孫正義氏は投資家に転身へ、ソフトバンクの10兆円ファンド設立の真意

孫正義氏は投資家に転身へ、ソフトバンクの10兆円ファンド設立の真意

2016.11.09

ソフトバンクグループが7日に開催した2017年度第2四半期決算説明会は、孫正義代表の今後の役割、ソフトバンクグループの先行きを示す重要なイベントとなった。話の中心になるのは、米スプリントでも国内の通信事業でもなく、このほど設立を発表した総額10兆円にもおよぶ巨額ファンドである。

巨額ファンドの件で孫正義氏は何を語ったか

退屈だったイベントから一転

ソフトバンクグループの決算説明会は、ここ最近、少々退屈なイベントだった。米スプリントを子会社化して以降、同社の建て直し、その進捗状況が孫正義代表の口から語られ、決算説明会はスプリント事業進捗説明会となっていたからだ。スプリント自体、日本とは遠い話であり、米国企業の決算説明会に参加しているような気分にさえなった。

しかし、今回は違った。スプリントはドルベースで増収増益、ポストペイド携帯電話の契約数は大幅増加、解約率はスプリント史上最良の状態になったと説明された程度だ。再建に向けた道筋が明確に見えたのか、孫代表の興味は別のところに移ったようだ。

ドルベースで売上は反転
様々な経営指標が改善。ポストペイド契約者数が増加(左)し、解約率もスプリント史上最良(右)だという

思い返せば、今回の決算説明会は孫氏の反省の弁から始まっており、それが説明会の方向性を決めたともいえる。それは次のようなものだ。

「最近、いろいろと反省することが多いんですよね。何を反省しているかといいますと、保守的に硬く、小さく、固まっていたのではないかと。これほどテクノロジーの進化、パラダイムシフトが起きているのに、目の前の日常業務に忙殺されていた……」

孫氏は、スプリントの立て直しや日常業務で忙殺されてしまったことを猛省する。"情報革命"に取り組む一人の人間として、テクノロジーの進化をリードする立場になるために、積極的に様々な手を打っていかなければならないとする。

こうした想いから2015年に掲げたのがソフトバンク2.0だ。これは「グローバル事業資産を持つ日本企業から、長期的な視野に立って事業成長の持続性を確保できるグローバル企業へ変革するための取組み」であり、孫氏はその第一弾として英アームへの投資を決めたと話す。

ソフトバンク2.0推進に必要なこと

しかし、ソフトバンクグループが今後も投資を続けていくには、純有利子負債が大きすぎるのも事実。特に英アームの買収では保有するアリババ株等を手放し資金を作ったが、投資総額は240億ポンド。日本円換算で約3.3兆円となり、手持ち資金でまかなえなかった分を借り入れている。その結果、純有利子負債はさらに膨れ上がった。

純有利子負債 EBITDA倍率を数年内に安全圏の3.5倍に

孫氏は保有するアリババ株を手放せば、財務を改善できるというが、アリババに伸び代はまだあり、まだ手放すわけにはいかないという。こうしたいきさつで生まれようとしているのが10月発表の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」だ。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドとは

「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」は、テクノロジー分野に出資するファンドだ。約10兆円という途方もない資金規模を想定している。ソフトバンクは今後5年で2.5兆円を出資。パートナーには、サウジアラビア王国のパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)を迎え、PIFが今後5年で4.5兆円を出資する。残る3兆円分のパートナーは現在協議中だという。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドで今後5年かけて10兆円を投資

具体的な投資対象は、数百億円以上の案件で、AI・IoTなどを手がける企業が想定されそうだが、ライドシェア事業を展開するUberのような業種・業態も含まれるとし、"情報革命"に該当する企業が全般だ。

これまでソフトバンクを設立し、スプリントの再建にも関わり、事業家としての力を発揮してきた孫氏。そんな同氏が熱っぽく語ったのがこのファンドについてである。

気になるのはスプリント事業が一服したと思われる今、ファンド設立によって、孫氏の役割はどうなるのかということである。孫氏はこれからも事業家として活動していくのか、投資家として手腕を発揮するのか。そのあたりは今後のソフトバンクグループの方向性を見る上でも興味深いところだ。

事業家から投資家へ転身する孫氏

その点について、孫氏は次のように話す。「私はこのファンドの投資の意思決定、それぞれの企業のシナジーを出し合えるように、オーケストラで言えば、自らが演奏するのではなくて、全体のコーディネーションをしていく。そして全体の向かうべき方向やバイオリニストは誰にすべきか、ピアノは誰か、どこで音を鳴らすか、どこでイグジットすべきか、全体をオーケストラするのが役割の中心になっていくだろうと思いますね」。

さらには、自身の采配を右脳と左脳にたとえ、これまで左脳を中心に使ってソフトバンクのモバイル事業、スプリントなどに取り組み、趣味的に右脳を使って投資案件を手がけてきた。時間配分としては、圧倒的に左脳を使ってきたが、今後は右脳を重点的に使っていく。イメージ的には、テクノロジー業界のウォーレン・バフェットとも表現する。

事業家ではなく投資家に――。端的に言えば、"投資家"が今後の孫氏の役割となる。

ソフトバンクグループの立ち位置は?

