世界覇権に再挑戦? 三菱自を手にした日産ゴーン社長の野望

世界覇権に再挑戦? 三菱自を手にした日産ゴーン社長の野望

2016.11.17

日産自動車に乗り込み、2兆円を超える有利子負債を抱えた同社の復活を成し遂げたカルロス・ゴーン氏。聖域なきリストラなど、ゴーン氏が遂行した「日産リバイバルプラン」は日産のV字回復として結実した。次に取り掛かるのは三菱自動車工業だが、そもそもゴーン氏はなぜ、同社の再建という難題にチャレンジするのだろうか。同氏を突き動かす“野望”とは。

世界覇権への野望、再び

燃費不正問題で三菱自の経営が2000年代前半に次いで再び揺らぎ、その救済を電光石火で決めたのが日産のゴーン社長だった。今年の5月12日に日産による三菱自への資本参加(34%出資)を発表した。

日産による三菱自への出資(三菱自株の急落底値時の2,340億円)は10月20日に完了。それとともに、ゴーン社長自ら三菱自会長として乗り込むことになった。12月14日の三菱自臨時株主総会で決定する。これで名実ともに日産が三菱自を傘下に置き、三菱商事など三菱グループとも連携するルノー・日産グループが始動するわけである。

なぜ日産は、「リコール隠し」に続く「燃費不正」で信用が失墜した三菱自の救済に動いたのか。一言で言えば、「ゴーン、世界覇権への野望再び」ということだろう。

ゴーン氏は世界覇権へ向け再び動き出した

ゴーン氏は1999年、日産の事実上のトップとして仏ルノーから乗り込み、17年にわたり君臨し続けている。この間に日産をV字回復させた一方、親会社ルノーのトップも兼ねている同氏だが、いささか「ゴーン流経営」に停滞感が出ていたことも、同氏を三菱自の救済に突き動かした動機になっているかもしれない。

日産コミットメント経営に陰り?

日産はこの2016年度を最終年度とする中期経営計画「パワー88」を進めている。それは、グローバル販売での市場シェア8%と、売上高営業利益率8%の達成を目標とするものだ。

だが、中間決算(2016年4~9月)発表でもグローバル販売シェアは5.8%(前年同期6.1%)、営業利益率は6.4%(同6.7%)とポイントダウンしている。営業利益率については急激な円高での為替差損が大きく、「円高なかりせば」との見方もあるが、それにしてもゴーン流のコミットメント(目標必達)経営に陰りが出ていることは否めない。

電気自動車(EV)の盟主を目指し、日産はパワー88期間中にルノーとの合計で150万台の販売目標を打ち出していたが、主力のリーフは20万台強にとどまる。最近ではEVの主役の座をベンチャーの米テスラモーターズに奪われた感がある。

その意味では、ルノー・日産連合には停滞感があり、「現状に満足していない」(ゴーン社長)状況にある。だからこそ、三菱自を傘下に収めることは、グループとしてのグローバル販売の1,000万台規模入り、三菱自が強いアセアンなど新興国の強化、プラグインハイブリッド車(PHEV)で先行する三菱自の活用など、次の飛躍の足がかりになると判断したわけである。

しがらみ無視のリバイバルプラン

日産は1990年代後半に業績が悪化し、2兆円に上る借金(有利子負債)を抱えて海外提携を模索し始めた。最終的にはルノーとの資本提携を決め、1999年3月に提携調印を発表した。筆者はこの経過を著書「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)に著している。ルノーから日産の救世主として送り込まれてきたのがカルロス・ゴーン社長である。

「日産リバイバルプラン(NRP)」。ゴーン流経営による日産復活を目指した中期経営計画の第一歩は、旧来の日産のしがらみを断ち切った聖域なきリストラとコミットメント経営だった。社内はクロスファンクショナルチーム(CFT、部門間の壁をなくす全社横断チーム)、V-upプログラム(部門横断的なラインマネジメントの問題解決)を推進し、外国人、女性社員の登用で日産の企業文化を大きく変貌させた。

