ファッション業界に新しい

ファッション業界に新しい"当たり前"、「airCloset」の挑戦

2016.11.08

女性向けの月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」の勢いが止まらない。毎月9800円でプロのスタイリストによるパーソナルスタイリングを体験でき、制限なしで何度でもアイテムをレンタルできるサービスのことだ。

女性向けファッションレンタルサービス「airCloset」

2015年2月のサービスイン直後には2万5000人の登録希望者が殺到し、現在会員数は9万人を突破した。4月に開催された日本最大級のファッション&音楽イベント「GirlsAward」では、ファッションレンタル業界史上初めてランウェイに登場。10月14日には表参道にリアルショップ「airCloset × ABLE」をオープンするなど、オンラインにとどまらぬ展開を見せている。

エアークローゼットの代表取締役CEOである天沼聰氏は、海外の大学を卒業後すぐに帰国し、IT戦略系のコンサルタントを10年弱務めたのち、楽天でグローバルマネジャーを3年弱務め起業したIT畑出身。「私のバックグラウンドはすべてITとWeb」と語る天沼CEOに、ファッションレンタルサービスの戦略から今後の展開まで話を伺った。

同じ系統のショップで同じような洋服を買ってしまう女性たち

―― まずサービスを立ち上げた経緯を教えてください。

エアークローゼット代表取締役CEO 天沼聰氏

きっかけのひとつは、妻や友人の女性が感じるというショッピングへの課題感です。たとえば妻は出かけるとき、「着ていく服がない」とクローゼットの前で悩むのです。私の10倍くらい服を持っているのにも関わらず(笑)。買い物に出かけても、妻は同じ系統のショップで似たようなアイテムばかりを買おうとします。

もっといろいろなデザインを楽しめればいいのにと思うのですが、働く女性の環境は変化しており、ファッションに割ける時間が減っています。そのためアイテムやコーディネートに固定概念が生まれ、似たような組み合わせになってしまうのです。

そこでより多くの服と出会う体験を提供し、新しい服を試してもらう機会を増やせられれば、コーディネートの幅が広がり、新しい自分に出会えるのではと思いました。その手段として考えたのがレンタルです。働く女性やママは忙しいので、ライフスタイルは変えずに洋服との出会いを提供したい。それを実現するために、プロのスタイリストを導入し、月額制で自由に借りて返却できる形態にしました。

コーディネート例

――想定するターゲットを詳しく教えてください。

ペルソナは20代から40代後半の働く女性やママです。利用者は30代が最も多いですが、40代以上も増えています。洋服と出会う機会が減るのは、社会的に責任が増え、ファッションに使える時間がなくなっていく30代以降。40代になると広げる機会を見つけるほうが難しいです。だからこそ、洋服との出会いを提供できるairClosetに喜んでいただけているのかなと思います。

――同じ女性とはいえ20歳以上の年齢幅があり、さらにペルソナがシングル、既婚者、子持ちのママでは、かなりファッションの方向性が異なりそうですが?

利用者は働く女性が9割以上なので、アイテムはコンサバファッションなど、オフィスカジュアルを中心に取りそろえています。子持ちの方も4割以上いらっしゃいますが、共通点として「忙しい女性」「仕事やママ会で着られる」アイテムなので、枠組みとしては実はそれほど広くないのです。

好みのスタイルを「お気に入り」に保存しておけば、スタイリストがより自分の好みに合ったアイテムを選んでくれる

取り扱う300ブランドすべてと直接会って交渉

――日本で初めて、普段着にフォーカスしたファッションレンタルサービスとしてairClosetが誕生して以降、似たようなサービスが次々と生まれています。競合と比べairClosetの強みはどこにあるのでしょうか。

後発の競合他社は、レンタルを主眼にしたサービスの方が多いと思います。我々のテーマは「新しい洋服との出会い」なので、レンタルはあくまでもビジネスモデル。表面的にはファッションレンタルとうたっていますが、我々の特徴のひとつはスタイリングにあります。

