【RIZAPグループ】 M&Aも「結果にコミット」 美容・健康を軸に周辺領域へ拡大

【RIZAPグループ】 M&Aも「結果にコミット」 美容・健康を軸に周辺領域へ拡大

2016.11.10

【RIZAPグループ】 M&Aも「結果にコミット」 美容・健康を軸に周辺領域へ拡大

 マンツーマンのトレーニングジム「RIZAP」(ライザップ)を運営するRIZAPグループ<2928>。もともとは健康食品の通信販売会社としてスタートしたが、「結果にコミットする」というCMで一躍有名になり、美容・健康事業が急成長している。現在では高い知名度を背景に広告宣伝費をかけずとも会員が集まる好循環が生まれている。RIZAPで稼いだ資金を原資に積極的なM&Aにも取り組んでおり、時価総額は1000億円を突破した。「自己投資産業ナンバーワン」をめざすRIZAPの躍進の背景を分析した。

【企業概要】 絶大なブランド力、高収益率が加速

 RIZAPグループは、健康食品の通信販売を目的に2003年に設立され、現在は美容・健康関連事業、アパレル事業、住関連ライフスタイル事業、エンターテイメント事業を営んでいる。

 美容・健康関連事業は、『結果にコミットする』というCMで一躍有名となった「RIZAP」により予想を大きく上回る成長を見せている。その源泉は、他のフィットネスジムに比べ高収益率を誇り、その資金力を元に積極的に広告宣伝を行うことで新規の顧客を大幅に増加させてきたことにある。広告宣伝効果により「RIZAP」ブランドの認知度が高まったことや利用者の満足度が高いこともあり、2014年頃から多額の広告宣伝費を投入せずともリピート客(例えば2か月コースから1年コースへの変更)や既存顧客からの紹介による新規顧客が増加している。売上高に占める広告宣伝費の割合が低下したことにより、高収益率を更に加速させている。


 なお、認知度の高い「RIZAP」ブランドを活用するため、2016年7月、持株会社であった健康コーポレーションの美容・健康事業を新設分割した上で社名を「RIZAPグループ」に変更している(新設分割した会社の社名は「健康コーポレーション」)。

 時価総額が1,000億円を超え、海外店舗も増加させ業績絶好調のRIZAPの経営目標は「自己投資産業グローバルNo.1ブランドをつくる」ことである。自己管理に対する意識が高い顧客をターゲットに、美容・健康、アパレル、ライフスタイル、エンターテイメントなどの分野において多面的なサービス展開により更に業容の大幅な成長を見込んでいる。RIZAPでは、対象とする顧客のニーズを徹底的に分析した上で新規事業を立ち上げている。RIZAPの子会社が運営する「RIZAP GOLF」や「RIZAP ENGLISH」はいずれも問い合わせが殺到し3ヵ月以上の待ち状態が続いているとのことで、まさに顧客のニーズを的確に捉えた事業展開を行っているといえる。

【経営陣】 瀬戸社長は20代で起業、設立3年で株式公開

 RIZAPを創業した瀬戸健社長は1978年生まれ。2002年から個人事業としてパソコン販売を始めた。2003年に資本金900万円で健康コーポレーションを設立した。設立からわずか3年後の2006年に札幌証券取引所アンビシャス市場に株式を上場。M&Aにも積極的で多くのグループ会社の役員も兼任する。現在38歳と若い。経営陣に助言する経営諮問委員に、元経済財政担当大臣の竹中平蔵氏やシティグループ証券前副会長の藤田勉氏、一橋大学大学院特任教授の伊藤邦雄氏ら大物を招き、コーポレートガバナンスを強化している。

【株主構成】 高い創業オーナー比率、意思決定迅速に

 RIZAPの筆頭株主は瀬戸健社長が代表取締役を務める資産管理会社のCBM。第2位が瀬戸健社長本人で、第3位は瀬戸早苗氏(2016年6月の株主総会で健康コーポレーション取締役を退任)。3者を合計すると7割近くに達する。上場してもなお、創業オーナー社長が高い持ち株比率を維持していることから、トップダウンによる意思決定の速さがRIZAPの急成長の一因になっているとみられる。

【M&A戦略】 上場企業株、割安に取得 周辺事業に進出

 RIZAPは美容・健康事業を軸に考えており、M&Aについても美容・健康事業の拡大、または美容・健康事業とのシナジーをテーマにM&Aを実施してきた。M&Aにより美容・健康事業を拡大させる一方で、美容・健康事業とのシナジーが見込めない会社については積極的に株式譲渡をしている。2007年に3社、2008年に3社、2013年9月に1社、2015年5月に1社の株式を外部に譲渡した(下表の青色部分参照)。

 RIZAPのM&Aは、基本的には株式買収金額が比較的小さいことが特徴である。しかし2016年に入り10億円を超えるM&Aを4件実行しており、年々大型化しているのは注目すべきである(表の橙色部分参照)。

 株式買収金額が最も大きかったのは2007年に子会社化した弘乳舎(36億円で買収)であるが、2013年にアスラポート・ダイニングに株式全てを25億円で売却している。買収金額が多額になる見込の会社の株式は100%取得せず経営権を支配できる50%超を取得するにとどめているケースが多い。

