【アドウェイズ】携帯→スマホ、静止画→動画 M&Aでネット業界の変化に先手

【アドウェイズ】携帯→スマホ、静止画→動画 M&Aでネット業界の変化に先手

2016.11.22

【アドウェイズ】携帯→スマホ、静止画→動画 M&Aでネット業界の変化に先手

 アドウェイズ<2489>が積極的なM&Aを繰り返し、インターネット広告市場で事業を拡大している。「ガラケー」と呼ばれる従来型の携帯電話向け事業を売却する一方、スマートフォン向けや海外向けサービス、ウェブ動画の技術を持つ企業を相次ぎ買収した。資本業務提携先の伊藤忠商事とも連携し、アジアの広告事業にも注力する。変化の激しいネット業界で時代の先手を打つアドウェイズのM&A戦略を読み解く。




【企業概要】 スマホ向け広告配信が主力、アプリ・コンテンツも展開

 アドウェイズは国内最大級のアフィリエイトサービスの運営をはじめ、スマ―トフォン向けの広告配信サービスやスマートフォンアプリ向け効果測定システムを主力とし、アプリ・コンテンツの企画・開発・運営など多彩な事業を展開している会社である。2001年に設立し、2006年に東証マザーズに上場している。海外拠点は、アジア、北米地域など11カ国。昨今では、アジアを中心にスマートフォン向け広告事業に注力している。

 事業のセグメントは 、広告事業、アプリ・メディア事業、海外事業に分けることができる。

 広告事業は、スマートフォンアプリ向け広告サービス「AppDriver」、モバイル向けアフィリエイト広告サービス「Smart-C」、PCサイト向けアフィリエイト広告サービス「JANet」を中心に、インターネット上で事業展開を行う企業に対して、インターネット広告を総合的に提供している。

 アプリ・メディア事業はスマートフォン向けアプリ開発の他、士業向けのポータルサイト等のメディアの運営等を行っている。

 海外事業は、中国・香港・台湾・韓国・米国・シンガポールにおいて、現地企業と各国における外国企業を対象として、インターネットマーケティングの総合支援サービスを提供している。

 またそれら3事業に加え、インターネットを活用した中古品買取販売といった新規事業にもチャレンジしている。

【経営陣】 岡村社長が2000年に創業

 岡村陽久社長は2000年にアドウェイズの前身となるインターネット専門の広告配信ネットワークサービスを目的としたアドウェイズエージェンシーを個人事業として創業。2001年に大阪でアドウェイズを設立し、代表取締役社長に就任。40歳。

【株主構成】 伊藤忠商事が第2位株主、業務提携も

 創業者の岡村陽久社長が今も20%近い持ち株比率で筆頭株主となっている。第2位の伊藤忠商事は2007年からアドウェイズと資本業務提携している。中国や東南アジアなどの海外展開を強化するため、2011年に伊藤忠商事が出資比率を20%に引き上げ持分法適用会社となった。2014年に伊藤忠が持ち株の一部を売却し、持分法適用会社から外れている。

【M&A戦略】 情報媒体の潮流変化に合わせ買収活用

 ユーザーに利用される情報媒体の潮流が変わる中、主力の広告事業の拡大に向けて、巧みにM&Aを活用している当社の戦略を読み解きたい。

モバイル(従来型携帯電話)向け広告の強化

 はじめのM&Aは2008年8月に子会社化したトイビィー・エンタテインメント(商号はアドウェイズ・エンタテインメントに変更)。エンタテインメントコンテンツの企画製作会社で、人気の韓流スター等の携帯キャリアの公式サイト等、延べ100サイトを運営しており、映画の企画開発も行っていた会社である。

 トイビィーが持つ公式モバイルサイト(ユーザー課金型)の運営ノウハウ及びエンタテインメントコンテンツの企画開発力と、アドウェイズが持つ一般サイト(広告収入型)のノウハウを融合することにより、アフィリエイト広告における競合他社との差別化、利益率の向上などシナジー効果を得られると判断したようだ。(なおその後スマートフォンの普及に伴い、従来型携帯電話向けビジネスを行っていた当社を2012年5月に他社に売却するに至っている。)

