【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

2016.11.15

【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

 ニプロ<8086>がM&Aをテコに医療関連事業を拡大している。医療機器、医薬品、医療用硝子材料など幅広い製品を持ち、医療現場のニーズに密着した製品を開発する。成長分野である人工透析関連機器では海外メーカーを買収し世界トップシェアを狙う。国内のバイオベンチャーにも出資、将来に向けた種まきに余念がない。ニプロの成長をけん引するM&A戦略を解剖する。



【企業概要】M&Aから始まった主力の医療機器事業

 ニプロは医療機器・医薬品・医療用硝子材料と、幅広い分野の医療関連製品を取り扱う会社である。特に医療機器分野における人工透析関連機器では、世界的にも高いシェアと技術力を有する企業である。

 創業は1947年、滋賀県大津市で電球再生事業から始まった。1954年に日本硝子商事(現ニプロ)を京都市に設立し、アンプル用硝子管や医療用硝子製品を販売する。本店を大阪市に移転した後は、魔法瓶用中瓶加工の自動機械を開発し、魔法瓶用硝子の販売を開始する一方、スーパーマーケット事業(後のニッショーストア)にも参入している。

 同社の現在の主力事業である医療機器事業は、1969年に富沢製作所(群馬県館林市)に出資し注射針の生産を行ったことから始まる。この時期から同社は医療分野に本格的に軸足を移し、その象徴的な製品がダイアライザー(人工腎臓)であった。ダイアライザ―は人工透析に用いられ、同社の製品は国内外で高いシェアを誇る。

 ニプロの歴史は、アンプル硝子の販売から着実に事業を拡大し、複数回にわたるM&Aを繰り返す中で現在の社名「ニプロ」となり、メイン事業も医療機器事業へとシフトしていることが特徴である。

 1996年12月に東京証券取引所第一部に上場を果たした同社は、その後も成長を続け、2016年3月期決算において、売上高約3600億円、経常利益約140億円、子会社83社、関連会社5社、連結従業員数24,243名であり、2014年時点での国内医療機器メーカー売上高では3位(出所:業界動向serch.com(http://gyokai-search.com/4-iryo-uriage.html))となっている。

【経営陣】創業家の佐野嘉彦社長、2012年に就任

 ニプロでは長年、創業者の佐野実氏が社長を務めていたが、2012年に実氏が死去。実氏のおいの佐野嘉彦氏が2012年5月に社長に就任した。嘉彦氏は1943年に日本硝子繊維(現日本板硝子)入社。1975年にニプロ入社し、営業本部長、国内事業部長などを経て社長に昇格した。71歳。

【株主構成】日本電気硝子と株式持ち合い

 ニプロでは長らくNECが筆頭株主だった。日本電気硝子がニプロの筆頭株主になったのは2011年。市場で株式を買い増し、現在は発行済株式数の14%を保有する。これに対してニプロも2011年に日本電気硝子株を取得しており、2015年12月末時点で13.7%を保有する。日本電気硝子とニプロは医療用管ガラスのメーカーと国内の販売代理店という取引関係にあり、株式取得を通じて同事業を強化する狙いがあるとみられる。

 株式時価総額は日本電気硝子が約2800億円、ニプロが約2000億円と比較的近い。一方、ニプロの硝子事業の売上高が約300億円にとどまるのに対し、日本電気硝子が約2500億円と大きい。両社が今後より踏み込んだ関係に発展するか注目したい。

【M&A戦略】医療分野へ選択と集中、海外企業買収も積極化

 世界的に進む高齢化や新興国での人口増加を背景に、医療機器に対する需要は年々増加傾向にある。特に日本は世界的にも高齢化が急速に進んでおり、国内医療機器市場は世界市場の伸びを上回っている。その市場規模は世界第2位の約2.8兆円(2014年厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」より)となっており、年によって多少の増減があるものの、過去20年間で平均約3%拡大している。しかしながら、国内医療機器市場は輸入依存度が高く、外資系医療機器メーカーが高いシェアを持っているのが特徴である。

