【オリンパス】M&Aを粉飾に利用 医療を軸に再成長へ

【オリンパス】M&Aを粉飾に利用 医療を軸に再成長へ

2016.11.17

【オリンパス】M&Aを粉飾に利用 医療を軸に再成長へ

 オリンパス<7733>というとカメラや内視鏡というイメージに加えて、2011年の粉飾決算事件の印象が強い。一部幹部による財テクの失敗に端を発した事件で、粉飾の際にM&Aを利用したことで話題にもなった。なぜ、かつては売上高1兆円の超優良企業であったオリンパスが、どういった経緯で不正に手を染め、M&Aを利用した粉飾をおこなったのか。過去のM&Aの歴史を振り返りながら、その経緯をたどるとともに、今後のオリンパスがどうなっていくのかを考えたい。

【企業概要】内視鏡、世界シェア90%

 オリンパスは、顕微鏡の国産化を目指して1919年に「株式会社高千穂製作所」として発足した企業である。現在は、「オリンパス株式会社」(社名はギリシャ神話の神々が住むと言われる山の名前に由来)と社名を変え、医療分野、顕微鏡分野、映像分野において事業を展開している。

 医療分野においては、世界シェアの90%をおさえるとも言われる内視鏡が代表的な製品で、同分野はオリンパスの稼ぎ頭となっている。祖業である顕微鏡分野は、景気の波には左右されるものの、新興国の台頭などを背景に市場の拡大が見込まれている。一方で、映像分野の大半を占めるデジタルカメラ市場はスマートフォンの性能向上のあおりを受けて市場が縮小し、競争が激化している。今後もこの傾向は続く可能性が高く、守りの経営が強いられることになりそうだ。

【経営陣】粉飾発覚で内紛、2012年に笹社長が就任

 オリンパスは菊川剛氏が2001年から2011年まで社長を務めていた。2011年に菊川氏が会長に就任し、英国人のマイケル・ウッドフォード氏が社長に就いた。その半年後にウッドフォード氏が粉飾決算を指摘すると、菊川氏は同氏を解任し、一時社長に返り咲いたが、粉飾決算事件を受け、退任した。

 現在の社長の笹宏行氏は1992年にオリンパスに入社。内視鏡事業企画部長、オリンパスメディカルシステムズで第1開発本部長、マーケティング部長などを2012年からオリンパスの社長に就いた。61歳。

【株主構成】10%以上の大株主、存在せず

 オリンパスは10%以上を保有する大株主は存在せず、株式は分散している。日本トラスティ・サービス信託銀行は信託口などとして保有しているもの。資本業務提携先のソニーは2016年4月に保有するオリンパス株の約半分をJPモルガン証券に売却、持ち株比率は10%から5%に低下している。

【M&A戦略】財テク失敗、のれんで穴埋め ソニーから出資受け入れ

 このように、過去のM&Aを見てみると、財テクなどの巨額損失を穴埋めするためのM&A(青塗部分)と、それ以外に大別される。

 後者の主だったM&Aは、日商岩井の情報通信部門を切り出した会社ITXの買収である。当時、医療分野、映像分野に加える新たな柱として、携帯電話の販売代理店を主要事業とするITXの買収に乗り出した。2004年当時のITXは、連結売上で1,000億円を超え、売上高1兆円を標榜していたオリンパスにとっては、魅力的な新規事業というように映ったのだろう。その他にも、オリンパス製品の販売会社であるケイエスオリンパスや、医療機器の販売・修理をおこなうイワケンを買収しており、エンドユーザーとの接点を作ろうとする動きが見られた。これは、メーカーとしてエンドユーザーの反応を取り込むことを目的としていたというようにも見て取れ、当時の戦略としては自然なものだと見受けられる。

