「スティーブ・ジョブズを追放した男」が語るイノベーションの条件

「スティーブ・ジョブズを追放した男」が語るイノベーションの条件

2016.11.11

今や伝説となったアップルの故スティーブ・ジョブズ氏だが、かつてジョブズ氏と蜜月の関係でアップルを率い、そしてジョブズをアップルから追放した男がいたのをご存じだろうか。アップルの3代目CEO、ジョン・スカリー氏だ。そのスカリー氏が来日し、特別講演を行った。巨大企業のCEOを歴任した人物が語るこれからのイノベーションの条件とはどのようなものか。

ジョン・スカリー氏(ワークスアプリケーションズ主催「COMPANY Forum2016」にて)

ペプシとアップルを世界的企業に引き上げた経営者

ジョン・スカリー氏といえば、古いアップルファンの間では一種の伝説とも言える人物だ。Macの販売を前にプロの経営者を探していたジョブズ氏が、マイケル・ジャクソン氏を起用した広告や比較広告という手法でコカ・コーラとの「コーラ戦争」を制したスカリー氏を「このまま一生砂糖水を売り続けるか、一緒に世界を変えるか」という口説き文句で引き抜き、アップルのCEOに据えた逸話は非常に有名だ。

その後、ジョブズ氏とのコンビでMacを売り出すも、手綱を握りきれないジョブズ氏を追放し、単独でアップルの経営に乗り出す。Macの販売を軌道に乗せるとともに、将来のアップル製品のビジョンとして「Knowledge Navigator」を発表したり、PDAの元祖である「Newton」の開発を推進したり、IBMとアップル、モトローラとの共同で「PowerPC」プロセッサの開発と採用を進めたりするなど、ジョブズ追放後のアップルを世界的なコンピュータ企業に育て上げた。しかし、業績の悪化もあってCEOを解任され、その後は兄弟とともに投資コンサルタント会社を経営している。

スカリー氏は、IT系のメディアなどからは技術的素養がないこと(ジョブズ氏もその点は大差ないのだが)やいくつかの失策を挙げて低い評価を受けることもあるが、前述したKnowledge NavigatorやNewtonといったビジョンはむしろ現代のITシーンを正確に予見していたと言える面もある。何より、ペプシ、アップルという世界有数の企業を相次いで率いた手腕と経験は並大抵のものではないはずだ。

スカリー氏が登壇したのは、ワークスアプリケーションズ主催の「COMPANY Forum2016」の特別セッション(9月28日開催)と、翌29日のキーノートである。日本にはイノベーターと呼べる優秀な人物がたくさんいるものの、世界で勝負できるイノベーションはほとんど起きていないが、イノベーションを起こす条件についてスカリー氏はどう見ているのか。

顧客中心主義にマインドセットを切り替える

スカリー氏は近著のタイトルでもある「ムーンショット(Moonshot=月面探査ロケットの打ち上げ)」という言葉をとりあげ、「これはもともとジョン・F・ケネディ大統領が1960年代中に月に人類を送り込み、無事地球に帰還させるという野心的な目標を挙げ、成功させたことから、ムーンショットが"将来を描く、斬新で困難な、壮大な目標や挑戦"を表す言葉になった」と話す。「シリコンバレーでは世界が一変するような、影響力が非常に高いイノベーションを意味する言葉でもある」という。

そして現代のムーンショットを成立させる技術として、スカリー氏が挙げるのが、クラウドコンピューティング、IoT、ビッグデータ、モバイル機器だ。これらを活用して新しいビジネスを作り上げていくべきだと説く。

スカリー氏によれば、これまでのビジネスが前年の売上からビジネスプランを立てて予算を積み上げていくものであるのに対し、これからのビジネスは顧客を中心に、顧客が何を求めているかを考えて作る「カスタマープラン」を中心に構築していくべきだという。

というのも、これまでと違って顧客は、それぞれがインターネットを通じて自分の意見を発表することができ、またある製品に対しての意見を検索することができるようになっているからだ。顧客自身が市場を左右するパワーを持ち始めているのだ。

アップルやグーグル、フェイスブックといった企業はすでにこうしたカスタマープランへの移行を済ませており、こうした会社は広告を打たなくても顧客が口コミで知名度を上げてくれる。ビジネスプランだけでなく、広告プラン自体もこれまでとは全く異なるものになるわけだ。そして、人工知能の発展によりこれまでとは情報や技術の進化の速度が比べものにならないくらい早く変化していくことを指摘し、顧客の需要や要求もこのスピード感に合わせて素早くなる「緊急性の時代」が訪れるとした。

