【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

2016.11.15

【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

 ニプロ<8086>がM&Aをテコに医療関連事業を拡大している。医療機器、医薬品、医療用硝子材料など幅広い製品を持ち、医療現場のニーズに密着した製品を開発する。成長分野である人工透析関連機器では海外メーカーを買収し世界トップシェアを狙う。国内のバイオベンチャーにも出資、将来に向けた種まきに余念がない。ニプロの成長をけん引するM&A戦略を解剖する。



【企業概要】M&Aから始まった主力の医療機器事業

 ニプロは医療機器・医薬品・医療用硝子材料と、幅広い分野の医療関連製品を取り扱う会社である。特に医療機器分野における人工透析関連機器では、世界的にも高いシェアと技術力を有する企業である。

 創業は1947年、滋賀県大津市で電球再生事業から始まった。1954年に日本硝子商事(現ニプロ)を京都市に設立し、アンプル用硝子管や医療用硝子製品を販売する。本店を大阪市に移転した後は、魔法瓶用中瓶加工の自動機械を開発し、魔法瓶用硝子の販売を開始する一方、スーパーマーケット事業(後のニッショーストア)にも参入している。

 同社の現在の主力事業である医療機器事業は、1969年に富沢製作所(群馬県館林市)に出資し注射針の生産を行ったことから始まる。この時期から同社は医療分野に本格的に軸足を移し、その象徴的な製品がダイアライザー(人工腎臓)であった。ダイアライザ―は人工透析に用いられ、同社の製品は国内外で高いシェアを誇る。

 ニプロの歴史は、アンプル硝子の販売から着実に事業を拡大し、複数回にわたるM&Aを繰り返す中で現在の社名「ニプロ」となり、メイン事業も医療機器事業へとシフトしていることが特徴である。

 1996年12月に東京証券取引所第一部に上場を果たした同社は、その後も成長を続け、2016年3月期決算において、売上高約3600億円、経常利益約140億円、子会社83社、関連会社5社、連結従業員数24,243名であり、2014年時点での国内医療機器メーカー売上高では3位(出所:業界動向serch.com(http://gyokai-search.com/4-iryo-uriage.html))となっている。

【経営陣】創業家の佐野嘉彦社長、2012年に就任

 ニプロでは長年、創業者の佐野実氏が社長を務めていたが、2012年に実氏が死去。実氏のおいの佐野嘉彦氏が2012年5月に社長に就任した。嘉彦氏は1943年に日本硝子繊維(現日本板硝子)入社。1975年にニプロ入社し、営業本部長、国内事業部長などを経て社長に昇格した。71歳。

【株主構成】日本電気硝子と株式持ち合い

 ニプロでは長らくNECが筆頭株主だった。日本電気硝子がニプロの筆頭株主になったのは2011年。市場で株式を買い増し、現在は発行済株式数の14%を保有する。これに対してニプロも2011年に日本電気硝子株を取得しており、2015年12月末時点で13.7%を保有する。日本電気硝子とニプロは医療用管ガラスのメーカーと国内の販売代理店という取引関係にあり、株式取得を通じて同事業を強化する狙いがあるとみられる。

 株式時価総額は日本電気硝子が約2800億円、ニプロが約2000億円と比較的近い。一方、ニプロの硝子事業の売上高が約300億円にとどまるのに対し、日本電気硝子が約2500億円と大きい。両社が今後より踏み込んだ関係に発展するか注目したい。

【M&A戦略】医療分野へ選択と集中、海外企業買収も積極化

 世界的に進む高齢化や新興国での人口増加を背景に、医療機器に対する需要は年々増加傾向にある。特に日本は世界的にも高齢化が急速に進んでおり、国内医療機器市場は世界市場の伸びを上回っている。その市場規模は世界第2位の約2.8兆円(2014年厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」より)となっており、年によって多少の増減があるものの、過去20年間で平均約3%拡大している。しかしながら、国内医療機器市場は輸入依存度が高く、外資系医療機器メーカーが高いシェアを持っているのが特徴である。