 一方で、粉飾に利用されたM&Aであるが、その前段の経緯から追ってみる。バブル崩壊期の財テクなどの失敗の積み重ねにより発生した1,000億円近くの巨額損失を穴埋めするために、オリンパスは連結外のファンドを使った損失処理の方法(通称「飛ばし」と呼ばれている)に着手した。これは、含み損のある金融商品を簿価でファンドに買い取らせることで、オリンパス本体には金融商品の評価損を計上しないという方法である。しかし、このファンドは、オリンパスの金融資産を担保に設立されたファンドなどで、一時しのぎにしかならない方法であった。その後、会計基準の変更により、これらの連結外のファンドを連結決算に組み込まなければいけない可能性が出てきたため、ファンドの損失を穴埋めすることを目的に、M&Aの買収資金とアドバイザリー費用が利用されることとなった。ファンドが買収したアルティス、NEWS CHEF、ヒューマラボらのベンチャー企業の買収に法外な買収金額をつぎ込んだのが、これに当たる。また、イギリスの医療機器メーカーのジャイラスを買収した際も、高額なアドバイザリー費用をファンドに支払っている。最終的に、これらのファンドは、売却益やアドバイザリー費用を「飛ばし」をおこなった損失に補てんし、一方のオリンパスはM&Aに伴って発生したのれんを相当期間で償却することを想定していた。

 しかし、2009年3月期に監査法人のからの指摘により、アルティス、NEWS CHEF、ヒューマラボにかかるのれん代679億円のうち557億円が減損処理されることとなる。ただ、この時期はリーマンショックの影響で損失を計上する企業が多かったため、オリンパスの巨額ののれん代の減損は脚光を浴びることがなかった。しかし、こういった無理な損失隠しを通じて、着実にオリンパスの財務は悪化の一途を辿ることとなった。

 粉飾の発覚後には、自己資本を確保し上場を維持することや信用力の補完を目的に、ソニーからの出資を受け入れることとなった。2回の増資により、合計約500億円を調達して自己資本比率10%を下回る危機からは逃れることに成功した。実際には、さらにのれんの減損が発生すれば債務超過という状況であったため、今のオリンパスがあるのはソニーの支援があったからこそと言っても過言ではない。一方で、ソニーからすると、オリンパスの持つ貴重な医療分野におけるノウハウが合弁会社設立により手に入ることとなったため、ソニーのメリットも大きかったと言える。

【財務分析】医療事業が成長、危険水域から脱出

 ここで、オリンパスの財務の変遷を辿ると、下記のようになっている。

 一時期はのれんの比率が自己資本比率を上回っている状態が続いていたため、かなり危険な状態にあったと言える。さらに、こののれん代の大半がジャイラス買収の際ののれんであったため、状況はより深刻だった。万が一にでもジャイラスののれん代について、監査法人から減損処理を求められた場合、債務超過すれすれまで財務内容は落ち込んでいたという状況である。こうした状況に耐えられたのも、堅調に推移していた医療分野があったからである。

 現在は、本業である内視鏡を中心とした医療事業によって財務体質は回復を果たしている。

 次に、セグメント別の売上推移を見てみる。

 2007年3月期に、ITXの買収により初めて売上高1兆円を達成し、2008年3月期までは上り調子であった。一方で、かつて主要事業であった映像分野は年々売上高を落としている状況で、事業ポートフォリオも転換点を迎えていたと言える。したがって、不正に利用されたジャイラス社の買収も、医療分野の強化という観点から見れば、必要なM&Aであったと捉えられる。

 これらの攻めのM&Aから一変して、2011年の粉飾事件以降、ITXの売却を始めとして、事業の見直しが図られていくこととなる。さらに、ソニーからの資本の受け入れにより強固な財務体質を手に入れた。これらの施策の結果、オリンパスは今次のステージに来ていると言ってよいかもしれない。

 2016年から始まる中期経営計画のなかで、医療分野におけるトッププレーヤーを目指すとともに、将来事業の獲得にも注力していくと発表している。ただ、将来事業といっても、関連性の無い分野へは進出しないと明確にビジョンを掲げており、現在の顧客チャネルの活かせる分野がターゲットになるものと思われる。