スカリー氏はこうした新時代に対応できる能力を持つ人々を「適応型イノベーター」(Adaptive Innovator)と定義した。この言葉はスカリー氏の近著『ムーンショット』でも中心に取り上げられている単語で、適応型イノベーターに必要な能力として「点と点を繋げていく力」を挙げ、テクノロジーをアシスタントとして使いこなし、関連性の高い情報を発見し、結びつけ、一つに仕上げていく視点の必要性を説いた。

また、組織には組織の枠を取り払い、必要なときに必要な人材がコラボレーションできる新たな組織作りの必要性を説いた。

そのためには専門性の高い知識を持つことだけでなく、物事を大きく引いて大所高所から見下ろして網羅的に把握し、そこからまた細部に向かって単純化していく「ズーミング」という手法を紹介。日本企業ではこうした考え方が向いているのではないかと結論付けた。

日本でも適応型イノベーションは可能か

では、イノベーションを起こせるのはどんな人材なのか。その問いに対し、スカリー氏は、ダーウィンの進化論は「強いものが生き残る」のではなく「環境の変化に適応できるものが生き残る」だと指摘、社会の変化に適応していける「適応型イノベーター」がそれに当たるという。

スカリー氏によれば、ジョブズ氏やイーロン・マスク氏、ジェフ・ベゾス氏らといった突出した天才たちはそれまでの社会常識などを打ち壊して新しい時代を創出する「破壊的イノベーター」であり、彼らの世界観は特殊で、誰にでも真似ができるものではないという。これに対し、適応型イノベーターは誰にでもなれるものであり、破壊的イノベーターの考えたことを現実世界に当てはめて実現していくものだとしている。

「日本で適応型イノベーションを起こせる企業は現れるか」という問いに対し、日本にもジョブズが尊敬していたソニーの故盛田昭夫氏などのイノベーターが存在していたし、ユニクロなどの適応型イノベーションを起こした会社があること、ソフトバンクの孫正義会長のような人材がいることを指摘。日本には優秀な人材が揃っているが、イノベーションを起こしにくいのは会社組織が古く、古い組織は「ノー」は言えるが「イエス」が言いにくいことが原因ではないかと分析した。そして企業や組織の中でもリスクをとって新しいことを試してイノベーションを起こすことはできる、日本は実行よりコンセンサスが大事というが、イノベーションでコンセンサスを起こすことが大事ではないかと指摘した。

特別セッションの後、スカリー氏に個別インタビューする機会を得た。一問一答形式でその内容を紹介しよう。

――これまでジョブズなど、多くの経営者やイノベーターと一緒に仕事をされてきたと思いますが、現在の適応型イノベーターの代表例としてはどんな人物を挙げられますか?

現在、投資家、アドバイザーとして多くのプライベートカンパニーのCEOと仕事をしています。その中でインスピレーションをかきたてられるイノベーターということであれば、ゼータインタラクティブのデビット・スタインバーグがその一人です。彼は様々な企業から事業を買収し、10億ドル規模のマーケティング企業に育て上げました。

適応型イノベーターになる条件ほか20年後の世界についても言及してくれたスカリー氏

――日本は適応型イノベーターが力を発揮しにくい環境ではないかと思いますが、ご存知の範囲で日本の企業家・実業家の中で適応型イノベーターと呼べる人はいますか?

ユニクロの柳井社長を挙げます。ユニクロは機能的な素材を取り入れ、現在は世界的ブランドに発展しています。ニューヨークの5番街で最も栄えている店舗が2つあるのをご存知ですか? 1つはApple Store、もう一つがユニクロです。

また、ソフトバンクの孫正義会長も、彼が若い頃からよく知っています。

――これから起業を考える若い人たちや学生は、適応型イノベーターになるためにはどのようなことに気を配っていればいいのでしょうか。また、適応型イノベーターを見分けるにはどうすればいいのでしょうか?

