なぜスマートフォンの「実質0円」販売はなくならなかったか

なぜスマートフォンの「実質0円」販売はなくならなかったか

2016.11.18

今年4月に総務省が「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を打ち出したことを機に、携帯電話キャリアがスマートフォンなどの端末を大幅に値引き、「実質0円」など極端に安価で販売することが事実上禁止された。しかしながら実質0円販売は、数こそ減少したとはいえ現在も継続している。その理由はどこにあるのだろうか。

「実質0円」販売が事実上禁止となった背景

安倍晋三首相の携帯電話料金引き下げ発言をきっかけとして、昨年末に総務省のICTサービス安心・安全研究会が実施した「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」。その結果を受け、今年4月に総務省は「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を打ち出した。

昨年実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果を受け、「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」が打ち出された

このガイドラインについて改めて確認しておくと、携帯電話回線の契約と、スマートフォンなど端末の販売を一体化することで、月々の通信料を割り引き、端末価格が大幅に値引きされたように見せる従来の商習慣が、MVNOの新規参入を阻害するなど問題となることから、割引額を適正な額にするべきというものである。これはつまり、キャリアの「実質0円」販売を事実上認めないという総務省の宣言でもあるのだ。

実質0円販売というのは、2年間携帯電話回線を継続的に契約し続けてもらう代わりに、月々の通信料を一定額割り引き、端末の実質負担金を0円にするというもの。現在は携帯電話の普及率が100%を超えるなど飽和傾向にあることから、特に2014年の春頃までは、番号ポータビリティ(MNP)による他社からの乗り換えでユーザーを奪うため、乗り換えユーザーを優遇して端末価格が実質0円をはるかに割り込み、何万円ものお金や商品券がもらえるなど割引販売が過熱化。社会問題として多くのメディアに取り上げられるほど、問題視された。

それゆえ総務省はガイドラインを基にして、高額端末が実質0円を割り込む(つまり購入したユーザーがお金をもらえる)価格や、実質数百円程度になるキャリアの割引・キャンペーン施策を見つけては、次々と行政指導を実施してきた。実際、ガイドラインを打ち出した直後の4月5日には、NTTドコモとソフトバンクに対して行政指導を実施。4月15日にはKDDIに対し口頭注意を実施したほか、10月7日にもやはり、ガイドラインを基に3キャリア(沖縄セルラーを含む)に行政指導を実施している。

こうした総務省の一連の施策によって、実質0円販売は行政から事実上禁止され、携帯電話販売の現場でも高額端末が実質0円、あるいはそれに近い価格で販売されるケースは大幅に減少した。しかしながら、実質0円販売が完全になくなったのかというと、実はそうではない。現在も一部の店舗の店頭で「実質0円」をうたって販売するケースが散見されるのが実情だ。

ガイドラインの"抜け穴"を活用した実質0円販売

なぜ実質0円販売がなくならなかったのかというと、一言で言えばガイドラインに"抜け穴"があったからである。

抜け穴の1つは、キャリアが販売代理店に出す、販売奨励金のあり方である。販売代理店に対して端末購入を条件とした多額の奨励金を出すことは、もちろんガイドラインでも認められていない。しかしながら回線の販売など、直接端末にかかるものではない奨励金に関しては、ガイドラインの対象とはされていなかった。

そうしたことから、回線販売などに対する奨励金を販売代理店に出し、販売代理店がその奨励金を原資として端末の値引きに活用することで高額端末を値引き、実質0円を割り込む価格で販売するケースが多く発生したのである。

「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」第1回のソフトバンク公表資料より。端末販売にかからない販売代理店への奨励金を活用し、代理店が端末の値引きを実施するケースが多く見られるという

また販売代理店が、ごく短期間の期間限定キャンペーンによる割引によって、実質0円販売を実現するケースも多く存在する。こちらもガイドラインで明確な規制がなされているわけではないことから、特に土日など週末に限定キャンペーンを打ち出すことで、端末の実質0円を割り込む販売をするケースが多く見られるようだ。

キャリア自身が直接端末を値引くキャンペーンを実施したり、回線販売に割引を乗せるたりすることなどは、もちろんガイドラインでも厳しく制限されている。だがガイドラインの抜け穴を突く形で、販売代理店を経由した割引、あるいは販売代理店独自の割引がなされ、実質0円やそれを割り込む販売手法が現在でも展開されているわけだ。