【株価】上昇が一服、本格回復は道半ば

 株価は2014年初から2015年4月にかけて約7割上昇した。医療事業の成長と粉飾で傷ついた財務の立て直しが進んだことが評価されている。しかしその後は一進一退の動きとなっており、本格的な上昇基調に入ったとはいえない。今期の予想PER(株価収益率)は22倍前後で、医療機器を手がけるテルモ(約30倍)とニプロ(約16倍)のちょうど中間ぐらいで株価に割安感は乏しい。上値を追うには成長力の強化が課題だ。

【まとめ】医療とソフト、融合させるM&Aに期待

 M&Aが粉飾に利用された悪例を作ってしまったオリンパス。正当な目的を有したM&Aも目に見える結果が出ているとは言えず、これまでに成功したM&Aはないと言える。粉飾事件の発覚により、日本の超優良企業が倒産の危機にさらされたが、本業への回帰によって復活を遂げた。

 しかし、会社の復活はスタートラインに過ぎない。オリンパスがこのスタートラインで掲げた目標が、医療分野の世界トッププレーヤーになることで、それを目指すにはM&Aは避けては通れない選択肢となるため、今後の対象領域には注目が集まる。近年は人工知能(AI)と医療分野を組み合わせた領域も広がりを見せており、M&A対象は必ずしもハードとは限らない。世界トップの品質を誇るハードを持つオリンパスだからこそ活かせるソフトの技術もあるのではないだろうか。

 いずれにせよ、次なるM&Aはオリンパスの復活の狼煙となるのか、期待をして動向を注視していきたい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

「折り畳みスマホ」はスマートフォンの新ジャンルとして定着するのか

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 

「折り畳みスマホ」はスマートフォンの新ジャンルとして定着するのか

2019.03.19

大画面化の限界を破ろうと登場した「折り畳みスマホ」

2019年にスマホ大手が参入し、本格的なトレンドに

普及する? 価格とコンテンツが最大の課題に

2018年末から2019年初頭にかけ、ディスプレイを折り曲げて畳むことができる「折り畳みスマートフォン」大きな注目を集めている。閉じた状態では普通のスマートフォン、開くとタブレットサイズで利用できるのが特徴だが、新しいスタイルのスマートフォンとして市場に定着し、普及していくには課題も多い。

大画面化の限界から生まれた折り畳みの発想

ここ最近、にわかに注目されるようになった「折り畳みスマートフォン」だが、そもそもどんなものなのか。簡単に言えば、これはディスプレイ素材に、一般的なLEDとは異なる面光源で、かつフレキシブルな特徴を持つ有機ELを採用することで、1枚のディスプレイを2つに折り曲げられるようにしたスマートフォンのこと。いくつかの企業が折り畳みマートフォンを相次いで発表したことから、一気に注目を集めるに至ったようだ。

折り曲げられる7.8インチのディスプレイを備えたRoyoleの「FlexPai」は、世界初の折り畳みスマートフォンとして注目を集めた

最初に折り畳みスマートフォンを発表したのは中国のRoyoleというベンチャー企業で、2018年11月に7.8インチのディスプレイを折り曲げられる「FlexPai」という機種を発表している。だがより本格的に注目されるようになったのは、2019年2月に入ってからであろう。

その理由は、2019年2月20日(米国時間)にサムスン電子が「Galaxy Fold」、ファーウェイ・テクノロジーズが2019年2月24日(スペイン時間)に「HUAWEI Mate X」と、スマートフォン大手が相次いで折り畳みスマートフォンを発表したからだ。いずれの機種もFelxPaiより洗練され、より日常使いに適したスタイルながらディスプレイを曲げられるという機構を実現したことから、がぜん折り畳みスマートフォンに対する注目が高まったのである。

サムスン電子の「Galaxy Fold」。7.3インチのディスプレイを内側に備え、本を開くようにして開くと大画面ディスプレイが現れる仕組みだ

ディスプレイを曲げられるというだけでも十分に大きなインパクトがある折り畳みスマートフォンだが、その誕生にはやはり「スマートフォンの大画面化傾向」が影響している。初代iPhoneが登場した頃には3インチ程度だったスマートフォンのディスプレイも、年を追う毎に大画面化が進み、いまでは6インチを超えるディスプレイも当たり前のものとなってきている。