まずは何よりも強い好奇心を持つことです。何にでも熱意を持って接してください。情熱に対して正直であること、インスピレーションを大切にすることです。

多くの成功した人たちと会ってきましたが、彼らが共通して言うことは、本当に大切なことは学校では学べなかったということです。実際に仕事をしてみてわかることはたくさんあります。

――あなたは30年前に現在のことをかなり正確に予見していましたが、20年後、30年後はどのような社会になっていると思いますか?

将来については非常に楽天的に考えています。今、中国、インド、アフリカ、南アメリカ、米国など、世界中で若い起業家たちと話をしています。彼らがやがて産業や政府のリーダーになるのです。彼らの資質の高さを考えれば、どんな難しい問題でも解決できると思っています。

昔、アップルのMacの開発室で、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズが大義について語っていたことを思い出します。彼らはお金のことは一切話していませんでした。彼らが語っていたのは世界をどうやって変えるかでした。ジョブズはこのとき「知の自転車」、ゲイツは「知のツール」という言葉を使っていました。彼らはパーソナルコンピュータによって、知的労働者に力を与え、世界を変えたいという崇高な大義を持っていたのです。

お金ではなく、何を解決するかを先に考えるべきです。顧客が解決策に満足すれば、お金は後からついてきます。

スカリー氏に学ぶべきこと

ジョン・スカリー氏はペプシやアップルのCEOとして多くの成功や失敗を経験してきたが、それらの体験を生かして若い起業家と協業するのが楽しくて仕方がないという感じだった。また、専門知識はなくとも、広い見識をもってテクノロジーの本質を理解し、それを誰にでもわかるように翻訳して伝えるという点においては際立って優れた人物であることも感じさせられた。

スカリー氏が提唱する適応型イノベーターというのは、新しい技術を組み合わせたり改良してまったく新しいものを作り上げる日本人に向いたスタイルだとも思われる。国内では何かと閉塞的で悲壮感が漂っているが、スカリー氏のアドバイス通り、日本人の強みをもう一度再評価し、小さな分野にとらわれず、大きな視野で市場を眺めなおしてみることで、新たな突破口が見出せるのではないだろうか。

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

打倒iQOSに挑むプルーム・テックの戦い、世界市場も見据えたJTの新製品

2019.01.22

低温加熱式のJTがライバルと直接競合する高温加熱式に参入

専用リフィルも異なる3種類の製品で広範に網を張るプルーム・テック

海外市場でも兆し見えた加熱式たばこ、日本での成功がより重要に

日本たばこ産業(JT)が加熱式たばこの新製品、「プルーム・テック・プラス (Ploom TECH+)」「プルーム・エス (Ploom S)」の2製品を発表した。シェアトップのiQOSを追撃したいJTだが、ライバルに先行を許している今、どのような戦略を描いているのか。

JTが発表した加熱式たばこの新製品、プルーム・テック・プラス(左)とプルーム・エス

新たに高温加熱式に参入、ライバルと直接競合へ

新製品は、従来のプルーム・テックを改良したプルーム・テック・プラスと、シェアを争う「iQOS」(フィリップ・モリス)や「glo」(BAT)と同様の加熱方式を採用したプルーム・エスの2つ。iQOSとgloが高温加熱式であるのに対し、もともとプルーム・テックは低温加熱式と呼ばれる方式をとっていた。30度という低温で発生させた蒸気をたばこカプセルを通して吸うため、においが少ない一方、吸いごたえに乏しいともいわれていた。

低温加熱式で吸いごたえを追加したプルーム・テック・プラスと、高温加熱式のシェア奪取を狙ったプルーム・エスを投入

そこで、たばこ葉を増やすなどして吸いごたえを高めたのがプルーム・テック・プラスだ。その結果、本体が太く大きくなり、加熱温度も40度と少しだけ高くなったが、においの少なさはそのままに、吸いごたえをアップさせたことをアピールする。

プルーム・エスは高温加熱式を採用し、iQOSやgloと同様の吸いごたえを目指した。こうした高温加熱式は、たばこ葉を高温で蒸すことで蒸気を発生させるため、従来のたばことも異なる独特のにおいを発生させる。

JT副社長・たばこ事業本部長の岩井睦雄氏は、この独特の「におい」のせいでたばこの味わいに違和感を覚える喫煙者が多かったと話す。そのため、「満足度を高めるのは味わい」として、このにおいの低減に取り組んだという。

