VR空間にスマホ画面を表示? ソニー・ミュージックの風変わりな挑戦

VR空間にスマホ画面を表示? ソニー・ミュージックの風変わりな挑戦

2016.11.15

現在入手できる本格VRデバイスとしては最も高いコストパフォーマンスを誇るPlayStation VR(以下PSVR)。“没入感”が売り物だが、あのヘッドセットを着けて仮想現実の世界に入ると、現実との接点を失ってしまいそうな不安感もある。実際問題として、スマートフォンもチェックできないとすれば大事な連絡などを見逃しかねない。このように没入感はVRの長所でもあり課題でもあるわけだが、その解決策を提示するのがソニー・ミュージックエンタテインメント(以下SME)だ。

環境ビデオとしても質の高いコンテンツだが…

SMEがPSVR用に開発しているコンテンツ「anywhereVR」。既存コンテンツが基本的にゲームやその派生コンテンツであるのに対し、anywhereVRは完全新規の非ゲームコンテンツとなる。その内容は、端的に言えば「リラクゼーション環境VRビデオ」だ。

anywhereVRは全国20カ所以上(取材時)の絶景スポットをVR動画で楽しめるコンテンツだ。たとえば沖縄の美しいビーチや山梨の渓谷、あるいは北海道の草原など、雄大な自然の風景を楽しめる。どのスポットも人の姿がない静かな自然の中で、美しいBGMを聴きながらゆっくりとリラックスできる。anywhereVRの目的はまさに、このリラクゼーションにあるのだ。

コンテンツは今後、季節などを踏まえて追加される予定。DLCとしての提供となる。風景は1カ所につき数百MB程度のサイズになる見込み

環境ビデオ自体は昔からあるものだが、360度全体を見回せるものというのは、ほとんど存在しない。どんな大画面のテレビを使っても、ちょっと視線を動かせばそこが見慣れた空間であることがわかってしまう環境ビデオに対し、anywhereVRなら寝転がろうが背伸びをしようが、夢のような空間から抜け出すことはないのだ。ゲームとは正反対のベクトルのコンテンツがゲーム専用機向けに作られているというのはなかなか面白い。

VR空間にスマホ画面、現実と仮想を結ぶコンテンツ

VRの環境ビデオは誰もが考え付くものだが、anywhereVRはもうひとつユニークな機能を備えている。なんとVR空間の中にスマホ(Androidのみ)の画面を映し出し、実際に手に持って操作できてしまうのだ。

仕組みとしては、Android端末側で専用アプリを起動すると、画面をWi-Fi経由でPS4に転送し、表示する。表示サイズや位置は調整できるので、普段は目に入らない後ろの方に置いておいてもいいし、電子書籍を開いた状態で目の前に大きく表示して、自然の中で読書と洒落込んでもいい。休憩中にメッセージなどが着信しても、PSVRを外して現実世界に戻ってくる必要はないわけだ。PSVRのヘッドセットは、かなり軽量コンパクトに仕上がっているとはいえ着脱に手間がかかるので、ちょこちょこ外さないでいいのはうれしい。動作環境はAndroid 5以上が動くAndroid端末。現状はiOSには対応していない。

スマートフォンの画面サイズはある程度調整が可能。懸念されていた文字もあまり潰れておらず、意外と読みやすいのはPSVRの高解像度の恩恵だ

残念ながら音は転送できないため、通話などはスマートフォンに話しかける必要があるし、文字入力なども難しいが、目隠しした状態でも、画面のスクロールや大きめのボタンのタッチくらいであれば、案外問題なくできる。また、タッチした場所を画面上に表示する機能があるため、ちょっと慣れてくればカンでもそれなりに文字入力できてしまった。タッチネイティブな若者世代であれば、難なく入力してしまうかもしれない。

美しい景色と実用性を兼ね備えたanywhereVRは非常にユニークなコンテンツだが、没入感が重視されるVRコンテンツの中で、あえて現実世界との融合に着目したのはどういった経緯からだったのだろうか。SMEでanywhereVRの開発を担当している原口竜也氏、阿部達矢氏にお話を伺った。

