iPhoneの製造拠点が米国に? トランプ次期大統領の理想と現実

iPhoneの製造拠点が米国に? トランプ次期大統領の理想と現実

2016.11.28

アップルのティム・クックCEOは、電話でドナルド・トランプ次期米国大統領と会談をしたと伝えられた。お互いの意見交換は穏やかなものだったようで、トランプ氏にインタビューしたNew York Timesは、トランプ氏の言葉を紹介している。これによると「(トランプ氏にとっての)成果の一つは、アップルがアメリカに大工場を建設し、そこであなた方の製品を作ることだ」と述べた。そのかわり、企業に対する減税措置を行うとしている。クック氏はこれに対して理解を示した、とも報じられた。

アップルへの言及

大統領選挙を通じてトランプ氏のアップルに関する発言はいくつかある。

2016年1月にはバージニア州リバティー大学における講演で、「アップルは米国でコンピュータや製品を作るだろう」と発言している。これは、アップルが現在、ほぼ全ての製品を中国など、米国外の国で製造していることへの批判を意味している。

また2月にアップルがFBIの捜査に協力しなかったことで、トランプ氏のTwitter投稿で過激に非難された。トランプ氏は「アップル製品をボイコットしよう」と呼びかけたのだ。

もちろん、こうした発言は、今となっては、選挙期間中の戦術だったのではないか、と思わされることもある。ただ、トランプ氏を支持した人々の心をつかんだのは、米国発のグローバル企業であるアップルが、税金や雇用の面で、米国に対しての責任を果たさず、貢献もしていないのではないか、という疑問に火をつけたことにある。

アップルを初めとしたグローバル企業は、事業全体における税率をいかに低く抑えるか、といった様々な策を練っている。これに対して批判が集まっている点は言うまでもない。租税回避、税金逃れ、と自国民や当局からの指摘が絶えない。

グローバル企業と国家間の争い

グーグルやフェイスブックなどは、欧州の本社としてアイルランドに設置し、米国外のビジネスをここに集中させることによって、税率を低く抑えてきた。シリコンバレーの企業は10%前半の税率を実現するところもあるほどだ。

アップルが用いるこの手法に対して、アイルランドが加盟しているEUからは、税優遇が違法だとして最大1.5兆円の追徴課税を命じたが、アイルランド・アップル双方から不服の申し立てが行われている

また、日本の国税当局は、アップル子会社の日本法人であるアイチューンズ株式会社が、アイルランドのアップル子会社に移っていた利益の一部を、日本での課税が必要なソフトウェア使用料と判断したことから、120億円の追徴課税を指摘し、アップルジャパンはこれに応じたという。

もう1つの批判の的は、米国外に資金が滞留していることだ。2016年の段階で、およそ23兆円もの資金が米国外にあるという。米国外から資金を移す際、現在は35%の税率がかかることになっているが、トランプ氏はこれを10%に下げるとしている。これによる米国への資金還流は、ドル高、米国内への投資の活性化に繋がる、という算段だ。

ただし、もし米国への資金還流の道筋を立てたとしても、アップルがすべての資金を米国に戻すとは考えにくい。それは後述のiPhoneを米国で作れない理由と同じで、米国内での資材の購買や研究開発投資、マーケティング等の投資が必要だからだ。

すでにアップルは世界中の拠点での採用と研究開発、生産などを行っており、税率だけで物事が決まらないのが現状だと言える。

iPhoneを米国で作れない理由

現在アップルは、コンピュータの最上位機種であるMac Proを、米国内で生産していることをアピールしている。1台30万円を超える高性能Macを紹介するウェブサイトでは、他の製品同様カリフォルニア州でデザインされ、テキサス州、フロリダ州、イリノイ州、ケンタッキー州の革新的な技術を生かして、米国内で組み立てられたと紹介する。

Mac Proは米国内で生産されていることがウェブサイトで紹介されている

しかしそれ以外の製品は、中国での生産が基本だ。例えばiPhoneの場合、日本を含むアジアに集中するのサプライチェーンに近く、比較的安く良質かつ潤沢な労働力の確保が可能な中国での生産は、安全で信頼性の高い1台650ドルの製品を年間2億台近い生産を実現する上で見つけ出した、針の穴を通すような緻密な設計によって実現している。

その結果、アップルはスマートフォンメーカーが稼ぎ出す利益の9割以上を占め、データによっては(Androidスマートフォンメーカーの損失を加味して)100%を超える利益シェア示すものもあるほどで、「ひとり勝ち」以外にふさわしい言葉が見つからない状況を作り出すことができた。

このサプライチェーンは、CEOに就くまで、ティム・クック氏が作り上げてきた仕組みそのものだ。「サプライチェーンの鬼」と異名を取る同氏は、米国では、iPhoneを2億台、同じ価格と期間で作れないことは、(トランプ氏に直接伝えないだろうが)わかりきっていることだ。

米国経済への貢献のアピール

ティム・クック時代のアップルは、「社会的であること」に対して真摯に向き合っており、これをアピールする機会も増えている。その中に、米国や日本を含む、同社がビジネスを展開している国に対して、経済面でどんな貢献を行っているのかを示すウェブサイトを用意している。その中で、米国向けのページでは、米国内で100万人を超える雇用を創出していることをアピールしている。

2014年時点で100万人を超える雇用創出に貢献していることをアピール

同社の従業員6万6000人を加えて、アプリを中心としたiOS関連で62万7000人、アップルによる購買などによる間接的に創出された雇用が33万4000人としている。加えて、米国企業サプライヤーに対しては、年間30億ドルの購買を行っていることも明らかにしている。

日本のウェブサイトでは、日本向けに同様のアピールを行っており、その内容は全く異なる。アップルは営業活動を行っているあらゆる国で、このようなレポートを出していることからも、既に米国1国に対して責任を持っている企業ではないことは明らかだ。

そうした企業の現状と、トランプ氏が唱える保護主義的な「強いアメリカ」という主張には、大きな隔たりを感じざるを得ない。

製造業か、知的財産か

もう1点、アップルのような企業の生き方について考えさせられるのは、工業的な生産を主体としたビジネスに戻るのか、知的財産を生かしたビジネスを推し進めるのか、という問題だ。その点で生産の米国回帰を促しているトランプ氏は、インダストリー4.0というよりは、第二次産業重視への揺り戻しにも感じられる。

アップル製品は米国で研究開発と設計、デザインが行われ、中国で生産され、米国を含む世界中の国々で利用される。知的財産の創造と実際の製品の生産の場所が分かれている。海外に資金が滞留することを考えれば、確かに米国に全ての富が戻っているわけではないが、アップルという企業活動が持続的に成長し、世界最大の評価額を得ることができたモデルだったのだ。

アップルがサムスンを相手取って、デザインの模倣に関する裁判で一歩も手を引かない姿勢を貫いているのは、知的財産を作り上げて行使するというビジネスモデルそのものを揺るがしかねない、と考えているからだろう。

その思想は、アップル以外にも波及し、利益を与えている。アプリのエコシステムの構築は、米国を含めた世界中の国々の個人や企業に対して、知的財産を直接的にビジネスや社会変革に利用することができる仕組みを与えているからだ。

製造業的な発展を目指すのか、よりレバレッジが効く知財を中心としたビジネスを発展させるのか。ティム・クック氏が、ドナルド・トランプ氏との初めての電話会談で、ここまで踏み込んだ会話に至ったのかどうかは、わからない。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。