だが人間が片手で持つことができるスマートフォンのサイズ、特に横幅には限界がある。6インチ超でも、18:9や19:9の縦長比率として片手に持てる横幅に抑えていたのが最近のトレンドだが、従来の方法によるディスプレイの大画面化は限界に達しつつある。しかしながら特に海外では、消費者がスマートフォンに一層の大画面化を求める声が非常に強い。そうした市場ニーズに応えるべく、持ち運ぶ時はコンパクトで、必要な時だけ大画面で利用するという、折り畳みスマートフォンの開発を推し進めるに至った訳だ。

ファーウェイの「HUAWEI Mate X」。さらなる大画面化を求める消費者ニーズに応えるべく、3年もの歳月を費やして開発されたとのこと。同社初の5G対応スマートフォンにもなるという

各社の折り畳みスマートフォンは、開いた状態では7.3~8インチと、小型のタブレット並みのサイズ感を実現している。従来より一層の大画面でコンテンツを楽しめるというメリットが生まれる訳だが、大画面によってもう1つもたらされるメリットは、表示できる情報量が増やせること。実際Galaxy Foldはそのメリットを生かし、画面を3つに分割して3つのアプリを同時に利用できる機能を搭載している。

さらに今後、次世代通信の「5G」が普及していけば、通信速度が一気に高速になりコンテンツのリッチ化が進むことから、大画面を生かせるシーンも現在以上に増えていくことが考えられる。それゆえ折り畳みスマートフォンこそがスマートフォンの将来像と見る向きもあるようだ。

普及にはコンテンツや価格など多くの課題あり

だが実際の所、折り畳みスマートフォンが真に普及して定着に至るかといえば、まだ多くの課題があるように感じる。理由の1つは、折り畳みスマートフォンに適したコンテンツが少ないことだ。その最大の要因はディスプレイのアスペクト比で、折り畳みスマートフォンでは開いた状態のアスペクト比が、アナログテレビで主流だった4:3に近い比率になってしまう。これは折り畳むという構造状どうにもならない課題だ。

折り畳みスマートフォンは、開いた状態では4:3、あるいはそれに近いアスペクト比となることから、オフィス文書や地図、Webサイトなど情報量が求められるコンテンツは見やすい

この比率は、オフィス文書などを利用するのには適しているといわれる一方、映像やゲームなどのコンテンツでは横長の傾向が強いため、あまり適していない。実際、折り畳みスマートフォンで16:9や21:9の映像コンテンツ再生すると、どうしても上下の黒帯が目立ってしまうのだ。

一方で映画などの動画コンテンツ再生時は、上下に黒帯が目立つなど大画面をフルに生かせていない印象だ

そうしたことから折り畳みスマートフォンを普及させるには、それに適したコンテンツの開発も同時に求められているのだ。そのためにはいかに多くのコンテンツホルダーから協力を得られるかが、非常に重要になってくるだろう。

そしてもう1つの課題は価格だ。折り畳みスマートフォンは最新の技術を詰め込んで開発しているため、Galaxy Foldは1980ドル(約22万円)、HUAWEI Mate Xは2299ユーロ(約29万円)と、価格が非常に高い。現在は“初モノ”ゆえにこれだけの価格でもやむなしとの認識がなされているようだが、普及を考える上では少なくともその半額程度、つまり現在のフラッグシップスマートフォンと同程度にまで価格を落とす必要がある。

折り畳みスマートフォンの実用化を実現した今後は、いかにその価値を落とすことなく価格を落とすかという、難しい課題をクリアする必要がある訳だ。そうした課題をクリアできなければ普及にはつながらないだけに、折り畳みスマートフォンが今後の主流になるかどうかは、現状ではまだ見通せないというのが正直な所でもある。

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そこで今回紹介したいのは、総務省が学生や若手エンジニアを対象にIoT人材育成を目的として実施している「Web×IoT メイカーズチャレンジ」である。2018年度は国内9か所でイベントが開催され、2019年2月から3月にかけては、東京でも開催された。この取り組みが何を変えようとして、どのような一石を投じているのか、イベントで実際に実施された内容を下敷きに紐解いてみたい。