また単にアイテムを買い集めているわけではなく、アパレルブランドの方と実際にお話をしないと取り扱わないと決めているので、その点も大きな違いだと思います。現在は300ブランドに参画していただいていますが、一社一社すべて直接お会いして共感をいただいております。理由は単純で、お客さまに自信を持って洋服をお届けしたいから。数百単位での交渉になるので、プラットフォームとオペレーションの構築に時間も労力もかかりますが、後発の他社との大きな差別化になっていると思います。

それがもし「"買う"から"借りる"に変えていきましょう」とレンタル特化で始まっていたら、「GirlsAward」でファッションレンタルサービスとアパレルブランドが横並びでランウェイを歩くことも、大手セレクトショップ「BEAMS」とコラボさせていただくこともなかったと思います。「既存業界との架け橋となりたい」という思いを各ブランドにお伝えしているからこそ、airClosetは成り立っているのです。

取り扱い商品一例

――サービスが始まり約1年半が経過しましたが、アパレルブランドからの反応はいかがですか。

営業部隊もほとんど人数がいないなか、300ブランドが参画してくださった時点で、理解していただけていると受け取っています。取り引きも継続してくださっているので、プロモーション効果は一定以上あるという証明にはなっていると思います。

女性スタイリストの新しい働き方を提供

airClosetの特徴のひとつに、スタイリストによる詳細なコメントつきのコーディネート提案がある。アイテムを選んだ理由、おすすめコーデ、あわせたいアクセサリーの提案など細かく書かれており、オンラインサービスながらスタイリストの温度感がある

――「競合との違いはスタイリング」という話がありましたが、現在スタイリストは何名在籍しているのですか。

社内にはサービスのブランドイメージを固めるコンセプトチームが在籍しています。お客さまへアイテムをご提案するのは主に社外の登録スタイリストとなり、現在は100名以上が登録されフリーでプロとしてやられています。

――プロのスタイリストが100名以上! それだけ多くの人材をどうやってハンティングするのでしょうか。

人からの紹介や、サイトからの応募が多いですね。我々は一定の線引きとして、フリーで仕事をされているプロのスタイリストのみ登録できる形を取っています。テレビや雑誌、広告で活躍するスタイリストや、パーソナルスタイリストの方などですね。

興味を持っていただいた方には、まず我々のサービス内容を伝え、実際に洋服の選定を体験してもらいます。我々は独自のオンラインシステムを内製しているので、それを使い倉庫にある10万点のアイテムから3着を選んでいただきます。

約10万点の中から3点を選びボックスで届けてくれる

――一般的なスタイリングとまったく異なりますね。

OJT期間を設けてシステムを体験してもらい、レビュー期間を経て一定のレベルにあると判断した方のみ、登録スタイリストとして本採用となります。質としてお客さまに直結する部分なので、一定期間をかけて判断するなどかなり注力してやっています。

――スタイリストが使うシステムとは?

社内管理用のコンソールのようなものです。セキュリティがかなり重要なので、IDでログインしスタイリングするようになっています。

――ログインすれば、社外からもリモートで業務可能ということですか。

そうです。中には本業の合間や、帰宅後に自宅でスタイリングされる方もいらっしゃいますね。最近すごく多いのは、マタニティ期に入られたスタイリストさん。スタイリストは何十着もの服を担いで移動するようなハードな仕事ですが、「力仕事はできないけれど、airClosetならセンスを活かせる」と喜んでいただけます。海外からスタイリングされる方もいらっしゃいますよ。

――airClosetは女性スタイリストの新たな働き方も提供しているのですね。

スタイリング業界では働き方が注目されています。今夏はファッション専門学校からインターン生を呼び、スタイリングの仕事を体験していただきました。将来的にはスタイリングに関する人材育成も考えています。

エアクロエイブルはたった半年で誕生

――オンラインのサービスとして始まったairClosetですが、10月14日には表参道にリアルショップ「airCloset × ABLE(エアクロエイブル)」をオープンされました。利用者の反応はいかがですか。