――ゲーム専用機で、あえてゲームではないコンテンツというのが面白いと思いましたが、どうしてこのようなコンテンツを作ることになったのでしょうか。

SMEの原口氏

原口:1日の中でどれだけVRを使う時間があるかを考えたのですが、ゲームでは集中して15分くらい遊べるのですが、それ以上大きく伸びることはありません。若者のテレビ離れという言葉がありますが、実は調査してみると、テレビをつけている時間というのはそれほど短くなっていなかったんです。そこでVRに触れてもらう時間を増やすにはどうしたらいいかを考えてみると、映像系は長時間楽しめるが、見ているだけではだんだんヒマになって飽きてしまう。この、飽きがくる前にVRに日常体験を持ち込んでみてはどうだろう、というのが発端です。

阿部:電話がかかってきたり、メッセージを読むためにいちいち現実に戻るのではなく、VRを楽しみながらチェックできれば便利ですよね。メッセージに対して「今、浜辺にいるよ」と返せたら面白いと思います。

――確かにヘッドセットを外さずに済むのは大変便利でした。スマートフォン側の性能はどの程度必要になるのでしょうか。

原口:必要な性能はAndroid 5以上が普通に動作する程度の端末であれば、おおむね満たしています。よほど低性能な端末でなければ大丈夫だと思います。スライダーで画質を落とすこともできますので、無線LANの速度などに合わせて調整していただければと思います。

――スマートフォンの画面を映す機能は非常に便利に思えますが、PlayStation 4本体側の機能として、ほかのゲーム機などでも利用できるようにはなりませんか?

阿部:よく聞かれるのですが、PS4側は性能を可能な限りすべてゲームに割り当てたいところなので、これ以上動画を表示するのは難しいです。性能が上がっているPS4 Proなら可能かもしれませんが、この機能はProだけで使えます、という形での提供はちょっと難しいですね。

ただ、Twitterとゲームについては、anywhereVRの中に簡単なゲーム2種類と、Twitterのタイムラインを表示するクライアント機能を組み込んであります。ゲームは意外と面白いので、これを楽しんでいただければと思います。

Windowsでおなじみ「マインスイーパー」を六角形のヘクスマップ上で行うゲーム。なかなかどうしてハマり度が高い。ゲームプレイやanywhereVRの操作はPSコントローラーで行う

原口:今後の売れ行きや反応次第では、アプリ内にこの機能を組み込みたいというところにライセンスするということも考えられますが、当面はanywhereVRに注力したいです。

――コンテンツという点では、スポットの数も重要ですね。またマネタイズについてはどのような展開をお考えですか?

SMEの阿部氏

阿部:anywhereVRは無料で配信する予定なのですが、環境が整ったら今後コンテンツの追加なども計画しています。その際は有料コンテンツにすることを考えています。基本はアイテム課金ということで、映像だけでなくBGMも差し替えられるようにしたいですね。

原口:各地で撮影する際に自治体に許可を取ったりするのですが、逆に自治体から撮ってほしいという依頼もいただけたらいいですね。anywhereVRを観光の入り口にしていきたいです。自治体や企業に、anywhereVRを広告として使って欲しいです。将来のマネタイズとしてはサブスクリプション制やライブチケットなどもできたら面白いですね。

阿部:ライブ配信やストリーミングは技術的には可能ですが、回線環境などにも影響されるので、様子を見ているところがあります。

原口:海外でのリリースも視野に入れていますが、海外の人が日本の風景を見て「いいね」と思ってくれて、それをきっかけに観光に来てくれれば、自治体にも恩恵はあると思いますので、ぜひ自慢のスポットを紹介させていただきたいです。

VR×スマホ、アイデア次第で大きな可能性

PSVRの高い基本スペックや装着感の良さにも助けられて、anywhereVRは目論見通り、長時間装着していても疲れにくく、リラックスできるコンテンツだった。この雰囲気を壊すことなく、VR空間上にスマートフォンの画面を表示できるので、VRにいながらリアル世界との繋がりを絶たずに済むというのは、思ったよりもずっと便利な体験だった。

