受け取ったシーンだ。

使用したのは、ANAが“未来の移動手段”として開発する、視覚・聴覚・触覚などを備えた、ユーザーの分身となるロボット「ANA AVATAR」。同校ではこのロボットを試験的に授業にも導入しているそうで、こういった最新のテクノロジーを使うあたりもN高らしい。

遠隔操作ロボット「ANA AVATAR(Beam Pro)」を用いて卒業証書を受け取った佐々木さん

と、テクノロジーにばかり目が行きがちではあるが、そもそも「高校生がシリコンバレーに留学している」という事実も驚くべき点だ。高校に通いながらも、シリコンバレーでビジネスを学ぶ――、というキャリアを選べるのは、学校という場所の制約を受けない、ネットの高校のメリットと言えるだろう。

卒業式にはほかにも「異色のキャリア」を持つ生徒たちが集まり、特に活躍した卒業生に対する特別表彰も行われた。

表彰を受けたのは、東京から鹿児島県に移住し、農業や水産業を手伝い地域活性化に貢献する白鳥優季さん、第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバン「ウイニングイレブン 2018」eスポーツ 金メダリストの相原翼さん、N高のプログラムを最大限に活用し、スタンフォード大学やオックスフォード大学のサマープログラムに参加した冨樫真凜さんなど。その活躍の幅は広い。

さまざまな分野で活躍したN高生に対しては、特別表彰が行われ、記念品としてクリスタルトロフィーが贈呈された

メディア露出が多いがゆえに高まる期待値

N高を卒業した個性豊かな面々は、今後は大学進学、就職とさまざまなキャリアを歩む。

日本初で唯一N高にのみ実在するという「起業部」に所属し、かつ起業第一号として「Easy Go」という会社を創業している、鈴木颯人さんと山田陽大さんから「N高で過ごした時間」についてコメントをもらった。

「元々は地元の進学校に通っていたのですが、『自分が好きなことをしたい』『起業したい』という想いがあり、N高に入学しました。年齢や場所に縛られず、多くの人とコミュニケーションを取れ、充実した3年を過ごせました」(鈴木さん)

「以前通っていた学校が自分と合わず、ネットで見つけたN高で『ここだったら新しいことができるかも』と入学を決意しました。今振り返ってみて、やはり『この学校に来てよかった』と思います」(山田さん)

Easy Go代表取締役の鈴木颯人さん(左)と取締役の山田陽大さん(右)

2人に限らず、卒業生のコメントを聞いていくと「この場所で挑戦してみたい」という想いの元、N高を選んでいる生徒が多い印象だ。

普通の高校とは違い、メディアに露出する機会の多いN高での生活は、良くも悪くも、世間からの注目を浴びる。まだ高校生の彼らにとっては、その視線が時に辛く感じることもあっただろう。ただ、その一方で鈴木さんは「初めて会う方とお話しする際、『N高出身です』と言うだけで、会話が広がることがよくあります」とその知名度を好意的に捉えている。

若くして、覚悟を持ってN高という環境に飛び込んだ生徒たちは、周囲の視線を浴びつつ、たくましく成長してきたことだろう。「N高出身」というキャリアは、彼らにとって1つの大きな武器になりそうだ。

カドカワは新たに2019年4月から、「N中等部」も開校する予定だ。「ネットの学校」という、世間の注目が集まる新しいコンセプトの学校だからこそ、在校生・卒業生の動向は、今後もしばらくは注目され続けそうだ。

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スマホは「望遠」でデジカメに追い打ち? OPPOの10倍ズーム技術が面白い

スマホは「望遠」でデジカメに追い打ち? OPPOの10倍ズーム技術が面白い

2019.03.22

中国スマホメーカーのOPPOが独自のカメラ技術を説明

開発競争が続くスマホカメラ、トレンドは「望遠」へ

高倍率ズームスマホの登場で、デジカメの優位性に危機?