SNSやスマートフォン向け広告への注力

 2011年7月には、元々アドウェイズのモバイル広告事業の責任者が独立して設立したラビオンソーシャルを子会社化した。ソーシャルゲームを始めゲームコンテンツの提供に実績があり、スマートフォンアプリ「小悪魔キャバ嬢らいふ」を開発するなど、多くのコンテンツ開発・運営ノウハウを保有している会社である。

 また同様のヒットアプリ開発会社の買収は続き、2013年12月にコパンの発行済全株式の内90%を取得し子会社化している。現在300万ダウンロードを突破した「古の女神と宝石の射手」などスマートフォン向けゲームアプリを提供している会社である。

 両社が持つコンテンツ開発のクリエイティブ力や運営ノウハウ、そして当社が持つ広告プラットフォームを融合し、スマートフォン市場に向けたサービスの拡充を志向したと考えられる。

海外向け広告の拡大

 海外事業の拡大にもM&Aを利用しており、2015年3月に中国などへの海外配送代行事業「楽一番」を行うトロピックスメディア(現・楽一番)の株式を取得し、子会社化した。海外配送代行事業を通して、当社の強みである「CHANet」「SmartDriver」などのアジアをネットワークするPC・スマートフォン対応アフィリエイトサービスや、アジアを中心とした世界10カ国の拠点を活かし、マーケティングデータを蓄積・分析・活用する取り組みを行っていくとのことだ。また今後は台湾、香港、韓国、東南アジア、欧米へと地域を拡大していくようだ。

新領域への着手

 2016年8月にはweb動画技術を保有するMist Technologiesを子会社化している。ユーザー間で動画データの配信を行うことにより混雑時のサーバ負荷を軽減することが出来るP2P型CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)「MistCDN」や、モバイル・PC上でよりリッチな動画再生を実現するHTML5プレイヤー「Mist Inline Player」、モバイル・PCのブラウザ上で360度動画を再生するHTML5プレイヤー「360 VR Player」など、現在のweb動画における先端の技術を保有している会社である。

 当社が持つスマートフォンアプリ向け広告効果測定システム「PartyTrack」や、コンテンツ型アドネットワーク事業「Oct-pass」を行っている子会社のBulbitとMist Technologiesの持つ技術を連携し、全世界対応型のアドプラットフォームを開発・提供を目指すとのことだ。

【財務分析】 売り上げ拡大も、販管費増で利益伸び悩む

 スマートフォン向け広告市場の拡大を背景にアドウェイズの売上高は右肩上がりに成長している。しかし、2016年3月期の営業利益は6億8700万円と前期比35%の減益となった。海外事業の拡大に向けて人員増など販管費の増加が響いている。

 事業別にみると、広告事業が連結売上高の8割を占めている。注力する海外事業の売上高は韓国・台湾などで増加し、2016年3月期に68億円と全体の17%を占める規模まで成長している。今後は東南アジアなどでも事業の拡大が期待できそうだ。

 財務指標をみると、自己資本比率は60%前後の高い水準を維持している一方、自己資本利益率(ROE)が1%台に急低下している。これは2016年3月期に純利益が大幅に減少したことに加えて、手元資金が100億円超に膨らんでおり、資本効率が低下している。今後は配当や自社株買いなどの株主還元の強化や、M&Aなどの成長投資で現金の有効な使い道を示す必要がありそうだ。

【株価】 資本効率の低下を嫌気、低迷続く

 アドウェイズの株価は2013年末に一時3000円台に乗せたが、その後は下落基調が続き、直近では500円前後に低迷している。株式市場がアドウェイズに期待するのは利益をともなった成長である。積極的なM&Aや投資は売上高を拡大させる一方、営業利益やROEが思うように上がっていないことが株価低迷の背景にある。

【まとめ】 臨機応変なM&A 投資効率の改善に期待

 アドウェイズは「PC→モバイル(従来型携帯電話)→SNS→スマートフォン」、「国内→アジア」、「静止画→動画」というように、時代の変遷に合わせて自社広告サービスの展開先、及び展開するための技術・ノウハウをM&Aにより獲得している。今後も情報媒体の流行が変わるタイミングで買収を仕掛け、あるいは時に売却をしながら、臨機応変に主力の広告事業の展開先を変化させていくことだろう。しかし、積極的な買収は売上高を拡大させる一方、利益の増加に十分に結びついていない。手元資金も積み上がっており、投資効率を一段と意識した経営に期待したい。


 この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。