リアル世界の上にVRを重ねるのをAR(Argumented Reality:拡張現実)と呼ぶが、これはARでもVRでもない、Mixed Reality(MR)とでも呼ぶべき体験だった。もしかすると、将来のオフィスではVRヘッドセットを装着し、好きな環境の中で書類を開いて作業できるようになるかもしれない。

ヘッドセットを装着したままスマホが使えれば、例えば同じVR映像(スポーツやライブなど)を観つつ友人同士がSNSで盛り上がるなど、できることは増えそう。VRと音楽コンテンツの親和性を考えれば、ソニー・ミュージックエンタテインメントがanywhereVRに取り組む意義は明らかだ

また、実写系VRコンテンツの場合、珍しい場所に行けた、楽しかった、の一過性で終わってしまうのは確かにもったいない。自治体や企業などがうまくその体験を現実の訪問体験につなげられるような仕組みを整えてやることで、経済効果を広く波及できるようになる。anywhereVRの成功は、こうした動きを活発化させることに繋がりそうだ。

実写コンテンツとVR、そして現実世界との接点としてのスマホをうまく組み合わせたanywhereVRは、今後のVRコンテンツのユーザー体験のひとつのお手本として考えられるのではないだろうか。比較的地味なコンテンツに見えるが、その影響力や可能性は非常に大きいものだと感じられた。ぜひその展開に注目したい。

【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

2016.11.15

【ニプロ】M&Aで医療の「デパート」に 人工透析機器で世界首位狙う

 ニプロ<8086>がM&Aをテコに医療関連事業を拡大している。医療機器、医薬品、医療用硝子材料など幅広い製品を持ち、医療現場のニーズに密着した製品を開発する。成長分野である人工透析関連機器では海外メーカーを買収し世界トップシェアを狙う。国内のバイオベンチャーにも出資、将来に向けた種まきに余念がない。ニプロの成長をけん引するM&A戦略を解剖する。



【企業概要】M&Aから始まった主力の医療機器事業

 ニプロは医療機器・医薬品・医療用硝子材料と、幅広い分野の医療関連製品を取り扱う会社である。特に医療機器分野における人工透析関連機器では、世界的にも高いシェアと技術力を有する企業である。

 創業は1947年、滋賀県大津市で電球再生事業から始まった。1954年に日本硝子商事(現ニプロ)を京都市に設立し、アンプル用硝子管や医療用硝子製品を販売する。本店を大阪市に移転した後は、魔法瓶用中瓶加工の自動機械を開発し、魔法瓶用硝子の販売を開始する一方、スーパーマーケット事業(後のニッショーストア)にも参入している。

 同社の現在の主力事業である医療機器事業は、1969年に富沢製作所(群馬県館林市)に出資し注射針の生産を行ったことから始まる。この時期から同社は医療分野に本格的に軸足を移し、その象徴的な製品がダイアライザー(人工腎臓)であった。ダイアライザ―は人工透析に用いられ、同社の製品は国内外で高いシェアを誇る。

 ニプロの歴史は、アンプル硝子の販売から着実に事業を拡大し、複数回にわたるM&Aを繰り返す中で現在の社名「ニプロ」となり、メイン事業も医療機器事業へとシフトしていることが特徴である。

 1996年12月に東京証券取引所第一部に上場を果たした同社は、その後も成長を続け、2016年3月期決算において、売上高約3600億円、経常利益約140億円、子会社83社、関連会社5社、連結従業員数24,243名であり、2014年時点での国内医療機器メーカー売上高では3位(出所:業界動向serch.com(http://gyokai-search.com/4-iryo-uriage.html))となっている。

【経営陣】創業家の佐野嘉彦社長、2012年に就任

 ニプロでは長年、創業者の佐野実氏が社長を務めていたが、2012年に実氏が死去。実氏のおいの佐野嘉彦氏が2012年5月に社長に就任した。嘉彦氏は1943年に日本硝子繊維(現日本板硝子)入社。1975年にニプロ入社し、営業本部長、国内事業部長などを経て社長に昇格した。71歳。