 世界第1位の医療機器メーカーである米ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)を筆頭に、米ゼネラル・エレクトリック、独シーメンス等、欧米メーカーは早くから海外市場の開拓を図ってきており、規模を活かした製品のラインアップが充実していることも強みとなっている。そのため、国内医療機器市場は輸入超過で長らく推移している。国内メーカーでは首位のオリンパスでさえ売上高約5千億円と、世界1位のJ&Jの売上高約3.4兆円とは大きな差が生じている。

 国内メーカーが国内市場で競争力を発揮でない理由として上げられるのが、欧米主要メーカーが医療機器と医療サービスをパッケージとした積極的な海外展開を推進する中で日本企業が遅れをとっていることが原因の一つと考えられる。医療機関とのネットワーク構築に日本メーカーが遅れを取る中、欧米のメーカーが先行して国内医療機関へ医療機器と医療サービスをパッケージとして提供することでシェアを拡大してきた。命に関わる医療機器分野においては、実績に基づく信頼性が重要になるため、出遅れた国内メーカーは特定の分野で高いシェアを獲得出来ても、多くの製品で外資系メーカーには及んでいない。

 国内医療機器メーカーは海外の医療機器メーカーを買収したり、未開拓の新興国へ積極的に進出したりすることでこうした状況を打開しようとしており、ニプロの経営戦略においてもそういった戦略が見受けられる。

 世界的に成長を続ける医療機器の分野において、ニプロの戦略は「医療機器」と「医薬品」、「硝子」の3事業を柱として位置付け、あらゆる医療ニーズに応えられる総合医療メーカーを目指してきた。

 1988年に海外初となる製造・販売拠点をタイに開設し、事業のグローバル化を図って以来、業績は順調に伸びている。特にストア部門を会社分割により(株)ニッショーとし、商号をニプロ株式会社に変更し、医療分野への集中に舵を切った2001年3月期の売上高約1500億円からは、直近2016年3月期の売上高約3600億円と2倍強にまで売上は拡大している。

 医療分野の売上が急拡大する裏では、1963年から行っていたスーパーマーケット事業を含む小売関連事業の切り離しを図っている。

 2006年3月期に売上の32.5%を占めていたニッショーの全株式を阪急百貨店へ譲渡し、ニッショードラッグのニプロ保有株72.4%全てをキリン堂へ譲渡している。これにより、医療分野への経営資源の集中を明確化している。

国内では細胞関連ベンチャーに出資

 海外でのM&Aも積極的に行っており、医療機器事業では、2010年にナスダック市場に上場していた米ホームダイアグノスティクスをTOBにより買収した。同社は米国で糖尿病患者向けの血糖値測定器を製造販売する会社である。 また、2012年には同社の強みである人工腎臓(ダイアライザー)の世界トップシェアを目指し、スペインの透析液製造・販売会社のネフロイオンとブラジルの同業のサルベゴラボラトリオファルマセウティコを買収しており、2015年にもスイスの販売代理店のリギ・メディティン・テクニックを買収している。

 硝子事業では2010年に、中国の医薬用ガラス製品製造販売会社の成都平原尼普洛薬業包装を買収している。同社を買収は、米印仏などと共に、ニプロの硝子事業における海外製造拠点の一つとなった。

 一方、国内企業に対するM&Aも行っており、2013年にジャスダック上場でディスポーザブル医療機器の輸入、開発、製造、販売を行うグッドマンをTOBにより買収し、2014年には関連会社のバイオベンチャーで免疫細胞療法研究向けの培養液製造を手がける細胞科学研究所を追加出資し子会社している。

 これまで、日本の医療機器メーカーは高い技術力を背景に、技術に拘った製品開発に傾注してきた面もあった。医療機器は人命に関わるため、高度な機能や多くの技術力が重要な要素となることは間違いない。しかし、重要なことは医療機関や医師のニーズを汲み取り、それを製品開発に如何に活かしていくかということである。