性格が異なるものまで踏み込む総務省

もっともガイドラインでは、その取り組み状況や進捗などについて定期的にフォローアップを実施するとしている。それゆえ、先のタスクフォースから約1年が経過した10月13日から11月7日にかけて、ICTサービス安心・安全委員会は「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」を実施。発覚した抜け穴を塞ぎ、実質0円の禁止を徹底するための方策について議論を進めていた。

総務省では先のガイドラインなどの成果を確認し、フォローするための「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」を10月より実施していた

だが一方で、その実質0円禁止の徹底に向けた総務省の対応に関して、ユーザー側から疑問を抱く声も出ているようだ。それを象徴しているのが、10月7日に3キャリアが行政指導を受けたケースである。これは主に、特定のユーザー向けに配布された割引クーポンと、他の割引や特典などを組み合わせた場合、実質0円を割り込むケースがあったことから、各社に行政指導がなされたわけだ。

しかしそのクーポンの中には、キャンペーンなど直接的な販売促進のために配布したものではないものがいくつか含まれていた。そうしたケースに対しても規制がかけられてしまうことに、疑問の声が上がっているわけだ。

例えばNTTドコモが「不適正な端末購入補助」として是正を「要請」されたケースの場合、同社のクレジットカード「dカードGOLD」の会員向けに配布されていた「ケータイ購入ご優待券」を用いた端末割引で、一部実質0円を割り込むケースがあったことが問題視されている。しかしながらこのケータイご優待券は、年会費が必要なdカードGOLDの会員の会費を原資とした会員特典として、前身の「DCMX GOLD」の時代から配布されていたもの。キャリアの直接的な割引キャンペーンとは明らかに性格が異なるものだ。

「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」第1回のNTTドコモ公表資料より。「dカードGOLD」会員向けのクーポンを使用した場合、一部に実質0円を割り込むケースがあったとのこと

またKDDIの場合は、販売促進のためダイレクトメールとして配布するクーポンだけでなく、株主優待によるクーポンなども配布しているが、それらを複数枚組み合わせることで、実質0円を割り込むケースが発生することが問題視された。その結果、総務省から「口頭注意」を受け、一部のクーポンを減額したほか、株主優待の内容も変更するなどの対応が迫られている。だがダイレクトメールによるクーポンはともかく、株主優待のクーポンは明らかに販売促進とは性格が異なるものであることから、そうした部分にまで規制が入ることには、やはり疑問を抱く向きがあるようだ。

総務省のこだわりはユーザーのためになっているのか

実質0円販売の撲滅を図りたい総務省は、その手を緩めることなく規制強化に向けてまい進する構えを見せている。だが、2014年頃のキャッシュバック合戦のように、実質0円販売があまりに過熱することには問題があるだろうが、撲滅に向けてまい進することが真にユーザーのためになるかどうかに関しては、疑問を呈する声も少なくない。そもそも総務省の一連の取り組みは、安倍晋三首相の発言にある通り携帯電話料金を引き下げるためにあるはずなのだから、実質0円販売の撲滅が、本当に携帯電話の料金引き下げにつながっているのかどうかを、ユーザー側もしっかり見届ける必要があるだろう。

新商品連発のマックがレギュラーメニューを増やさない理由

新商品連発のマックがレギュラーメニューを増やさない理由

2016.11.17

日本マクドナルドによる新メニュー攻勢が止まらない。ここ最近では、過去の人気商品を復活させるキャンペーンを展開し、「テキサスバーガー」などの懐かしいメニューを期間限定で販売。同キャンペーンのラストを飾る復活メニューは「かるびマック」に決まった。ここで疑問なのは、マックが売れ行き好調な新商品をレギュラーメニューに組み込まないこと。実際に売れる商品であれば、常に店頭に置いておけば良さそうなものだが、なぜマックは定番メニューを増やさないのだろうか。

かるびマック発表会の様子

月1種類以上のハイペースで新商品を投入

2016年の動向を振り返ると、マックが世に問うた新商品の多さに驚かされる。名称を公募した「北のいいとこ牛(ぎゅ)っとバーガー」に始まり、同社が今年発売した新商品はハンバーガーだけで10種類以上。「バーガーラブ」というコンセプトを打ち出した4月以降は、平均すれば月に1種類以上というハイペースで新作をリリースしている。ところが、マックのレギュラーメニューは増えていない。

