なぜスマートフォンの「実質0円」販売はなくならなかったか

なぜスマートフォンの「実質0円」販売はなくならなかったか

2016.11.18

今年4月に総務省が「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を打ち出したことを機に、携帯電話キャリアがスマートフォンなどの端末を大幅に値引き、「実質0円」など極端に安価で販売することが事実上禁止された。しかしながら実質0円販売は、数こそ減少したとはいえ現在も継続している。その理由はどこにあるのだろうか。

「実質0円」販売が事実上禁止となった背景

安倍晋三首相の携帯電話料金引き下げ発言をきっかけとして、昨年末に総務省のICTサービス安心・安全研究会が実施した「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」。その結果を受け、今年4月に総務省は「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を打ち出した。

昨年実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果を受け、「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」が打ち出された

このガイドラインについて改めて確認しておくと、携帯電話回線の契約と、スマートフォンなど端末の販売を一体化することで、月々の通信料を割り引き、端末価格が大幅に値引きされたように見せる従来の商習慣が、MVNOの新規参入を阻害するなど問題となることから、割引額を適正な額にするべきというものである。これはつまり、キャリアの「実質0円」販売を事実上認めないという総務省の宣言でもあるのだ。

実質0円販売というのは、2年間携帯電話回線を継続的に契約し続けてもらう代わりに、月々の通信料を一定額割り引き、端末の実質負担金を0円にするというもの。現在は携帯電話の普及率が100%を超えるなど飽和傾向にあることから、特に2014年の春頃までは、番号ポータビリティ(MNP)による他社からの乗り換えでユーザーを奪うため、乗り換えユーザーを優遇して端末価格が実質0円をはるかに割り込み、何万円ものお金や商品券がもらえるなど割引販売が過熱化。社会問題として多くのメディアに取り上げられるほど、問題視された。

それゆえ総務省はガイドラインを基にして、高額端末が実質0円を割り込む(つまり購入したユーザーがお金をもらえる)価格や、実質数百円程度になるキャリアの割引・キャンペーン施策を見つけては、次々と行政指導を実施してきた。実際、ガイドラインを打ち出した直後の4月5日には、NTTドコモとソフトバンクに対して行政指導を実施。4月15日にはKDDIに対し口頭注意を実施したほか、10月7日にもやはり、ガイドラインを基に3キャリア(沖縄セルラーを含む)に行政指導を実施している。

こうした総務省の一連の施策によって、実質0円販売は行政から事実上禁止され、携帯電話販売の現場でも高額端末が実質0円、あるいはそれに近い価格で販売されるケースは大幅に減少した。しかしながら、実質0円販売が完全になくなったのかというと、実はそうではない。現在も一部の店舗の店頭で「実質0円」をうたって販売するケースが散見されるのが実情だ。

ガイドラインの"抜け穴"を活用した実質0円販売

なぜ実質0円販売がなくならなかったのかというと、一言で言えばガイドラインに"抜け穴"があったからである。

抜け穴の1つは、キャリアが販売代理店に出す、販売奨励金のあり方である。販売代理店に対して端末購入を条件とした多額の奨励金を出すことは、もちろんガイドラインでも認められていない。しかしながら回線の販売など、直接端末にかかるものではない奨励金に関しては、ガイドラインの対象とはされていなかった。

そうしたことから、回線販売などに対する奨励金を販売代理店に出し、販売代理店がその奨励金を原資として端末の値引きに活用することで高額端末を値引き、実質0円を割り込む価格で販売するケースが多く発生したのである。

「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」第1回のソフトバンク公表資料より。端末販売にかからない販売代理店への奨励金を活用し、代理店が端末の値引きを実施するケースが多く見られるという

また販売代理店が、ごく短期間の期間限定キャンペーンによる割引によって、実質0円販売を実現するケースも多く存在する。こちらもガイドラインで明確な規制がなされているわけではないことから、特に土日など週末に限定キャンペーンを打ち出すことで、端末の実質0円を割り込む販売をするケースが多く見られるようだ。

キャリア自身が直接端末を値引くキャンペーンを実施したり、回線販売に割引を乗せるたりすることなどは、もちろんガイドラインでも厳しく制限されている。だがガイドラインの抜け穴を突く形で、販売代理店を経由した割引、あるいは販売代理店独自の割引がなされ、実質0円やそれを割り込む販売手法が現在でも展開されているわけだ。

性格が異なるものまで踏み込む総務省

もっともガイドラインでは、その取り組み状況や進捗などについて定期的にフォローアップを実施するとしている。それゆえ、先のタスクフォースから約1年が経過した10月13日から11月7日にかけて、ICTサービス安心・安全委員会は「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」を実施。発覚した抜け穴を塞ぎ、実質0円の禁止を徹底するための方策について議論を進めていた。

総務省では先のガイドラインなどの成果を確認し、フォローするための「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」を10月より実施していた

だが一方で、その実質0円禁止の徹底に向けた総務省の対応に関して、ユーザー側から疑問を抱く声も出ているようだ。それを象徴しているのが、10月7日に3キャリアが行政指導を受けたケースである。これは主に、特定のユーザー向けに配布された割引クーポンと、他の割引や特典などを組み合わせた場合、実質0円を割り込むケースがあったことから、各社に行政指導がなされたわけだ。

しかしそのクーポンの中には、キャンペーンなど直接的な販売促進のために配布したものではないものがいくつか含まれていた。そうしたケースに対しても規制がかけられてしまうことに、疑問の声が上がっているわけだ。

例えばNTTドコモが「不適正な端末購入補助」として是正を「要請」されたケースの場合、同社のクレジットカード「dカードGOLD」の会員向けに配布されていた「ケータイ購入ご優待券」を用いた端末割引で、一部実質0円を割り込むケースがあったことが問題視されている。しかしながらこのケータイご優待券は、年会費が必要なdカードGOLDの会員の会費を原資とした会員特典として、前身の「DCMX GOLD」の時代から配布されていたもの。キャリアの直接的な割引キャンペーンとは明らかに性格が異なるものだ。

「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」第1回のNTTドコモ公表資料より。「dカードGOLD」会員向けのクーポンを使用した場合、一部に実質0円を割り込むケースがあったとのこと

またKDDIの場合は、販売促進のためダイレクトメールとして配布するクーポンだけでなく、株主優待によるクーポンなども配布しているが、それらを複数枚組み合わせることで、実質0円を割り込むケースが発生することが問題視された。その結果、総務省から「口頭注意」を受け、一部のクーポンを減額したほか、株主優待の内容も変更するなどの対応が迫られている。だがダイレクトメールによるクーポンはともかく、株主優待のクーポンは明らかに販売促進とは性格が異なるものであることから、そうした部分にまで規制が入ることには、やはり疑問を抱く向きがあるようだ。

総務省のこだわりはユーザーのためになっているのか

実質0円販売の撲滅を図りたい総務省は、その手を緩めることなく規制強化に向けてまい進する構えを見せている。だが、2014年頃のキャッシュバック合戦のように、実質0円販売があまりに過熱することには問題があるだろうが、撲滅に向けてまい進することが真にユーザーのためになるかどうかに関しては、疑問を呈する声も少なくない。そもそも総務省の一連の取り組みは、安倍晋三首相の発言にある通り携帯電話料金を引き下げるためにあるはずなのだから、実質0円販売の撲滅が、本当に携帯電話の料金引き下げにつながっているのかどうかを、ユーザー側もしっかり見届ける必要があるだろう。

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

カレー沢薫の時流漂流 第43回

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

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