いまいちわからないのは、事業会社としてのソフトバンクグループの立ち位置だ。資金力はファンドのほうが大きい。孫氏自身もファンドに力を入れていくことになるならば、今後は投資事業がメインに変貌してしまうのかもしれないからだ。

さらには、ファンド設立によって、ソフトバンクグループとファンドの投資に関する線引きが不明なことである。投資という手段がソフトバンクグループから奪われるなら、将来の成長戦略にも影響を及ぼしかねない。

その点について孫氏は次のように説明する。ファンドは設立するが、ソフトバンクグループの投資がゼロにはならない。数百億円規模の投資はファンドで行い、そこでの投資は10数年でイグジットするのが前提となる。一方、ソフトバンクグループとしては、規模は小さくなるが、傘下の子会社が自ら100%合体させていくような投資については、それぞれのキャッシュフローのなかで行っていくというのが今のイメージだとする。投資対象の線引きをしなければ、ソフトバンクがいいとこ取りをするのではないかという利益相反になるため、ファンドを介した投資額について、目下調整している最中だと孫氏は説明する。

ソフトバンクグループは財務改善。数百億円以上はファンド経由で投資へ

諸刃の剣にならないか

ソフトバンクグループが純有利子負債の削減をせざるをえず、ファンドを介した投資で情報革命を推進しようとしていることはわかる。現状のままではアリババ株などを放出して資金を作らない限り、ソフトバンクグループとして巨額投資という手段が取れないということなのだろう。

いずれにせよ、ソフトバンクグループからは、英アームのような巨額買収はなくなるだろう。逆にいえば、ファンドが存在し続ける限り、ソフトバンクグループは巨額投資を行わないことを明言したようにも思える。そのことは、ソフトバンクグループが掲げる「情報革命で人々の幸せに貢献」というビジョンの大きさを狭めかねないのではないだろうか。ファンド経由での投資はいずれイグジットされることになるし、ソフトバンクグループからの投資額はファンドを超えられない。とりうる方法をある程度限定してしまうからだ。投資事業でもビジョンを叶えることができるというのだろうか。

現状を打破するのに、ファンド設立は面白い選択だ。だが、それはファンドが成功を収め、十数年以上も経ったとき、ソフトバンクグループにとって正しい選択だったといえるのか。諸刃の剣に見えてしまう今回のファンドの設立。事業家から投資家に転身する孫氏は、この先どんなビジョンを描いていくのだろうか。

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

2018.11.13

大手キャリアの「値下げ論争」への回答が出揃った

ドコモの値下げに、KDDIは様子見、ソフバンは人員削減で対策

楽天は、自前でのネットワーク敷設を想定通りに行えるのか?

10月末から11月初旬にかけて、大手キャリアが相次いで決算会見を実施。菅官房長官の「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある。2019年10月に第4のキャリアとして楽天が参入するまでに実現できるだろう」という発言に対して、各キャリアの姿勢が改めて見えてきた。

値下げ発表受け、様子見のKDDI、人員削減のソフトバンク

菅官房長官の発言で携帯3社の値下げ議論は岐路に立たされた

値下げに積極的な姿勢を見せたのはNTTドコモだ。同社の吉澤和弘社長は「2019年第1四半期に2〜4割の値下げを実施する。4000億円程度のお客様還元を考えている」と発表した。具体的な値下げ方法までは明かさなかったが、端末代金に対する割引をやめ、通信料金と分離する「分離プラン」の導入が有力視されている。

ただ、これまで吉澤社長は値下げに消極的な姿勢を示していたはずだが、突然、導入に踏み切った背景にあるのは「官邸からNTTの持ち株に圧力があったのではないか」(複数の業界関係者)と見られている。

NTTドコモの「値下げ発言」に対して「正直、驚いている」と語ったのは、KDDIの高橋誠社長だ。高橋社長は「我々は昨年、すでに分離プランを導入している。まさに分離プランのトップランナーであり、政府からの宿題もすでに済ませている」と説明した。実際のところ、「NTTドコモの値下げは、具体的な内容がわからない」(高橋社長)ようで、NTTドコモに先んじて、値下げで仕掛けるということはせず、まずは様子見の姿勢を取るようだ。