「(レギュラーメニューは)バランスがいい」。日本マクドナルド・メニューマネジメント部の若菜重昭上席部長によれば、レギュラーメニューの商品力が堅固だからこそ、マックは新メニューという形で次々に新しい挑戦ができるのだという。今年発売した新商品の中には、ビッグマックを更に巨大化させた「グランドビッグマック」のような攻めのメニューも存在する。思い切った新メニューを打ち出せるのも、定番メニューの安定した実力に自信を持っている故なのだろう。

かるびマックは1998年に初登場した商品。ビーフパテとカルビという牛肉同士の組み合わせは斬新だと話題を呼んだという。今回は2001年以来の復活となる。価格は単品で390円、バリューセットで690円だ

SNSを活用したプロモーションを実施

新メニューを出し続けるのは、話題を提供することによる集客力の向上が主な目的だ。普段からマックを使っている固定客には、定期的に新メニューを提示することで新鮮な印象を持ってもらえる。大々的なプロモーションが実施できるので、新商品の投入は“マック離れ”の状態にある顧客に訴求する手立てにもなる。

新メニューのプロモーションで見逃せないのは、マックがSNSとの連携を強化している点だ。新メニューの発売に合わせてマックは、SNSで新商品を評価したり、写真を撮ってアップしたりすると、マックカード(マックで使える商品券)をプレゼントするというような施策を実施。こういった施策により、顧客と「よりインタラクティブな」(若菜氏)関係を構築することができているという。

かるびマックでフィナーレを迎えた人気商品復刻キャンペーンでは、復活させる商品を決める際に顧客の声を参考にしたという。顧客の要望に沿って発売した商品群は軒並み好評で、復活商品第2弾の「ベーコンポテトパイ」は材料の供給が間に合わず、数量限定となるほどの人気を博した。顧客の声は新商品を考えるうえで重要な判断材料になっているようだ。SNS経由で固定ファンを増やし、顧客との対話を促進しているマックは、今後の新メニュー展開にも顧客の要望を反映しやすい状況を整えつつあるといえるだろう。

それでは、マックの新メニュー戦略は今後、どうなっていくのだろうか。

今期決算は“マック復活”で着地?

マックの2016年12月期は、多くの新商品にも支えられる形で好調に推移している。期初の通期業績予想では33億円の黒字を見通していた営業損益も、第3四半期決算を発表したタイミングで50億円の黒字に上方修正した。今期決算は“マック復活”を印象付けるような結果で着地しそうだ。

人気商品復活キャンペーンの終了で落ち着くかと思われた新メニュー攻勢も、若菜氏が「お楽しみに」と話していたところを見ると、まだまだ手を緩める気はない様子。同氏は今期中にも何らかの新商品を用意しているような口ぶりだった。

真価を問われる来期のマック

新メニューでの集客には成功したマックだが、気になるのは今後も同様のペースで新作を投入し続けられるかどうかだ。今回のキャンペーンを見ても明らかなように、マックは復活・再販を仕掛けられる過去の資産を大量に持っているが、そろそろ何か新しい、驚くような新商品を見たいような気もする。

かるびマックの発表会に駆けつけた千原ジュニアさんは、食べた感想を「懐かしい味」と表現。復活させられる商品を多く持っているのはマックの強みだが、同社が大切にする“ワクワク感”を感じられるような新商品も見たいところだ

新規参入の外資系バーガーチェーンも含め、様々なメニューが出回るようになった日本のハンバーガー市場であるだけに、この市場を開拓したマックが次に何を仕掛けるかには注目したくもなる。売れる新商品を定期的に投入し続けるのか、あるいはメニュー以外の部分で何か新しい施策が飛び出すのか。来期はマック復活の真価が問われそうだ。

