【オリンパス】M&Aを粉飾に利用 医療を軸に再成長へ

【オリンパス】M&Aを粉飾に利用 医療を軸に再成長へ

2016.11.17

【オリンパス】M&Aを粉飾に利用 医療を軸に再成長へ

 オリンパス<7733>というとカメラや内視鏡というイメージに加えて、2011年の粉飾決算事件の印象が強い。一部幹部による財テクの失敗に端を発した事件で、粉飾の際にM&Aを利用したことで話題にもなった。なぜ、かつては売上高1兆円の超優良企業であったオリンパスが、どういった経緯で不正に手を染め、M&Aを利用した粉飾をおこなったのか。過去のM&Aの歴史を振り返りながら、その経緯をたどるとともに、今後のオリンパスがどうなっていくのかを考えたい。

【企業概要】内視鏡、世界シェア90%

 オリンパスは、顕微鏡の国産化を目指して1919年に「株式会社高千穂製作所」として発足した企業である。現在は、「オリンパス株式会社」(社名はギリシャ神話の神々が住むと言われる山の名前に由来)と社名を変え、医療分野、顕微鏡分野、映像分野において事業を展開している。

 医療分野においては、世界シェアの90%をおさえるとも言われる内視鏡が代表的な製品で、同分野はオリンパスの稼ぎ頭となっている。祖業である顕微鏡分野は、景気の波には左右されるものの、新興国の台頭などを背景に市場の拡大が見込まれている。一方で、映像分野の大半を占めるデジタルカメラ市場はスマートフォンの性能向上のあおりを受けて市場が縮小し、競争が激化している。今後もこの傾向は続く可能性が高く、守りの経営が強いられることになりそうだ。

【経営陣】粉飾発覚で内紛、2012年に笹社長が就任

 オリンパスは菊川剛氏が2001年から2011年まで社長を務めていた。2011年に菊川氏が会長に就任し、英国人のマイケル・ウッドフォード氏が社長に就いた。その半年後にウッドフォード氏が粉飾決算を指摘すると、菊川氏は同氏を解任し、一時社長に返り咲いたが、粉飾決算事件を受け、退任した。

 現在の社長の笹宏行氏は1992年にオリンパスに入社。内視鏡事業企画部長、オリンパスメディカルシステムズで第1開発本部長、マーケティング部長などを2012年からオリンパスの社長に就いた。61歳。

【株主構成】10%以上の大株主、存在せず

 オリンパスは10%以上を保有する大株主は存在せず、株式は分散している。日本トラスティ・サービス信託銀行は信託口などとして保有しているもの。資本業務提携先のソニーは2016年4月に保有するオリンパス株の約半分をJPモルガン証券に売却、持ち株比率は10%から5%に低下している。

【M&A戦略】財テク失敗、のれんで穴埋め ソニーから出資受け入れ

 このように、過去のM&Aを見てみると、財テクなどの巨額損失を穴埋めするためのM&A(青塗部分)と、それ以外に大別される。

 後者の主だったM&Aは、日商岩井の情報通信部門を切り出した会社ITXの買収である。当時、医療分野、映像分野に加える新たな柱として、携帯電話の販売代理店を主要事業とするITXの買収に乗り出した。2004年当時のITXは、連結売上で1,000億円を超え、売上高1兆円を標榜していたオリンパスにとっては、魅力的な新規事業というように映ったのだろう。その他にも、オリンパス製品の販売会社であるケイエスオリンパスや、医療機器の販売・修理をおこなうイワケンを買収しており、エンドユーザーとの接点を作ろうとする動きが見られた。これは、メーカーとしてエンドユーザーの反応を取り込むことを目的としていたというようにも見て取れ、当時の戦略としては自然なものだと見受けられる。

 一方で、粉飾に利用されたM&Aであるが、その前段の経緯から追ってみる。バブル崩壊期の財テクなどの失敗の積み重ねにより発生した1,000億円近くの巨額損失を穴埋めするために、オリンパスは連結外のファンドを使った損失処理の方法(通称「飛ばし」と呼ばれている)に着手した。これは、含み損のある金融商品を簿価でファンドに買い取らせることで、オリンパス本体には金融商品の評価損を計上しないという方法である。しかし、このファンドは、オリンパスの金融資産を担保に設立されたファンドなどで、一時しのぎにしかならない方法であった。その後、会計基準の変更により、これらの連結外のファンドを連結決算に組み込まなければいけない可能性が出てきたため、ファンドの損失を穴埋めすることを目的に、M&Aの買収資金とアドバイザリー費用が利用されることとなった。ファンドが買収したアルティス、NEWS CHEF、ヒューマラボらのベンチャー企業の買収に法外な買収金額をつぎ込んだのが、これに当たる。また、イギリスの医療機器メーカーのジャイラスを買収した際も、高額なアドバイザリー費用をファンドに支払っている。最終的に、これらのファンドは、売却益やアドバイザリー費用を「飛ばし」をおこなった損失に補てんし、一方のオリンパスはM&Aに伴って発生したのれんを相当期間で償却することを想定していた。