Web×IoT メイカーズチャレンジ 2018-19

Web×IoT メイカーズチャレンジ開催の経緯

総務省の情報通信審議会の技術戦略委員会では、かねてよりIoT・ビッグデータ・AI時代の人材育成方策についての議論が続けられており、去る2016年には、中間答申というかたちで以下のような旨の提言も出されている。

「IoTを総合的に理解し、使いこなせる人材・アイデアを発想できる人材が求められており、若者やスタートアップを対象とした開発キットやオープンソースなどを使ったモノづくりを通じた体験型教育やアイデア・ソリューションを競うハッカソンの取り組みを推進することが重要である」

こうしたことを受け、日本最大規模の産官学のIoT推進組織「IoT推進コンソーシアム」の技術開発ワーキンググループ「スマートIoT推進フォーラム」に、「IoT人材育成分科会」が設置されることとなり、そこでの議論を踏まえてこの人材育成事業、Web×IoT メイカーズチャレンジがスタートすることになった。

IoT推進コンソーシアムとスマートIoT推進フォーラムの体制

では、具体的にはどのような人材が今後必要とされるのか? また、未来に向けて、どういった手法でそのような人材を育成していくのだろうか?

Web×IoT メイカーズチャレンジの基本方針などを策定する実行委員会の主査で、上述のIoT人材育成分科会の構成員でもある株式会社KDDIの高木悟氏と、同実行委員会で副査を務める一般社団法人WebDINO Japanの瀧田佐登子氏の両氏に、その点についての話を伺った。

高木氏は、IoTを活用し社会を変革する創造性豊かなエンジニアリング・イノベータ力を備えた若手人材の育成には、

(1)無線装置やセンサ・アクチュエータなどのハードウェアとコンピューティングロジックを中心としたソフトウェア双方を扱えるスキル
(2)情報システムの共通基盤技術となっているWeb技術に基づくIoTシステム構築スキル
(3)企業の製品開発やサービス企画の現場でも、新技術の迅速な導入にもスピード感を持って対応できるアジャイル開発に対応できるエンジニア力
(4)実際にアイデアを試作し、改良を繰り返して実現するプロトタイプ創出力といったスキル

が求められており、Web×IoT メイカーズチャレンジでは、特にそのあたりを意識したイベント設計を行っていると話す。

KDDI株式会社技術開発戦略部マネージャー:高木悟氏

ポイントになるのは、このイベントに参加する学生や若手エンジニアが、座学の講習だけでなく、ハンズオン形式の講習会で実際にボードコンピュータやセンサーやアクチュエータの扱いを体験し、一定の準備期間を設けたうえで、ハッカソンで実際にプロトタイピングを行うという一連のものづくりプロセスを実体験することにある。

Web×IoT メイカーズチャレンジでは、UIやクラウドを含む情報システム全体をひとつの標準化された中立的な技術体系のもとで「ハードウェアを制御できるスキル」を獲得する機会を提供しているが、Webを介することによって、OS、デバイスといったレイヤーごとの違いを吸収し、普遍性の高い共通な技術を学ぶことができる。さまざまなデータをやりとりするには、「Webがもっともやりやすい」と副査の瀧田氏も指摘する。そういった観点からイベント名にもWeb×IoTの文字が冠された。

WebDINO Japan代表理事:瀧田佐登子氏

東京大会の概要をレポート

では、東京大会の様子を交えつつ、本取り組みの具体的な流れを少しレポートしたい。2月9、10日の2日間にわたりハンズオンを含む講習会が開催された。IoTの基礎知識やWiFiやLTEなど、IoT開発には欠かせない通信技術やその根源となる電波の特性について講義を受けたうえで、実際に「Raspberry Pi 3」と各種センサーやデバイスなどの接続・動作を行うハンズオンを約1日半じっくりと行う。受講者は個人単位で参加申し込みを行うが、講習会の2日目にはチーム単位に分けられ、準備期間を置いた後日に開催するハッカソンに向けた準備をスタートする。