中国のスマホメーカーとしてシェアを急拡大するOPPOが独自に新開発したカメラ技術、「10倍ハイブリッドズーム」が面白い。実際に2019年の新機種からスマホへの搭載を進め、日本市場へも製品を投入するという。

OPPOが「10倍ハイブリッドズーム」技術を紹介

メーカー間の開発競争が続くスマホカメラだが、「望遠」が次のトレンドになりつつある。デジタルカメラに匹敵する10倍もの高倍率ズームを、OPPOはどのように実現したのだろうか。

1年で7機種を投入、気付いた「日本市場の難しさ」

OPPOは世界のスマホ市場で熾烈な4位争いを繰り広げている。サムスン、アップル、ファーウェイのトップ3社に続く集団の中で、2018年は中国Xiaomiに僅差で迫る5位になった(IDC調べ)。

OPPOは2018年、日本市場で7機種のスマホを発売した。OPPO日本法人の鄧宇辰社長は、これまでに国内販売チャネルを12に拡大し、あわせて認定修理店を全国に展開したことを挙げ、「日本のSIMフリー市場でいち早く成長するブランドになった」と振り返る。

オッポジャパン 代表取締役社長の鄧宇辰氏
2018年の1年間にスマホを7機種投入

2019年は国内展開をさらに加速する。日本の消費者に向けたコミットメントとして、件の「10倍ハイブリッドズーム」機能を備えたスマホや、FeliCa・防水対応のスマホ、新たに立ち上げたブランド「Reno」シリーズの市場投入を約束する。

また、話題の「5Gスマホ」の市場投入も急ぐ。日本では5Gの周波数がまだキャリアに割り当てられていないものの、ドコモ、KDDI、ソフトバンクを含む世界の事業者と標準化に向けて連携しており、準備を整えていることを強調する。

MWC19のQualcommブースではOPPOが5Gスマホを実演

一方で鄧社長は、日本市場の難しさについて、「1年の経験を通して、日本市場は他の国と違うことに気付いた。消費の習慣や求めるレベルも高い。グローバルのやり方を日本に持ってきても通用しない」とも述べている。日本市場における品質やサービスの要求水準の高さは、多くのメーカーが直面してきた課題だが、OPPOも同じ壁にぶつかったといえそうだ。

スマホカメラ、次のトレンドは「望遠」に

そのOPPOが市場攻略にあたり、特に注力をしはじめたのが「カメラ」だ。その中でも、業界では次の進化ポイントとして「望遠」技術に注目が集まっている。

そもそもスマホはデジカメと違い本体が薄いため、搭載できるレンズに物理的な制約がある。このレンズの制約から、スマホのカメラはどうしても焦点距離の狭さが弱点になってしまっていた。そこで最近はスマホに複数のカメラを内蔵し、それぞれで広角や望遠を使い分けることで、この弱点を克服しようと進化している。

OPPOの「10倍ハイブリッドズーム」技術は、この弱点に対し異なるアプローチで挑む。プリズムを使って光を屈曲させるペリスコープ(屈曲光学)構造をカメラモジュールに採用することで、レンズを従来の垂直方向ではなく水平に配置できるようにした。これにより、薄型のスマホであっても、光学レンズでは従来不可能だった高倍率ズームが搭載できる。

光を曲げるペリスコープ構造を採用

ただ、35mm換算での焦点距離は16~160mmの10倍となっており、一般的なコンデジの感覚では5倍ズーム程度の性能だ。8.1倍以上はデジタル処理を組み合わせた「ハイブリッドズーム」としているなど、いくつか注意点はある。とは言え、これまでにない望遠レンズをスマホで扱えるのは面白い。

10倍ハイブリッドズームによる画角の違い

OPPOは既に報道陣に向けて、この10倍ハイブリッドズーム技術を搭載するスマホの開発デモ機を公開している。2019年の第2四半期には製品化する計画で、日本市場へも2019年中に投入する見込みだ。

10倍ハイブリッドズームのデモ機。5Gにも対応できるという

特にカジュアルなカメラ需要の受け皿としてスマホに押されがちなデジタルカメラだが、高倍率ズームはスマホには無い、デジカメに残された得意分野のひとつだった。だが望遠もスマホで十分撮れるとなれば、いよいよその優位性も危うくなる。今回のズーム技術は、デジカメ市場をもう一段縮小させてしまう可能性を秘めているのだ。

最大のライバルであるファーウェイも「HUAWEI P30」シリーズで望遠カメラを搭載するとみられており、今後は各メーカーが高倍率ズームで競い合うことは間違いなさそうだ。

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