 しかし、2009年3月期に監査法人のからの指摘により、アルティス、NEWS CHEF、ヒューマラボにかかるのれん代679億円のうち557億円が減損処理されることとなる。ただ、この時期はリーマンショックの影響で損失を計上する企業が多かったため、オリンパスの巨額ののれん代の減損は脚光を浴びることがなかった。しかし、こういった無理な損失隠しを通じて、着実にオリンパスの財務は悪化の一途を辿ることとなった。

 粉飾の発覚後には、自己資本を確保し上場を維持することや信用力の補完を目的に、ソニーからの出資を受け入れることとなった。2回の増資により、合計約500億円を調達して自己資本比率10%を下回る危機からは逃れることに成功した。実際には、さらにのれんの減損が発生すれば債務超過という状況であったため、今のオリンパスがあるのはソニーの支援があったからこそと言っても過言ではない。一方で、ソニーからすると、オリンパスの持つ貴重な医療分野におけるノウハウが合弁会社設立により手に入ることとなったため、ソニーのメリットも大きかったと言える。

【財務分析】医療事業が成長、危険水域から脱出

 ここで、オリンパスの財務の変遷を辿ると、下記のようになっている。

 一時期はのれんの比率が自己資本比率を上回っている状態が続いていたため、かなり危険な状態にあったと言える。さらに、こののれん代の大半がジャイラス買収の際ののれんであったため、状況はより深刻だった。万が一にでもジャイラスののれん代について、監査法人から減損処理を求められた場合、債務超過すれすれまで財務内容は落ち込んでいたという状況である。こうした状況に耐えられたのも、堅調に推移していた医療分野があったからである。

 現在は、本業である内視鏡を中心とした医療事業によって財務体質は回復を果たしている。

 次に、セグメント別の売上推移を見てみる。

 2007年3月期に、ITXの買収により初めて売上高1兆円を達成し、2008年3月期までは上り調子であった。一方で、かつて主要事業であった映像分野は年々売上高を落としている状況で、事業ポートフォリオも転換点を迎えていたと言える。したがって、不正に利用されたジャイラス社の買収も、医療分野の強化という観点から見れば、必要なM&Aであったと捉えられる。

 これらの攻めのM&Aから一変して、2011年の粉飾事件以降、ITXの売却を始めとして、事業の見直しが図られていくこととなる。さらに、ソニーからの資本の受け入れにより強固な財務体質を手に入れた。これらの施策の結果、オリンパスは今次のステージに来ていると言ってよいかもしれない。

 2016年から始まる中期経営計画のなかで、医療分野におけるトッププレーヤーを目指すとともに、将来事業の獲得にも注力していくと発表している。ただ、将来事業といっても、関連性の無い分野へは進出しないと明確にビジョンを掲げており、現在の顧客チャネルの活かせる分野がターゲットになるものと思われる。

【株価】上昇が一服、本格回復は道半ば

 株価は2014年初から2015年4月にかけて約7割上昇した。医療事業の成長と粉飾で傷ついた財務の立て直しが進んだことが評価されている。しかしその後は一進一退の動きとなっており、本格的な上昇基調に入ったとはいえない。今期の予想PER(株価収益率)は22倍前後で、医療機器を手がけるテルモ(約30倍)とニプロ(約16倍)のちょうど中間ぐらいで株価に割安感は乏しい。上値を追うには成長力の強化が課題だ。

【まとめ】医療とソフト、融合させるM&Aに期待

 M&Aが粉飾に利用された悪例を作ってしまったオリンパス。正当な目的を有したM&Aも目に見える結果が出ているとは言えず、これまでに成功したM&Aはないと言える。粉飾事件の発覚により、日本の超優良企業が倒産の危機にさらされたが、本業への回帰によって復活を遂げた。

 しかし、会社の復活はスタートラインに過ぎない。オリンパスがこのスタートラインで掲げた目標が、医療分野の世界トッププレーヤーになることで、それを目指すにはM&Aは避けては通れない選択肢となるため、今後の対象領域には注目が集まる。近年は人工知能(AI)と医療分野を組み合わせた領域も広がりを見せており、M&A対象は必ずしもハードとは限らない。世界トップの品質を誇るハードを持つオリンパスだからこそ活かせるソフトの技術もあるのではないだろうか。

 いずれにせよ、次なるM&Aはオリンパスの復活の狼煙となるのか、期待をして動向を注視していきたい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。