ゴーン社長が日産で最初に手掛けた中計NRPは、当期利益の黒字化、営業利益率4.5%以上の達成、有利子負債7,000億円以下の3つのコミットメントだった。2000年4月~2002年3月の3カ年NRPを1年前倒しで達成した同氏の手腕は、ゴーン流V字回復として脚光を浴びた。続く「日産180(2002年4月~2005年3月)」では、さらに営業利益率8%、有利子負債ゼロ、グローバル販売100万台増加の3つのコミットメントを掲げた。

日産とルノーのトップに君臨して10年余のゴーン社長

当時、筆者はゴーン社長にインタビューしたが、社内改革とルノーとのシナジー(車台、エンジン、部品の共通化、購買調達の共同化など)効果を出せば、日産は復活できるとの明快な答えが返ってきたのを思い出す。ゴーン社長は、この日産V字回復という経営成果により、2005年5月からルノーの会長兼CEO(最高経営責任者)に就いてルノー・日産連合のトップに君臨し、現在に至っている。

ルノー・日産アライアンスのトップに君臨するゴーン氏

ゴーン社長がルノーから日産のトップに送り込まれて17年、ルノーのトップも兼任するようになってからは10年余が経過する。オーナーならいざしらず、いわゆる雇われ社長としては異例の長期政権だ。

ゴーン社長の代名詞ともなったコミットメント経営だが、ここへきてほころびも見えてきている。具体的には、今期を最終年度とする「パワー88」の目標が、急激な円高環境下とはいえ「必達」が難しくなってきていること、得意のEVが思うように市場に浸透しないこと、新興国向け戦略ブランド「ダットサン」を立ち上げたものの、成果が遅れていること、母国市場の日本での販売が低迷しており、シェアが1桁に落ちていることなどが不安材料だ。

一方でルノーは、43.4%出資の日産を持ち分子会社としており、その連結決算では、日産からの上納で何とか黒字を確保している現状にある。ルノーの株主である仏政府には、ルノーを通じて日産への経営関与を強めようとするなど微妙な動きもある。ゴーン社長の高額報酬は日本でも話題になるが、ルノーの株主総会では高額反対となり、報酬減額に追い込まれる状況さえでてきた。

つまり、ゴーン社長にとって停滞感というか閉塞感も漂う中で、三菱自動車の実質的買収は、その打開へ向けた乾坤一擲の決断だったのではないだろうか。

一方の三菱自。今期中間決算発表は、まず燃費不正問題のお詫びから入った。2000年代初頭の「リコール隠し」から立ち直った矢先の今回の問題。同社は信用失墜という「信用負債」を抱えて再生へと歩き出すことになるが、復活への道筋が全く見えないわけでもない。

中間決算で損失を一括計上、復活の準備に入る三菱自

三菱自の中間決算は、営業利益316億円の赤字。当期純利益では燃費試験関連損失1,662億円の特別損失を計上し、2,196億円の大幅赤字となった。今期の通期業績見通しでは、営業利益276億円の赤字、当期純利益2,396億円の赤字となる予想だ。

中間決算説明会に登壇した三菱自副社長執行役員の池谷光司氏は、「日産が2000年頃からやってきた改革の手法は(三菱自でも)全社的に活用できる」と話していた

つまり、三菱自は日産の出資完了を前に、将来発生しそうな損失を中間決算で一括計上し、業績の大幅下方修正に踏み切ったのだ。奇しくも三菱自の当期利益赤字幅は、日産の出資額2,370億円とほぼ同額である。

益子体制では一定の成果

三菱自動車といえば、1970年に米クライスラーとの合弁提携とともに、三菱重工業の自動車事業部門が独立した会社だ。当時は軽自動車から大型トラックまでを取り扱う、世界でも類を見ない総合自動車メーカーだった。1990年代半ば頃までは、トヨタ、日産に次ぐ日本車メーカー第三勢力の旗頭の位置づけを強めていた。一時はメインバンクが同じ三菱銀行であることから、「三菱自、ホンダを買収か」と言われたり、あるいは「日産の背中が見えた」と三菱自トップの発言で話題になったこともある。

だが、1996年に米国工場でのセクハラ問題、翌年に総会屋への利益供与事件、2000年にはリコール隠しと不祥事が続出する。2000年にはダイムラークライスラー(当時)の出資を受けてダイムラー傘下となったものの、2004年にリコール隠しが再燃したことで、ダイムラーは「三菱ふそう」のトラック部門を子会社化し、三菱自からは手を引くことになる。その後は三菱グループの主力企業である三菱重工、三菱商事、三菱銀行が再建支援に入り、2005年には三菱商事の自動車事業本部長だった益子修氏が三菱自社長に就任したという経緯がある。