 世界第1位の医療機器メーカーである米ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)を筆頭に、米ゼネラル・エレクトリック、独シーメンス等、欧米メーカーは早くから海外市場の開拓を図ってきており、規模を活かした製品のラインアップが充実していることも強みとなっている。そのため、国内医療機器市場は輸入超過で長らく推移している。国内メーカーでは首位のオリンパスでさえ売上高約5千億円と、世界1位のJ&Jの売上高約3.4兆円とは大きな差が生じている。

 国内メーカーが国内市場で競争力を発揮でない理由として上げられるのが、欧米主要メーカーが医療機器と医療サービスをパッケージとした積極的な海外展開を推進する中で日本企業が遅れをとっていることが原因の一つと考えられる。医療機関とのネットワーク構築に日本メーカーが遅れを取る中、欧米のメーカーが先行して国内医療機関へ医療機器と医療サービスをパッケージとして提供することでシェアを拡大してきた。命に関わる医療機器分野においては、実績に基づく信頼性が重要になるため、出遅れた国内メーカーは特定の分野で高いシェアを獲得出来ても、多くの製品で外資系メーカーには及んでいない。

 国内医療機器メーカーは海外の医療機器メーカーを買収したり、未開拓の新興国へ積極的に進出したりすることでこうした状況を打開しようとしており、ニプロの経営戦略においてもそういった戦略が見受けられる。

 世界的に成長を続ける医療機器の分野において、ニプロの戦略は「医療機器」と「医薬品」、「硝子」の3事業を柱として位置付け、あらゆる医療ニーズに応えられる総合医療メーカーを目指してきた。

 1988年に海外初となる製造・販売拠点をタイに開設し、事業のグローバル化を図って以来、業績は順調に伸びている。特にストア部門を会社分割により(株)ニッショーとし、商号をニプロ株式会社に変更し、医療分野への集中に舵を切った2001年3月期の売上高約1500億円からは、直近2016年3月期の売上高約3600億円と2倍強にまで売上は拡大している。

 医療分野の売上が急拡大する裏では、1963年から行っていたスーパーマーケット事業を含む小売関連事業の切り離しを図っている。

 2006年3月期に売上の32.5%を占めていたニッショーの全株式を阪急百貨店へ譲渡し、ニッショードラッグのニプロ保有株72.4%全てをキリン堂へ譲渡している。これにより、医療分野への経営資源の集中を明確化している。

国内では細胞関連ベンチャーに出資

 海外でのM&Aも積極的に行っており、医療機器事業では、2010年にナスダック市場に上場していた米ホームダイアグノスティクスをTOBにより買収した。同社は米国で糖尿病患者向けの血糖値測定器を製造販売する会社である。 また、2012年には同社の強みである人工腎臓(ダイアライザー)の世界トップシェアを目指し、スペインの透析液製造・販売会社のネフロイオンとブラジルの同業のサルベゴラボラトリオファルマセウティコを買収しており、2015年にもスイスの販売代理店のリギ・メディティン・テクニックを買収している。

 硝子事業では2010年に、中国の医薬用ガラス製品製造販売会社の成都平原尼普洛薬業包装を買収している。同社を買収は、米印仏などと共に、ニプロの硝子事業における海外製造拠点の一つとなった。

 一方、国内企業に対するM&Aも行っており、2013年にジャスダック上場でディスポーザブル医療機器の輸入、開発、製造、販売を行うグッドマンをTOBにより買収し、2014年には関連会社のバイオベンチャーで免疫細胞療法研究向けの培養液製造を手がける細胞科学研究所を追加出資し子会社している。

 これまで、日本の医療機器メーカーは高い技術力を背景に、技術に拘った製品開発に傾注してきた面もあった。医療機器は人命に関わるため、高度な機能や多くの技術力が重要な要素となることは間違いない。しかし、重要なことは医療機関や医師のニーズを汲み取り、それを製品開発に如何に活かしていくかということである。