世界覇権に再挑戦? 三菱自を手にした日産ゴーン社長の野望

世界覇権に再挑戦? 三菱自を手にした日産ゴーン社長の野望

2016.11.17

日産自動車に乗り込み、2兆円を超える有利子負債を抱えた同社の復活を成し遂げたカルロス・ゴーン氏。聖域なきリストラなど、ゴーン氏が遂行した「日産リバイバルプラン」は日産のV字回復として結実した。次に取り掛かるのは三菱自動車工業だが、そもそもゴーン氏はなぜ、同社の再建という難題にチャレンジするのだろうか。同氏を突き動かす“野望”とは。

世界覇権への野望、再び

燃費不正問題で三菱自の経営が2000年代前半に次いで再び揺らぎ、その救済を電光石火で決めたのが日産のゴーン社長だった。今年の5月12日に日産による三菱自への資本参加(34%出資)を発表した。

日産による三菱自への出資(三菱自株の急落底値時の2,340億円)は10月20日に完了。それとともに、ゴーン社長自ら三菱自会長として乗り込むことになった。12月14日の三菱自臨時株主総会で決定する。これで名実ともに日産が三菱自を傘下に置き、三菱商事など三菱グループとも連携するルノー・日産グループが始動するわけである。

なぜ日産は、「リコール隠し」に続く「燃費不正」で信用が失墜した三菱自の救済に動いたのか。一言で言えば、「ゴーン、世界覇権への野望再び」ということだろう。

ゴーン氏は世界覇権へ向け再び動き出した

ゴーン氏は1999年、日産の事実上のトップとして仏ルノーから乗り込み、17年にわたり君臨し続けている。この間に日産をV字回復させた一方、親会社ルノーのトップも兼ねている同氏だが、いささか「ゴーン流経営」に停滞感が出ていたことも、同氏を三菱自の救済に突き動かした動機になっているかもしれない。

日産コミットメント経営に陰り?

日産はこの2016年度を最終年度とする中期経営計画「パワー88」を進めている。それは、グローバル販売での市場シェア8%と、売上高営業利益率8%の達成を目標とするものだ。

だが、中間決算(2016年4~9月)発表でもグローバル販売シェアは5.8%(前年同期6.1%)、営業利益率は6.4%(同6.7%)とポイントダウンしている。営業利益率については急激な円高での為替差損が大きく、「円高なかりせば」との見方もあるが、それにしてもゴーン流のコミットメント(目標必達)経営に陰りが出ていることは否めない。

電気自動車(EV)の盟主を目指し、日産はパワー88期間中にルノーとの合計で150万台の販売目標を打ち出していたが、主力のリーフは20万台強にとどまる。最近ではEVの主役の座をベンチャーの米テスラモーターズに奪われた感がある。

その意味では、ルノー・日産連合には停滞感があり、「現状に満足していない」(ゴーン社長)状況にある。だからこそ、三菱自を傘下に収めることは、グループとしてのグローバル販売の1,000万台規模入り、三菱自が強いアセアンなど新興国の強化、プラグインハイブリッド車(PHEV)で先行する三菱自の活用など、次の飛躍の足がかりになると判断したわけである。

しがらみ無視のリバイバルプラン

日産は1990年代後半に業績が悪化し、2兆円に上る借金(有利子負債)を抱えて海外提携を模索し始めた。最終的にはルノーとの資本提携を決め、1999年3月に提携調印を発表した。筆者はこの経過を著書「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)に著している。ルノーから日産の救世主として送り込まれてきたのがカルロス・ゴーン社長である。

「日産リバイバルプラン(NRP)」。ゴーン流経営による日産復活を目指した中期経営計画の第一歩は、旧来の日産のしがらみを断ち切った聖域なきリストラとコミットメント経営だった。社内はクロスファンクショナルチーム(CFT、部門間の壁をなくす全社横断チーム)、V-upプログラム(部門横断的なラインマネジメントの問題解決)を推進し、外国人、女性社員の登用で日産の企業文化を大きく変貌させた。

ゴーン社長が日産で最初に手掛けた中計NRPは、当期利益の黒字化、営業利益率4.5%以上の達成、有利子負債7,000億円以下の3つのコミットメントだった。2000年4月~2002年3月の3カ年NRPを1年前倒しで達成した同氏の手腕は、ゴーン流V字回復として脚光を浴びた。続く「日産180(2002年4月~2005年3月)」では、さらに営業利益率8%、有利子負債ゼロ、グローバル販売100万台増加の3つのコミットメントを掲げた。