 ニプロは長年に渡り医療分野に携わってきたこともあり、様々な技術力や業界独特のノウハウが蓄積されており、医療機器・医薬品・医療用硝子材料という幅広い製品を有している。特に、医療機器と医薬品を製造・販売している同社にとって、医療機器と医薬品営業の連携が医療現場との関係強化に寄与していると思われる。

 しかしながら、医療現場からニーズ情報を得ることは容易ではなく、高い技術力や医療機関及び医師とのネットワーク構築など、様々なノウハウが必要になる。この点においても、外資系医療機器メーカーは医療クラスターという集積された環境で医療機関との深い関係を構築する、あるいは医療機関運営に深く関わり現場のニーズを汲み取るといった点に長けており、ニプロを含め国内メーカーは学ぶべき点も多い。

 先進国の高齢化や新興国の医療需要拡大により、世界の医療機器市場は今後も拡大が見込まれ、市場の拡大はニプロにとっても大きなチャンスであることは言うまでもない。

 一方、圧倒的なシェアや売上規模を持つ欧米を中心とした外資系大手医療機器メーカーに比べて日本の医療機器メーカーの規模は小さく、日本の各企業の売上高は世界のトップ10に遠く及ばない。膨大な研究開発費を要する医療機器分野においては、製品開発には資金力が重要となり、豊富な資金力を有する欧米のメーカーは日本でも積極的に事業を拡大している。そういった面でも欧米の大手メーカーはニプロにとって非常に大きな競合相手となる。

【財務分析】有利子負債、売上高を上回る規模に

 ニプロの業績はここ数年、右肩上がりで成長している。2016年3月期の連結売上高は前期比12.8%増の3666億円、純利益は58%増の197億円と過去最高を更新した。医療関連、医薬関連事業が国内外で伸長している。一方、硝子関連事業は16億円の営業赤字(前期は28億円の赤字)。前期より赤字幅が縮小しているが、採算性は医療事業に見劣りし、テコ入れが課題だ。自己資本利益率(ROE)は11.2%と2桁台に乗せている。

 2017年3月期は売上高が前期比1%減の3630億円と予想している。純利益は為替差損などで営業外損益が悪化し36.6%減の125億円を見込んでいる。

 海外でのM&Aを積極的に行ってきた結果、世界のエリア別の2016年3月期の売上高は2013年3月期比で、米国で1.5倍、ヨーロッパで1.4倍、アジアでは1.9倍となっており、海外全体では売上高の45%を占めるに至っている。

 選択と集中を行いながら積極的に事業を拡大した結果、ニプロの直近の有利子負債は売上高を上回る規模にまで達している。同社は2020年度売上高5000億円、そして、2030年度売上高1兆円という目標を掲げているが、同社が今後も規模を拡大し欧米大手とも競合していく上では財務体質の改善は避けて通れない。

【株価】医療事業の成長評価も円高が重荷

 医療分野を軸とした利益成長に伴い、ニプロの株価は2015年8月に1500円近くまで上昇したが、足元では伸び悩んでいる。同社は海外売上高比率が約45%と高く、為替の円高傾向が業績の懸念材料。2017年3月期は業績の伸びが鈍化することも影響しているようだ。

 今期の予想PER(株価収益率)は11月11日時点で約16倍。テルモ(約29倍)やオリンパス(約21倍)と比べて低く、株価に割高感はない。為替が円安に転じれば、買い直される場面もありそうだ。

【まとめ】高い成長期待、財務との両立課題

 ニプロはスーパーマーケットなどの小売事業を切り離す一方、医療事業に経営資源を集中。医療現場のニーズに密着した製品開発や海外メーカーに対するM&Aで業績を伸ばしてきた。しかし、豊富な研究資金を持つ欧米の医療機器メーカーに比べて規模ではまだ見劣りする。世界の医療機器市場は高い成長性が期待される分、外資系メーカーとの競合は激しく、度重なる買収で有利子負債も膨らんでいる。どのように売上拡大と経営効率化を両立させ、事業再編も含めM&Aを活用していくのかに注目していきたい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