 ニプロは長年に渡り医療分野に携わってきたこともあり、様々な技術力や業界独特のノウハウが蓄積されており、医療機器・医薬品・医療用硝子材料という幅広い製品を有している。特に、医療機器と医薬品を製造・販売している同社にとって、医療機器と医薬品営業の連携が医療現場との関係強化に寄与していると思われる。

 しかしながら、医療現場からニーズ情報を得ることは容易ではなく、高い技術力や医療機関及び医師とのネットワーク構築など、様々なノウハウが必要になる。この点においても、外資系医療機器メーカーは医療クラスターという集積された環境で医療機関との深い関係を構築する、あるいは医療機関運営に深く関わり現場のニーズを汲み取るといった点に長けており、ニプロを含め国内メーカーは学ぶべき点も多い。

 先進国の高齢化や新興国の医療需要拡大により、世界の医療機器市場は今後も拡大が見込まれ、市場の拡大はニプロにとっても大きなチャンスであることは言うまでもない。

 一方、圧倒的なシェアや売上規模を持つ欧米を中心とした外資系大手医療機器メーカーに比べて日本の医療機器メーカーの規模は小さく、日本の各企業の売上高は世界のトップ10に遠く及ばない。膨大な研究開発費を要する医療機器分野においては、製品開発には資金力が重要となり、豊富な資金力を有する欧米のメーカーは日本でも積極的に事業を拡大している。そういった面でも欧米の大手メーカーはニプロにとって非常に大きな競合相手となる。

【財務分析】有利子負債、売上高を上回る規模に

 ニプロの業績はここ数年、右肩上がりで成長している。2016年3月期の連結売上高は前期比12.8%増の3666億円、純利益は58%増の197億円と過去最高を更新した。医療関連、医薬関連事業が国内外で伸長している。一方、硝子関連事業は16億円の営業赤字(前期は28億円の赤字)。前期より赤字幅が縮小しているが、採算性は医療事業に見劣りし、テコ入れが課題だ。自己資本利益率(ROE)は11.2%と2桁台に乗せている。

 2017年3月期は売上高が前期比1%減の3630億円と予想している。純利益は為替差損などで営業外損益が悪化し36.6%減の125億円を見込んでいる。

 海外でのM&Aを積極的に行ってきた結果、世界のエリア別の2016年3月期の売上高は2013年3月期比で、米国で1.5倍、ヨーロッパで1.4倍、アジアでは1.9倍となっており、海外全体では売上高の45%を占めるに至っている。

 選択と集中を行いながら積極的に事業を拡大した結果、ニプロの直近の有利子負債は売上高を上回る規模にまで達している。同社は2020年度売上高5000億円、そして、2030年度売上高1兆円という目標を掲げているが、同社が今後も規模を拡大し欧米大手とも競合していく上では財務体質の改善は避けて通れない。

【株価】医療事業の成長評価も円高が重荷

 医療分野を軸とした利益成長に伴い、ニプロの株価は2015年8月に1500円近くまで上昇したが、足元では伸び悩んでいる。同社は海外売上高比率が約45%と高く、為替の円高傾向が業績の懸念材料。2017年3月期は業績の伸びが鈍化することも影響しているようだ。

 今期の予想PER(株価収益率)は11月11日時点で約16倍。テルモ(約29倍)やオリンパス(約21倍)と比べて低く、株価に割高感はない。為替が円安に転じれば、買い直される場面もありそうだ。

【まとめ】高い成長期待、財務との両立課題

 ニプロはスーパーマーケットなどの小売事業を切り離す一方、医療事業に経営資源を集中。医療現場のニーズに密着した製品開発や海外メーカーに対するM&Aで業績を伸ばしてきた。しかし、豊富な研究資金を持つ欧米の医療機器メーカーに比べて規模ではまだ見劣りする。世界の医療機器市場は高い成長性が期待される分、外資系メーカーとの競合は激しく、度重なる買収で有利子負債も膨らんでいる。どのように売上拡大と経営効率化を両立させ、事業再編も含めM&Aを活用していくのかに注目していきたい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

2019.01.23

Tim Cook氏の投資家向けレターが波紋を呼ぶ

大きな誤算だった新型iPhoneの販売状況

中国勢に翻弄されるApple、噂の「iPhone SE2」は?