オープン直後の週末の来客数は予想通りでしたが、3~4着借りられたり、2週間単位の長期間で借りられたりと、予想よりは"レンタル慣れ"されている方が多い印象を受けました。

エアクロエイブルでは、直接プロのスタイリストから「パーソナルスタイリング」を受けられる

――airClosetを始めた当初から、O2Oのイメージはあったのでしょうか。

オンラインサービスだけでライフスタイル領域は成り立たないと思っているので、当初から施策として考えていました。ただエイブルさんからお声がけいただいたことで、タイミングとしてはかなり早まりました。両者のトップ同士が結構な頻度で密にコミュニケーションを取ったこともありスピーディーでしたね。スタートアップベンチャーと大手不動産会社が組んだ形としては、最速ではないかと思います。

――具体的な期間はどの程度だったのでしょうか。

ゼロからスタートして、内装など全部含めてオープンまで半年です。業界変革の意味でも、意思決定を早くして動くのは両経営者の意向だったので、実現が早かったと思います。

――失礼ながら、大手不動産会社はスピード感とは正反対のイメージでした。

思いが一致していたのも、加速度的に企画が進んだ要因だと思います。元々エイブルさんには、一人暮らしの女性がファッションを諦めず、楽しめるように応援したいという思いがありました。我々も働く女性のライフスタイル応援がコンセプト。両者の思いが合致していたのでブレませんでした。

カフェやパウダースペースを備えており、借りた服に合わせたメイクやヘアアレンジに変えられるほか、待ち合わせ場所にも利用できる

――「エアクロエイブル」とオンラインの「airCloset」ではターゲット層が異なるそうですね。

違うというよりも、実店舗の方が若い層、オンラインはキャリア層と若干のズレがあります。実店舗には2つの要素があり、1つは直接コミュニケーションが取れること、もう1つは即時性です。直接のコミュニケーションを求めるのも、「今日合コンが入ったから服を着替えたい」など即時性を求められる機会が多いのも20代女性です。

30代以降の女性になると生活リズムが固定されますが、ファッションの固定概念を広めていきたいという思いが大きいので、オンラインにニーズがあります。20代後半は両方重なるイメージです。興味がある人には、まずは実店舗でパーソナルなスタイリングの魅力を体験してもらいたいですね。

ファッション業界に新しい「当たり前」を提供したい

――最後に今後の展望を教えてください。

まずはアパレルに加えアクセサリーもお届けできるようにしたいと思っています。スタイリスト視点でもコーディネートの幅が圧倒的に広がるので。小物類は洋服のクリーニングとは別のメンテナンスが必要となるので、倉庫物流でのメンテナンス体制が整えば提供したいです。

また今はレディースのみですが、メンズ、キッズ、シニア、マタニティとラインを増やしていこうと動いています。あとは海外展開、特に東アジアや東南アジアにサービスを届け、日本のファッション文化を伝播させたいです。

普段着にフォーカスしたファッションレンタルで、市場に新しい「当たり前」を提供したいと思っているので、まずは多くの人に試してほしいですね。サービスが始まりまだ1年半なので、お客さまと一緒に変化を作っていけたらと思います。

先進的な取り組みで業界をリード

働く女性の増加により、日々のファッションに割ける時間が減少する中、コンサバファッションを中心に、スタイリストによる幅広いコーディネートを提供するairClose。似たようなアイテムがいくつも並ぶクローゼットの前で「今日着る服がない」と悩む女性のニーズとマッチし、多くの共感を得た。

また、スタイリストがクラウドソーシングで働くという新たな雇用を創出。時間や場所などの制約を受けない新しい枠組みで、経済を活性化させたわけだ。

不特定多数の人々がインターネットを介して、モノやスペース、人などを共有するサービスをシェアリングエコノミーと言うが、矢野経済研究所の調査によると、これらの市場は年々拡大しており、毎年平均20%弱の成長率を見込むことで、2020年度には、国内市場規模が600億円に達すると予想されている。