恋するSNSマーケティング講座 第1回

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

2018.11.14

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第1回は、講師の紹介と「マーケティングと恋愛」の関係性について

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

「恋愛とマーケティングは似ていると思うんです」

FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSを活用したマーケティングは今や企業にとって欠かせないものになっている。

一方で、「どこから始めればいいのかわからない」「そもそもSNSマーケティングって?」といった疑問もまだまだあるだろう。そこで今回は、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんを講師に迎え、SNSマーケティングを“恋愛”に喩えてわかりやすく解説してもらうことにした。

フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さん

なぜ“恋愛”なのか。それは「日々のお客様とのやりとりの中で、恋愛とマーケティングは似ていると感じることが多かったから」と丸山さんは言う。

丸山さん自身も現在婚活中の身。これまで仕事最優先で生きてきたが、最近になってパートナーを探すべく婚活を開始したという。その過程で感じたのが、前述の恋愛とマーケティングの共通点だったというわけだ。

「流行」は人の手でつくられるモノ

今回は連載初回ということもあるので、まずは講師である丸山さんの経歴から紹介しよう。

東京で生まれ育った丸山さんは、中高大一貫校に通っていた。小学生時代から「自分の知らない世界に行ってみたかった」という丸山さんは、高校時代に初海外となるカナダを訪れる。

「知らない言語で話しかけられたり、東京では見られない地平線や水平線を見たりして、私の知っている世界はなんて狭いんだろうと思いました」(丸山)

海外に魅了された丸山さんは、一念発起してカリフォルニアの大学に進学。そのころ、「ファッションの流行は自然に生まれるのではなく、必ず裏には仕掛人がいる」ということを実感したのがキッカケとなり、「自分も人の心を動かす仕事がしたい」と考えるようになった。

大学卒業後は日本に戻り、人材業界で働くことに。長くアメリカで過ごしていたこともあり、日本の業界事情がつかめない中、「まずはいろいろな業界を知りたい」と考えたためだ。

その後、「リーマンショック」が起こり人材業界の業績が悪化したこともあり、業務を通して興味を持つようになったデジタル業界への転職を決意。転職先は、IT業界を中心にメディアプランニングなどを行う電通の子会社。メディア担当として、デジタル広告のイロハを学んだ。

そこで担当していたクライアントが、当時日本に上陸したばかりのFacebookだった。その後、それまで培ったデジタル広告のノウハウをより活かすべく、フェイスブック ジャパンへ転職し、現在に至る。

広告はラブレター「相手に届かないと意味がないんです」

丸山さんは現在、FacebookやInstagramの広告メニューについて、運用コンサルやメディアプランニングなどを行っている。また、Instagramをより企業に活用してもらうためのプロジェクトメンバーとしても活動しているそうだ。

さて、そんな丸山さんがFacebookのコンサル業務を通して常々感じていたのが「恋愛とマーケティングの共通点」である。

どんな業界でもそうだが、良い製品だからといって何もせずに売れるわけではない。“届けたいメッセージを届けたい相手にちゃんと伝える”必要がある。これがマーケティングの目的だ。

「広告はよくラブレターに例えられます。いくらラブレターを書いても、それがちゃんと届けたい人に、その人の心に響くかたちで届かないと意味がありませんよね。ラブレターを届けるために恋愛にもマーケティングが必要なんです」(丸山)

婚活において“ラブレターを届けるべき相手”とは、まだ見ぬ将来のパートナーだ。その相手はどこかに存在しているはずだが、まだ出会ってはいない状態である。運命の相手と出会うために重要なことの1つは「とにかく出会いの数を増やすこと」だという。

「1人と会ってみて、その人が運命の相手ならラッキーですし、そういうケースもあるでしょう。でも、そうでない場合には、たとえば運命の相手と出会える確率が1/100だとして、10人と会うのと100人と会うのではどちらの方が出会える確率が高いか、言うまでもありません」(丸山)

