【リンクアンドモチベーション】企業変革の請負人 M&Aで自社も変革

【リンクアンドモチベーション】企業変革の請負人 M&Aで自社も変革

2016.11.29

【リンクアンドモチベーション】企業変革の請負人 M&Aで自社も変革

 リンクアンドモチベーション<2170>がM&Aを通じて事業領域を急拡大している。人のやる気を高めるモチベーション技術を武器に企業変革支援やIRなどのビジネス事業を拡充。PCスクールや学習塾などのBtoC事業にも展開する。M&Aで自社の事業構造をダイナミックに変革する同社の企業戦略を分析する。

【企業概要】モチベーションのコンサル技術に強み

 リンクアンドモチベーション(以下LM)は2000年4月に、「モチベーション」にフォーカスした経営コンサルティングを行う会社として、リクルート出身の小笹芳央氏と坂下英樹氏によって設立された。LMは心理学・行動経済学・社会システム論などの学術的成果を取り入れて作り出した基幹技術「モチベーションエンジニアリング」によって、創業以来多くの企業変革をサポートしてきた。

 こうした、ITや戦略とは異なる「モチベーション」にスポットを当てたコンサルティングサービスによってLMは急激な成長を遂げてきた。設立からわずか7年で東京証券取引所市場第二部に上場。その1年後の2008年には第一部に指定変更。設立からわずか8年で第一部に上場している。

 また、そうした急速な成長の中で、LMは創業以来、事業領域を拡大しており現在ではその領域は大きく分けて以下の4つになる。

①育成・風土・制度支援を行う「モチベーションマネジメント事業」
②採用支援を行う「エントリーマネジメント事業」
③投資・組織人事支援を行う「インキュベーション事業」
④基礎研究・商品開発を行う「モチベーションエンジニアリング研究所」

【経営陣】リクルート出身の小笹氏が創業

 代表取締役会長の小笹芳央氏、代表取締役社長の坂下英樹氏はともにリクルート出身。2000年にLMを立ち上げた。創業から小笹氏が社長を務めていたが、2011年に小笹氏は会長に就任し、坂下氏が社長に就いた。小笹氏は数多くのグループ会社の社長・会長も兼務する。小笹氏は55歳、坂下氏は49歳。

【株主構成】小笹氏、4割超を保有

 筆頭株主は小笹会長が代表取締役を務める資産管理会社のフェニックス。小笹氏本人の持ち株(2.83%)と合わせて発行済株式の約43%を保有する。第二位はリンクアンドモチベーションの従業員持株会。勝呂彰氏はリンクアンドモチベーションの元役員。坂下社長と榊原清孝氏(連結子会社モチベーションアカデミア社長)が続く。事業会社やファンドは大株主に登場せず、小笹会長が強いオーナーシップを持って経営の舵取りができる株主構成と言える。

【M&A戦略】18回のM&A、4事業領域を確立

 リンクアンドモチベーションが育成・風土・制度支援事業、採用支援事業、投資・組織人事支援事業、基礎研究・商品開発を行う研究所の4つの事業領域の確立に至るまでには数多くのM&Aが行われてきた。LMは設立からわずか16年の間に譲渡・買収を含めて18回のM&Aを行っており、その過程でBtoB領域からBtoC領域へも進出している。LMはM&Aを活用することによって事業領域を広げてきたと考えられる。BtoB領域からBtoC領域への進出におけるM&Aの役割について見ていく。

 LMのM&Aの歴史は2006年に採用実務のアウトソーシング事業を行うアイジャストの買収から始まった。この翌年に東証2部への上場を果たし、そこから2010年までにさらに7社を買収している。2007年にはオーディーエスよりIR戦略事業を譲り受ける。2008年には、IR活動支援のインベスターズサービス、オフィス仲介のワークスリアルターを買収。2009年には、IR支援サービスのイーニュース、インターンシップ・新卒採用支援のデジット、プロバスケットボールチームのドリームチームエンターテインメント栃木、研修・会議・セミナー等の企画・立案・運営サポートのミヒロツーリストを相次ぎ買収した。

■BtoC領域への進出

 ここまでのM&Aの目的は当時の主要な事業領域であった「モチベーションマネジメント事業」「エントリーマネジメント事業」「ブランドマネジメント事業」「プレイスマネジメント事業」という既存事業の強化であった。事業領域の拡大において大きな変化があったのは2011年からである。

 LMは今までの4つの事業領域が含まれる部分をビジネス部門とし、新たにコンシューマー部門を設立した。これは、リンクアンドモチベーションの人のモチベーションを扱う技術を生徒のやる気や活かすことができると判断しての取り組みである。LMはスクール領域進出のために、2010年11月に教育事業のモチベーションアカデミアを設立し、2011年にPCスクールのアビバを完全子会社化(投資額6億円)。アビバは2011年6月時点で全国に約282拠点を有しており、アビバの有する教室、生徒を一気に取り入れた形となり、M&Aの活用によって新たにBtoC領域で本格的に事業を始めたということがうかがえる。