【株主構成】日本電気硝子と株式持ち合い

 ニプロでは長らくNECが筆頭株主だった。日本電気硝子がニプロの筆頭株主になったのは2011年。市場で株式を買い増し、現在は発行済株式数の14%を保有する。これに対してニプロも2011年に日本電気硝子株を取得しており、2015年12月末時点で13.7%を保有する。日本電気硝子とニプロは医療用管ガラスのメーカーと国内の販売代理店という取引関係にあり、株式取得を通じて同事業を強化する狙いがあるとみられる。

 株式時価総額は日本電気硝子が約2800億円、ニプロが約2000億円と比較的近い。一方、ニプロの硝子事業の売上高が約300億円にとどまるのに対し、日本電気硝子が約2500億円と大きい。両社が今後より踏み込んだ関係に発展するか注目したい。

【M&A戦略】医療分野へ選択と集中、海外企業買収も積極化

 世界的に進む高齢化や新興国での人口増加を背景に、医療機器に対する需要は年々増加傾向にある。特に日本は世界的にも高齢化が急速に進んでおり、国内医療機器市場は世界市場の伸びを上回っている。その市場規模は世界第2位の約2.8兆円(2014年厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」より)となっており、年によって多少の増減があるものの、過去20年間で平均約3%拡大している。しかしながら、国内医療機器市場は輸入依存度が高く、外資系医療機器メーカーが高いシェアを持っているのが特徴である。

 世界第1位の医療機器メーカーである米ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)を筆頭に、米ゼネラル・エレクトリック、独シーメンス等、欧米メーカーは早くから海外市場の開拓を図ってきており、規模を活かした製品のラインアップが充実していることも強みとなっている。そのため、国内医療機器市場は輸入超過で長らく推移している。国内メーカーでは首位のオリンパスでさえ売上高約5千億円と、世界1位のJ&Jの売上高約3.4兆円とは大きな差が生じている。

 国内メーカーが国内市場で競争力を発揮でない理由として上げられるのが、欧米主要メーカーが医療機器と医療サービスをパッケージとした積極的な海外展開を推進する中で日本企業が遅れをとっていることが原因の一つと考えられる。医療機関とのネットワーク構築に日本メーカーが遅れを取る中、欧米のメーカーが先行して国内医療機関へ医療機器と医療サービスをパッケージとして提供することでシェアを拡大してきた。命に関わる医療機器分野においては、実績に基づく信頼性が重要になるため、出遅れた国内メーカーは特定の分野で高いシェアを獲得出来ても、多くの製品で外資系メーカーには及んでいない。

 国内医療機器メーカーは海外の医療機器メーカーを買収したり、未開拓の新興国へ積極的に進出したりすることでこうした状況を打開しようとしており、ニプロの経営戦略においてもそういった戦略が見受けられる。

 世界的に成長を続ける医療機器の分野において、ニプロの戦略は「医療機器」と「医薬品」、「硝子」の3事業を柱として位置付け、あらゆる医療ニーズに応えられる総合医療メーカーを目指してきた。

 1988年に海外初となる製造・販売拠点をタイに開設し、事業のグローバル化を図って以来、業績は順調に伸びている。特にストア部門を会社分割により(株)ニッショーとし、商号をニプロ株式会社に変更し、医療分野への集中に舵を切った2001年3月期の売上高約1500億円からは、直近2016年3月期の売上高約3600億円と2倍強にまで売上は拡大している。

 医療分野の売上が急拡大する裏では、1963年から行っていたスーパーマーケット事業を含む小売関連事業の切り離しを図っている。

 2006年3月期に売上の32.5%を占めていたニッショーの全株式を阪急百貨店へ譲渡し、ニッショードラッグのニプロ保有株72.4%全てをキリン堂へ譲渡している。これにより、医療分野への経営資源の集中を明確化している。