これはそのままマーケティングに置き換えても同じことが言える。自社の製品を購入してくれる潜在的な顧客の態度変容効果が一緒であるなら、できるだけ多くの人数に広告を届けた方が売上は伸びるはずだ。

「そう考えると、婚活でもせっかくの週末に部屋にこもっているのはもったいないなと思いますよね。積極的に行動をおこして、多くの人に出会う機会を増やすことが大事なんです」(丸山)

一方で、重要なのは数だけではないと丸山さんは言う。多くの人にリーチすることは大前提として、そこからさらに“出会いの効率”を上げていく必要があるのだ。

では「数」に続いて大事なこととは? 次回は効率を上げるために必要な「ターゲティング」について、これまた恋愛と絡めて聞いていく。

第2回「恋するSNS講座」は11月20日に掲載予定です。

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

2018.11.14

日本自動車研究所が「自動バレーパーキング」の実証実験

駐車をシステム任せにできる仕組みとは?

未来の駐車場はクルマの“ハブ”になる

自動運転、電動化、カーシェアリングなど、新たな技術・サービスの登場により変革期を迎える自動車業界。クルマの乗り方、使い方を根本的に変えるかもしれないこれらの要素をまとめて「CASE」というが、この文字を目にする機会も増えてきた。クルマが変わればクルマに関連するモノや場所も変わりそうだが、例えば駐車場は、どのような姿になっていくのだろうか。日本自動車研究所(JARI)の実証実験で、その一端を垣間見た。

「CASE」の進展で駐車場の姿も一変する?

「バレーパーキング」を自動化

「CASE」とは「Connected」(コネクティッドカー)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared & Service」(カーシェアリングなど)、「Electric Drive」(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが使い始めた概念のこと。そのうち、コネクトと自動化の2つを使って、JARIが実用化の道を探っているのが「自動バレーパーキング」というシステムだ。

JARIは経済産業省および国土交通省の委託を受け、2016年度から「一般車両による自動バレーパーキングシステムの社会実装に向けた実証」というプロジェクトを進めている。「バレーパーキング」とは、例えばホテルやショッピングセンターなどにクルマで乗りつけたとき、キーを従業員に預けて、代わりにクルマを駐車しておいてもらうサービスのこと。その自動化に向けて、JARIはシステム、制度、事業性などを検証してきた。

JARIは今回、自動バレーパーキングシステムの機能的な確認を行うためとして、東京都港区にある「デックス東京ビーチ」の駐車場で実証実験を実施。その模様を報道陣に公開した。そこではクルマが勝手に動き、定められた駐車スペースに止まり、再び動き出す様子を見ることができたし、自動バレーパーキングを含めた駐車場の未来像に関する話も聞くことができた。

JARIはデックス東京ビーチ駐車場の2階で実証実験を実施した

自動バレーパーキングとはどんなシステムなのか

自動バレーパーキングをドライバー目線で説明するのは簡単だ。例えばショッピングセンターのエントランスにクルマで乗りつけたならば、降車してスマートフォンのアプリで「入庫」を指示し、そのまま買い物にでも食事にでも向かえばいい。用事が済んだ頃に「出庫」ボタンを押して出口に向かえば、クルマ寄せには愛車が迎えに来ている。

自動バレーパーキングの指示はスマホで行う

では、そのシステムはどのようなものなのか。自動バレーパーキングは「クルマ」「管制センター」「駐車場」の3者による協調で機能する。駐車場の構造を把握している「管制センター」は、ドライバーから入庫の要請を受けると、安全性や効率を考慮して駐車場所とそこへ向かう経路を決め、「クルマ」に無線で指示する。「クルマ」は「駐車場」にあるランドマーク(目印)をカメラやセンサーなどで読み取り、「管制センター」が持つ駐車場の構造情報(地図)と擦りあわせて自らの位置と経路を確認し、指示された駐車スペースに向かう。そんな流れだ。