益子体制となった三菱自は、タイを中心とするアジア戦略を強化するとともに、車種を軽自動車とSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)に絞り、合理化経営を徹底した。その結果、2014年3月期には三菱主力3社の優先株を解消するとともに、復配にこぎつけた。益子体制9年間の再建策は終わり、昨年には三菱自プロパーの相川哲郎氏が社長に就任。益子会長・相川社長体制に切り替わった矢先に「軽自動車燃費不正問題」が露呈したのだ。

ゴーン流改革の遂行に向けた人材配置

三菱自の燃費不正は軽自動車にとどまらず、ほぼ全車種に及んでいたことからブランドは地に墜ちた。さすがの三菱グループ支援もこの期に及んではままならず、相川社長の引責辞任により、会長兼社長となった益子氏は日産に助けを求めた。軽自動車の合弁生産で2010年から提携していた日産サイドは、ゴーン社長の即断で手を差し伸べた。

三菱自の企業体質は、おっとり型で「たこつぼ文化」と言われてきた。とくに開発部門でのそうした体質がリコール隠し、燃費不正につながったと言われる。一方で、戦闘機の流れを汲む技術力には定評があり、軽自動車で先駆けたEVと、これをベースとしたSUVのPHEVの商品力は評価が高い。加えて、三菱商事と連携し、タイを中心とするアセアン市場を開拓した三菱車は、三菱自の収益力に大きく寄与している。

日産は、資本提携発表とともに、いち早く三菱自のテコ入れに動いた。長らくゴーン体制で開発部門のトップだった山下光彦氏を三菱自の開発担当副社長として送り込んだのだ。まずは、問題の開発部門をゴーン流に改革するという意思がはっきりと読み取れる。

ゴーン氏は今後、渉外担当の川口均氏、経理担当の軽部博氏を取締役として、チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)のトレバー・マン氏を最高執行責任者(COO)として三菱自に送り込む。いずれもゴーンチルドレンの面々で、一気にゴーン流改革を進める構えだ。

三菱自は“信用の負債”を返済できるか

三菱自は日産と提携し、①共同購買コストの削減②車両プラットフォームの共有③技術の共有(PHEV、パワートレーン、自動運転)④発展途上市場および新興市場でのアライアンスチームのプレゼンス拡大⑤三菱自ユーザーに日産販売金融を活用⑥生産設備の共用といったシナジーを創出することで、まず2017年度で270億円、2018年度で約400億円のシナジー効果を上げ、1株当たり収益を2017年度で12円、2018年度で20円増加させる計画だ。営業利益率では2017年度で約1%、2018年度で約2%、2019年度で2%以上を目指す方針。シナジー効果を早期に取り込み、V字回復を図るプランだ。

まさに、ゴーン流の日産早期復活劇を三菱自に移した感があるが、日産の場合は多額の有利子負債を抱えていたのに対し、三菱自は大きな信用負債を抱えている違いがある。この信用負債の払拭には時間が掛かると見るのは筆者だけではないだろう。

手腕を振るう舞台が整ったゴーン氏

ともあれ、ルノー・日産連合に三菱自が加わることで、1,000万台クラブ参入ということになるが、ゴーン氏は「規模拡大が第一ではなく、グループ間シナジーを最大限生かすこと」が重要とする。また、三菱自のバックにある主力3企業も、日産に対し、3社と日産で51%以上の三菱自株式を向こう10年間保有することで合意し、安定株主化を進めた。

中間決算説明会に登壇した日産共同最高経営責任者の西川廣人氏は、共同購買、工場の共用、プラットフォームの共通化、技術の共有などで三菱自とのシナジー効果を創出したいと語った

自ら三菱自会長を兼任することになるゴーン社長の野望は、「世界トップの自動車メーカーとして君臨すること」だという。かつて日産の復活を果たした時点で、米GMとルノー・日産連合との提携を模索し、GMも巻き込んだトップを狙ったいきさつもある。