国内では細胞関連ベンチャーに出資

 海外でのM&Aも積極的に行っており、医療機器事業では、2010年にナスダック市場に上場していた米ホームダイアグノスティクスをTOBにより買収した。同社は米国で糖尿病患者向けの血糖値測定器を製造販売する会社である。 また、2012年には同社の強みである人工腎臓(ダイアライザー)の世界トップシェアを目指し、スペインの透析液製造・販売会社のネフロイオンとブラジルの同業のサルベゴラボラトリオファルマセウティコを買収しており、2015年にもスイスの販売代理店のリギ・メディティン・テクニックを買収している。

 硝子事業では2010年に、中国の医薬用ガラス製品製造販売会社の成都平原尼普洛薬業包装を買収している。同社を買収は、米印仏などと共に、ニプロの硝子事業における海外製造拠点の一つとなった。

 一方、国内企業に対するM&Aも行っており、2013年にジャスダック上場でディスポーザブル医療機器の輸入、開発、製造、販売を行うグッドマンをTOBにより買収し、2014年には関連会社のバイオベンチャーで免疫細胞療法研究向けの培養液製造を手がける細胞科学研究所を追加出資し子会社している。

 これまで、日本の医療機器メーカーは高い技術力を背景に、技術に拘った製品開発に傾注してきた面もあった。医療機器は人命に関わるため、高度な機能や多くの技術力が重要な要素となることは間違いない。しかし、重要なことは医療機関や医師のニーズを汲み取り、それを製品開発に如何に活かしていくかということである。

 ニプロは長年に渡り医療分野に携わってきたこともあり、様々な技術力や業界独特のノウハウが蓄積されており、医療機器・医薬品・医療用硝子材料という幅広い製品を有している。特に、医療機器と医薬品を製造・販売している同社にとって、医療機器と医薬品営業の連携が医療現場との関係強化に寄与していると思われる。

 しかしながら、医療現場からニーズ情報を得ることは容易ではなく、高い技術力や医療機関及び医師とのネットワーク構築など、様々なノウハウが必要になる。この点においても、外資系医療機器メーカーは医療クラスターという集積された環境で医療機関との深い関係を構築する、あるいは医療機関運営に深く関わり現場のニーズを汲み取るといった点に長けており、ニプロを含め国内メーカーは学ぶべき点も多い。

 先進国の高齢化や新興国の医療需要拡大により、世界の医療機器市場は今後も拡大が見込まれ、市場の拡大はニプロにとっても大きなチャンスであることは言うまでもない。

 一方、圧倒的なシェアや売上規模を持つ欧米を中心とした外資系大手医療機器メーカーに比べて日本の医療機器メーカーの規模は小さく、日本の各企業の売上高は世界のトップ10に遠く及ばない。膨大な研究開発費を要する医療機器分野においては、製品開発には資金力が重要となり、豊富な資金力を有する欧米のメーカーは日本でも積極的に事業を拡大している。そういった面でも欧米の大手メーカーはニプロにとって非常に大きな競合相手となる。

【財務分析】有利子負債、売上高を上回る規模に

 ニプロの業績はここ数年、右肩上がりで成長している。2016年3月期の連結売上高は前期比12.8%増の3666億円、純利益は58%増の197億円と過去最高を更新した。医療関連、医薬関連事業が国内外で伸長している。一方、硝子関連事業は16億円の営業赤字(前期は28億円の赤字)。前期より赤字幅が縮小しているが、採算性は医療事業に見劣りし、テコ入れが課題だ。自己資本利益率(ROE)は11.2%と2桁台に乗せている。

 2017年3月期は売上高が前期比1%減の3630億円と予想している。純利益は為替差損などで営業外損益が悪化し36.6%減の125億円を見込んでいる。

 海外でのM&Aを積極的に行ってきた結果、世界のエリア別の2016年3月期の売上高は2013年3月期比で、米国で1.5倍、ヨーロッパで1.4倍、アジアでは1.9倍となっており、海外全体では売上高の45%を占めるに至っている。