ただし、NTTドコモの値下げのインパクトによっては「対抗値下げも検討する」(高橋社長)とのこと。ソフトバンクも基本的には「すでに今年9月に分離プランを導入している」(孫正義会長)というスタンスだ。

孫正義会長は「9月に導入したウルトラギガモンスター+は、ギガ単価で見れば、世界でもっとも安いのではないか」と主張。いたずらに値下げ競争には応じない姿勢を見せた。ただし、格安ブランドのワイモバイルにおいては、来春に分離プランを導入する予定で、「1〜2割程度、安くなるのではないか」(宮内謙社長)と見積もった。

NTTドコモがどれだけ値下げしてくるか、どのくらいの影響力があるか見えないだけに、ソフトバンクでは、国内通信事業に携わる社員の約4割を今後、成長ができる分野に配置転換し、通信収入が下がっても、増益を達成できる組織体制にしていく予定だ。

第4のキャリア「楽天」の厳しい船出

菅官房長官や各キャリアの社長の話をまとめると、2019年には2回、通信料金値下げが起きる可能性が出てきた。

まず最初はNTTドコモの値下げだ。吉澤和弘社長は「2019年第1四半期」という言い方をしているが、通常、NTTドコモが料金プランなどの発表を行う場合、決算会見で明らかにすることがほとんどだ。例年、NTTドコモでは、ゴールデンウィークに突入する直前の4月末に決算会見を実施する。来年も4月末に発表し、6月あたりに値下げを実施するという流れになる可能性が高そうだ。

ここで、他社を驚かせるような料金プランが投入されれば、KDDIやソフトバンクも対抗値下げを迫られることになるだろう。

もうひとつは楽天の携帯電話事業参入のタイミング。こちらは2019年10月の予定だ。

11月8日に行われた楽天の決算会見で、料金施策について質問を受けた楽天モバイルネットワークの山田善久社長は「1年先なので、他社がどうこうよりも、ユーザー視点で魅力的な料金を提供していきたい。短期的に他社がどうだからといって決めるものでもない。最終的な料金戦略は決まっていないが、期待されているので、それに応えられる料金にできればと思う」と語った。

総務省に提出された計画書では、MVNOで提供している楽天モバイルの通信料金と同等にするつもりと言われている。しかし、第4のキャリアとして参入した場合、楽天モバイルと同じ料金設定では、ユーザーにとって魅力的には見えないだろう。当然のことながら、楽天モバイルよりも安価な料金設定でなければ、誰も振り向いてくれない。

楽天はKDDIとローミング契約し、サービス開始当初は東京23区、名古屋市、大阪市以外のネットワークをKDDIから借りることができる。

しかし、2026年までには全国に自前でネットワークを敷設しなくてはならない。それには相当なコストが掛かるはずだ。楽天では6000億円未満で実現できると強調するが、その発言を本気で信じる業界関係者はほとんどいない。

ベンダー体制図と設備投資額。「少数の実績のある企業と連携を取りながら進めている。投資額は、当初発表していた600億を下回ると考えている」との説明がなされた

MVNOよりも安い料金をユーザーに提供しつつ、しかも、全国にネットワーク構築できるだけの設備投資額を確保できるだけのソロバン勘定が楽天には求められるのだ。

2019年10月に参入する楽天に対して心配しているのが提携したばかりのKDDIだ。高橋誠社長は「NTTドコモが分離プランを入れると、大手3社がすべて分離プランになる。(キャリアの通信料金が安く見えるので)楽天は、いまのMVNOと同じ料金プランでも、通用しなくなるのではないか。そこで料金をさらに下げると体力的に持たなくなる。(低料金を期待されている)楽天のハードルが上がっているような気がする」と語った。

本来であれば、高い料金プランを続ける大手3社に対して、楽天が低料金プランで果敢に攻めていくという構図が理想だったはずだ。しかし、NTTドコモが、重い腰を上げてしまったことで、楽天にとっても、厳しい船出になってしまうのではないだろうか。

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

モノのデザイン 第46回

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

2018.11.13

バルミューダ初の照明機器「BALMUDA The Light」

子供にターゲットを絞り、目の健康を追い求めた

デザイン家電ブームの火付け役が挑んだ新領域での苦労とは

バルミューダから10月26日に発売された「BALMUDA The Light」。これまで扇風機、スチームトースター、オーブンレンジなど、デザイン性と革新性を両立させた独自の製品を世に送り出してきた同社だが、照明器具の発売はこれが初めて。空調家電、調理家電に次ぐ“第三のカテゴリー”への市場参入を目論む第一弾のプロダクトだ。