あえて信用負債という難題を抱える三菱自の実質的買収に踏み切ったゴーン社長には、三菱自再建の難しさ以上に、三菱グループ(特に三菱商事)との協力関係による飛躍の方が魅力的に映ったのだろう。これをどう生かすか、久しぶりにゴーン氏自らが張り切っている姿が見える。

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

音楽特化の「YouTube」が日本上陸! AIでレコメンド

2018.11.14

音楽に特化した「YouTube Music」が日本でスタート

有料会員になれば、広告なし再生やオフライン再生が可能

YouTube Premiumでは、オリジナルコンテンツの配信も開始

仕事や作業をする際、周りのノイズをカットして集中するために、音楽を聴くという人は多いだろう。わかる。よくわかる。フロアが騒がしいと作業に全く集中できない。周りで仕事している人がいるということがわからないのだろうか、と疑問に思うが、まぁそれは置いておいて、パソコンで作業する場合、手軽に好きな音楽を聴けることから、YouTubeで音楽を聴くという人も多いのではないだろうか。

そんなYouTubeユーザーに朗報である。11月14日、Googleは音楽に特化したストリーミング再生サービス「YouTube Music」を日本でローンチすると発表したのだ。

好みやシーンに応じて楽曲をレコメンド

YouTube Musicは、音楽再生に特化したアプリ。YouTubeにある公式の曲やプレイリスト、歌ってみた、弾いてみたなど、さまざまな音楽動画を視聴することができる。

また、機械学習が活用されているのも特徴の1つだ。視聴履歴などからユーザーの好みを把握するだけでなく、「いつどこで何をしているのか」を類推して、シーンに合わせた楽曲をレコメンド。家でリラックスしているときにお勧めの曲や、仕事中にお勧めの曲などを、自動でピックアップしてくれるという。

さらに、あいまいなカタカナ発音で洋楽を検索したり、CMタイアップ曲などから検索したりすることも可能で、聴きたい曲をスムーズに探すことができそうだ。

サービスの発表会において、YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏は「オーディエンスに着目した結果、今出ているアプリでは満足できていない層があることがわかり、そのユーザーに音楽サービスを届けようとこのサービスをスタートしました。YouTube Musicは、ユーザーの利用シーンや好みに合わせた曲を、YouTubeにある膨大なミュージックカタログからレコメンドするユニークさを持っています」と、サービスの魅力を強調した。

YouTube 音楽部門 プロダクトマネージメント責任者のT.ジェイ ファウラ氏

無料でも利用できるが、有料のYouTube Music Premiumに登録すると、「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」などが可能になる。料金はWeb/Androidが月額980円で、iOSが月額1280円(ともに税込み)だ。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏は「日本ユーザーの方は通勤通学などで音楽を聴くことが多いと思います。オフライン再生機能では、前日の夜に自宅のWi-Fiで翌日聴くべき曲を自動で更新し、通信なしで聴けるようになります。データの通信量などを気にする必要もないので、非常に便利な機能だと思います」と、オフライン再生のメリットを訴求した。

なお、同サービスには著作権管理システムが働いており、YouTubeと同様に適切な権利コントロールが可能だという。

YouTube 日本音楽ビジネス開発統括担当の鬼頭武也氏

「YouTube Originals」が日本でも始動

また今回、「YouTube Premium」という新しい有料プランもスタートする。料金はWeb/Androidだと月額1180円で、iOSだと月額1550円(ともに税込み)だ。YouTube Music Premiumの機能に加えて、YouTubeでも「広告なし再生」「バックグラウンド再生」「オフライン再生」機能が使えるようになる。

さらに、YouTube Premiumの会員は、12月から日本でも配信される予定のYouTubeオリジナルコンテンツ「YouTube Originals」を視聴することも可能だ。すでに世界30カ国でコンテンツを展開しているが、このたび、日本でも制作がスタート。SEKAI NO OWARIとMARVLEがコラボしたミュージックビデオ制作の裏側に迫るドキュメンタリー「Re:IMAGINE」、YouTuberのはじめしゃちょーが主演する連続ドラマ「The Fake Show」、YouTubeで人気のクリエイターが手がけた「隙間男:Stalking Vampire」の3つだ。

「YouTube Music Premium」と「YouTube Premium」で利用可能な機能
日本で制作される「YouTube Originals」のコンテンツ