東京会場にて。チームでのアイデアソンの風景

チーム分け後は、まずはアイデアソンを実施し、「身近な人をハッピーにするIoTデバイスを作ろう」などといったテーマをもとに議論を進める。初めて会ったメンバー同士で、いかに議論を深めていくか、これが最初の試練といえるだろう。また、各チームには上限額25,000円の予算が与えられ、その中でハッカソンに提出する作品で使うセンサーなどの部品を用意する。ここでは準備期間中の材料調達を含むマネージメント力が求められる。

そして、ハッカソンに向けて作成する作品では、以下の要件が求められる。

・ネットワークサービスの連携、もしくはネットワークからのコントロールが可能なこと
・Raspberry Pi 3を使って、Web GPIO APIあるいはWebI2C APIのいずれかを利用すること

ちなみにハッカソンの審査基準は、以下の通り。

・ソフトウェア・ハードウェアの実装力
・アイデアの独創性・ユースケースの有用性
・無線の活用度

そして、今回の東京大会のハッカソンには、計35名8チームが参加した。

ハッカソンの各チームの様子。今回は計35名8チームが参加した

ハッカソンというと、賞金目当てのツワモノが集まるというイメージがある。しかし、メイカーズチャレンジは、そもそもが「学びの場」として開催しているため、ハッカソン初心者やスキルレベルが不安な学生であっても参加しやすい枠組みを用意している。とにかく、わからないことがあれば積極的にチューターやメンターに聞き、解決していく。終始なごやかな雰囲気で進んでいくことも印象的だ。

こちらはハッカソン2日目の様子。初日のなごやかさからは打って変わり、開発完了に向け緊張感も漂う

それでもハッカソンが2日目にもなると緊張感が漂う。決められた開発締め切りに向かって、時間との戦いである。その日のうちに審査が始まり、今回は、最優秀賞が1チーム、優秀賞が3チーム選出された。

最優秀賞受賞チームの皆さん。後ろに立つ3人は審査員

順序が逆になってしまったが、審査員は以下の通りである。

・村井純氏(慶應義塾大学 環境情報学部教授 大学院政策・メディア研究科委員長)
・小林茂氏(情報科学芸術大院(IAMAS) 産業文化研究センター教授)
・瀧田佐登子氏(一般社団法人WebDINO Japan代表理事、実行委員会副査)

各チームの作品やその他の情報については、Web×IoT メイカーズチャレンジの公式サイトで情報が提供されるので、参照してほしい。

Web×IoT メイカーズチャレンジの成果と今後

今回、2年目を迎えたメイカーズチャレンジの取り組みであるが、その成果はどうだろうか。高木氏は、ほぼ目的は達成されていると判断しているという。実践的な講習会とハッカソンの組み合わせに参加者の多くが満足しており、チューターのサポートやチームでの開発体験を貴重な機会だと感じてもらえたと、手ごたえを語る。

人材育成というと、とかく受講者が受け身の講習が行われがちだが、この施策は講習会からハッカソンまで、参加者が自ら試行錯誤しながら様々なスキルを身につけるアクティブ・ラーニングの機会となっている。瀧田氏は、プログラミングやハードウェアのスキルに限らず、少ないとはいえ制作予算の配分管理や、材料の調達、さらに時間配分やチーム内のコミュニケーションなど、プロジェクトのマネジメントを体験する貴重な機会にもなっていると説明する。

学生から社会人まで、参加者は様々

企業が社員に向けて行う人材育成は、成果の前に、そのコスト・手間暇が大きなハードルとなる。Web×IoT メイカーズチャレンジは、その課題を補完する答えの1つともいえるだろう。今回の東京開催の会場を見ると、30才未満の若手社会人も多く参加しており、大学生や高専生、高校生と混じってチームを組み、真剣にものづくりに向き合う姿が見られた。

Web×IoT メイカーズチャレンジは2019年度も各地で開催される予定だ。立場を問わず関心を持った読者の方がおられれば、将来に立ち向かう可能性のひとつとして、参加や見学を検討してみていただきたい。

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