日産とルノーのトップに君臨して10年余のゴーン社長

当時、筆者はゴーン社長にインタビューしたが、社内改革とルノーとのシナジー(車台、エンジン、部品の共通化、購買調達の共同化など)効果を出せば、日産は復活できるとの明快な答えが返ってきたのを思い出す。ゴーン社長は、この日産V字回復という経営成果により、2005年5月からルノーの会長兼CEO(最高経営責任者)に就いてルノー・日産連合のトップに君臨し、現在に至っている。

ルノー・日産アライアンスのトップに君臨するゴーン氏

ゴーン社長がルノーから日産のトップに送り込まれて17年、ルノーのトップも兼任するようになってからは10年余が経過する。オーナーならいざしらず、いわゆる雇われ社長としては異例の長期政権だ。

ゴーン社長の代名詞ともなったコミットメント経営だが、ここへきてほころびも見えてきている。具体的には、今期を最終年度とする「パワー88」の目標が、急激な円高環境下とはいえ「必達」が難しくなってきていること、得意のEVが思うように市場に浸透しないこと、新興国向け戦略ブランド「ダットサン」を立ち上げたものの、成果が遅れていること、母国市場の日本での販売が低迷しており、シェアが1桁に落ちていることなどが不安材料だ。

一方でルノーは、43.4%出資の日産を持ち分子会社としており、その連結決算では、日産からの上納で何とか黒字を確保している現状にある。ルノーの株主である仏政府には、ルノーを通じて日産への経営関与を強めようとするなど微妙な動きもある。ゴーン社長の高額報酬は日本でも話題になるが、ルノーの株主総会では高額反対となり、報酬減額に追い込まれる状況さえでてきた。

つまり、ゴーン社長にとって停滞感というか閉塞感も漂う中で、三菱自動車の実質的買収は、その打開へ向けた乾坤一擲の決断だったのではないだろうか。

一方の三菱自。今期中間決算発表は、まず燃費不正問題のお詫びから入った。2000年代初頭の「リコール隠し」から立ち直った矢先の今回の問題。同社は信用失墜という「信用負債」を抱えて再生へと歩き出すことになるが、復活への道筋が全く見えないわけでもない。

中間決算で損失を一括計上、復活の準備に入る三菱自

三菱自の中間決算は、営業利益316億円の赤字。当期純利益では燃費試験関連損失1,662億円の特別損失を計上し、2,196億円の大幅赤字となった。今期の通期業績見通しでは、営業利益276億円の赤字、当期純利益2,396億円の赤字となる予想だ。

中間決算説明会に登壇した三菱自副社長執行役員の池谷光司氏は、「日産が2000年頃からやってきた改革の手法は(三菱自でも)全社的に活用できる」と話していた

つまり、三菱自は日産の出資完了を前に、将来発生しそうな損失を中間決算で一括計上し、業績の大幅下方修正に踏み切ったのだ。奇しくも三菱自の当期利益赤字幅は、日産の出資額2,370億円とほぼ同額である。

益子体制では一定の成果

三菱自動車といえば、1970年に米クライスラーとの合弁提携とともに、三菱重工業の自動車事業部門が独立した会社だ。当時は軽自動車から大型トラックまでを取り扱う、世界でも類を見ない総合自動車メーカーだった。1990年代半ば頃までは、トヨタ、日産に次ぐ日本車メーカー第三勢力の旗頭の位置づけを強めていた。一時はメインバンクが同じ三菱銀行であることから、「三菱自、ホンダを買収か」と言われたり、あるいは「日産の背中が見えた」と三菱自トップの発言で話題になったこともある。

だが、1996年に米国工場でのセクハラ問題、翌年に総会屋への利益供与事件、2000年にはリコール隠しと不祥事が続出する。2000年にはダイムラークライスラー(当時)の出資を受けてダイムラー傘下となったものの、2004年にリコール隠しが再燃したことで、ダイムラーは「三菱ふそう」のトラック部門を子会社化し、三菱自からは手を引くことになる。その後は三菱グループの主力企業である三菱重工、三菱商事、三菱銀行が再建支援に入り、2005年には三菱商事の自動車事業本部長だった益子修氏が三菱自社長に就任したという経緯がある。