発表会には「The Fake Show」に主演する、YouTuberのはじめしゃちょーが駆けつけた。

はじめしゃちょー

「今回僕が出演するのは、今までなかったYouTuberをテーマにしたドラマ。アカウント乗っ取りや炎上など、問題に直面しながらも夢に向かって進んでいく姿が描かれているので、僕の動画を見たことない人にも見てほしいですね」と動画の紹介をするとともに、YouTube Musicについて「普段、広く浅く、さまざまな音楽を聴くので、非常に楽しみなサービスです。ぜひ使ってみたいと思います」と期待を述べた。

なお、YouTube Musicは「Google Home」「Google Home Mini」にも対応予定。そのほか、現在「Google Play Music」を利用しているユーザーは、追加料金なしで移行することができるという。

新型VAIOの攻め手は十分か? 日の丸パソコン再起の展望

新型VAIOの攻め手は十分か? 日の丸パソコン再起の展望

2018.11.14

VAIOが独自機構の新型モバイルPC「A12」を発表

パソコン事業の成長は数年続き、海外展開も拡充

パソコンのVAIOから、ITブランドのVAIOを目指す

VAIOが業績が好調だ。2017年度は売上、利益ともに2ケタ成長となる増収増益を達成した。PC事業が順調なことに加え、EMS事業も進展したことが奏功したという。11月22日にはオールラウンダーPCというコンセプトを打ち出した新型モバイルパソコン「VAIO A12」を発売する。国内PC事業は合従連衡や海外への売却が続くが、数少ない「純国産」のPCメーカーであるVAIOの今後の戦略とは。

VAIO A12

働き方改革を追い風に地固め、今後は拡大を目指す

VAIOは、ソニーから独立後、法人向けビジネスを中心に据えたことで、早くから黒字化を実現しており、今期も順調な決算となった。売上高は前年同期比10.8%増となる214億8,800万円、営業利益は同13.9%増となる6億4,800万円で、過去最高益を達成した。

PCの法人需要が旺盛で好調な決算となった

法人向けモバイルPCの伸びが前年比30%増と順調だった点が特徴で、その背景にあるのが昨今のトレンドとなっている「働き方改革」だ。テレワークやフリーアドレスなど、それまでの決まったデスクに座ってデスクトップPCを操作するという環境から、ノートPCを持ち歩いて仕事をするという環境に移っていくなかで、VAIOの製品構成がこれに上手くはまった。

VAIO株式会社 代表取締役 吉田秀俊氏

VAIOでは、2017年から11~15インチのモバイルPCでラインアップを構築しており、今年はその後継機種を投入していた。パフォーマンスに特化したVAIO True PerformanceやVAIO Premium Editionといったバリエーションモデルも提供してはいるが、一方でVAIO ZやVAIO Z Canvasといった過去のハイエンドモデルに相当する製品はなく、あくまで「メインターゲットは法人ユーザー」を想定していることが伺える。

同社の吉田秀俊代表取締役は、今後も数年はPC事業が伸長を続けると想定している。働き方改革の拡大を受けて法人需要がさらに伸びることに備え、ラインアップをさらに拡充することで売り上げを伸ばしたい考えだ。

構想3年、開発2年の「VAIO A12」

これを目指して今月発売する新ラインアップが、12.5インチサイズのデタッチャブルWindows PC「VAIO A12」だ。市場にある課題とその解決を徹底的に図ったという製品で、求められているPCはクラムシェルか2in1か、タブレットタイプかコンバーチブルかデタッチャブルか、そういったゼロからの検討を行った結果、「構想3年、開発2年」を費やして仕上げたモバイルPCだという。

VAIO A12は、既存のカテゴライズでは、タブレットとキーボードの着脱機構を備えたいわゆる2in1モバイルPCだ
「膝上で使える」問題の解決や、まともなキーボードの搭載など、クラムシェルPCの使い勝手を求めた

前提とした課題がすべて解決しない限り製品化を見送るという強い意識で開発されたのがA12であり、それには新たな技術的ブレークスルーが必要となった。それが「Stabilizer Flap」と呼ばれる新たなデタッチャブルの機構だ。