自動バレーパーキングの様子。運転席に人は乗っているが、ハンドルからは手を離している

同システムが実用化となれば、駐車場の「利用者」は手間を省けるし、「事業者」は駐車効率の向上を図れる。無人で自動運転を行うクルマであれば、ドアの開閉スペースは不要だし、ぶつけたりこすったりする心配もないはずなので、クルマをギュウギュウに詰め込めるからだ。JARIによれば、駐車効率は従来比で20%向上する可能性があるという。また、自動車事故の3割は駐車場で発生しているので、自動化は事故削減にもつながる。

ただ、実用化には当然ながら、いろんなハードルがある。自動バレーパーキングの実用化に向けて動いているのは日本だけではないが、JARIとしてはまず、同システムの国際標準化に向けた手続きを進めたい考え。2021年のISO国際標準化に向け、各国と協議を重ねているところだ。

また、システムが実用化となったとしても、最初から全てのクルマが自動バレーパーキングを利用できるわけではない。まず、通信機能が備わっていないクルマはアウトだし、通信できたとしても、管制センターの指示通りに自動運転をこなせるクルマでなければ、やはり同システムの恩恵は受けられない。

JARIの考えでは、まずは同システムが求める要件を満たすクルマだけが使える専用の駐車場を実用化し、段階的に「混在型」を目指すのが現実的だそう。ただし、混在型を実現するためには、人が運転するクルマと自動運転のクルマを駐車場内でうまく交通整理する工夫が必要になるだろう。

未来の駐車場はクルマの「ハブ」になる?

自動バレーパーキングの実用化には時間が掛かりそうな雰囲気だが、その先の駐車場の在り方についてもJARIは考えをめぐらせている。JARIのITS研究部に所属する深澤竜三さんによると、未来の駐車場が目指すのはクルマのハブ、つまり、クルマにまつわるさまざまなサービスの結節点だ。

JARIが描く未来の駐車場の姿

ハブ駐車場とはどのような施設なのか。深沢さんの描写はこんな具合だ。

「自動バレーパーキングで、勝手に駐車しておいてくれるのはもちろんですが、そこが自動車整備の拠点としての役目を果たしたり、電気自動車(EV)であれば、勝手に充電しておいてくれるとか。買い物が終わる頃には充電が済んでいるというのが理想ですね。あとは、観光地であれば情報配信拠点としての機能も想定できます」

「ほかのアイデアとしては、クルマを駐車しておいたら、宅配便がトランクに届いている、といったような使い方も考えられます。その場合は、トランクを開けられるような仕組みが必要にはなりますが、届け先を1件ずつ回る必要がなくなるので、配送業者の方も楽ですよね」

未来の駐車場は、クルマにまつわるいろんな機能を提供する拠点になるかもしれない

深澤さんの話を聞いていると、おそらくハブ駐車場はホテルに1つ、ショッピングセンターに1つという具合にではなく、地域に1つ、しかも大型の施設として存在するもののように想像できた。用事で近くまで来た人も使えば近隣の住人も使うし、カーシェアやレンタカーなどのクルマも混在している大きな駐車場。そんなイメージだ。

こういう駐車場が必要かどうかについては、地域によって状況が違うだろう。コンビニエンスストアですら広大な駐車場を備える地域がある一方で、例えば銀座のように、数台しか止められないけれど、短時間で驚くべき値段になるコインパーキングが稼動している場所もある。おそらく、ハブ駐車場が必要になるのは後者の方だ。

銀座に大きなハブ駐車場を作る余地があるかどうかは別としても、クルマの駐車以外には使いみちがないという点で「デッドスペース」化している駐車場に、さまざまな機能を持たせるというJARIの構想には可能性を感じた。一般道の自動運転も実用化となれば、例えば東京オリンピックの後、有明かどこかに残された広いスペース(会場の跡地)に大きなハブ駐車場を作り、そこと銀座などの繁華街を結ぶということも、夢のようではあるが不可能ではないはずだ。