 選択と集中を行いながら積極的に事業を拡大した結果、ニプロの直近の有利子負債は売上高を上回る規模にまで達している。同社は2020年度売上高5000億円、そして、2030年度売上高1兆円という目標を掲げているが、同社が今後も規模を拡大し欧米大手とも競合していく上では財務体質の改善は避けて通れない。

【株価】医療事業の成長評価も円高が重荷

 医療分野を軸とした利益成長に伴い、ニプロの株価は2015年8月に1500円近くまで上昇したが、足元では伸び悩んでいる。同社は海外売上高比率が約45%と高く、為替の円高傾向が業績の懸念材料。2017年3月期は業績の伸びが鈍化することも影響しているようだ。

 今期の予想PER(株価収益率)は11月11日時点で約16倍。テルモ(約29倍)やオリンパス(約21倍)と比べて低く、株価に割高感はない。為替が円安に転じれば、買い直される場面もありそうだ。

【まとめ】高い成長期待、財務との両立課題

 ニプロはスーパーマーケットなどの小売事業を切り離す一方、医療事業に経営資源を集中。医療現場のニーズに密着した製品開発や海外メーカーに対するM&Aで業績を伸ばしてきた。しかし、豊富な研究資金を持つ欧米の医療機器メーカーに比べて規模ではまだ見劣りする。世界の医療機器市場は高い成長性が期待される分、外資系メーカーとの競合は激しく、度重なる買収で有利子負債も膨らんでいる。どのように売上拡大と経営効率化を両立させ、事業再編も含めM&Aを活用していくのかに注目していきたい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

フェイスブックの急成長がいったん止まるのはなぜか

フェイスブックの急成長がいったん止まるのはなぜか

2016.11.14

米フェイスブックは2016年第2四半期決算を発表したが、驚かされるのはその収益額だ。直近で発表された四半期決算では、70億1000万ドルもの収益を計上した。ちょうど5年前にあたる2011年の1年間の売上高が37億1100万ドルであったことを考えると、驚異的な成長を遂げていることが分かる。フェイスブックは、いかにして高い成長を維持しているのか、そして今後もこの成長ペースが続いていくのだろうか。

好調な領域とは?

フェイスブックの2016年第3四半期決算について、もう少し詳しく見ていこう。企業サイトには、決算報告が掲載されている

前述の通り、売上高は70億1000万ドルで、前年同期比で56%増加した。これは主に、広告から得られる収益の成長によるもので、広告の収益は前年同期比59%増を記録している。

フェイスブックの売上は前年同期比で順調に推移(フェイスブック公開資料より)

ユーザー動向で注目すべきはモバイルユーザーだ。今期初めて、モバイル月間ユーザーが16億6000万人と、20%増加した。全体の月間ユーザー数は17億9000万人で、こちらも前年同期比で16%成長している。これにより、モバイルユーザーから得られる広告収益は全体の84%を占めるようになった。

売上増を支えるモバイルユーザー数も順調に増加(フェイスブック公開資料より)

こうしたことから、フェイスブックは、ユーザーのモバイル化と、モバイル広告の売上の好調さから、非常に高い収益性を確保するに至ったことが分かる。

この成長を自ら止めると宣言するフェイスブック

非常にめざましい結果を見せたフェイスブックの決算だが、カンファレンスコールでは、将来的な収益の見通しに対して、ネガティブな見方を崩していない。これは毎度のことだが、売上成長率の鈍化についての指摘がなされている。

現在の広告から得られる収益の成長を、自ら止める、という趣旨の発言をしているのだ。もう少し正確に言えば、「アド・ロード(Ad Load)」を減少させると宣言している。

ここで登場するアド・ロードとは、フェイスブックのタイムラインに広告が出現する頻度のことを指す。単純な話だが、広告出現の頻度が下がり、人々がフェイスブックのタイムラインに滞在しているときに広告が出にくくなれば、当然のことながら広告から得られる収益は減少することになる。つまり、人々が目にする可能性がある広告を減らすから、集積は今後いままでのようには成長しない、という意味なのだ。