「Stabilizer Flap」と呼ばれる独特のデタッチャブル機構が最大の特徴

きっかけは書籍の背の動きだったそうだが、軽量なPCを実現しながら、クラムシェル型と同等の使い勝手を実現した。キーボード部にはVGAやLAN端子を含む多くの端子類を装備して、周辺機器との接続性を求める日本の法人ユーザーのニーズに対応させた。実際、すでにA12導入に向けて動いている法人の中には、「VGAがあるのが選択の決め手」というところもあるそうだ。

機能はとにかくニーズの実現を徹底し、端子が豊富という今では貴重な仕様。手持ちのモバイルバッテリで本体を充電できる5V充電機能もいざというときに役立つ

コンシューマ向けで考えると、端子を減らしてスッキリとしてさらに薄型化、軽量化、低価格化も期待したいところだが、豊富な端子に対する法人ニーズは根強く、その点はVAIOとして譲れない線ということだろう。ただ、薄型軽量であることにはこだわり、タブレットとしては重さ607グラムで薄さ7.4ミリ、キーボードユニットを装着しても重さは1,099グラムまで抑え込んだ。

ソニー時代から同社が得意とする高密度実装技術を活かし、薄型軽量化にもこだわった

海外市場に再挑戦、PCラインアップも早々に増やす

PC事業では、一度は撤退した海外市場に向けて再挑戦にも乗り出している。販売エリアを順次拡大しており、今年は12カ国まで拡大した。今後は北米、中国、欧州での展開を計画している。特に欧州へは「検討中というわけではなく、決めている。来年早々にも展開する」(吉田氏)という。

PC事業の勝算はあるのか。吉田氏は、会社としてのVAIOが240人体制になり、「(ソニー時代に比べ)限られたリソースの中でどう成長戦略を描けるか」が課題であったと振り返る。この1年は「足りているもの、足りていないものを見極める」ことに集中し、独立後1~3年という「短期決戦を乗り切った」と話す。

引き続き、「VAIOはPC事業だけで将来生き残れるのか、という(市場の)問いに答えなければならない」としており、その答えとしては、「ビジネスユーザーにPCは必要なので、PCが大きな核としてVAIOを支えるのは間違いない」とするが、それだけではPC事業としての生き残りには不十分というのが吉田氏の認識だ。

そのため、技術革新や世の中の進化に伴って、ユーザーの生産性をいかに高められるかという観点で新しいPCを打ち出し、生き残りを図っていく考え。その一つの回答が「VAIO A12」となるが、来年以降の新製品でもそうした点を踏まえた新製品を投入していく。「来年度はもう少し違った形で生産性を高める製品を提供していく」という意向を示しており、年明け早々には今までとは異なるタイプの製品を企図しているようだ。

現行のラインアップ。最上部にあるのがVAIO A12で、来年さらなる新ラインアップを展開する

PCはVAIOのコアだが、VAIOはPCブランド脱却目指す

吉田氏は「貪欲な姿をもちながら、VAIOのブランドを伸ばす」と話すが、ここで大きな戦略の柱となるのは、「PCブランド」としての「VAIO」ブランドからの脱却だという。PC事業は順調とは言え、ライバルも多い。MicrosoftのSurfaceだけでなく、レノボとその傘下のNEC、富士通、鴻海傘下のシャープ、東芝、そしてデル、HPといった米国勢もあり、働き方改革の影響で伸びた市場をどこまで獲得できるかは未知数だ。

吉田氏は「次世代ITブランドとしてのVAIOを目指す」としており、単にPC単体を売るのではなく、セキュリティやキッティングといった付加価値サービスも盛り込むことで、トータルソリューションとしてのPC事業を展開する。

これに、EMS事業でのシナジーも追加していきたい考えだ。あわせてPCの周辺機器などを扱うことで、PC事業の強化にも繋げていき、市場全体の活性化も狙える。ハード、ソフトの両面から事業領域を拡大していく。

PC事業は、周辺機器やセキュリティソリューションなどでさらなる拡大を目指す

EMSやパートナーの強化、IoTなどの新規事業など、ビジネス領域の拡大で企業としてのVAIO自体の強化を目指すが、今後も屋台骨となるPC事業で好調を維持できるか。ここまでの短期決戦を乗り切り、ここから一過性の盛り上がりではなく継続した強い事業構造への転換を図る、吉田氏が「フェーズ2」と呼ぶVAIOの新たな成長戦略がはじまったばかりだ。