一方、国内アパレル市場規模は、ここ数年間9兆円前後でほぼ横並びの推移である。成熟した市場に、新たな手法や業界を取り入れることで、ファッション業界に新しい風を吹き込むairClosetの挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

恋するSNSマーケティング講座 第1回

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

2018.11.14

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第1回は、講師の紹介と「マーケティングと恋愛」の関係性について

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

「恋愛とマーケティングは似ていると思うんです」

FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSを活用したマーケティングは今や企業にとって欠かせないものになっている。

一方で、「どこから始めればいいのかわからない」「そもそもSNSマーケティングって?」といった疑問もまだまだあるだろう。そこで今回は、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんを講師に迎え、SNSマーケティングを“恋愛”に喩えてわかりやすく解説してもらうことにした。

フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さん

なぜ“恋愛”なのか。それは「日々のお客様とのやりとりの中で、恋愛とマーケティングは似ていると感じることが多かったから」と丸山さんは言う。

丸山さん自身も現在婚活中の身。これまで仕事最優先で生きてきたが、最近になってパートナーを探すべく婚活を開始したという。その過程で感じたのが、前述の恋愛とマーケティングの共通点だったというわけだ。

「流行」は人の手でつくられるモノ

今回は連載初回ということもあるので、まずは講師である丸山さんの経歴から紹介しよう。

東京で生まれ育った丸山さんは、中高大一貫校に通っていた。小学生時代から「自分の知らない世界に行ってみたかった」という丸山さんは、高校時代に初海外となるカナダを訪れる。

「知らない言語で話しかけられたり、東京では見られない地平線や水平線を見たりして、私の知っている世界はなんて狭いんだろうと思いました」(丸山)

海外に魅了された丸山さんは、一念発起してカリフォルニアの大学に進学。そのころ、「ファッションの流行は自然に生まれるのではなく、必ず裏には仕掛人がいる」ということを実感したのがキッカケとなり、「自分も人の心を動かす仕事がしたい」と考えるようになった。

大学卒業後は日本に戻り、人材業界で働くことに。長くアメリカで過ごしていたこともあり、日本の業界事情がつかめない中、「まずはいろいろな業界を知りたい」と考えたためだ。

その後、「リーマンショック」が起こり人材業界の業績が悪化したこともあり、業務を通して興味を持つようになったデジタル業界への転職を決意。転職先は、IT業界を中心にメディアプランニングなどを行う電通の子会社。メディア担当として、デジタル広告のイロハを学んだ。

そこで担当していたクライアントが、当時日本に上陸したばかりのFacebookだった。その後、それまで培ったデジタル広告のノウハウをより活かすべく、フェイスブック ジャパンへ転職し、現在に至る。

広告はラブレター「相手に届かないと意味がないんです」

丸山さんは現在、FacebookやInstagramの広告メニューについて、運用コンサルやメディアプランニングなどを行っている。また、Instagramをより企業に活用してもらうためのプロジェクトメンバーとしても活動しているそうだ。

さて、そんな丸山さんがFacebookのコンサル業務を通して常々感じていたのが「恋愛とマーケティングの共通点」である。

どんな業界でもそうだが、良い製品だからといって何もせずに売れるわけではない。“届けたいメッセージを届けたい相手にちゃんと伝える”必要がある。これがマーケティングの目的だ。

「広告はよくラブレターに例えられます。いくらラブレターを書いても、それがちゃんと届けたい人に、その人の心に響くかたちで届かないと意味がありませんよね。ラブレターを届けるために恋愛にもマーケティングが必要なんです」(丸山)

婚活において“ラブレターを届けるべき相手”とは、まだ見ぬ将来のパートナーだ。その相手はどこかに存在しているはずだが、まだ出会ってはいない状態である。運命の相手と出会うために重要なことの1つは「とにかく出会いの数を増やすこと」だという。

「1人と会ってみて、その人が運命の相手ならラッキーですし、そういうケースもあるでしょう。でも、そうでない場合には、たとえば運命の相手と出会える確率が1/100だとして、10人と会うのと100人と会うのではどちらの方が出会える確率が高いか、言うまでもありません」(丸山)