ユーザー体験と信頼性のバランス

フェイスブックがなぜ、収益性に直結するアド・ロードを減らすと言っているのか。もしみなさんがフェイスブックのウェブやアプリに日常的にアクセスしていれば、さほど難しい推測ではないだろう。つまり、タイムラインが広告であふれて、そもそもの滞在時間を減らさないようにバランスを取ろうとしているのだ。

例えばテレビを見ていてCMばかりだと、飽き飽きとしてしまい、チャンネルを変えるきっかけを与えてしまう。フェイスブックでも同じで、友達の動向を見たいのに、広告ばかりが流れてくると、フェイスブックにアクセスする目的が何だか分からなくなってしまう。 そのためフェイスブックは、より広告出現頻度を減らす代わりに、より人々の注目を集めやすいコンテンツ、すなわち動画を主体とした広告ビジネスへの移行を進めていくことを考えている。

2016年4月に行われた開発者会議F8では、ライブ動画に関する取り組みを強化する発表を行っており、また機械学習によってニュースフィードに流れてくるコンテンツの理解を行いながら、より適切なコンテンツと広告のブレンドを目指していくことになる。

マーク・ザッカーバーグCEOはライブ動画を強化すると開発者会議F8でアナウンス

より文化的な側面を追求してみてはどうか?

フェイスブックの今後の成長余地は「動画広告である」という未来を予測している。

企業から広告としてアップロードされる広告や、企業や個人が配信するライブ動画をニュースフィード内でよりアピールすることも考えられる。動画と広告にまつわる取り組みにはまだまだ様々な可能性があることは、筆者も認めている。

ただ、例えば広告ビジネスを追求するのであれば、もう少し違った考え方をしても良いのではないか、という印象も持っている。

例えば、インスタグラムを考えてみてほしい。

インスタグラムにも、写真やビデオの広告が流れてくる。しかしフェイスブックに流れてくるそれとは違い、つい見入ってしまう美しい写真やビデオが多く、確かに自分のタイムラインに紛れてくる要素ではあるが、さほど嫌な感じはしない。

雑誌に入ってくる写真が美しい広告を楽しんでみている感覚に近いかもしれない。これは、今後フェイスブックが目指していくべき広告の姿を示唆していると考えている。生活を豊かにするような広告を作り出せれば、再びフェイスブック広告の収益を成長させるペースに持ち込めるだろう。

インフラとしてのフェイスブック

フェイスブックを取材すると、マーク・ザッカーバーグ氏に共感する従業員の多さに感心することが多い。そこでよく聞かれる言葉は「我々は儲からない面白いことをするために、儲けているのだ」という事だ。

公開企業としてこれを声高に言い放つのは問題があるかもしれないが、若いインターネット企業にして、非常にベイエリア(サンフランシスコ、シリコンバレーを包むサンフランシスコ湾一円の地域)らしいマインドを感じることができる。その地域に住む一員である筆者としても、とても気持ちの良い企業なのだ。

「儲かること」は、ここまで説明してきたインターネットのインフラで展開する広告ビジネスを指す。そして「面白い儲からないこと」には、例えば地域のアーティストの発掘や、インターネットが繋がらない地域に対して、接続する手段を提供する「Internet.org」の活動、マイノリティや多様性に配慮する社会づくりの活動などが含まれる。

そうしたマインドには共感できるし、応援したくなる気持ちも大きい。しかし、インフラとしてのフェイスブックの充実は、だんだん、我々の生活を左右する欠かせない要素を改めて認識すべきだろう。

例えばフェイスブックのニュースフィードやメッセンジャーは、友人との日々のコミュニケーションの「場」であると同時に、ニュースを得る場でもある。米国では、総人口の6割がSNSからニュースを得ており、フェイスブックユーザーの66%が、ニュースを得る手段として活用している

その一方で、デマや政治的に偏ったニュースを排除しきれていない現状がある以上、インフラとしての責任を技術的に全うしていく必要がある。「メディアではない」とフェイスブックは語ることが多いが、メディア以上にインフラの重要性は大きい。

インフラとしての充実と信頼を、いかにフェイスブックの収益性につないでいくか。壮大な世界的チャレンジに期待したい。