AppleのTim Cook(ティム・クック) CEO

1月29日に発表される米Appleの2019年度第1四半期(2018年10-12月期)決算に合わせ、投資家らに宛てた同社CEO Tim Cook氏のメッセージレターが波紋を呼んでいる。

1月2日に発信されたこのメッセージには、当初890-930億ドルとしていた同四半期の売上が840億ドル程度と最大1割程度減少することが記されており、その理由として世界情勢の悪化やそれにともなうiPhone売上減少が挙げられている。この報告を受けて同社株価は1割程度も急落し、iPhoneに部品を提供するサプライチェーンにも影響が拡大している。現在Appleに何が起きており、今後同社はどこに向かうのか。

Tim Cook氏が投資家向けメッセージで語ったこと

Appleが決算発表前のガイダンスを下方修正することは過去にも何度かあったが、iPhone発売以降の現行体制に移行してからは過去最大のインパクトとなった。熱心なAppleウォッチャーとして知られるDaring FireballのJohn Gruber氏はこの件について「2002年6月以来」と述べており、ドットコムバブルがはじけた直後の新製品リリースに苦戦していたAppleの苦境に近い状況を想定しているのだろう。

さて、今回の下方修正最大の要因は中国市場にある。下記はTim Cook氏が投資家らへのメッセージで語った内容だが、中国では2018年後半に経済減速が始まっており、iPhone、Mac、iPadのすべてのカテゴリで売上減少が発生しているという。

> While we anticipated some challenges in key emerging markets, we did not foresee the magnitude of the economic deceleration, particularly in Greater China. In fact, most of our revenue shortfall to our guidance, and over 100 percent of our year-over-year worldwide revenue decline, occurred in Greater China across iPhone, Mac and iPad.

> China’s economy began to slow in the second half of 2018. The government-reported GDP growth during the September quarter was the second lowest in the last 25 years. We believe the economic environment in China has been further impacted by rising trade tensions with the United States. As the climate of mounting uncertainty weighed on financial markets, the effects appeared to reach consumers as well, with traffic to our retail stores and our channel partners in China declining as the quarter progressed. And market data has shown that the contraction in Greater China’s smartphone market has been particularly sharp.

もちろん経済減速を意識して中国の人々の間で旺盛な消費意欲が減退して、高価なApple製品を買えなくなったという話もあるだろう。一方で、特に中国ではiPhoneの競争力がなくなりつつあるという指摘もある。例えばWall Street Journalが1月3日(米国時間)に公開した記事では、本来は中国市場などをメインターゲットに「安価で大画面」をうたって登場したはずの「iPhone XR」が10万円近い値付けで非常に高く、Huaweiなどの競合製品と比較しても機能面で見劣りして魅力的ではないと説明されている。

実際、カメラ機能でいえばより安価な価格帯でHuaweiのP20 ProやMate 20 Proといった製品が提供されており、背面が単眼カメラで値付け面でもiPhone XRは不利だ。価格競争力という点ではXiaomiというライバルもおり、中国市場におけるiPhoneは「iPhone」というブランド価値でしか勝負できていない。

現行のiPhone XR

もともとサプライチェーンの最適化で世界最高レベルの手腕を持つTim Cook氏が中国に築いたiPhoneの製造エコシステムは、Appleを大きく成長させる一方、中国で強力なライバルを育て競合を激化させた。いまや世界で最もスマートフォン激戦区となっている市場において、中国に育てられたAppleが、中国で生まれた競合らによって弾かれつつある。