 また、上場会社の株式は時価を大きく下回る価格で買収している。2014年1月のゲオディノス(売上8,370百万円)をTOBにより子会社化した際の1株あたり純資産が556円に対し公開買付価格は178円である。2015年2月の夢展望(2013年東証マザーズに上場)の買収もその典型である。アパレル業界全体の業績が低迷しており、アパレル商材を扱う同社の業績も悪化していたが、2012年に同社が金融機関と締結したシンジケートローンのコベナンツ(財務制限条項)に記載されている「2期連続経常損失を計上した場合に借入を一括返済する」ことが現実化したことで同社の資金繰りが悪化した。同社の資金援助に唯一手を挙げたRIZAPが相当有利な第三者割当増資により同社を子会社化するという結果となった。なお、その後、RIZAPが親会社になるという期待から同社の株価が急伸、その結果、同社の株主全体に大きな利益をもたらしている。

 M&Aを推し進める一方で、新たな収益基盤を創造するため、下表のように産学提携、共同研究や各分野のリーダー企業との提携も進めている。今後はM&Aだけでなく業務提携も増加することが予想される。

【財務分析】 美容・健康事業が成長牽引 財務の健全性維持

 業績推移を見ると、リーマンショック時に売り上げが落ち込んでいるが、その後は順調に増加している。新中期計画「COMMIT 2020」によると、2017年3月期に売上高1,000億円、2021年3月期までに売上高3,000億円を目標としている。

 セグメント別の売上推移を確認すると、やはり美容・健康事業が牽引していることが分かる。食品関連事業は、2007年に(株)弘乳舎を子会社化し事業を営んできたが、今後さらに美容・健康事業を軸に業容を拡大するにあたりグループ内シナジーが希薄であるという理由で、2013年に弘乳舎の全株式を売却することで撤退となった。

 食品関連事業撤退の代わりに、住関連ライフスタイル事業及びエンターテイメント事業が美容・健康事業との協業を進めている。住関連ライフスタイル事業は、高機能やデザイン性に富む商品に満ちたライフスタイルを提供するという点でRIZAPにおける重要な事業領域の一つとして位置付けている。2013年9月にイデアインターナショナルを子会社化し、2014年2月にはイデアインターナショナルが同じく子会社の日本リレント化粧品を吸収合併するなど業容の拡大を図っている。また、2016年2月に注文住宅やリフォームを手掛けるタツミプランニング、2016年5月にインテリア小物雑貨及び生活雑貨の販売を手掛けるパスポートを子会社化したことで、更なる商材の拡大を図っている。

 エンターテイメント事業は2014年1月にゲオディノス(2014年1月にSDエンターテイメントに商号変更)を子会社化したことで開始し、美容・健康事業との協業を進めている。

 RIZAPの自己資本比率は最近では20%前後を推移している。2006年にM&Aを本格的な開始にともない有利子負債が大幅に増加したことで自己資本比率は低下したが、毎期の利益の積み上げにより自己資本比率は上昇している。しかし2013年3月期以降、総資産の急激な増加により自己資本比率は減少している。総資産の急激な増加は、売上の増加に伴う当座資産(簡便的に現預金+売上債権で算出)が大幅に増加していること、及びM&Aによる資産の増加が要因である。

 2016年3月期に自己資本比率が大幅に増加しているが、これは2015年6月にドイツ銀行が新株予約権を総額26億円で行使したことで株主資本が増加したことが要因である(なお、新株予約権が行使されなかったと仮定した場合の2016年3月期の自己資本比率は19.22%で、2015年3月期に比べ微増している)。M&Aにより総資産が増加しているが利益の増加に伴い株主資本も増加しており、結果として財務健全性は維持されている。

 2017年3月期では第1四半期において業績予想を上方修正している。「COMMIT2020」に掲げた「売上1000億円、営業利益100億円」を達成できれば、RIZAPの財務健全性はさらに安定したものとなるであろう。

 一方で、積極的なM&Aに伴い、2016年6月末時点でのれんが54億円に膨らんでいる。RIZAPは2017年3月期から会計基準に国際会計基準(IFRS)を適用した。IFRSではのれんの定期償却が不要となり、損益計算書上は営業利益のプラス要因になる。しかし、買収先の収益が悪化した場合、のれんの減損処理を迫られるリスクもある点には注意したほうがよいだろう。

【株価】 高い利益成長で急上昇 足元は上値重く

 業績拡大に伴い、RIZAPグループの株価は大幅に上昇している。11月2日時点の株価は863円と3年前の約8倍に跳ね上がった。2017年3月期の業績予想をベースに計算した予想PER(株価収益率)は約18倍。スポーツクラブ運営のセントラルスポーツ(約13倍)やルネサンス(約12倍)を大きく上回る。RIZAP事業の高いブランド力に基づく収益力や成長性が投資家に評価されているようだ。

 もっとも足元では株価の上値は重くなっている。さらに上値を追うには、RIZAP事業が好調なうちにここ1~2年で買収した子会社の業績を成長軌道に乗せることが課題になりそうだ。

【まとめ】M&Aさらに積極化の公算 買収子会社の成長が重要に

 RIZAPグループの急激な成長は、多額の広告宣伝費の投入によるブランド力の増大とM&Aによるものであることは明らかである。創業者持株比率が以前高いこともあり資金調達の余地は大きいため、豊富な資金力を背景に今後もM&Aを活発に行っていくことも考えられる。ただ、最近では資金の移動を伴わない業務提携も増えてきている。「RIZAP」ブランド力が高まったことで広告宣伝費の投入が抑えられていることと同様に、これまで買収した子会社を成長させることにも力点を置くことが重要となってくる。今後は、蒔いた種をいかに刈り取るかについても注目していきたい。

 この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。