これはそのままマーケティングに置き換えても同じことが言える。自社の製品を購入してくれる潜在的な顧客の態度変容効果が一緒であるなら、できるだけ多くの人数に広告を届けた方が売上は伸びるはずだ。

「そう考えると、婚活でもせっかくの週末に部屋にこもっているのはもったいないなと思いますよね。積極的に行動をおこして、多くの人に出会う機会を増やすことが大事なんです」(丸山)

一方で、重要なのは数だけではないと丸山さんは言う。多くの人にリーチすることは大前提として、そこからさらに“出会いの効率”を上げていく必要があるのだ。

では「数」に続いて大事なこととは? 次回は効率を上げるために必要な「ターゲティング」について、これまた恋愛と絡めて聞いていく。

第2回「恋するSNS講座」は11月20日に掲載予定です。

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

2018.11.14

日本自動車研究所が「自動バレーパーキング」の実証実験

駐車をシステム任せにできる仕組みとは?

未来の駐車場はクルマの“ハブ”になる

自動運転、電動化、カーシェアリングなど、新たな技術・サービスの登場により変革期を迎える自動車業界。クルマの乗り方、使い方を根本的に変えるかもしれないこれらの要素をまとめて「CASE」というが、この文字を目にする機会も増えてきた。クルマが変わればクルマに関連するモノや場所も変わりそうだが、例えば駐車場は、どのような姿になっていくのだろうか。日本自動車研究所(JARI)の実証実験で、その一端を垣間見た。

「CASE」の進展で駐車場の姿も一変する?

「バレーパーキング」を自動化

「CASE」とは「Connected」(コネクティッドカー)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared & Service」(カーシェアリングなど)、「Electric Drive」(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが使い始めた概念のこと。そのうち、コネクトと自動化の2つを使って、JARIが実用化の道を探っているのが「自動バレーパーキング」というシステムだ。

JARIは経済産業省および国土交通省の委託を受け、2016年度から「一般車両による自動バレーパーキングシステムの社会実装に向けた実証」というプロジェクトを進めている。「バレーパーキング」とは、例えばホテルやショッピングセンターなどにクルマで乗りつけたとき、キーを従業員に預けて、代わりにクルマを駐車しておいてもらうサービスのこと。その自動化に向けて、JARIはシステム、制度、事業性などを検証してきた。

JARIは今回、自動バレーパーキングシステムの機能的な確認を行うためとして、東京都港区にある「デックス東京ビーチ」の駐車場で実証実験を実施。その模様を報道陣に公開した。そこではクルマが勝手に動き、定められた駐車スペースに止まり、再び動き出す様子を見ることができたし、自動バレーパーキングを含めた駐車場の未来像に関する話も聞くことができた。

JARIはデックス東京ビーチ駐車場の2階で実証実験を実施した

自動バレーパーキングとはどんなシステムなのか

自動バレーパーキングをドライバー目線で説明するのは簡単だ。例えばショッピングセンターのエントランスにクルマで乗りつけたならば、降車してスマートフォンのアプリで「入庫」を指示し、そのまま買い物にでも食事にでも向かえばいい。用事が済んだ頃に「出庫」ボタンを押して出口に向かえば、クルマ寄せには愛車が迎えに来ている。

自動バレーパーキングの指示はスマホで行う

では、そのシステムはどのようなものなのか。自動バレーパーキングは「クルマ」「管制センター」「駐車場」の3者による協調で機能する。駐車場の構造を把握している「管制センター」は、ドライバーから入庫の要請を受けると、安全性や効率を考慮して駐車場所とそこへ向かう経路を決め、「クルマ」に無線で指示する。「クルマ」は「駐車場」にあるランドマーク(目印)をカメラやセンサーなどで読み取り、「管制センター」が持つ駐車場の構造情報(地図)と擦りあわせて自らの位置と経路を確認し、指示された駐車スペースに向かう。そんな流れだ。