Appleの誤算と将来

Apple不調の話はいまこのタイミングで出てきたわけではなく、一昨年2017年にiPhone Xをリリースした直後にはささやかれはじめ、昨年2018年にiPhone XS、XS Max、XRをリリースしたことで確信に変わったという流れだ。

特にAppleからオーダーを受注するサプライヤ各社は、生産量の動向を事前に把握しており、昨秋に何段階かにわたってiPhone XRの製造量が当初見込みの半減以下になったことを受けて、このトレンドが確かなものだと認識しただろう。もともとiPhone XRの製造台数は全iPhoneのうち3-4割程度を見込んでいたが、現状では1割強の水準にとどまる。

iPhone XSとXS Maxもすでに販売が頭打ちのため、iPhone Xの製造ラインを復活させて(オーダー済み)在庫部品を消化したり、iPhone 7や8といった旧モデルの流通数量を増やして全体の販売台数を調整したりと、新モデル不調を旧モデル復活で穴埋めする状態が続く。

さらに、すでに製造済みの流通在庫や部品消化のためiPhone XRを大量に販売しなければいけない状況であり、Appleが携帯キャリアにバックリベートを渡す形で値下げを進めたり、トレードインプログラムを介して旧機種の下取りを条件にiPhone XRのみを比較的安価に販売したりと、さまざまな施策が続いている。

米カリフォルニア州サンフランシスコにあるApple San Francisco店舗の入り口に掲げられたiPhone XRの宣伝文句
店内ではトレードインプログラムによるiPhone XRの割引販売告知が掲げられている

iPhone XRの製造数は専用部品である液晶パネルの数量から想定できるが、もともと製造量の少なかったLG Displayはともかく、フォアキャストの大幅減少を受けて最大のサプライヤであったJDIは非常に大きな影響を受けているといわれ、新型iPhoneに関わりの深かったサプライヤほど少なからぬダメージを受けている。結果として、昨年2018年第4四半期(10-12月期)時点ですでに一部サプライヤが大幅な業績の下方修正を行っている。筆者の推測だが、後述のAppleの製造計画を見る限り、今後もしばらくはサプライヤの苦難の時代が続くだろう。

Appleの製造計画に詳しい複数の関係者の話によれば、同社は2019年秋に新しい3モデルのリリースを計画しており、それぞれ「6.5インチのOLED」「5.8インチのOLED」「6.1インチのLCD」という現状のモデル構成をそのまま維持する。機能面での大きな違いは「カメラ性能」で、最上位モデル(6.5インチ)は「3眼カメラ」を採用し、残りはすべて「2眼カメラ」となる。

「3眼カメラ」については競合のHuawei製品とは異なり、望遠や広角ではなく「深度計測」に特化したセンサーになるようだ。主にポートレート撮影を想定したもので、「強力なコンデジ」を突き詰めた競合製品との違いとなっている。また現行モデルではiPhone XRとしてリリースされた普及モデルでも2眼カメラであり、「カメラ性能で競合と比べて不利」という状況を覆す狙いがあると考える。

一方で、2018年モデルでLCD搭載製品の需要があまり見込めないと判断したAppleは、2020年モデルで「OLED搭載モデルのみ」に絞ってリリースする可能性がある。現状聞こえてくるのは「大画面」と「中画面」の2モデル構成で、それぞれの需要をカバーする。また同年代のモデルでより大サイズのカメラセンサーを搭載するという話も出ており、ライバル対抗を隠さない方針のようだ。

次期モデルは高値傾向がより問題に

反面、部品原価は高くなる一方で、この場合カメラモジュールのコストが一気に跳ね上がり全体のBOM (Bill Of Materials)を圧迫する。BOEなど中国系メーカーへのOLEDパネル製造の打診もあるようだが、LG DisplayでOLEDパネル製造が上手くいっていない現状を見る限り、今後も少なくとも1-2年はSamsung Displayによるほぼ独占供給状況が続き、パネル価格も高止まりを続けることになるだろう。つまり2020年も引き続きiPhoneの高値傾向は続き、場合によってはさらなる値上げという可能性も出てくる。