プルーム・エスでは、たばこ葉を熱する温度を200度に抑えた。これはiQOSの300度、gloの240度に比べて低く、これによって特有のにおいを抑えたという。

吸いごたえや加熱方式が異なる3製品をそろえる意味

JTは新製品投入後も既存製品の取り扱いを継続する。つまり、プルーム・テックのラインアップは3種類となる。iQOSも複数の製品があるが、こちらは機能の違いによって3種類に分けられており、プルーム・テックはそれに対して、吸いごたえや加熱方式によって異なる製品を用意したかっこうだ。

3つの製品を投入することで、選択肢を提供する

岩井副社長は「温度で選ぶ時代」と表現し、低温のプルーム・テック/プルーム・テック・プラスと、高温のプルーム・エスという選択肢によって「好みや生活環境、ライフステージの変化に合わせて、いつでも最適な選択ができる」ことを狙ったとしている。

たばこ事業本部長の岩井睦雄副社長

たばこ部分に互換性がないという問題はありそうだが、現在でも、においの少なさを重視して自宅ではプルーム・テックを吸いつつ、味わいを求めて喫煙所では高温加熱式の加熱式たばこ、と双方を使い分けている人が少なくない。そうしたユーザーに対して、「それぞれで求められるニーズを高いレベルで満たし、両方を提供するのが顧客満足度の最大化に繋がる」(岩井副社長)と判断し、製品開発に取り組んだ。

加熱式たばこ最大市場の日本から、海外市場を見据える

岩井副社長は新製品でiQOSからシェアを奪取し、「中長期的にはRRPカテゴリでもシェアナンバーワンを目指す」と意気込みを語る。

「RRP」とは「リスク低減製品」のこと。「喫煙にともなう健康へのリスクを低減させる可能性がある」と位置づけられる製品だ。

日本では法律上、液体にニコチンを含ませて販売することはできない。電子たばこは、このニコチンを含む液体を蒸気化させるため日本で販売できず、結果、加熱式たばこが普及したという背景もある。加熱式たばこの市場規模では日本が世界最大だが、iQOSが韓国や欧州の一部で販売を強化しており、グローバルでの市場拡大を狙っている。

JTは海外ではlogicブランドで電子たばこを販売している。海外での電子たばこ事業はありつつも、まずは製品の国内ラインナップを拡大して加熱式たばこのシェア拡大を図るとともに、紙巻きたばこを含むすべての製品の価値を向上させることで、市場の拡大に繋げたい考えだ。「日本での成功がグローバルでの成功につながる」と岩井副社長は強調する。

紙巻きたばことRRP製品の双方を拡充する
日本では加熱式、海外では電子たばこを提供中

紙巻きからの移行、数年以内に大きな山場

2018年は加熱式たばこが踊り場を迎えたと言われた。日本ではここ数年で急激に加熱式たばこの普及が進んだが、市場シェアが20%を越えたところでユーザー需要は一巡したとみられる。

ただ、プルーム・テックの全国販売の開始や、他社では直近のiQOSの新モデル投入などを経て、その動向から、需要の伸びは「足踏みしていたが、止まったわけではない」(岩井副社長)との認識にあるという。加えて、紙巻きたばこによる健康懸念の高まりや、オリンピックによる喫煙場所の規制といった外的要因もあり、「必ずシガレット(紙巻きたばこ)からRRPに移ってくる」(同)という見通しだ。

課題は、紙巻きたばことは異なり、デバイスを購入しなければならないというハードルの高さだ。一度購入した後、他社のデバイスへ移行しづらいという難題につながる。

他社の後追いとなった高温加熱式では、「差別化のポイントをしっかりと伝えていく」ことで買い替えを促進する。JTが主導する低温加熱式では、「若干下方修正したが、手応えも感じている」と岩井副社長は説明する。今後は製品の良さをアピールするために、喫煙者に直接説明をする営業スタイルを重視していく方針をとるそうだ。

JTは日本市場で紙巻き、加熱式のいずれでもシェアトップを目指す

JTは1社で複数の選択肢の製品を用意することで、消費者のニーズの受け皿を最大化しようと目論んでいる。この先にグローバルで展開する上で、ユーザーからどのような示唆が得られるのかを検証していき、海外での加熱式たばこの市場拡大にも乗り出していきたいと考えているようだ。

加熱式たばこは間もなく、国内市場シェアだけでなく、海外市場の争奪戦の行方も左右する正念場を迎える。