“子どものため”と明確に謳ったこのLEDデスクライトは、これまでにはない思想で開発された。業界で異彩を放つ新製品の設計・機構から外観に至るまで、広義での"デザイン"について、開発チームのメンバーである同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏に聞いた。

バルミューダが新たに挑む製品カテゴリーである"照明"の第1弾として発売された「BALMUDA The Light」。"子どものため"のデスクライトとして、最新のテクノロジーのみならず、開発陣の思想や想いが想像以上に込められた商品だ

子どもウケデザインではない、子どものためのライト

冒頭で述べたとおり、本製品はデスクライトとして"子ども向け"を謳った商品。だが、その方向性は、見た目だけを子どもウケするようなデザインにしたものとは本質的に大きく異なる。

子ども向け="子どもの姿勢や視力への影響を配慮したもの"であり、製品の発表会では、「大人に比べて視界が狭い子どもは、机に向かっているうちにいつの間にか前のめりになってしまい、うつぶせのような姿勢になってしまう」と、寺尾玄社長自らがご子息と対峙して気づいたことが、開発の経緯になったことを明かしていた。

一般的なデスクライトの難点は、このように真上からの照明で、手元に影ができやすいことだ
光源が目に直接入ることも従来のデスクライトの問題点

高荷氏によると、初期の段階ではまったく異なるコンセプトで研究開発していたそうだ。しかし、「そのコンセプトでは商品化のめどが立たず、"集中"とか"目"が開発の方向性のキーワードになっていきました」と話す。

お話を伺った、バルミューダ マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏

BALMUDA The Lightは、同社が"フォワードビームテクノロジー"と呼ぶ、光をミラーで一度反射させてから手元に当てることで、光が瞳に直接入らない点が特長の1つである。反射板を使うことで机全体を照らすことができるという仕組みは、開発の初期段階から検討されており、デスクライトに応用することも考えていたそうだ。

バルミューダが考えた、デスクライトとしての理想的な光のイメージ。手元に影を作らず、光が直接目に入らない解決方法が検討された
BALMUDA The Lightの光源部分。ミラーによって光を反射させてから手元に当てることで、光が直接目に入らず、影もできない。光源には3灯の太陽光LEDが使われている

手術灯メーカーとの出会いで開発が加速

バルミューダがデスクライトの開発に着手したのは2014年ごろ。実は2015年に発売され大ヒットした「BALMUDA The Toaster」の発売前から構想自体はスタートしていたというが、商品化に向けて大きく動き出したのは2年ほど前とのこと。高荷氏は「でも、拍車がかかったのは、去年(2017年)の頭ぐらい。社長自らが山田医療照明の増田社長と出会ったところからなんです」と振り返る。

山田医療照明は、手術灯など医療用照明を手掛ける、業界では国内トップのメーカーだ。バルミューダが開発途中で考えていた照明の仕組みが手術灯に似ていることに気付いた寺尾社長が自らネットで検索し、探り当てたのが山田医療照明だった。これが、後の"フォワードビームテクノロジー"につながっていくことになる。

すぐさま寺尾社長はショールームへ乗り込んで行った。山田医療照明は手術灯でグッドデザイン賞を受賞するなど、デザインに対する意識も高く、製品開発の考え方にも近いものがあると感じたという。直接会いに行った同社の社長ともすぐさま意気投合したそうだ。

高荷氏は「実は山田医療照明の増田社長がバルミューダのファンで、弊社のほぼ全商品を持っていらっしゃったんです」と、共同開発にたどり着いたエピソードを笑いながら語った。

フォワードビームテクノロジーのヒントになった、山田医療照明の手術灯

2017年春からは、2社共同のプロジェクトとして再始動した、BALMUDA The Light。もう1つの技術的な特長として、光源に"太陽光LED"を採用していることも挙げられる。

太陽光LEDとは、太陽による自然光に近い波長(スペクトル)を持ったLED。一般的なLEDに比べてブルーの波長が低く、目にストレスを与えにくいといい、山田医療照明が手掛ける手術灯にも数年前から採用されている。

だが、目に優しい反面、太陽光LEDは価格が高いのが難点。一般的なLEDの10倍ほど高価なために、民生用の機器で採用されている例はほとんどないという。それをBALMUDA The Lightではなんと3個も搭載しているのだ。