現行ラインアップで最上位機種の「iPhone XS Max」(右)と、その小型版の「iPhone XS」(左)

高価格が敬遠されるなか、iPhone XS、XS Max、XRの世代ではForce Touchの機能を省いてコスト削減までしておきながら、さらに値上げ要素を維持する狙いは何なのか。

これを筆者はイノベーションのジレンマのようなものだと考えている。iPhoneの機能としてはほぼiPhone 6の世代で完成しており、以後は大きなイノベーションなく製品の更新が続いている。一方で、大きな競争にさらされた競合メーカーらは最新機能やアイデアを惜しみなく投入し、「世界初」的なアピールを続けている。

ユーザーの目からすれば「そんなのは微々たる差でスマホの機能自体はたいして変わらない」と思うかもしれない。だがAppleの目にはそう映っておらず、焦りのようなものがあったのかもしれない。その結果、Tim Cook氏の号令で大きく舵を切って登場したのがOLED全面採用モデルである「iPhone X」や、そこに据えられた「Face ID」のような仕組みというわけだ。

おそらく、Appleが一番意識しているのは中国メーカー各社と中国市場で、昨今の大画面化や搭載機能の強化傾向(カメラなど)を見る限り、これはほぼ確信に近いと考える。もしAppleの最近の動きがおかしいと感じる方がいるのなら、それは「中国のライバルに翻弄されているから」と考えていいのかもしれない。

「iPhone SE2」の可能性はあるのか

最後に、昨今話題になりつつある「iPhone SE2」の可能性に触れて締めたい。

つい先日、iPhone SEが再販されて一瞬で売り切れたことが話題になったが、このオリジナル「iPhonse SE」が登場したのは2016年春。ちょうどiPhone 6SとiPhone 7が登場する合間のタイミングのことだ。

色々いわれているが、iPhone SEのもともとの登場経緯は、iPhone 6の不調で部品が消化しきれず、iPhone 5の筐体にiPhone 6Sの部品などを組み合わせ、「小型画面で最新機能」という形で売り出された。価格が最新のフラッグシップモデルよりも安価に設定されていたこともありユーザーからの反応もよかったが、iPhone全体のASP(平均販売価格)を引き下げる要因となった。Appleとしてはあまり積極的に販売したくないモデルでもあり、最大の販売チャネルである携帯キャリアにはあまり商品を流さず、製造も絞っていたという話を聞いている。ある意味苦肉の策で登場した製品といえる。

今回、特にiPhone XRの流通在庫が余る傾向にあり、iPhone SE2が登場する条件が整いつつあるという見方もある。だが、ある関係者の話によれば「iPhone XRは専用部品が多く使い回しが難しい」という理由もあり、高コストな製品をあえて値下げした状態で売るほどApple側にも余裕がないとう状況のようだ。少なくとも、最新機能を搭載した製品を安価に入手するルートとしての「iPhone SE2」は出てくる確率が低いだろう。

クックCEOはこれまで以上に難しい舵取りを迫られる

一方、LG DisplayなどにLCDパネルの発注を行い、今春にも安価なiPhoneの登場を示唆する声も聞く。その関係者の話によれば、実際にこうしたLCDパネル受注が増えているのは事実だとしているが、この情報だけからiPhone SE2のような新しい製品か、あるいは単に旧モデルの製造数を増やしているのかを推測するのは困難だ。

iPhone SE2のような製品を発売して既存の上位モデルの売上をカニバライズするよりも、iPhone 7や8のラインの製造を増やしてローエンド需要を満たすほうが現実的かもしれない。実際、iPhone XS MaxやXSの不調に比して旧製品の大画面モデルは販売数が伸びており、実際にこの予測を補強する。ライバルとの競合に加え、自身の製品の市場バランスを崩さないという両方に気を遣わなければいけないというのも、Appleのつらいところだろう。