自動バレーパーキングの様子。運転席に人は乗っているが、ハンドルからは手を離している

同システムが実用化となれば、駐車場の「利用者」は手間を省けるし、「事業者」は駐車効率の向上を図れる。無人で自動運転を行うクルマであれば、ドアの開閉スペースは不要だし、ぶつけたりこすったりする心配もないはずなので、クルマをギュウギュウに詰め込めるからだ。JARIによれば、駐車効率は従来比で20%向上する可能性があるという。また、自動車事故の3割は駐車場で発生しているので、自動化は事故削減にもつながる。

ただ、実用化には当然ながら、いろんなハードルがある。自動バレーパーキングの実用化に向けて動いているのは日本だけではないが、JARIとしてはまず、同システムの国際標準化に向けた手続きを進めたい考え。2021年のISO国際標準化に向け、各国と協議を重ねているところだ。

また、システムが実用化となったとしても、最初から全てのクルマが自動バレーパーキングを利用できるわけではない。まず、通信機能が備わっていないクルマはアウトだし、通信できたとしても、管制センターの指示通りに自動運転をこなせるクルマでなければ、やはり同システムの恩恵は受けられない。

JARIの考えでは、まずは同システムが求める要件を満たすクルマだけが使える専用の駐車場を実用化し、段階的に「混在型」を目指すのが現実的だそう。ただし、混在型を実現するためには、人が運転するクルマと自動運転のクルマを駐車場内でうまく交通整理する工夫が必要になるだろう。

未来の駐車場はクルマの「ハブ」になる?

自動バレーパーキングの実用化には時間が掛かりそうな雰囲気だが、その先の駐車場の在り方についてもJARIは考えをめぐらせている。JARIのITS研究部に所属する深澤竜三さんによると、未来の駐車場が目指すのはクルマのハブ、つまり、クルマにまつわるさまざまなサービスの結節点だ。

JARIが描く未来の駐車場の姿

ハブ駐車場とはどのような施設なのか。深沢さんの描写はこんな具合だ。

「自動バレーパーキングで、勝手に駐車しておいてくれるのはもちろんですが、そこが自動車整備の拠点としての役目を果たしたり、電気自動車(EV)であれば、勝手に充電しておいてくれるとか。買い物が終わる頃には充電が済んでいるというのが理想ですね。あとは、観光地であれば情報配信拠点としての機能も想定できます」

「ほかのアイデアとしては、クルマを駐車しておいたら、宅配便がトランクに届いている、といったような使い方も考えられます。その場合は、トランクを開けられるような仕組みが必要にはなりますが、届け先を1件ずつ回る必要がなくなるので、配送業者の方も楽ですよね」

未来の駐車場は、クルマにまつわるいろんな機能を提供する拠点になるかもしれない

深澤さんの話を聞いていると、おそらくハブ駐車場はホテルに1つ、ショッピングセンターに1つという具合にではなく、地域に1つ、しかも大型の施設として存在するもののように想像できた。用事で近くまで来た人も使えば近隣の住人も使うし、カーシェアやレンタカーなどのクルマも混在している大きな駐車場。そんなイメージだ。

こういう駐車場が必要かどうかについては、地域によって状況が違うだろう。コンビニエンスストアですら広大な駐車場を備える地域がある一方で、例えば銀座のように、数台しか止められないけれど、短時間で驚くべき値段になるコインパーキングが稼動している場所もある。おそらく、ハブ駐車場が必要になるのは後者の方だ。

銀座に大きなハブ駐車場を作る余地があるかどうかは別としても、クルマの駐車以外には使いみちがないという点で「デッドスペース」化している駐車場に、さまざまな機能を持たせるというJARIの構想には可能性を感じた。一般道の自動運転も実用化となれば、例えば東京オリンピックの後、有明かどこかに残された広いスペース(会場の跡地)に大きなハブ駐車場を作り、そこと銀座などの繁華街を結ぶということも、夢のようではあるが不可能ではないはずだ。