益子体制となった三菱自は、タイを中心とするアジア戦略を強化するとともに、車種を軽自動車とSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)に絞り、合理化経営を徹底した。その結果、2014年3月期には三菱主力3社の優先株を解消するとともに、復配にこぎつけた。益子体制9年間の再建策は終わり、昨年には三菱自プロパーの相川哲郎氏が社長に就任。益子会長・相川社長体制に切り替わった矢先に「軽自動車燃費不正問題」が露呈したのだ。

ゴーン流改革の遂行に向けた人材配置

三菱自の燃費不正は軽自動車にとどまらず、ほぼ全車種に及んでいたことからブランドは地に墜ちた。さすがの三菱グループ支援もこの期に及んではままならず、相川社長の引責辞任により、会長兼社長となった益子氏は日産に助けを求めた。軽自動車の合弁生産で2010年から提携していた日産サイドは、ゴーン社長の即断で手を差し伸べた。

三菱自の企業体質は、おっとり型で「たこつぼ文化」と言われてきた。とくに開発部門でのそうした体質がリコール隠し、燃費不正につながったと言われる。一方で、戦闘機の流れを汲む技術力には定評があり、軽自動車で先駆けたEVと、これをベースとしたSUVのPHEVの商品力は評価が高い。加えて、三菱商事と連携し、タイを中心とするアセアン市場を開拓した三菱車は、三菱自の収益力に大きく寄与している。

日産は、資本提携発表とともに、いち早く三菱自のテコ入れに動いた。長らくゴーン体制で開発部門のトップだった山下光彦氏を三菱自の開発担当副社長として送り込んだのだ。まずは、問題の開発部門をゴーン流に改革するという意思がはっきりと読み取れる。

ゴーン氏は今後、渉外担当の川口均氏、経理担当の軽部博氏を取締役として、チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)のトレバー・マン氏を最高執行責任者(COO)として三菱自に送り込む。いずれもゴーンチルドレンの面々で、一気にゴーン流改革を進める構えだ。

三菱自は“信用の負債”を返済できるか

三菱自は日産と提携し、①共同購買コストの削減②車両プラットフォームの共有③技術の共有(PHEV、パワートレーン、自動運転)④発展途上市場および新興市場でのアライアンスチームのプレゼンス拡大⑤三菱自ユーザーに日産販売金融を活用⑥生産設備の共用といったシナジーを創出することで、まず2017年度で270億円、2018年度で約400億円のシナジー効果を上げ、1株当たり収益を2017年度で12円、2018年度で20円増加させる計画だ。営業利益率では2017年度で約1%、2018年度で約2%、2019年度で2%以上を目指す方針。シナジー効果を早期に取り込み、V字回復を図るプランだ。

まさに、ゴーン流の日産早期復活劇を三菱自に移した感があるが、日産の場合は多額の有利子負債を抱えていたのに対し、三菱自は大きな信用負債を抱えている違いがある。この信用負債の払拭には時間が掛かると見るのは筆者だけではないだろう。

手腕を振るう舞台が整ったゴーン氏

ともあれ、ルノー・日産連合に三菱自が加わることで、1,000万台クラブ参入ということになるが、ゴーン氏は「規模拡大が第一ではなく、グループ間シナジーを最大限生かすこと」が重要とする。また、三菱自のバックにある主力3企業も、日産に対し、3社と日産で51%以上の三菱自株式を向こう10年間保有することで合意し、安定株主化を進めた。

中間決算説明会に登壇した日産共同最高経営責任者の西川廣人氏は、共同購買、工場の共用、プラットフォームの共通化、技術の共有などで三菱自とのシナジー効果を創出したいと語った

自ら三菱自会長を兼任することになるゴーン社長の野望は、「世界トップの自動車メーカーとして君臨すること」だという。かつて日産の復活を果たした時点で、米GMとルノー・日産連合との提携を模索し、GMも巻き込んだトップを狙ったいきさつもある。

あえて信用負債という難題を抱える三菱自の実質的買収に踏み切ったゴーン社長には、三菱自再建の難しさ以上に、三菱グループ(特に三菱商事)との協力関係による飛躍の方が魅力的に映ったのだろう。これをどう生かすか、久しぶりにゴーン氏自らが張り切っている姿が見える。