 さらに、翌年の2012年には、学習塾経営のアヴァンセを、2013年には資格スクール事業・通信教育事業の大栄教育システムを買収。LMにおけるコンシューマー部門は、M&Aを活用することによって、設立の2011年から2013年の間に売上高で約2倍以上の成長を遂げた。

■グローバル展開

 グローバル事業に関してはどうだろうか。2014年に、LMは、当時の時点でALT配置事業(外国語指導助手)を営む民間企業の間では業界NO.1の地位を築いていたインタラックを買収。LMはインタラックの買収により、グローバル関連事業の展開を推し進めると明言しており、LMはグローバル展開においてもM&Aを活用していた。さらに同年には、東京都内を拠点に約65社の取引企業に、事務職の派遣スタッフを派遣しているアイリードスタッフを買収。ビジネス部門の4つの事業領域にもALT配置事業と人材紹介・派遣事業が登場した。

【財務分析】リーマン危機を越え、成長を再開

 2006年から2010年までの業績を見ていくと、売上高、営業利益は2008年をピークに2010年まで右肩下がりであり、売上高営業利益率もピークの2008年から2010年までの間に約10%も下がっている。上場を果たした2007年と比較して、約10億円も売上において減少しており、クライアント数も2007年と比較して100社近く減っている。

 部門別に売上を見ていくと、モチベーションマネジメント事業とエントリーマネジメント事業という二つの主力事業において大きな落ち込みを見せており、逆にその他の部門は2008年から2010年の間に上昇している。モチベーションマネジメントとエントリーマネジメントはそれぞれ組織人事や採用に関わる事業であり、2008年9月に起きたリーマンショックによる景気低迷に基づく人材関連の予算縮小の影響があったと考えられる。

 業績は2010年以降に回復に転じている。事業別にみるとビジネス部門では人事・教育支援が堅調に伸びているほか、営業・販売支援が急拡大している。2014年12月期には売上高、営業利益、純利益ともに過去最高を更新した。

 しかし2015年12月期はビジネス部門における原価率の上昇や、不適切会計の調査対応費用などのコストも膨らみ営業利益は5割減少。ベンチャー投資案件の現在価値切り下げなどにより、6期ぶりの最終赤字に転落した。

事業構成のバランス改善

 ただリーマンショック前と比べると事業ポートフォリオの転換が進んでいる。事業領域ごとの売上高とその割合を2007年12月期と2015年12月期で比べてみるとM&Aによって大きな違いが生まれたことがわかる。2007年は主力の組織・人事コンサルティングを行うモチベーションマネジメント事業と、採用支援事業の2つで売上高全体の78%とほとんどの売上高を占有しておりバランスが良いとは言えなかった。


 2015年には組織人事コンサルティング事業が19%、人材紹介・派遣事業が22%、ALT配置事業が28%、スクール事業が20%と4つの事業が均等に売上を出しており、バランスが良くなった。特にALT配置事業やスクール事業はM&Aによって生まれた新規事業であるが主力事業の一つとして機能していると考えられる。この結果、2007年当時と比べて景気変動への耐性は増している可能性がある。

【株価】業績上方修正で高値圏に

 株価は2014年から2015年まで低迷していたが、2016年に入り上昇に転じている。2016年3月期の業績予想を複数回、上方修正されたことが好感されている。出資先のインターネットを活用した法人営業会社イノベーションが11月、東証マザーズに株式上場承認を受けるなど、投資事業も好調に推移している。政府が働き方改革を推進するなかで、主力の組織人事コンサルティングの受注に追い風になるのではとの見方も株価を下支えしている。

 今期の予想PER(株価収益率)は約31倍。リクルートホールディングス(約33倍)とほぼ同水準で、エン・ジャパン(約20倍)などと比べて高い。高いPERはRMに対する成長期待の高さが表れているといえそうだ。

【まとめ】新事業領域が拡大、さらなるM&Aに期待

 LMはBtoBの人事関連のコンサルティング業務からスタートしたが、M&AによってIR支援事業、スクール事業等のBtoC事業、人材派遣事業、そしてグローバル展開まで果たした。LMは上場以来、M&Aを繰り返す中で、単なる既存の事業規模の拡大ではなく、新事業領域の拡大を行い成長してきた成功例と言える。ただ人事関連のコンサル事業とベンチャー投資事業は不景気になると一気に業績が悪化するリスクも抱える。業績が好調なうちに、さらなるM&Aで事業ポートフォリオの一段の進化を進めていけるかに注目したい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

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「M&Aは男気が大事なんです。」過去16件のM&Aを実施してきた小笹氏が語る“M&Aのホントのところ”─ 株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役会長 小笹 芳央

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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