BALMUDA The Light、一般的な白色LEDライト、太陽光の光の波長の違い。BALMUDA The Lightのブルーライトは、一般的な白色LEDライトに比べると太陽光に近い波長で、目が疲れにくい特性を持つ

太陽光LEDが民生用機器に採用されない理由は他にもある。「太陽光LEDは、光の質がよい代わりに発熱しやすく、放熱をいかに行うかがかなり大変なんです。放熱対策をせずに電流を流すと100℃を超えることもあり、そのままだとすぐに壊れてしまいます」と高荷氏。

そこで、BALMUDA The Lightではさまざまな放熱技術を検討していった。「フォワードビームの反射構造と放熱を両立させる設計を行い、1日中ライトをつけっぱなしにしていても、ほのかに温かいと感じる程度にまで抑え込みました。しかし、放熱のための解決策をやればやるほど本体が重くなっていき、倒れやすくなってしまったんです」と話す。

カサの部分に複数設けられた穴の部分は、放熱の機能も兼ねている

「形に合わせた開発」の苦労

以前、「BALMUDA The Range」の取材の際に、「バルミューダのデザインの神髄は、形はベーシックでありながら、オリジナリティーを追求することにある」と語られていたように、開発チームには、形を変えないままで中身を改良していくことが要求された。

「開発部門としては、あと5ミリ厚くできれば放熱と倒れにくさを両立できるのに……というせめぎ合いが何度かあったのですが、弊社の商品はデザイン性もブランドアイデンティティーの1つ。デザイン性は優先課題とされるため、"形ありきで、そこに技術をどうやってはめていくか?"という考え方で、光源部分の試作を毎週繰り返して、最終的にはコンマミリサイズで調整を続けました」と苦悩を明かす。

そのほかにも、暗くする際にチラつきが出やすく、それが目にストレスを与えてしまうという問題を電流の量で微調整する制御を行い、最小限に抑えたという。

一方、外観上のデザインに関しては、"パッと見はシンプル"というバルミューダ共通のデザイン意匠を踏襲しつつも、意識されたのは"テック感"だ。

「光源が見えない時、表側はシンプルでやさしい印象ですが、カサの内側の光源がある部分は複雑な造形にし、一部をクローム調にすることでシャープな印象に仕上げました。ポリゴン状の反射板も、光学的に有利かつテクノロジーを感じるデザインを意識したものです」と高荷氏。

それ以外にも、"子ども用"を謳う商品として、耐久性はもちろん、転倒しないように重さを調整した。"長くずっと机にいる相棒"として長年愛用できるように、デコレーション用に付属するシールが貼りやすい一方で傷や指紋が付きにくく、手入れをしやすいマット塗装やコーティングが施されている。

本製品のもう1つユニークな点は、"音"の仕掛けだ。BALMUDA The Rangeと同様に、デスクライトにもスイッチのダイヤルを回すと音を奏でるギミックが採用されている。前回のレンジはギターやドラムだったが、今回はアナログピアノの音が選ばれている。しかも、スタインウェイのグランドピアノを使って、スタジオでプロのミュージシャンが演奏した生音を音源にするというこだわりだ。

「いろいろ試した中で、光の明るさと諧調に親和性があったのがピアノの音でした。クラシカルなピアノの旋律はノスタルジックで、子どものイメージに合致しながらも、子どもっぽすぎるということもなく、長く愛用するのにふさわしい。ピッタリとハマりましたね。鍵盤の押し方とか、音の余韻までちゃんと表現されているんですよ」

製品に同梱されている取説。「子どものクリエイティビティや好奇心が掻き立てられるように」と、あえて設計図のようなデザインに仕立てたとのこと

コーポレイトアイデンティティーの1つとして"クリエイティビティ"を掲げるバルミューダ。今回の製品にも「クリエイティブであれ!」という子どもたちへのメッセージが込められている。そのために、デザインはあえて90%の完成度にし、残りの10%は使用する子ども自身の手で作り上げて欲しいという思いから、自由に組み合わせて貼れるステッカーが4シートも付属しており、本体の根本部分はペンスタンドにもなっている。

ダイヤル部分を回すと、ピアノの音階を奏でる。バルミューダらしい"遊び心"ある仕掛けに、子どもも大人も心が躍る

単に子どもたちの"目を守る"という使命だけでなく、自らの手で自分のものにした喜びや体験がモノへの愛着を生み、新たなクリエイティビティにつながっていく。いや、つなげてほしいという、同社の"意志"が大いに込められた商品だ。「デスクライトでどうやって体験を伝えるかはチャレンジングでした」と最後に語った高荷氏の言葉からも、その思いが伝わってきた。